『!』
やつが吼える。
一瞬、俺も迷った。肩口深く突いた槍をえぐりこんで、血筋を斬り、このけだものを倒さねばならぬのかと。
けだものは吼えて身をよじる。槍を持ってゆかれそうになる。こらえて地を踏む。力を込めて槍を支える。大きくしなる。迷っていたのは一瞬だった。
『!』
けだものが吼えて身をよじる。やるしかない。俺は奥歯をかみ締め、力を込める。
「静まれ!」
俺こそ、吼えて槍を振るう。地を踏み、槍を支え、すべての力を込めて、体ごと振るった。
『!!』
それまでに無いほどの、ひとならぬ声が上がった。血しぶきが撒き散らされる。重いものが、続いて地に落ちて跳ねた。けだものの体から斬り落とされたのに、それはいのちを失わず、ばたばたと地面をのたうちまわる。地を跳ね、土くれを跳ね上げ、斬りおとされてもなお死ぬことなく、それは自ら伸びまた折れ曲がって跳ね続けた。
けだものの左の腕だ。
ぬめる地を踏んで、俺は振り返る。けだものは声を上げ、肩口を押さえ、よろめいて退く。
「静まれ!」
俺は怒鳴った。
「とものお前を、殺すには忍びない。静まり、そして去れ」
やつが唸るのをやめた。斬られた左の肩口を押えたまま、俺へと向き直り、そしてじわりと退く。その目が俺を見ているのを感じていた。俺に感じられるのは、その体から失われてゆく、やつの生気を感じていた。
「二度とさとに訪れるな。人を食らうことも許さぬ」
『・・・・・・』
やつが何事か唸る。
響きは聞き取りづらくまた、はっきりとはしない。けれど、確かに人の言葉だった。
『!』
だが、次の刹那にやつは吼えた。
人の声ではなく、けだものそのものの雄たけびで。
あいつは、地を蹴って駆けた。
やつが吼える。
一瞬、俺も迷った。肩口深く突いた槍をえぐりこんで、血筋を斬り、このけだものを倒さねばならぬのかと。
けだものは吼えて身をよじる。槍を持ってゆかれそうになる。こらえて地を踏む。力を込めて槍を支える。大きくしなる。迷っていたのは一瞬だった。
『!』
けだものが吼えて身をよじる。やるしかない。俺は奥歯をかみ締め、力を込める。
「静まれ!」
俺こそ、吼えて槍を振るう。地を踏み、槍を支え、すべての力を込めて、体ごと振るった。
『!!』
それまでに無いほどの、ひとならぬ声が上がった。血しぶきが撒き散らされる。重いものが、続いて地に落ちて跳ねた。けだものの体から斬り落とされたのに、それはいのちを失わず、ばたばたと地面をのたうちまわる。地を跳ね、土くれを跳ね上げ、斬りおとされてもなお死ぬことなく、それは自ら伸びまた折れ曲がって跳ね続けた。
けだものの左の腕だ。
ぬめる地を踏んで、俺は振り返る。けだものは声を上げ、肩口を押さえ、よろめいて退く。
「静まれ!」
俺は怒鳴った。
「とものお前を、殺すには忍びない。静まり、そして去れ」
やつが唸るのをやめた。斬られた左の肩口を押えたまま、俺へと向き直り、そしてじわりと退く。その目が俺を見ているのを感じていた。俺に感じられるのは、その体から失われてゆく、やつの生気を感じていた。
「二度とさとに訪れるな。人を食らうことも許さぬ」
『・・・・・・』
やつが何事か唸る。
響きは聞き取りづらくまた、はっきりとはしない。けれど、確かに人の言葉だった。
『!』
だが、次の刹那にやつは吼えた。
人の声ではなく、けだものそのものの雄たけびで。
あいつは、地を蹴って駆けた。