浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

カナン ラフ稿についてのまとめ

2010-10-25 23:22:00 | ラフ 虎の学士 カナン
書き始められた経緯は、ツイッター上の雑談から始まったものです。
このときのお題は「蜂」だったのですが、うまくアイデアがまとまらず、
とはいえせっかくのネタを書きもせずに捨ててしまうのが惜しかったために、
山月記のあるお話を下敷きに、どのくらい書けるか書いてみようとしたものです。

ラフ一稿と称するものは、このアイデアが馴染みよく行きそうか確かめたもの。
ラフ二稿シリーズは、それを下敷きに書いていったものです。

いまだにラフ扱いなのは、カナンという世界にありそうなことをピックアップしたと思えても、それをカナンらしく表す経験値をこのぼくが持っていないからです。
あれこれともうちょっと何とかしたいと思っているのです。

カナン2 さがしもの 1

2010-10-24 05:30:06 | Weblog
 そぼ降る雨が、何日も続くと、小さな小川も苛立ちを募らせるらしい。
 いつもの清らかで静かな流れと同じところとは思えないほど、にごった強い流れがうねりまた、飛沫をあげている。にごった流れは、ふしぎに思えるほど大きくうねり、浮かぶごみやら枝葉やらを巻き込んで流れてゆく。
 そのうねりをみつめながら、薄汚れた老人が雨の中を右往左往している。そぼ降る雨にぬれていることも、ぬかるんだ道をおろおろと歩いて泥に汚れていることも、老人にはまったく気にならぬことらしい。ほとんど禿げた頭をかかえ、また汚れた両の指を口にくわえてうろたえ歩く。
 スメル爺と呼ばれていた。
 いつのころからか、この川のこのあたりに現れるようになったのだという。気味悪がって、村の若衆が袋叩きにしたことがあったのだが、それでも川筋のこのあたりを離れることなく、いつまでもいつまでもとどまったそうな。聖都の守護団の手を煩わせて、牢に押し込めたこともあったらしい。スメル爺は大暴れして、守護団も辟易して解き放ったと聞いた。村の老人が子供の頃だ。以来、少なくとも四十年ばかり、見かけもあまり変わらぬままこのあたりにいるらしい。
 村人たちがあきらめたのは、スメル爺がおとなしく、気の良いものであるからだ。汚く臭いことを除けば、まあ、我慢ができるくらいであるらしい。
 橋のたもとに座って、何事かぶつぶつとつぶやいているところを良く見かけられた。何を食べているのかと思えば、どうやら川に入り込んで、魚を取っているらしい。川のたもとに焚き火のあとは無く、生のままかじっているのだと、誰言うとも無く伝えられている。
「ああ、いとしいしと」
 抜け歯のスメル爺の言葉ははっきりしない。いつもはにかんで人の顔を見もしない。いつしか、子供らもスメル爺をいじめなくなり、あまりにひどい格好をしているときには、引きずってゆかれて湯で洗われて、新しい着物を与えられることすらあった。
 そんなときには、ありがとう旦那様、ありがとう旦那様と、くどくどしく礼を述べ、次の朝には見事なほど大きななまずが、間口のところに届けられていたりもした。
「いとしいしと・・・」
 この雨の中、スメル爺に雨宿りするように言って行くものもいるのだが、聞きはしない。聞かぬときのスメル爺に何をしてやっても無駄だと皆わかっている。そして今も、スメル爺は雨の中、濡れながらおろおろと橋のたもとを歩き回っている。
 石橋から荒れる川面に顔を寄せ言うのだ。
「ああ、いとしいしと、鎮まっておくれ。いとしいしと」
 それが誰への言葉なのか、誰も知らない。

脳内宇宙3

2010-10-19 22:36:29 | Weblog
 ストラトス


「統合宇宙軍駆逐艦、DDR-51ストラトスフィアの就役をここに宣言します」
 将官の宣言とともに、軍楽隊指揮者がタクトを振るう。
 勇壮な調べが気密桟橋に流れ始める。本物の楽器を人間が本当に演奏する本物の楽団だ。いまやそれ自体が無形文化財のようなものだ。気密桟橋の大きな大きなシリンダー型区画の中に演奏が響く。楽団も、その演奏は本物だが、将官たちと式典招待客が見ているのは、桟橋を離れつつある艦の映像だ。軍用桟橋に、外を眺めるための大きな窓などつけられるはずもない。
 そしてディスプレイに白く浮かぶその姿が、新型駆逐艦ストラトスフィアだった。
 主船体は、リフティングボディに似て滑らかだ。だがリージョナル船のように大気圏への硬突入を考慮しているわけではない。中央船体の両舷には大型のナセルが取り付けられており、それは明らかに宇宙での運用から決められた形態をしている。
 それぞれのナセルには核融合ミラー炉が納められている。ストラトスフィアは、この規模の艦としては珍しく、動力と推進系を分離していた。つまり両舷のナセルから中央船体後部に取り付けた反重力/無反動推進系と、超光速推進系にエネルギが供給されている。これほどまでに強引な設計は、これまでの統合宇宙軍には無かった。これまでの統合宇宙軍艦は、動力と推進系を一体とし、それに武装を付随させる設計だ。
 ストラトスフィアらS級駆逐艦はまったく逆の設計になっている。両舷ナセルに収められた主動力炉は核融合ミラー炉で、膨大な出力をレーザーとして取り出すことができる。レーザ出力は、ナセル側面の制御位相面を経由して発振される。すなわちストラトスフィアの主動力はそのまま主兵装でもあった。それは同時に通信機能であり、能動探振機能であり、攻撃火力でもあった。
 出力でも機能でも旧来の駆逐艦をはるかに超えたものだ。また任務も同じくだ。ストラトスフィアらS級駆逐艦は、単艦あるいは少数艦で目標星系に進入し、その経済中枢の共軌道を占拠して統制する能力がある。
 連合戦争以来、統合宇宙軍が求めてきた光領域戦闘能力だった。

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単なる自体愛(タームの使い方が間違ってるけどw)
バーク級のコンセプトを採用してみました。

もちろん、こんな宇宙船の活躍する状況はちっとも思いつかずw

マシーネンクリーガー SS クラッフェンフォーゲル

2010-10-15 19:22:35 | Weblog
 シーカーをゆっくりとめぐらせて、岩場を見渡す。
 彼女の捕らえたデータは、人間の危険認知並に高速で処理される。
 彼女はふわりと浮上したまま音も無く進んだ。それが彼女の機能だからだ。反重力装置を搭載し、音も無く宙を進む。もとはといえば無人偵察メカなのだ。その機能は保たれている。
 シーカーを集積したユニットは、頭といっていいところにあり、つづいて小さな胴体がある。何しろ歩行のような入り組んだ動作をしないからだ。背部には剥きだしの反重力装置を並べていて、彼女をふわりと浮かせている。胴体の左側にはブレードアンテナを、右側にはさらに大きなアンテナを広げている。いずれも目標捕捉/火器管制システムの一部だ。それが彼女の機能だ。
 胴の下には長く長く棒状の支持体があり、その左右には、パンツァーシュレックを収めた発射筒を三つずつ取り付けている。支持体の先には分厚く装甲された記憶ユニットのカプセルが取り付けられている。
 彼女はクラッフェンフォーゲル。個体コードAF02。無人戦闘メカだ。いま、彼女に与えられている任務は、この岩場の捜索だった。この岩場に逃げ込み、姿をくらましている敵の姿を捉えねばならない。
 痕跡追尾のような処理量の多い行動は、クレーテには難しい。クラッフェンフォーゲル、そしてその母体となった偵察メカ・ノイスポッターの画像処理能力ならば、十分に可能なことだ。彼女はシーカーを近距離精密スキャンに切り替え、地面を仔細に分析していった。
 岩場の中を、足跡が点々と続いてゆく。
 彼女はそれを見つめ、そのあとを追って進み続けた。それは岩と岩の間を潜り抜け、時には折れ、開けたところは歩幅が増した。あるときは大きな岩の近くに足跡は寄り、立ち止まった痕跡もある。
 やがて足跡の歩幅は増し、足を速めたことがわかる。
 しかしそれはあるところで急に歩幅を小さくした。足跡は乱れ、痕跡はあいまいになるけれど、足跡は乱れているが、それでも先へ先へと伸びてゆく。
 大きな岩をめぐって、急に足跡の反応は途切れた。
 そこは岩に囲まれた行き止まりになっている。彼女はスキャンモードを切り替え、仔細に評価する。周囲に隠された足跡はない。移動した痕跡も無い。
 彼女はスキャン範囲を広げた。だが移動痕跡は見つからない。
 音響シーカーが音を捉えた。反響音を評価する。背後やや上部。
 彼女は、主シーカー郡を向けた。つまり振り返った。彼女が先に回りこんだ大岩の上に、一つの姿がある。人の姿に似たそれは、頭上に岩のようなものを振り上げ、振り下ろした。

マシーネンクリーガー SS グッカー

2010-10-14 20:22:56 | Weblog
グッカー

 闇に閉ざされた夜の大地が迫ってくる。
 リンツ軍曹は、スロットルを絞っていった。それでも砂埃が大きく吹き上げ、リンツの乗るホルニッセを白い闇に包み込む。着陸脚が地に押し返される感触があって、緩やかな降下も止まった。着陸したのだ。エンジン停止。さらにリンツは接合解除操作をする。
 結合金具の外れる音が機体に響き、胸元のマルチディスプレイの表示が変わる。地上機動モード。シートを下ろし、リンツは地上へと降り立った。
 小型全翼機ホルニッセは、装甲戦闘服PKAをそのまま接合して操縦席とする。地上に降り立てば、そのまま地上戦闘が行える。そのために、胸元から頭上にかけて装甲が切り欠かれ、大きなまろいキャノピーになっているのが欠点といえば欠点だ。左右にも昆虫の目のように楕円の窓がある。リンツはその窓越しに夜の向こうを見た。
 いま、リンツの乗る装甲戦闘服PKAは、グッカーと呼ばれる新型だ。夜戦に対応し、搭乗者が大型の暗視装置をつけても、キャノピーに頭をぶつけぬように、キャノピー自体を少し膨らませてある。
 暗視視野で見る夜の向こうには、僚機のホルニッセが着陸して、リンツと同じように地上戦闘準備をしているはずだ。
「A24準備は?」
 AはA中隊、2はその第二小隊、その4号機を示す。応答はすぐにあった。
『A24、準備完了、いけます』
「あわてるな。離れていても俺は援護位置にいる。あわててぶっ放せばかえって目立つ。いいな」
『了解です』
 そうはいいながら、A24号機ヘルマン一等兵の声は硬い。大丈夫、なんとかなる。リンツも今では軍曹などと呼ばれているが、その前はヘルマンと同じように右往左往していたのだ。
 目の前には夜の闇に閉ざされた岩場がある。
 敵はその中に逃げ込んで、クレーテを振り切っている。手練の敵だろう。そうでなければ、単独で浸透偵察などしてこないはずだ。
「行くぞ」
 リンツは地を蹴って駆け出した。

マシーネンクリーガー SS ナイトストーカー

2010-10-12 05:54:49 | Weblog
 地面が続けざまに激しく打たれる。
 弾けて砕けた土くれが、次々と吹き上がる。曳光弾が唸りを上げて飛び去る。
 それらの狭間をスミス軍曹は駆けた。地のうねりを転げれば、弾雨が背後ではじけ、岩陰に飛び込めばそれごと打ち砕こうとする。
 荒い息を吐き、地を這い回って逃れようとした。罠がかけられていた。ルール違反だ。いや、ルールなんてものはない。やつらはスミス軍曹を追い詰め、狩りたてようとしているだけだ。
 息を整え、背後をうかがう。まだ大丈夫だ。追いかけてくるのは、無人歩哨ロボットのクレーテだけだ。やつらは馬鹿蛙とあざけられるくらいに、にぶい。だが馬鹿蛙は無線で鳴く。鳴いて味方を呼び集める。厄介なのは、とび来る敵のホルニッセだ。小型で敏捷な有人機だ。
 だからスミス軍曹は岩陰を飛び出し、駆けた。
 彼のAFSには、武器はない。あえて言えば、暗視ゴーグルと、さらに強力な暗視シーカー、そして消音熱抑制機能が武器だ。この三つを備えたAFSナイトストーカーならば、そう簡単には敵に見つからない。見つからないからの単独夜間偵察であり、スミス軍曹はそのベテランだった。
 スミス軍曹の性に合った任務だった。きっと彼の遠い先祖が歩いた大地であるからなのだろう。夜空を見上げればすぐに北極星を見つけられたし、暗い地平線から目印を見つけ出すのも得意だった。何より、鼻が利いた。ナイトストーカーの完全密閉されたヘルメットキャノピー越しにも、敵のにおいを感じた。今夜もそのはずだった。
 予感はあった。だがそれを軽く見ていた。まずいと思ったとき、すでに間近にクレーテがいた。待ち伏せしていたのだ。まろい砲塔をくるりと向けて、いきなりぶっぱなしてきた。
 馬鹿蛙だがバルカン砲は十分な火力だ。一発や二発で倒されはしないが、馬鹿蛙は阿呆ほど撃ちこんでくる。スミス軍曹はひたすら逃げ回り、クレーテはしつこく追い続け、ライトで照らしつけ、弾雨を浴びせつけてきた。
 普通のAFSのようにレーザーを装備していれば、クレーテはさほど手ごわい敵ではない。だが軍曹のナイトストーカーは丸腰だ。両腕ともがマニュピレーターで、地面を這い回るのには役立つが、いまはそれ以上ではない。
 スミス軍曹は駆けた。二キロも走れば、岩場に逃げ込める。そこに逃げ込めば、そう簡単には見つけられない。敵のホルニッセが来ても何とかなるはずだ。降下着陸して捜索まではしないはずだ。
 何とかなるはずだ。岩場にたどり着きさえすれば。たどり着きさえすれば。
 軍曹は駆けた。AFSのパワーで地を蹴り、人よりもはるかに早く。銃撃が追いかける。曳光弾がすぐ脇を飛びぬけ、地面を叩き割り、土ぼこりを跳ね上げ、岩くれを軍曹へと打ちつける。転がり、這い回ってクレーテの目をかいくぐり、岩場へと向かうゆるい斜面を滑り降りる。再び地を蹴って駆けた。もうすこしだ。もう少しで岩場へと逃げ込める。
 門のように立つ大岩が目印だ。
 駆けながら軍曹は振り返る。地平線にクレーテが姿を現す。見回すように小刻みに砲塔をめぐらし、不意に光を放った。投光器だ。まばゆい光に捉えられて、逃げ場が無い。銃撃がほとばしった。何かが軍曹の背を打った。つんのめって前へと倒れた。二転三転と転がる。
 すぐ目の前に大岩が立っている。スミス軍曹は這った。
 だが、再び光が差しつけた。クレーテの投光器だ。地面に焼き付けられる自分の影と砂を掴み、それを叩いて、軍曹は振り返った。
 まばゆい光を浴びせつけられて、前が見えない。ただ確かなのは、クレーテが足音を立てて一歩一歩と迫り来ることだけだ。腕を掲げ、唇を噛み、軍曹は最後を待った。
 だが銃撃は来なかった。光も、不意に途切れた。残像で目をふさがれて何も見えない。
 クレーテの足音も止まっていた。軍曹も動けずにただ、そうしていた。
 どれくらいそうしていたのだろう。くらんだ目からゆっくりと残像が消えてゆく。クレーテの足音が響いた。戸惑うように少し歩いては止まり、少し歩いては止まる。それが捜索動作であることを軍曹は知っていた。クレーテは軍曹を見失ったのだ。
 なぜだ。
 胸に疑問をわだかまらせながら、軍曹は動けずにいた。
 やがてクレーテの足音は遠ざかってゆく。軍曹は掲げていた腕をそっと下ろした。増感映像に遠ざかってゆくクレーテの後姿が見えた。
 何が起きたのだろう。何があったのだろう。
 軍曹はあたりを見回し、そして背後に立つ大岩を見た。
 そして驚いた。
 そこには人影があった。正しくは、描かれた人の姿だ。
 遠く、去ったものらの姿だった。
 人類がこの星を捨てる、さらにはるか前、スミス軍曹のはるかな祖先たちの描いた姿だった。
 異形のものが、それでもスミス軍曹を迎え入れるように両手両足を広げていた。まるではるかな未来の子孫が、再びこの地を訪れることを、知っていたかのように。
 これを見て、クレーテは混乱したのだろうか。
 スミス軍曹は手を伸ばしかけ、けれど触れることをやめた。
 彼を助けるために不思議な力が働いたわけではないと思えた。きっとこの絵は、人類のみならぬ何かと関わりあってここにありつづけているのだ。そしてこの絵そのものを守るために、人ではないなにものかの力が働いた。
 そんな風に思えたから。

脳内宇宙2

2010-10-12 04:06:32 | Weblog
コルドバ2

 白鯨は、遠く離れた人類の生まれ星の伝説だった。
 その星だけ住まっていたころから、人は船を女性のように呼び、また海にあり心見せぬものを魔物と扱った。
  いま人は星の海に住まう。その星空の中でも、人は船を女性のように呼び、電脳傾向を人のように扱った。あまりにも冷たくそっけない応答をするものは、過ぎ るとそれを女性とは見なさなくなる。人は心のうちを見せぬ大きく、滑らかな姿のものを、いつしか伝説の海の魔物のように呼ばわった。
 コルドバ 2 は滑らかな船体の大型の戦闘艦だ。ほぼ紡錘型で船体後部には三枚の安定翼兼着陸脚を備え、ブリージングノズルを後部に集中装備した姿は、クラシックと言っ ていい形だ。実際、コルドバ2は艦齢はともかく、世代的には旧型と言っていい船だ。プロミネンス級の最終艦として、連合戦争の直前に起工された。
  800m級船体に、比較的小さなクラス15の超光速主砲を搭載し、また副砲としてミラー炉レーザを三基搭載していた。動力燃料と噴射剤さえ十分にあれば惑 星への緩降下能力を持ち、そこで着地自立する強度も十分にある。要するにコルドバ2は、人類の活動領域のほとんどどこにでも行くことができ、そこに人類統 合機構の覇権を維持する能力を持っていた。だが連合戦争がコルドバ2に求めたのは、治安戦争を戦い抜く力だった。
 計画時には小さいと見られてい たクラス15主砲はほとんど火を噴くことはなかったし、副砲のミラーレーザは十分な出力を持っていたが即応性が不十分だった。プロミネンス級の足の速さと 充実した防御装備は評価されたが、火力の不適正はいかんともしがたい。結局、コルドバは主砲への動力プラグを改修し、さらに副砲の二基を撤去してコンパク トで即応性の高い動力供給型レーザ砲群を装備するようになった。
 連合戦争が休戦を得て、生き残ったプロミネンス級の多くが退役した。残るのはコルドバ2を含めたわずかな数だけだ。それらも退役した同型艦からの供給部品が尽きれば、その任務を終える。だが彼女らは、彼女らに最初に求められた任務を果たしていた。
 人類領域辺境に配置され治安維持のみならず、災害救援、医療支援、法務支援ならびに必要とするありとあらゆる支援を行う。彼女らはその滑らかな船体をめぐらせて巡察任務を続け、要があれば文字通りどこへでも飛んでゆく。
 感謝にはそっけなく、畏怖は感じた風もなく、決して崇拝されることもなく、伝説の白鯨がただ思うまま海を馳せたように、彼女の白い姿はあるべきところに常に現れ、そして消える。
 星涯星域の転移領域に現れたときもそうだった。星域通航管制部に送りつけられたそっけない通告に示されたものと、寸分たがわず同期して彼女の滑らかな巨体はその姿を現した。

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ま、要するに宇宙船萌えしたんだけど、こいつが大活躍する状況ってのは思いついていないw

カナン ラフ2-19稿 おしまい

2010-10-10 17:11:09 | ラフ 虎の学士 カナン
 けだものの体に突き立った槍をそのままに、俺は手を放し、それに背を向けた。
 歩き始めるとき、さむらいどもがざわめいた。
「どこへ行く」
 犬の男が問う。俺は歩きながらこたえる。
「帰るに決まっているだろう」
「待て、許さんぞ。勝手をするな」
 犬はやはり犬なのだ。それは変えられない。
「好きにさせておけ」
 女さむらいが言う。やつも虎の性根だ。かかわりを感じなくなったものは、もはやどうでもいいのだ。
「その男を押えようとしてもどうにもならん。学士どのも言っていた。その男には神が憑いた」
 さむらいどもがこわごわと道を開くのが判る。
 俺は歩いた。気が動いている。朝が訪れようとしている。東の空が夜明けの前触れの色に染められてゆく。何もかもが変わり、また変わらぬ。
 だが、と女の気配が俺へと向く。
「水浴びくらいしてゆけ。血まみれで歩き回るな」
 声に詰まった俺に、女はさらに言う。
「なんだ?」
「いや、水浴びはあんまり好きじゃない」
「そいつを捕まえろ」
 不意に女が言った。はあ?と振り向く俺と同じように、さむらいたちも声を上げる。
「こ、こいつをですかい?」
 犬の男が言う。女がにんまり笑う気配がする。俺は思わず退いた。虎が目の前にうっそりあらわれて、そうしたら誰だって逃げようとするだろう。
「案ずるな。槍はここにある」
 さむらいどもがいっせいに首をめぐらせてそちらを見る。それからまた俺を見る気配がする。
「ま、待て!」
「かかれ」
 さむらいどもがわっとおしよせる。あらがういとまもなく、おさえつけられ、縄をかけられ、さらに担ぎ上げられる。
「なにをしやがる!おれは野豚じゃねえ!」
「豚はきれい好きだぞ」
 犬の男が声を上げて笑う。
「そいつを小川に放り込め。草でごしごしこすってきれいにしてやれ」
 おう!とさむらいどもが声をあわせてこたえる。縛り上げた俺を抱え上げて、駆け出してゆく。
「やめろおおおおお!」
 もちろん、抗う俺にこたえるものなどいない。
 いつもそうだ。なにもかもそうだ。先にそれを思い知らされたばかりだ。
 そうだ。それがこの地だ。


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というわけで、こんな話だったのさ。
途中でアイデアが浮かんで、ラフがラフどころではなくなってしまったが、まあいいじゃないかw

というわけで、カナン語に入れ替えたところが良いのは判っていたけれど、そこが不如意でやっぱりラフのままw

カナン ラフ2-18稿

2010-10-10 04:21:20 | ラフ 虎の学士 カナン
 それだけのことだ。
 いつもいつもあることだ。俺たち狩人は 神に獲物を捧げると願い奉り、狩った獲物を神に捧げる。
 この地に生きる数え切れないものどもが、そうしてきた。今日のいま、この夜にも同じことがあっただけだ。けものは食うべきものを食らう。それが定めだ。
 ここで起きたこともそうだ。
 そうなのだ、と思った。変わらず、揺るがず、動かぬ。ひとだからとして、何が変わるわけでもない。俺だからとして、あいつだからとして、何が変わるわけでもない。動かせぬものとしてあり、動かせぬのだ。その中に俺がいる。
 月より金色の光が降る。山は静かにうずくまり、森は聞こえぬ音と共に育ち、草は伸び、鳥と獣と虫とがその間をめまぐるしく動く。風は吹き動き、渦巻き流れる。雨は降り陽が差し、朝焼けと青空と夕日が次々と訪れ去り雲はひとときもとどまることな流れ流れ続けてゆく。
 一つ一つが神々の業だ。銀色の月の軌跡は毎夜ごとに形を変えながら夜空を巡ることも、山がこのように山としてあり、森の木々がこのような形を取り、集まり、生えて、枝を伸ばし、草が草のようにあり、鳥が鳥のようにあり、獣が獣のようにあり、虫が虫のようにある。風が吹くのも、雨が降るのも、空が色をかえ、夜と昼とを終わり無く繰り返すこともまたそうなのだ。
 閉じた瞳の闇に、神々の姿と形と力は、あるべく形であるべくかたちにある。
 あいつがいま、俺の足元に倒れてあるのも、またそうなのだと俺には思えた。
 俺にはわかった。あいつに何が起きたのか。あいつにはわからなかっただろう。夕暮れを前に荷を負い、道を急いでいた己に何が起きようとしていたのかを。
 わけもわからず、痒む体をかきむしりながら、夕暮れの森を駆け出し、藪を突きぬけ、森を走り、その地を転がった。体から剛毛が生え、その手も体も己のものとは思えぬ形となり、ふらふらと森を出たとき、落ちる影に驚き、水面に映る姿に驚き、吼えた。
 人が人の間にあるときには知らぬ力が及んだだけなのだ。
 俺のほうが間違っていたのだ。
 お前は正しかった。お前の言うとおりだ。
 けだものがけだものとしてあらぬようにするなら、命を絶つしかない。

カナン ラフ2-17稿

2010-10-09 17:35:08 | ラフ 虎の学士 カナン
 虚を突かれた。
 けれど体が動いた。まるで導かれるように、あるべくある形に槍を構える。後ろ足を引き、前の足は地を踏み、槍をあいつへと向ける。熊を狩るときのように、やつの首の付け根に。
 あいつに、迷いもためらいもなかった。けだものの咆え声と共に、俺へと踊りこむ。重い手ごたえがあった。まるではじめから定められたように、槍はあいつの首筋に突き立つ。
 俺の望みに関わり無く、俺を押し込み、のしかかってくる。踏みこらえ、滑りながらも力の限りに支えるしかない。槍を手放すことなどありえぬ。噴出した血が俺にも降りかかり、獣のにおいがむっと押し寄せてくる。
『・・・・・・』
 けだものが、最後の息を吐いた。獣の声でも人の言葉でもなく、ただ、うつむき、吐き出される吐息だった。それで終わりだった。あいつの体がひざをつく。前のめりになって、どう、と地面へと倒れる。俺はその音を閉じた瞳の闇に聞いていた。
 さむらいたちから声が上がる。
 手ごわい敵を倒した、喜びの声だ。そうだ。さむらいたちにとって、こいつは敵だ。そうだ。それは正しい。さむらいのよろこびは、さむらいの神に捧げられるものだ。
 俺は、俺の神に願い、求めた。
 けだものを狩る力をくれと。あいつを、けものとして狩ることこそが、俺の捧げるものだったはずだ。
 だから、俺は槍を振り上げた。
「このけものは、狩り神のために!」
 強く振り下ろして、その体に槍を突きたてる。先までとは違う、ぐんにゃりした手ごたえがあるだけだ。それでも狩り神の力を借りて、あいつの願いを果たした。
 だから俺は、狩り神へその体を捧げねばならない。