
「ミュンヘン」(2005)
1972年のミュンヘン五輪会場で実際に起きたパレスチナ人ゲリラによるイスラエル選手団襲撃事件を題材にした作品で、人質11人全員が殺されその報復としてイスラエル政府は情報貴機関モサドに属する主人公アブナをリーダーに5人がテロ首謀者11人の暗殺指令を下す。内容自体も評価され2006年の第78回アカデミー賞で主要5部門(作品、監督、脚色、編集、作曲)にノミネートされたのを始めその年の主要な映画賞を受賞しベスト10に入るなどマスコミや批評家から高く評価された。原作は、ジョージ・ジョナスのベスト・セラー「標的は、11人-モサド暗殺チームの記録」。暗殺を決行した本人が公にした。原作を先に読んだがこれが非常におもしろく読み応えがあった。映画もシリアス系スピルバーグ監督作品のなかでは、「シンドラーのリスト」と肩を並べる面白さと感動があった。脚本は、他のデーターやヒアリングをもとにトニー・クシュナーと「フォレストガンプ/一期一会」でオスカーを獲得したエリック・ロスが担当した。撮影技法は、「フレンチ・コネクション」に代表される1970年代に流行ったカメラワークであるズームやフラッシュバックを多用した。
1972年というと私が、小学生のころだ。このオリンピック村の襲撃事件のことはよく覚えている出来事。学校でも大きな話題になった。同じ頃、若きスピルバーグは、「激突!」を撮っていた頃で彼にとっては、リアルタイムは出来事だった。
5人の魅力ある暗殺者の人間臭いキャラクターが魅了。リーダーであるアヴナーは、人を殺したことがない愛国心旺盛な人(演じるは、エリック・バナ)。車輌のスペシャリストのスティーブ(演じるは、ダニエル・クレイグ)。後処理のスペシャリストのカールは、物静かで几帳面な親父あるいは人生の大先輩といった感じ(演ずるは、キアラン・ハイズ)。爆弾のスペシャリストのロバートは、おもちゃ職人(演じるは、マチュー・カソヴィツ)。そして、文書偽造のスペシャリストのハンス(演じるは、ハンス・ジシュフー)。それぞれに役割分担があって正義のためや国家のために集まった殺し屋たちのドラマ。その過程で友情が芽生え仲間となる。このような設定は、スピルバーグが尊敬してやまない黒澤 明監督の「七人の侍」やジョン・スタージェス監督の「荒野の七人」、そして、デビッド・リーン監督の「アラビアのロレンス」のようだ。
ジョン・ウィリアムズの心臓がバクバクするようなスコア、平和への願い・平凡な人間のささやかな幸せや悲しみを兼ね備えたスコアが素晴らしく特にテーマ曲である「平和への祈り」の弦楽器が印象に残る。
女殺し屋役の女優であるマリー=ジョゼ・クローズの演技が、素晴らしい。出番は少ないが、エンジ色の服を着て黒い髪を結い男を魅了する。アヴナーが、ホテルのバーで出会い誘いを断るシーンから登場し、カールを部屋へ誘い殺す。その後、仲間を殺された怒りに燃えアヴナーを始めとする残りの仲間が彼女の隠れ家が見つけ彼女を殺す。この女優さんは、「みなさん、さようなら」という作品でカンヌ映画の女優賞を受賞した人で、これから注目したい。
極秘任務を抱え爆弾が爆発するシーンの数々は、ヒッチコックタッチの演出をスピルバーグは行っている。また、車のミラーを使っての暗殺者同士の追う者と追われる者のスリリングな緊迫ある演出は、相変わらず素晴らしい。
私も公開されて早速観たが、標的を消してゆくシーンはサスペンス風でありスピルバーグの今まで培ってきた演出を存分に堪能できるのが魅力だが、それにも増して魅了されたのがやはりスピルバーグのテーマのひとつである「家族の存在の大切さ」である。主人公のアブナーはそれまで殺人を犯したことがなく妊娠中の妻を持つ普通の男に突然暗殺任務が下され任務を恐怖と不安のもとで遂行する。しかし、しだいに自分がしていることが、本当に国家や平和のためになっているのか?と暗殺の虚しさを感じ始め離れ離れになっている愛する妻と生まれたばかりの娘のもとへ帰って普通の生活をしょうとする。そこで、反対に殺されそうになるが、一家の父親として家族を守りやがて裏社会から足を洗い懸命に家族を大切にして生きる姿に感銘した。
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