
「アミスタッド」 (1997)
スピルバーグ初の法廷劇である。実際に起こった事件でアメリカにとって非常に重要なストーリー。17世紀からアメリカでは奴隷制度が始まっていた。ポルトガル船でアフリカからキューバのハバナに来た53人の奴隷たちは、スペイン人に買われ1839年6月26日にラ・アミスタッド号でキューバのプエルト・プリンシペへ向う際に自分たちは殺されるという噂を知った。リーダーであるシンケは、19世紀半ばアフリカの大地でライオンを倒した1人の男で漆黒の肌を持つ24歳の男。彼は英雄であったが、拉致され奴隷船テコラ号でハバナへ運ばれた。そこで、スペイン人のルイズとモンテスに仲間と鎖につながれアミスタッド号に乗せられる。長い航海で白人が自分たちアフリカ人に暴力をふるい虐殺まで行う。港を出て3日。船は、キューバ沖で荒れ狂う嵐の中、船底でシンケは首につけられていた鉄の鎖をはずし武器を手にしたアフリカ人たちは、甲板に出て自分たちを苦しめた乗組員を次々に殺す。そして、シンケをはじめとする奴隷たちは自由のために闘い船を乗っ取る。その後、舵取り役で奴隷商人であるスペイン人ルイズとモンテスに騙されてアメリカに着く。
しかし、2ヵ月後にアメリカの沿岸警備船ワシントン号に取り押さえられシンケたちは、アメリカで殺人と海賊行為に問われ刑務所に投獄される。死刑を待つのみ。そんな中、彼らを救おうと立ち上がったのがアメリカ革命の父であるジョン・アダムズの息子であり元大統領であるジョン・クイシー・アダムズである。
夜の船上における奴隷による乗組員殺戮シーンの映像が本当に恐い。このシーンの撮影は、ヴァンナイにあるサウンドステージに建てられた船のデッキ上で行われた。特殊効果班が液圧で波による船の揺れを発生させる装置を並べた上に船のセットを建設し、大波を作り出す巨大タンクに雨や雷の効果を組み合わせたものだ。その特殊効果により一段と恐怖感を出している。
ジョン・クイシー・アダムズ扮するアンソニー・ホプキンスの演技が素晴らしい。悪役のイメージが強い彼だが、存在感のある演技はヒーロー役でも存分に生かされている。また、若き弁護士ロジャー・ボールドウィンに扮したマシュー・マコノヒーの演技、アフリカ人リーダーのシンクに扮したジャイモン・ハンスウの演技も素晴らしい。
シンクと白人たちは言葉が通じずさまざまなコミュニケーションを試みるがその中でも特に印象的なのが弁護士がどこから来たのかを尋ねようと土に棒で地図を書いてみるが彼らにはわからない。しかし、両者は歩みようと努力する。白人側は彼らの言葉を覚えようとしたり通訳を探す。
奴隷船における黒人奴隷の反乱の史実で、アミスタッドとはスペイン語で友情の意味で奴隷船の名前。アメリカの法廷で黒人達の反乱。犯罪派、自由を奪われた者の当然の権利派。スペイン女王は、国の財産として奴隷の返還を求める。アメリカ海軍の将校は、捕らえた者としての所有権を主張。他に奴隷解放論者。若手弁護士ボールドウィン(マシュー・マコノヒー)は、奴隷解放のためといった正義感からではなく黒人奴隷の財産権は、どこにあるのかという法律上の解釈で闘う。様々な立場の者が、それなりの言い分をもって権利や主張を言い合うところは、興味深く面白い。 元アメリカ大統領のアダムズ(アンソニー・ホプキンス)の力も借りて黒人側の勝利。彼の言、「彼らが誰なのかを知れ。そのために彼らの物語を法廷で語らせること」被告とされた黒人奴隷の一人が、裁判所へ行く途中クリスチャンの一団から一冊の聖書を渡され獄内でキリストの挿絵をみてその一生に深い関心を覚える。このキリストの物語により心のなぐさみ、救いの希望と勇気を与えた。スピルバーグのストーリーテイラーの本領が発揮された。
スピルバーグが初めて白人の立場から黒人問題に取り組んだ作品だけあって「カラー・パープル」にはない我々黄色人種にとっても共感する部分が多い。白人であるスピルバーグがいかにして黒人とコミュニケーションをとって黒人が人間の生まれながらにして持っている権利、「自由」を勝ち取るまでを描いている。こうして、彼が黒人問題を映画化した背景には、昨今の社会に対する黒人の影響力の強さを彼も感じ始めているからである。その現れとして彼自身「ロスト・ワールド」では、主役の娘に黒人を起用しプライベートで2人のアフリカ系アメリカン人を養子としている。
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