浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

カナン ラフ2-15稿

2010-10-08 05:44:27 | ラフ 虎の学士 カナン
 あいつは、おれより背がちっちゃくて弱っちかった。
 おれたちの村は田舎だから、べんがくができるからってそれだけじゃ駄目なんだ。野良しごとの手伝いができたり、女よりたくさん背負って運んだりできないと、ばかにされるんだ。
 あいつは言葉が立つから、逆にうとましくおもわれて、けっこういじめられてた。三人がかりでこられたら、あいつひとりの力じゃ打ち払えない。囲まれて蹴られたりしていた。
 一度、助けてやったことがあるんだ。石投げてな。そのあと、てめえら!とか言いながら、蹴っ飛ばして追っ払った。
 そうしたら、あいつ、おこるんだぜ。一人で何とかできたって。おれ、びっくりしちまって、思わず口をあんぐりあけて、砂ぼこりに汚れたあいつの顔をまじまじと見ちまった。あいつ、まるで俺がいじめたみたいにすげえ顔で俺をにらみつけやがる。おれ、聞いたんだ。
 おれ、何か悪いことしたか、って。
 そしたらあいつ、不意に腕組みして考え込んだんだ。唸るみたいに背を丸めて考え込むあいつを、おれもなんとなく背を丸めながら、追いかけ見た。
 そしたら、あいつ、何見てるんだ、とか言い出すんだ。おれは言ってやった。お前、馬鹿じゃないのかって。あいつ、顔を真っ赤にするんだ。
 でも笑った。そうだな、馬鹿みたいだ、って。あいつ、けらけら笑ってるんだ。なんだか判らないけれど、おれも笑った。
 それが、あいつとちゃんと話した最初のときだ。
 俺たちは、なんだかわからないけど仲良くなった。あいつは算術が得意で、どんなに長い立て札でも読めて、負けず嫌いで、怒りっぽくて、そのくせ臆病だ。
 大きくなったら聖都に出て、学士になりたいと言ってた。おれは言ったんだ。お前は賢いからきっとなれるって。
 そのために算術稼ぎをしていたんじゃないか。おふくろさんと少しずつ金をためていたんじゃないか。
 やっと村を出られたんじゃないか。
「!」
 俺は何かを叫んだ。あいつの名前だったはずだ。
 槍は、心の臓をえぐれなかった。俺の槍は、けものを狩るための槍だ。あいつを突き殺すことなんて、できない。

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