浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

グローサーフント イン アクション 5

2011-06-29 23:11:53 | Weblog

 チャペック軍曹は汗にじむ首筋をぬぐおうとして、上げた手に息をついた。かすかに呆れて首を振る。慣れると忘れてしまうのだ。いま、目の前にかざす手は、着用している装甲戦闘服の機械掌だ。金属で作られ、人より一回り大きい。
 装甲戦闘服は着用している限り思うままで、慣れてしまえば着用の不自由を忘れてしまう。中には乗り込み口兼キャノピーを開いて、機械腕で器用に煙草を吸うやつまでいる。この地球に出回っているタバコは本物だ。とてつもなく体に悪い。
 戦争はさらに体に悪い。頭上の青空をしゅるしゅると音を立ててロケット弾の列がとびぬけてゆく。それらは中天にかかる前に噴射を終え、きらきらと光をはじきながら行き過ぎ、そして先の森へと舞い降りてゆく。緑へ突き刺さり、白煙の列を噴き上げる。遅れて爆発音が連なり響く。離れたチャペック軍曹らの元へも押し寄せ、開いた装甲ハッチから装甲服の中までも震わせる。
 敵はあの森の中に追い込まれようとしていた。独立地球傭兵軍を名乗るものらだ。
 森と言ってもこの乾いた大地では広がり方もたかが知れている。砂色の広がりの中に木々の高さの分だけ浮き上がって見える島のようなものだ。大きめのものもあれば沈んでしまいそうなごく小さなものものある。敵は中くらいの森の中に押し込められつつある。
 乾いた大地を低く閃光が切り裂く。駆けていた敵の装甲戦闘服を後ろから貫いて、撃ち倒す。スーパーAFSを名乗る丸みある姿は、砂をまき散らしながら転がり、そして動かなくなる。ナッツロッカーのレーザだ。広い横隊に開き、航跡のように砂塵を引いて走るナッツロッカーたちはまるで砂漠の艦隊のようだ。硬式スカートに砂塵をまといながら背の高い砲塔を巡らせる。その砲塔に横抱きするように取り付けられたレーザ砲ポッドが光を放つ。一輌が放つと同じく走るナッツロッカー達が続けてレーザを放つ。地を低く薙ぎ、突き刺さり、砂柱を噴き上げ、あるいは森の緑に突き刺さって木々の一つを打ち砕く。その火箭に追い立てられるように敵の部隊、傭兵軍は退いてゆく。
 敵は早期に排除しなければならない。目の前の敵が弱体化していようとも、それは敵のごく一部にすぎない。手間取れば、敵の次の一手に対応できなくなる。緩衝地帯の向こうにある敵の勢力圏には、部隊が集結しつつあることが報告されていた。その気になれば敵は増援部隊を送り込める。そのとき敵に釘付けにされているのはむしろチャペック軍曹等の戦闘団かもしれない。
 装甲戦闘服は登場した瞬間から、戦いの様相を変えてしまった。火力においてかつての戦車に並び、隠密性において歩兵並みを保ち、通信能力、偵察能力では上回りながら対歩兵火力では撃破されない装甲を持っていた。しかも軽車両並みの機動性も保っていた。相互に展開できる戦力が低下したことも相まって、戦場の流動性は劇的に増した。緊要地形に陣地を構築し、陣地に委託して敵を撃破することも難しくなった 事前に陣地を構築しても、そこに張り付ける戦力がないのだ。陣地に張り付ける戦力が小さければ、敵の装甲戦闘服部隊はやすやすとそれを襲撃し、撃破するだろう。敵が集結しても脅威であり、分散しても脅威だった。敵の行動全体を掣肘するのはむつかしい。取り逃がせば、敵は回復して再び浸透攻撃に復帰するだろう。そしてその攻撃が行われる間、友軍はここに戦力を貼り付けなければならない。
 だが分散浸透してくる敵への対処は、すでに整えられている。今朝早くにチャペック軍曹たちが叩き起こされた頃には、すでに航空団の三分の一が離陸しており、三分の一が戦闘態勢を整えていつでも離陸できるようになっていた。航空団の軽装甲戦闘機ホルニッセは、しらみつぶし敵を見つけ出し重戦車大隊のナッツロッカーを誘導した。分散しているからこその弱点を突くのだ。ナッツロッカーは小部隊に分散した敵より多くで強襲し敵戦力を殺ぎ落としていった。
 ホルニッセとナッツロッカーがオフェンスだとすれば、チャペック軍曹たち独立第681機動歩兵中隊はディフェンスだ。オフェンスが敵を叩いている間に、敵が目指しているだろう緊要地形を占領し敵の頭を押える。
 そうして軍曹たちはいつもどおりにホバー輸送車に分乗してこの丘へと展開していた。中隊の支援を担う野戦重ロケット砲スフィンクスもこの丘の裾に到着している。双胴の車体と、重ロケット砲を砲塔左右に振りかざした姿は、その名のとおりスフィンクスに見えなくもない。巨大なナッツロッカーよりさらに一回り大きく、そしてナッツロッカーとちがって人間の搭乗員を乗せ、高度な射撃管制システムで正確にロケット弾を叩き込む。
 そしてまた二機のホルニッセが、軍曹たちの上空をとびぬけた。森縁の上空、沿うように旋回する。砂色と濃い緑の迷彩にオレンジの識別帯を引いたそれは航空団のホルニッセではない。チャペック軍曹たち独立第681機動歩兵中隊のホルニッセだ。二機しかないそれは中隊長と中隊准尉がそれぞれ搭乗している。軍曹たちのグスタフと違って、軍曹の無線が鳴った。
『中隊長より全機へ。戦闘準備。前進隊形成せ』
「第一小隊長了解。第一小隊は二列前進隊形をとれ」
 すぐに軍曹のヘッドセットには、指示を了解した事を告げる了解符号が響く。四機のグローサーフントが一斉に異形の頭をめぐらせ軍曹を見る。小隊のすべての、つまり白の11から14までのグローサーフントたちだ。
 損傷した白の11と13はすぐさま修理されたが、白の12を指揮するはずの要員はまだ補充されていない。今の小隊はチャペック軍曹を含めて三人しかいない。
『ドナート準備良し』
『バーダー準備良し』
 前衛はチャペック軍曹の指揮する四機のグローサーフントが成し、後衛はバーダー伍長とドナート一等兵のグスタフが担う。
「第一小隊、前進準備良し」
 軍曹たち第一小隊の左手には二両のナッツロッカーが待機している。中隊重火器小隊の車輌で中隊を直接支援するのが任務だ。第二小隊のグスタフとグローサーフントはさらにその向こう側にいる。第三小隊はナッツロッカーの背後に離れており、中隊後衛の任に着く。中隊はナッツロッカーを軸に楔隊形を取っていた。ナッツロッカーの火力と重装甲を押し立てて敵を叩く。さらに森へと突入し敵を駆逐するのだ。中隊にはさらに二機のノイスポッターを保有している。軍曹たちの右手と、第二小隊のさらに左手、つまり中隊の左右に配置されて地面から浮かんでいる。
 そう浮かんでいる。ノイスポッターはわずかな発電音とともに、地を離れ宙に浮かんでいる。班重力装置を備えているからだ。一つ目妖怪とも案山子ともたとえられるその異形のマシンは、人の代わりに歩哨に立ち、人の代わりに前哨を勤める。
『中隊、前進、前へ』
 無線に声が響く。上空を中隊本部のホルニッセが飛び行く。まず動き始めたのはノイスポッターだ。吊り人形のように宙をすべり行く。続いて二輌のナッツロッカーがエンジン音を響かせる。伏せた器のような縁から、砂塵を巻き上げる。
 砂塵が吹き寄せてくる前にチャペック軍曹は装甲ハッチを閉じた。最初に感じるのは暗さよりも静けさだ。たしかに暗く、また視野も防護グラス越しに限られるけれど、慣れてしまえばいつものことだ。
 軍曹は大きくからだごと振り返り、そして命じた。
「小隊前へ!」

グローサーフント イン アクション 4

2011-06-22 22:35:05 | Weblog


 ローター音を響かせて、ホバー艇がふわりと浮かび上がる。
 強い風が吹き寄せチャペック軍曹は軍服の腕を上げて顔を守る。人間というのは風に煽られるくらいの弱い生き物だ。それは体ならず、心も同じだ。
 救急任務機の塗装をしたホバー艇は、夕暮れの空の中に上昇してゆく。運び込まれた担架は、もうその窓からは見えない。大きく傾いた橙色の日差しをうけて、きらり輝き、夕空の中に上昇してゆく。さきの戦闘で負傷したアーレ上等兵は、あのホバー機に乗せられて後送されてゆく。
「小隊長、今日は飲みましょうぜ」
「さき行っててくれ、すぐに追いかける」
 チャペック軍曹は振り返り、ひらひらと手を振った。
 中隊でも何人かの負傷兵が出ていた。この手の戦闘では大きすぎるくらいの損害だった。本星は戦争の意義と、それによる消耗に疑念を抱き始めているという。地球という星とその名に、銀河連邦の中の大国たる母国、シュトラール共和国は威信をかけていた。地球。人類の発祥の星。そうでありながら人の生存を許さないほどの荒廃を戦争で受けた星。人類の見捨てた星。そして見捨てられながら、人類の予想を超えた回復力を見せた星。文字通り人の手の入らない自然に包まれた星。地球。
 そして人類はふたたび地球へと戻ってきた。処女地のごとく何一つ無く、国家なるものもなかった地球でふたたび戦争がおきるなど、誰が考えただろう。その日その年を生きるに精一杯の植民者ばかりの星は、治安すら信託統治国に委ねなければならなかった。チャペック軍曹らの母国、シュトラール共和国は威信を掛けてその信託統治に取り組み、そして地球側より一方的に独立を宣言された。
 以来、戦争は続いている。もっともそんなことは軍曹にはどうでもいい。職業軍人は命じられらところに行き、命じられた任務を果たすだけだ。そういう軍人としてのチャペック軍曹と、独立に与する傭兵とに何の違いがあるのだろう。チャペック軍曹は肩をすくめた。
 気になるのは別のことだ。夕暮れの中で軍曹は指笛を吹いた。乾いた風の中に吹かれ消えてゆく。指笛の呼びかけにこたえるものはない。野戦飛行場の広がりを、ただ風が吹き渡ってくるだけだ。飛行場と言っても滑走路などは無く、垂直離着陸のための耐熱舗装が施されている。簡易管制塔と可搬管制レーダがすえつけら夕暮れ空の最後の光に照らされていた。
 ここは一個航空団を丸ごと運用することができる。今は一個航空団の三分の一である一個飛行隊が分駐している。ほぼ四十機の軽装甲戦闘機ホルニッセだ。
 ほとんどの機体が半円断面の簡易シェルタに納められているが、数機が離着陸パッドに引き出されて、夕日の最後の光を浴びている。当直編隊の機だ。四隅に大型ノズルを備えたコンパクトな全翼機で、ノズルを避けて伸びる脚と特徴的な機首の形はその名のとおりにスズメバチめいて見せる。機首は装甲戦闘服そのものだ。手足もそのままで、機体に腰掛けるようにして機首を成している。
 装甲戦闘服には着用者の動きをピックアップする機能が備えられている。その機能をそのまま操縦のための入力装置としたのがホルニッセだ。ほとんど噴射だけで飛行するホルニッセの特殊性とあわせて、低錬度の兵にも空中機動展開を可能としたこれまでに無い機材でもある。
 航空隊の任務は、空中偵察と地上攻撃だ。加えて空戦の訓練も受けている。代わりに地上戦はそれほど得意ではない。装甲戦闘服コンラートを装備しているが、あくまで操縦装置としてだ。
 チャペック軍曹たちのグスタフは、キャノピーを装甲蓋と防護グラスに換え、サイドウィンドもふさいで動体探知レーダと強化暗視装置に取り替えてある。装備を増強して強化する代わりにもはや操縦席に使うには不適なくらい重量が増してしまった。だが軍曹たちの地上戦闘専任部隊が装備するのにちょうどいい。
 チャペック軍曹らの第681独立機動歩兵中隊はその装甲戦闘服グスタフを十二機装備している。中隊本部には空中指揮用のホルニッセとそれに結合できる装甲戦闘服コンラートが二機ある。加えて斥候・偵察任務を担う無人反重力機ノイスポッターと、中隊支援用のナッツロッカーが二機ある。中隊の本当の主力は十二機のグローバーフントだ。犬のように忠実で獰猛で、しかも失われたとしても犬のように省みられることは無い。今回損傷した11号機も13号機も回収されて整備をうければふたたび戦列に復帰する。
 だがそれらをあわせても、戦闘団の中では微々たる物だ。
 戦闘団の主力は、五十輌を越えるホバー戦車をもつ重戦車大隊だ。無人化が進んでいて、五十一輌のナッツロッカーのうち有人型は五輌ほどしかない。それらも指揮のためだ。
 戦闘団には加えて一個中隊のロケット砲兵がある。ナッツロッカーよりさらに大型の野戦自走ロケット砲兵スフィンクスだ。たった六輌の砲車だが、その火力は強大だ。いずれもが夕闇に暮れつつある前進陣地に伏せて眠るようにある。
 だがチャペック軍曹が探している小さな姿は見つからない。軍曹はもう一度、指笛を吹いた。いまや夜色に変わりつつある空に高く吸い込まれてゆく。こたえは無い。どこかへ行ってしまったのかもしれない。もともとそういうものだ。鎖につないでいたわけでもないし、そうしたいとも思わなかった。
 兵隊はいつ死ぬかわからない。兵隊は失うことにも慣れる。そういうときにすることも皆、似たようなものだ。酒でそそいで流してしまう。チャペック軍曹だって同じだ。
 軍曹は歩いた。ここは戦うために作られた街といっていい。町並みの代わりに可搬コンテナや、簡易シェルターが立ち並んでいる。そのほとんどが戦闘機材のためのものだ。機材に頼って戦争をする以上、機材を保たなければならない。
 とはいえ野戦酒保の一つくらいはつくられている。酒と兵隊は、酒が発明されてからこちら、切り離せたことは無い。
 軍曹の探していた姿も、酒保の前にあった。
 犬だ。グローサーフントではない本物の犬だ。毛並みは砂に汚れ元の色もわからない。軍曹も知らなかった。ただ首輪はつけている。それもチャペック軍曹が無理やりつけさせたものだ。防疫注射をしていない犬は、下手すると処分されてしまう。
「来いよ、わんこ」
 チャペック軍曹は犬に向かって歯笛を吹いてみせる。だが犬は顔を背け、聞いてすらいない風だ。犬には注射のありがたみも、首輪の意味もわからない。覚えているのはわなのワイヤーや袋をかぶされたことや、その上から麻酔注射を打たれたことくらいだろう。
 軍曹は膝をついてしゃがみ、ポケットから犬用のジャーキーを引っ張り出してみせる。
 名も無い犬は疑り深げにチャペック軍曹を見る。
 だから軍曹はジャーキーを放った。そのまま知らぬふりをして野戦酒保の扉を開ける。いつものざわめきが押し寄せてくる。
 そうすればあの犬も安心してジャーキーを食うだろう。あれは捨てられたもので、与えられたものじゃない。犬にだってプライドもある。ひょっとする軍曹よりもずっと高いかもしれない。チャペック軍曹は犬のそういうところが好きだった。腹をすかせた野良犬だとしても、嫌な相手の手からは食いたくない。
 生きてるからそうし、そうするために生きてる。
 犬は肉を食い、兵隊は酒を飲む。地上を這いずり回って。
 それが犬と兵隊の日々だ。

グローサーフント イン アクション 3

2011-06-17 12:45:16 | Weblog


「撃て!」
 白煙がはじける。パンツァーシュレックの弾体は唸りを上げて飛び去った。明るく強い炎を引きながら駆け抜け、敵の二機へと二つづつ突きかかってゆく。
 衝撃が響く。乾いた地に輪を描いて広がり、赤く輝く断片が飛び散る。吹き上がる煙の塊に敵の姿は押し隠されて見えない。
「グローサーフント、突撃、前へ!」
 チャペック軍曹の命令に、四機のグローサーフントは一斉に地を蹴った。大柄な機体を低く構えて駆ける姿は獲物目指して走る猟犬そのままだ。チャペック軍曹も駆けた。着用した装甲戦闘服の力で、グローサーフントと変わらぬ速さで駆け進む。
 目指す先の煙の中から丸みある敵の姿が、転げるように踏み出してくる。その姿、スーパーAFSは左腕を振り上げる。奴から光がほとばしった。辺りに漂う煙と砂塵が輪となって散った。刃となったレーザ光条が薙ぐように振るわれる。駆けるチャペック軍曹の間近で光が弾けた。白の11号が黒く強い影を引き、その体から何かが飛び散った。
 機体は駆けながら大きく揺らぐ。天を仰ぐようにして、けれど白の11は止まらない。地を踏み駆ける勢いは止まらない。ひととき天を仰ぐようだった上体も、振り下ろすように再び敵を向く。異形の頭部は敵を見据え、左腕を振り上げる。レーザを放った。しかしレーザは敵をかすめて遠く青空へ吸い込まれる。だが白の11はそのまま駆ける。そして蹴った。駆け足の勢いのまま、足を振り上げる。
 スーパーAFSは玉のように跳ねた。宙を舞い、砂へと叩きつけられる。
 白の11の勢いは止まらない。駆け寄りさらに踏みつける。振り下ろすように左腕のレーザガンを突きつける。放った。
 光が激しく散る。スーパーAFSの装甲蓋が音を立てて弾け飛ぶ。何かが砂地に飛び散る。
 白の11はすぐにその異形の顔を上げた。頭をめぐらせ、新たな獲物を探す。グローサーフントは死んだ獲物を漁りはしない。白の11にわずかに遅れたもう一機、白の12もすでに動かないスーパーAFSに見向きもしない。
 残りの二機、白の13と14も獲物へ襲い掛かっていた。スーパーAFSの放つ光条を恐れもせずに駆け詰めよる。敵の放ったレーザがグローサーフントの一機に突き刺さる。火花を激しく散らしながら煙を噴き上げ、そのグローサーフントは地へ突っ伏した。
 だがまだ一機が残っている。それがレーザを放つ。スーパーAFSのまろい機体へ突き刺し、さらに詰め寄る。グローサーフントは機械の腕を振り上げ叩きつけた。大きく指を広げて揺らぐスーパーAFSに掴み掛る。丸みある装甲に滑りながらも指を立て、砂色の迷彩を削るようにして横なぎに突き飛ばす。音を立て、砂を跳ね上げながら倒れたスーパーAFSにグローサーフントはさらにレーザを放った。丸みを帯びた機体は内側から弾けるように燃え上がる。
 だが横合いから閃光がとび来る。グローサーフントは異形の顔を素早くむける。
 チャペック軍曹もそちらを見た。地のうねりふくらみを盾に、二機のスーパーAFSがレーザを放ってくる。奴等のさらに背後には、さらに四機のスーパーAFSがいる。敵の一角に食い込みはしたが、敵を押し崩したわけではない。逆襲されたら、こちらこそ押し切られる。軍曹は命じた。
「口頭命令、グローサーフントはパンツァーシュレック統制射撃、目標、第一小隊長指示方向」
 グローサーフントはその頭を素早くめぐらせ、つづいて体ごと敵に向き直る。
「11、12は右側目標、13、14は左側目標。ようい!」
 命令と共に、グローサーフントたちはすぐに身をかがめ、背のパンツァーシュレック発射筒を前へと向ける。だがその姿は三機に撃ち減らされている。
「撃て!」
 今度は三つのパンツアーシュレックがロケット推進の炎を引いて飛び去る。乾いた地のうねりに潜む敵の姿へと吸い込まれた。白煙が重い音とともに弾ける。軍用弾頭の炸裂は大きな炎など出さない。閃光のあとに白煙が広がるばかりだ。白煙を背に敵の丸みある姿が駆ける。
「続けてグローサーフントは各個射撃。撃ち方はじめ」
 グローサーフントたちはレーザを放った。その左腕から放たれた光は、炸裂の名残の煙を貫き、衝撃波と共に吹き払う。
 その向こうから敵も撃ちかえしてくる。チャペック軍曹は歯噛みした。もはや先のように突撃して、敵を排除するのはむつかしい。四機しかないグローサーフントの一機は撃破され、十分に優位とは言えない。パンツァーシュレックも使い切ってしまった。激しく光が飛び交い、チャペック軍曹の間近にもレーザが突き刺さり砂煙を吹き上げる。
 敵の射撃が強まる。離れた奥にいる四機と、手前の近くにいる二機とが続けざまに光条を放ってくる。その二機が地の陰から飛び出した。
 だが彼等は押し攻めてはこなかった。砂を蹴り、一気に駆けて大きく退く。背後の四機が激しく撃ちかけて来るレーザに守られながら退いてゆく。それは終わりの始まりだった。敵の姿は二機ずつのペアを保ちながらすばやく駆け退き、次のペアが退くのを待つ。そうやって引き抜くように後退していった。このゲームの終わりと言っていい。
 敵はただの威力偵察チームであり、こちらはたかが一個中隊の機動歩兵でしかない。いずれどちらかが-多くは威力偵察側が-戦闘を切り上げて退く。敵からすれば今回の消耗は大きすぎるくらいだ。それは防御側であるチャペック軍曹の中隊にも言えることかもしれない。軍曹は無線を開いた。
「バーダー伍長、アーレ上等兵の収容を終了したか」
『こちらバーダー。アーレは重傷、歩行不能。意識あり。装甲戦闘服より離脱。バイタルサインでは喫緊の命の危険は無し』
「小隊長了解」
 チャペック軍曹は通信系を切り替える。
「第一小隊長より中隊本部へ。第一小隊正面の敵は後退した。負傷1、グローサーフント被撃破1。救護輸送機要請」
『中隊本部了解』
 上空を、空中指揮中の中隊曹長機が飛びゆき過ぎる。
『まもなく、517重戦車大隊が支援に急行する。現陣地保持』
 無線を切ってチャペック軍曹は息をついた。
 要るときには来ず、無用となってからも留まる。軍隊とはそういうものだ。それからグスタフの装甲蓋を開いた。
 埃っぽい風が吹き込んで装甲服の中を巡る。鼻の奥を突くオゾンの臭いがする。飛び交ったレーザ火箭が生み出した臭い、この戦争の臭いだ。
 いまや三機となってしまったグローサーフントたちが、立ち尽くしたままおしなべて軍曹を見つめている。その異形の頭部も、今見れば犬のように思えないことも無い。
「第一小隊グローサーフントは警戒態勢に移行。自律射撃を禁じる」
 了解を告げる音が軍曹のヘッドセットに響き、そしてグローサーフントたちはそれぞれに身を翻した。砂交じりの風が吹き寄せ、流れてゆく。

グローサーフント イン アクション 2

2011-06-08 22:42:33 | Weblog


 閃光が空をきって飛び去る。
 チャペック軍曹は駆けた。ただ踏みとどまっても撃ち崩されるだけだ。光条に打たれて弾ける砂の間を大きく蹴って、手ごろな地のうねりを滑り込む。装甲戦闘服グスタフの機械の手を軽くつき、さらに地を削りながら大きく振り返った。
 グローサーフント白の11は敵へとレーザを放つ。光条は疎林を低く飛びぬけ、敵の散り伏せる地を撃ち砕く。敵の応射の中でもグローサーフントは怯まない。射すくめられて泣き叫ぶ新兵らとはちがう。愚かなわけでもない。すばやく横合いへと退き、飛び来るレーザ火箭をかいくぐる。だが敵も愚かではない。阻止の光条を横目に見ながら、右手へ、右手へと回り込もうとしている。
「第一小隊長より中隊長へ、第一小隊側面にて敵圧力増大中。スーパーAFS二個小隊を主幹。第一小隊はこれを阻止する」
 チャペック軍曹の率いる小隊は、中隊の側面に展開している。中隊正面での戦いが拮抗してしまったがために、敵はこちらに回り込み中隊を背後から叩こうとしている。
『中隊長了解。阻止せよ』
 無線に応答が入る。軍曹の上空を轟音が飛びぬける。青空を背に機体を傾け、大きくめぐるのは空中指揮をとる中隊長機だ。小隊の背後では、中隊が戦闘を続けている。荒地をレーザが飛び交い、薄紫の残像を残して宙を切り裂き、あるいは地に砂柱を噴き上げる。各坐して煙を上げているのは大型の無人戦車ナッツロッカーだ。中隊の支援火力の根幹をなす重装甲のホバークラフトは援護のためになら突出もし、必要なら敵の火力を引き受けもする。なめくじのように地に伏せた姿の向こうから敵のロケット弾が唸り飛ぶ。低く滑るように疎林をすり抜け地に弾ける。地響きのような爆発とともに白煙が広がり赤く破片が撒き散らされる。身をかがめながらPKAグスタフの姿が駆ける。グローサーフントが追従し、中隊は正面の敵と戦っている。
 軍曹の小隊が阻止しなければ、回り込まれて中隊は背後から突かれる。
「第一小隊、兵力の半数をもって敵を阻止する」
 軍曹は命じた。
「バーダー伍長はドナート上等兵を指揮して阻止線を維持、アーレ上等兵は俺に続け。各員はグローサーフントを指揮誘導せよ」
 了解の応答が、チャペック軍曹のヘルメットに次々と響く。小隊と言っても軍曹を含めて四人しかいない。それが装甲戦闘服PKAグスタフの部隊だ。だがグスタフを着用した機動歩兵は、一人で一両の戦車に匹敵するレーザ火力を持ち、同時に歩兵と変わらない行動力と隠密性を保つ。
 乾いた地を蹴って、アーレ上等兵と白の12号がこちらへと向かってくる。小隊員の全てがが実戦経験を持っていた。小隊員だけでなく全ての中隊員が選抜兵から編成されている。そして無人兵器であるグローサーフントを配備して共同戦闘を行なう独立中隊でもある。
 上等兵の装着するPKAグスタフと、彼のグローサーフントは足早にそしてすこしはなれて軍曹にならぶところへつく。大型だが背にエンジンを備えた姿はまるで身を撓め、身構えるように見える。それに比べると装甲戦闘服グスタフは小柄で、むしろグローサーフントにつき従うようにしか見えない。
「目標前方。敵を阻止しろ。撃て!」
 軍曹は命じる。二機のグスタフと二機のグローサーフントは一斉に火蓋を切った。並び放たれた火箭は疎林を横切り、乾いた大地に突き刺さる。弾けた砂柱が吹き上がり、飛び出そうとしていた敵の装甲戦闘服を退かせる。一条のレーザが敵の姿に吸い込まれ、輪のように光が散った。その姿は大きく揺らぐ。けれど倒れはしなかった。倒れかけこらえ、そして敵の姿は転がるように駆けた。窪地へと飛び込む。敵の装甲戦闘服は優れた性能を持っていた。地上での戦闘任務を前提にのみして設計され、しかものぞき穴など持たない。上体のすべてが装甲だ。代わりにカメラからの画像を直接視神経に投影している。敵をしてスーパーAFSを名乗るすぐれた戦闘機材だ。
 仕留めた確認もとれぬまま、残りの敵のスーパーAFSも足を止め、激しく撃ち返してくる。閃光の刃が飛びぬけ、あるいは地に突き刺さって砂柱を吹き上げる。どちらの放ったか判らないレーザがさらにそれを撃ちぬき、紫がかった蛍光を輪のように広がる。
『!』
 無線に声が上がった。チャペック軍曹は振り向いた。薄紫の光が輪のように広がって、つづいて何かが飛び散った。装甲戦闘服グスタフがゆっくりと倒れてゆく。
「アーレ!」
 それは先に呼んだアーレ上等兵の機だ。砂色に迷彩された姿が、音を立てて横倒しに倒れる。
「アーレ上等兵、応答しろ!」
 倒れたグスタフは動かなかった。だからといって戦死したとはかぎらない。着用者が意識不明になったり動力が停止すれば動かなくなる。すぐ近くのグローサーフント、白の12が頭部をめぐらせる。アーレ上等兵を援護する機体だ。それは倒れたアーレのグスタフを見つめたまま一歩退き、さらに振り返る。敵の放つ光条の中でも構わず倒れたアーレ上等兵の機体へと歩み寄った。そしてまるで案ずるように、機械の指ある右手をさし伸ばして触れるのだ。傷ついた仲間を舐めていたわる犬のように。
「聞こえるか、アーレ」
 装甲戦闘服グスタフには本来、小さ目だがキャノピーがある。軍曹たちの使用する機体は、地上戦闘に専念するがために装甲蓋に代えられ、もとより小さな防護グラスがはめ込まれている。その防護グラスの向こうにかすかな動きがある。
 チャペック軍曹は、胸元のマルチディスプレイへ目をやった。表示を切り替え、指揮下の兵のバイオバイタルサインを表示する。反応はある。アーレ上等兵はまだ生きている。軍曹は命じた。
「バーダー伍長、阻止線は放棄。ドナート上等兵を指揮してアーレ上等兵を収容しろ」
 了解を告げる声を聞きながら、軍曹は続ける。
「口頭命令。第681独立中隊第一小隊グローサーフントの指揮は、第一小隊長チャペックが取る。続けて命じる。第一小隊各グローサーフントは第一小隊長位置を確認、小隊長位置へ集結せよ」
 グローサーフントからの符号音がチャペック軍曹のヘルメットに響く。胸元のマルチディスプレイにはアーレ上等兵のバイタルサイン表示を押しやって新たな表示が現れる。それは第一小隊の四機のグローサーフントが直属対象を再確認したという表示だ。指揮系統に変化はない。ただ第一注視対象をそれぞれの小隊員から軍曹へと移した。グローサーフントは常に、軍曹からの指示を受けるよう動く。
 アーレ上等兵のすぐそばにいた白の12が頭をめぐらせて軍曹を見る。軍曹の近くにいる白の11もだ。二機に続いて白の13と白の14が追いつき。そして四機のグローサーフントが並ぶ。
「グローサーフントは前方注視。火力制圧後に突撃に入る」
 軍曹は鋭く命じた。
「パンツァーシュレック統制射撃。13、14号機は敵最右端機を、11、12号機はわたしのレーザ表示す目標を攻撃せよ」
 四機のグローサーフントが一斉に身をかがめる。狼の群れが得物に向かうように。彼等の場合は背に持つロケット発射筒を向けるために。
 軍曹もレーザを構える。
「撃て!」

グローサーフント イン アクション 1

2011-06-02 00:01:21 | Weblog


 閃光が刃のように駆けた。地に突き刺さり、弾けて砂を舞い上げる。
 チャペック軍曹は走る。装甲の足で砂地を蹴り、レーザガンを備えた機械の腕を振って、細い木の脇をすり抜ける。重みは感じない。着用者の思うままに動く装甲戦闘服-PKA Ausf.Gに守られているからだ。
 一つを大きく地を蹴って、地のくぼみに飛び込む。間近に光条が突き刺さり砂煙を吹き上げる。チャペック軍曹は放たれてくる光条へと目を向けた。防護グラスの向こうには、乾いた大地がうねりながら伸び、まばらに木が立っている。敵の姿が見え隠れする。
 軍曹は地のくぼみから左手を振り向ける。そこには腕に一体化されたレーザガンがある。それをぶっぱなした。かすかに感じるのは反動ではなくレーザに貫かれた大気の発する衝撃波だ。励起された大気分子を残像のように残して疎林の中に突き刺さる。乾いた砂が弾けて散った。敵の姿は身をかがめる。まろい装甲に守られた彼等もまた装甲化歩兵だ。独立地球傭兵軍を名乗っているが、本当のところはただの戦争の犬どもだ。チャペック軍曹は犬は好きだが、奴らは撃ち殺したいほど嫌いだ。その軍曹の間近に次々とレーザ光が突き刺さり、砂柱を立ち上げる。敵も同じ気持ちらしい。砕かれた石くれが飛び散り、軍曹を守る装甲にあたって音を立てる。
 彼の装甲戦闘服PKAは、戦闘力を強化したG型-グスタフに、さらに強化装備を施したものだ。もともとのキャノピーも装甲蓋に防護グラスをはめ込んだものに置き換えられている。だとしても敵の集中射撃には耐えられない。このままではここ自体も突破される。軍曹は体ごと振り返る。そうしなければ装甲にさえぎられて後ろが見えない。そこにはすこし離れて大柄な姿がある。二本の足で立ち、二本の腕を持つけれど人ではない。大犬-グローサーフント-と呼ばれるマシンだ。
「口頭命令、11号、援護しろ」
 チャペック軍曹は命じた。グローサーフントの頭部がすばやくめぐって軍曹を見た。人の形とはまったく違う。犬とすらまったく違っている。グローサーフントは素早く応答信号を返して、その頭部を敵へとめぐらせる。形は必ずしも犬のそのものではないが、すばやく小刻みに動かして敵を捕捉し続けるさまは、宙の臭いを嗅ぎ取ろうとする犬のようだ。
 それは砂色の乾燥地塗装に彩られ、くすんだ緑の斑紋で迷彩された体には、白く11の機番が書き込まれている。白の11がその犬の名前だ。大柄な見かけに思うよりずっとなめらかに動き踏み出し、長い左腕を敵へ向かって差し伸ばす。そして光を放った。薄紫のレーザ光条は疎林を飛びぬけ敵らのある辺りに突き刺さる。グローサーフントは新兵どもよりずっといい動きをする。機体は大型だが、装甲戦闘服のように人を乗せることはない。細身の胴体は人を乗せないからであるし、長い腕は構造と動力のみから作られている。その足も人の形とは違う。膝の下にもう一つ、前向きに傾く関節があってそれもまた犬の足のようだ。背にはエンジンを収めたふくらみがあり、その両脇には一本ずつのパンツァーシュレック-つまりロケット発射筒がある。敵からの応射が空を切る。グローサーフントは恐れるふうもなく左腕を向け、レーザを放った。
 敵も動いた。地のうねりを拾うように低く駆ける。卵を前に傾けたような、まろい形を持つ重装甲の装甲戦闘服は、援護のレーザ銃火に守られながら、軍曹の右側へ右側へと回り込もうとしている。このままでは敵に包囲される。
 つまり正面と右との両方から十字砲火を受けると言うことだ。
「11号、レーザー指示方向を優先判断。包囲を阻止しろ」
 軍曹は口元のマイクに怒鳴り、レーザを放った。だが撃ちかえしてくる光条は一つから二つに、二条は三条に、さらに増えてくる。押さえ込もうにも、射すくめられているのはチャペック軍曹の側だ。軍曹らの正面の敵もまた撃ちかけてくる。正面に四、五機、回り込もうと謀っている敵もまた四、五機あり、合わせて二個小隊程度であるらしい。
「くそ!」
 チャペック軍曹も撃ち返す。だが敵の数を撃ち減らすこともできなければ、敵の展開を防ぐこともできない。所詮は火力であり、火力とはすなわち数だ。
 からだごと振り返り、軍曹は部下達の姿をを探した。彼と同じく装甲戦闘服PKAグスタフを装着して、疎林の中に展開しているはずだ。飛び来る敵のレーザと、応じて撃ち返す光条も見える。それぞれにつき従うグローサーフントたちの姿はすぐにわかった。そのグローサーフントと装甲戦闘服の歩兵とで一つのセルをつくり、軍曹を含めて四つのセルは、広い横隊を疎林に敷いて阻止線を作っている。四機のグスタフと、四機のグローサーフントがあれば十分に戦える。だがあそこにあっては、いま役に立たない。軍曹は唸った。
 あそこに阻止線を敷かせたのは小隊長のチャペック軍曹自身ではある。正面からの突破を阻止するためだ。敵はそれを押し切るのではない、阻止線の右側へ回り込んでこちらを包囲しようとしている。正面で阻止できても、そうなってしまったら遅い。
 グローサーフントで戦力を強化してあるが、小隊はわずか4人でしかない。グローサーフントを恃んで阻止線を引かせたが、今では広げすぎている。再配置しなければならない。
「!」
 音を立てて間近の石くれが弾けた。軍曹は左腕を振り上げ内蔵されたレーザを撃ち返す。敵の射撃が正確になってきている。
「小隊の阻止線を再配置する・・・・・・」
 そこまで言ったときに、またふたたび敵のレーザが間近に突き刺さる。
「11号、援護しろ」
 了解応答がすぐにイアホンに響く。忠実なグローサーフントは、長いアームを敵へと向けレーザを放つ。
 薄紫の光条は、疎林の中を飛びぬけて、敵の姿の間近に突き刺さる。

グローサーフント イン アクション 0

2011-06-01 23:58:36 | Weblog
マシーネンクリーガーと言う企画があります。
ぼくはこの数年、マシーネンに夢中なのですが、思うところあってそれをモチーフにしてSSを書くことにしました。

冬に発売予定の新製品グローサーフントに焦点をあわせてみようと思ったのです。
結果として、グローサーフントどころではなくなってしまいましたが、それも筆のすべり

諸々ご容赦願います。