浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

カナン ラフ2-17稿

2010-10-09 17:35:08 | ラフ 虎の学士 カナン
 虚を突かれた。
 けれど体が動いた。まるで導かれるように、あるべくある形に槍を構える。後ろ足を引き、前の足は地を踏み、槍をあいつへと向ける。熊を狩るときのように、やつの首の付け根に。
 あいつに、迷いもためらいもなかった。けだものの咆え声と共に、俺へと踊りこむ。重い手ごたえがあった。まるではじめから定められたように、槍はあいつの首筋に突き立つ。
 俺の望みに関わり無く、俺を押し込み、のしかかってくる。踏みこらえ、滑りながらも力の限りに支えるしかない。槍を手放すことなどありえぬ。噴出した血が俺にも降りかかり、獣のにおいがむっと押し寄せてくる。
『・・・・・・』
 けだものが、最後の息を吐いた。獣の声でも人の言葉でもなく、ただ、うつむき、吐き出される吐息だった。それで終わりだった。あいつの体がひざをつく。前のめりになって、どう、と地面へと倒れる。俺はその音を閉じた瞳の闇に聞いていた。
 さむらいたちから声が上がる。
 手ごわい敵を倒した、喜びの声だ。そうだ。さむらいたちにとって、こいつは敵だ。そうだ。それは正しい。さむらいのよろこびは、さむらいの神に捧げられるものだ。
 俺は、俺の神に願い、求めた。
 けだものを狩る力をくれと。あいつを、けものとして狩ることこそが、俺の捧げるものだったはずだ。
 だから、俺は槍を振り上げた。
「このけものは、狩り神のために!」
 強く振り下ろして、その体に槍を突きたてる。先までとは違う、ぐんにゃりした手ごたえがあるだけだ。それでも狩り神の力を借りて、あいつの願いを果たした。
 だから俺は、狩り神へその体を捧げねばならない。

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