浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

チーム0・F・INF 助走13

2015-11-19 22:48:53 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 はっとして、俺は飛び起きた。
 いや、ぼんやりした記憶はあるんだ。慌てた店長に助け起こされたこと、どこかの部屋に運び込まれて、その畳の上に横たえられたこと。
 そして飛び起きた今、額に当てられていた濡れタオルが、胸に落ちた。
「大丈夫ですか?」
 覗き込んでくるのは、理恵子さんだ。店長の娘さん。っていうか、顔、近いって。理恵子さんは気にした風もなく、俺の胸元に落ちた濡れタオルを取り上げる。
「急に倒れるからびっくりして」
「いや、すいません。立ちくらみっす。昨夜徹夜で」
「徹夜でガンダム?」
「ガキっぽくて面目ない」
 理恵子さんはくすくす笑う。まあ、ウチは商売なんで、お客さんは大事にしますけれどね、と。
「あの、みんなは?」
「もうゲームは終わったみたいよ?」
 俺は額を押さえる。やべえ、と思っていた。俺、間違いなく、池内さんのあのシナンジュをぶっ壊してる。あのがっちゃーんて音は、確実に何かを割っている。シナンジュをフィールドから押し出したのは、俺だし。
「相馬さん、大丈夫?」
「いや、俺は大丈夫っすよ」
 問題はシナンジュだ。理恵子さんは、お水持ってこようか、とか、もう少し横になった方がいいんじゃない?とか。
 いえ、大丈夫っす、と俺は強がりを言いながら、ふらつかないように立ち上がった。
「パパ、相馬さんがそっちへ行くって」
 理恵子さんがパパ、とか言うと、なんかちょっとえっちく感じる。それはいいものだ。大丈夫かい?などと店長の応じる声もする。俺は畳からバトルマシンのある部屋へと降りた。皆は、ガキどもが順番待ちする席に座ったり、椅子を引っ張り出したりして、楽しく話していた風だった。
「池内さんすみません!」
 俺はもう、これいじょうないっつーくらいの勢いで頭を下げた。もう立位体前屈モードだ。
「いや、いや、相馬君、頭上げて。いいんだよ」
「そういうわけには行きませんっ!」
「いや、ほんとうに」
 池内さんは困ったように言う。有田君、止めてよ、と。有田君も困っている風だったけれど、玉ちゃんが俺の背を叩く。
「相馬ちゃん、いまさ、俺らは判りあえてたんだよ」
 店長が笑う。上手いことを言うね、と。続いて池内さんが言う。
「僕ら的には、業が打ち壊された、っていうか、ね」
「破壊による創造っすよ」
 玉ちゃんが言う。俺にはさっぱりわからないが、皆は楽しげに笑う。
「相馬君、だから、頭上げてよ」
 俺はそっと顔を上げた。
 池内さんは言う。あれは、壊されて構わないものだったんだ。僕の気持ちの中でも、ね、と。実際、シナンジュは壊れていた。粉々と言っても良かった。あれほど磨き上げられた表面も、ぱっくりクラックが入っていた。自作パーツも折れて、破片が無くなってしまったものもあるらしい。でも、池内さんは笑っている。
「まあ、僕ら的に言えば、あるべき形の業の行方、ってやつだよ」
 池内さんたちは、皆で笑う。
「いや、それより、相馬君、君、すごいよ。すごい操縦だった」
「相馬ちゃん、これでも始めて三か月も経ってないんすよ」
「三か月?そりゃすごい」
 相馬さんのチームの加藤さんと敏野さんも笑う。俺らさっぱりだめだったねえ。だめだねえ、と。もう、若い人の時代だね、と。まあまあ、相馬君、座って座って、と俺にも席が勧められる。俺的には床に正座したいくらいの気分だった。それとは別に、話は盛り上がる。池内君も、あれだけ追いつめられたのは、珍しいんじゃないか?いや、あるにはあるけど、久々にホントに追い詰められたねえ、と。
「いや、池内さん、ホントに上手かったっす。もう、最後は、あれしか手がなくて」
 すみませんすみません、俺はもう何度も言っていた。皆は笑う。
「あの判断力は、すごかったと、僕も思います」
 有田君は言う。両方とも、武装をロストしたところで、相馬さんの役割は完全に達成されてました、と。でも、その上で、あの判断をですから、とも。
「うわあああ」
 俺は頭を抱えた。そう言われれば、池内さんのシナンジュを壊してしまう必要なんかなかったんだ!
「いやいや、いいんだよ。あれは壊されるべきだった」
 池内さんは言い、加藤さん敏野さん、それに店長もうなずく。有田君は少し居心地悪そうだ。
「破壊による創造っすよ」
 玉ちゃんが、これ以上ないドヤ顔で言う。玉ちゃんにイラっと来たのは、これが初めてだ。
「天然系の相馬ちゃんだからこそ、やれたんだ。よかったんだよ、あれで」
「天然系言うな」
「じゃあ、脊髄反射系?」
「反射来たら思考と融合させようよ」
「思考してなかったっしょ」
「うん」
 皆が笑う。池内さんが言う。
「君ら、良いチームだよ」
「それは判ってます」
 玉ちゃんはドヤ顔だ。なあ、有田君、とうなずきかける。
「はい」
 有田君は、うなずく。玉ちゃんは俺の背中を叩く。
「どうよ、相馬ちゃん」
「うん」
「相馬ちゃんに思考が足りなくても、有田君がやってくれるから。これこそ反射と思考の融合だよ」
「足りない言うな」
 店長たちが笑う。いや、笑い過ぎだから。
「バトルに呼んでくれたことに、ホントに感謝してるんだよ」
 池内さんは言う。加藤さんと敏野さんも深くうなずく。
「僕ら的にも、いろいろ決着ついたし」
「すみません」
 有田君が頭を下げる。
「ありがとうございます」
「いや、君が謝る必要なんかない。相馬君もだからね」
 池内さんは言う。もちろん、俺にだって少しは判っていた。以前に、この店であったという、ちょっとした出来事って奴だ。何があったのかも、少しは察していた。でも、知りたいとは思わない。
 皆、笑って忘れようとしている。それでいいじゃないか、と俺にも思えていた。


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