浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

グローサーフント線画

2011-07-31 00:08:40 | Weblog
グローサーフント線画

手書きで汚いですけどとりあえずうpってみました。
これまでのアイテムと違って、過去アセットの少ないグローサーフントです。
ハセガワ様から発売されて入手してもどうしたら良いのやらと思うかもしれません。

ということで、どんな塗装をしよう、あんな塗装をしようという
事前のお楽しみにお使いください。

なお、マシーネンクリーガーに関わる諸権利は横山宏先生に帰属しております。
僕は自分の作った模型をトレースしてこの線画を起こしていますが、問題があるようならば、削除させていただきます。

グローサーフント イン アクション 9

2011-07-28 00:57:33 | Weblog


 夜の中に犬の吼え声が響く。
 基地の夜戦飛行場で、犬は落ち着かずはねながら空を見上げて吠える。
 チャペック軍曹が振り返ると、いつもの犬は疑わしげに軍曹を見返す。
「どうしたわんこ。あいつはでか過ぎてお前なんか食っても腹は満ちないぜ」
 けれど納まらなかったらしい。犬はふたたび頭上へ向けて吼える。
 星空を押し隠して、それはゆっくりゆっくりと空から降りつつある。シュトラール軍の大型輸送飛行船だ。飛行船と言っても、浮力のみに頼って浮いているわけではない。推力と浮力の複合船だ。ちょっとした滑走路くらい覆いつくしてしまうほど巨大な飛行船が降りてくるというのはそれなりの見ものだ。チャペック軍曹や犬だけでなく、結構な人影が野戦飛行場の縁へ集まり、その姿を見上げていた。
 初めは遠く、星空の中の染みのようであったものが、近づくに連れて次第に広がり、広がりは大きく膨らみ、伴う護衛機に気づくころには頭上を圧するほどになっていた。飛行船と古風に呼ばれていても、ガス浮力にのみ頼るものではない。推力、揚力、浮力を組み合わせた複合飛行船だ。それがゆえにこの輸送飛行船は膨大な搭載量を誇り、しかも滑走路のほとんど無い飛行場へと降り立つことも出来る。
 護衛機を伴いながらゆっくりと降下してきた飛行船は、さながら夜の女王といった風情だ。とはいえ巨大な船体には、付随する欠点がいくつもある。風の影響を受けやすいこともその一つだ。同じように空気抵抗と推力から速度も限られる。なにより巨体は敵から発見されやすい。敵の航空戦力が充実し始めた今、見つかることはすなわち船と搭載物との両方を失いかねない。だからほとんどつねに夜を飛び、護衛機を伴う。今も轟音と共に駆逐機が上空を旋回している。ホルニッセより大型の戦闘機、ザラマンダーだ。旋回しているのは駆逐機のみではない。この基地からも航空団が哨戒機を出している。
 飛行船は大きさに合わない軽々しさで揺れながら、夜の中に圧縮機の音を響かせる。噴射の気流をふきだし、じわりと降りてはまた風に振られ、エンジン音を高鳴らせて持ち直す。下部船体からは着陸脚を伸ばしているのにいつ降りるともわからない。待ちきれずに帰ろうかと思ったころ、飛行船はエンジン音を高鳴らせながらふんわりと降り立ち、ついでに砂塵を巻き上げた。
 吹き寄せる熱風に犬は跳ねるように駆け逃げかける。けれどそれ以上何事もないことに、拍子抜けしたように足を止める。落ち着かなげに足踏みをし幾度も体をめぐらせて、飛行船を見やるだけだ。気にはなるが自分には関わり無いものだとわかったのだろう。振り返って見つめるチャペック軍曹へは目を向けようとさえしない。犬にはそういうところがある。その気まずげな様子に軍曹は思わず笑ってしまったのだったが。
 着陸してしまえば飛行船は倉庫と変わりない。船倉を開き積載物を降ろすだけだ。船体の扉が左右に開き、斜路が引き出される。牽引車が向かってゆくが作業灯はおおっぴらには灯されない。敵の目を引くようなことはできるだけ避けるためだ。
 本当の見物はそこからだ。しばらくして作業車がふたたび斜路に姿を見せたとき、見物の人垣から声が上がった。牽引する台車の上には上には大きな影がある。脚を折りたたみ身を低くしていても、装甲戦闘服の二倍ほどの背丈がある。
 それを何に例えればいいのか、軍曹には見当もつかない。それぞれが機能を備えた複合体としか言えない。ベースとなる胴体があり、胴体の左右に脚がある。脚は付け根と足首の間に二つの関節を持っているから人の足とは似ても似つかない。それを縮めるようにまげて低く構えている。見ようによってはカエルに見えなくもない。実際、その姿はクレーテ - ヒキガエル - とあだ名される無人歩行戦車に似ている。だが背はクレーテより五割ほど高いし、幅は倍近くになっている。胴体の上に乗せられた砲塔はずっと大型で幅広だ。今は輸送状態にあって、武装は施されておらずアンテナの一部も外されていた。 
 それの名をケーニヒスクレーテという。もちろん皆がその名を知っていた。皆が我知らず声を上げていたのは、皆がその機能を知っていたからだ。
 ケーニヒスクレーテはこれまでにない高度な情報処理能力を備えた人工知能を搭載していた。その能力は少将各の階級を与えられてシュトラール軍のネットワークに組み込まれるほどのものだ。将官は、師団をはじめとした戦略単位の指揮を行う階級だ。
 ケーニヒスクレーテの場合、それら部隊の中の直接の指揮官として位置するというよりも、多数存在する戦術部隊を統合誘導するための階級であるとは説明されていた。そのケーニヒスクレーテが、この戦闘団へ前進配置されるということはすなわち、ここに複数の戦闘団が投入されうると判断されているということだ。
 飛行船の船倉から降ろされてくるのは、ケーニヒスクレーテとそのパーツ類だけではない。多くの戦闘兵器の予備部品類だ。規格コンテナに収められていて、知らないものが一見しただけではその中身はわからない。けれど無人牽引車に引かれて、続々と降ろされてくる。この基地の一個大隊のナッツロッカーのためのものであり、一個航空団のPKAとホルニッセのためのものであり、さらに一個ロケット砲兵中隊のスフィンクスのためのものだ。さらに飛行船には補充の犬が乗っている。もちろんグローサーフントのことだ。他の部品と同じように規格コンテナに詰め込まれて運び出されるのを待っている。
 そして飛行船は補給物資を運び込むためだけにこの基地へ来たのではない。むしろ運び出すためにやってきたのだ。
 この基地に据え付けられていた整備機材を搬出する。これらの補給物資はその代償だ。これまで戦闘団は損傷した機材を、基地で自力回復させていた。この基地の位置づけがそもそも機動作戦の拠点であり、長距離作戦行動を行わせるために、多くの整備機材が備えられていた。部隊はこの基地で整備を受け、前方に進出して戦闘を行なう。
 この基地が敵から攻撃を受ける恐れは小さかった。これまでの想定では。
 チャペック軍曹は犬へと振り返る。犬はすでに地面にぺたりと横になり、落ち着いた様子を見せている。無人車輌がごろごろ走り回ることも、上空を戦闘機が飛び交うことも、この基地ではいつものことだ。
 生き物である限り恐れを感じる。目の前に起きている異常なことに、あるいはそれから知った先行きに。取るに足らない犬ですらそうだ。ただ怖れるものが怖れるに足るものとは限らないだけだ。
 犬がふいに耳をぴくりと震わせ、ふたたび夜を見上げる。軍曹も顔をあげた。夜空へではなく、そこここへ立つスピーカーへだ。夜の中に警報音が響き始めていた。警報を知らせるものだ。それに重なって声が流れる。スピーカからの声は告げる。無人前哨が敵機らしき反応を捕えた。本基地は増強防空態勢に基づき、防空警戒態勢を発令する、と。
 とたんに人垣が動き始める。この基地にある部隊でもっとも人が多いのは航空団で、人垣の姿も航空団のものが少なくない。防空警戒が発令されれば、航空団の人員もそれに備えなければならない。軍曹ら他の部隊の者も所定の位置へ復帰しなければならない。犬は身を起こし何事が起きたのかと落ち着かなげだ。
「落ち着けよ、わんこ。俺たちの出番が来るのはもうすこし先だ」
 たとえ航空団の即応小隊が飛び立ち始めようと、当直中隊が即時発進の準備を始めようと、航空装備を持たないチャペック軍曹たちは何をすることも無い。だがこれから起きる戦いの中では必ず役割を果たす。
 犬はチャペック軍曹をじっと見詰める。犬にはそんな理屈はわからない。
 だが、先までのように地面にぺたりと横たわることはしなかった。

グローサーフント イン アクション 8

2011-07-21 00:28:05 | Weblog


グロフン (8)
 三つのロケット弾が尾を引いて森の中へ飛び込んでゆく。
 木々の中に吸い込まれて爆発が起きる。その白煙を引きずりながら、滑るように素早く横歩きする姿がある。四つ足を広げて低く構えたその姿は敵の、独立地球傭兵軍の装甲戦闘服と同じく印象をうけるまろみある姿だ。装甲戦闘服でありながら、重装備のために人型さえ捨てた姿だ。その四つ足の姿は、砂色の迷彩の右に備えた火器をこちらへと向ける。そして放った。
 超音速の砲弾が森を駆け抜け、突き去る。飛び散る枝葉の中をグローサーフントたちは機敏に駆ける。応射のレーザを迸らせる。乾いた森の中を火箭が走る。グローサーフントは機敏に駆け、また足を止め閃光を放つ。こちらのグローサーフントは三機、あちらの四つ足も増援を入れて三機。数の上では遜色無い。だが敵の反応は鈍い。
 チャペック軍曹は思った。四つ足はスーパーAFSと比べても重装備で機動力もある。突破の前衛を担えるような戦力だ。その火力も強力だ。金属的な咆哮とともに森を駆け抜け、直撃した木を吹き飛ばす。文字通り。幹も枝も葉も、そこから大きく飛び散って、木はその姿を失う。けれど、その火力は集中運用されていない。攻撃的な集中射撃ではない。
 チャペック軍曹にはその理由もわかっていた。ここは敵である傭兵軍にとって価値のある地域ではないのだ。機動戦闘の経緯でここに追い込まれただけだ。敵はその失策に重ねて、ここで戦力を消耗することを嫌がっている。
「押すぞ」
 軍曹は命じかけ、言葉を改める。グローサーフントたちには明確に戦術意図を伝えなければならない。
「第一小隊グローサーフント、右端標的へ集中攻撃を行え。パンツァーシュレック、確固射撃。目標は第一小隊長が照射指示する」
 チャペック軍曹はレーザアームを構える。木々の間に見え隠れする四つ足へ標示射撃を放った。グローサーフントたちは次々に応答符号で答える。そして身をかがめ、背中に備えたパンツァーシュレックの発射筒を向ける。白煙がほとばしる。一発が森を飛びぬける。続けて二機目のグローサーフントが二発目を放つ。噴煙の尾を引いて低く飛んだそれは森の中に吸い込まれる。爆発が起きた。それまでに無かった黒煙が噴出す。それを引きずりながら四つ足が退き、へたり込む。
 最後のグローサーフントが身をかがめパンツァーシュレックを放った。煙を上げる四つ足に吸い込まれ、弾ける。残る四つ足は二機だ。
 四つ足の一機が発砲する。輪のような衝撃波を残して後ろへ退く。四つ足を繰り動かし、茂みを割って退いてゆく。二機目の四つ足もまた同じだった。右に抱えた砲を放つ。発砲炎もなくけれど超音速の衝撃波をまといながら長重弾が飛びぬける。
 着弾の衝撃も鋭く高く響く。グローサーフントの一機が仰け反る。部品を撒き散らし、もんどりうって倒れる。
「退かせるな!食いつけ」
 ここで敵を逃すわけには行かない。敵の四つ足は、それを繰り動かしながら森を退いてゆく。こちらに正面を向けたまま、それでも統べるようにすばやく退いてゆく。伸び出した枝を押し割り、茂みを踏み崩す。残った二機のグローサーフントも、四つ足を追って森を進む。
「第一小隊長より中隊本部へ。第一小隊正面の敵は後退中。200~300mで森縁へ到達する」
 森では見通しが効かない。兵士個人を機械化し装甲化する装甲戦闘服は、直撃を受けない限り能力を喪失しない。劣勢な側も戦力を維持できる。それが敵がこの森に集結した理由だった。だからこそ、この森に兵力を投入して、近接戦闘で叩き合ったのだ。その圧力に押し切られて、敵が林縁へと退くならば、そのときこそ砲撃を誘導して叩くべきときだ。
「中隊本部、聞こえるか。こちら第一小隊長」
 かすかに苛立ち、チャペック軍曹は舌打ちをする。中隊長と中隊准尉の二人は、それぞれにホルニッセに搭乗して空中から指揮をとっている。空中からなら状況を把握しやすく、砲撃支援の誘導も行いやすいからだ。
「・・・・・・」
 だが応答が無い。中隊本部は空中指揮をとる二機のホルニッセだけではない。後方にも通信基地を設置して中隊の活動を支援しているはずだ。
『中隊本部より各小隊へ』
 ようやくの応答がヘッドセットに入る。
『空襲警報が発令された。中隊本部空中班は直上より一時退避する』
 驚き、軍曹はからだごと空を仰いだ。
 防護グラス越しに見える森の天蓋のさらに上を、二つの影が横切って飛び去る。中隊本部のホルニッセだ。言葉どおりに直上から退避してゆくのだ。
 それらの飛び去った青空に、何かがきらめいた。
 軍曹は目を凝らした。森の木々の向こうの青空の中に何かがある。遮光処理された防護グラス越しには良く見えない。だから軍曹は装甲ハッチを開いた。急に大きく爆発音や、砲弾の飛び去るときの衝撃波が響いてくる。それでも軍曹はからだごと森の天蓋の向こうの青空を見た。
 何かがふたたび光をはじく。ごま粒のように小さな、そして遠い何かが二つある。それはみるみる大きくなってくる。すぐにわかった。逆落としに舞い降りてくる敵の襲撃機だ。
「空襲警報!退避!」
 軍曹が言ったそのときだった。上空から光条が降り注ぐ。雷光のような光が森を貫き、地へと叩きつける長く引き裂くように走る。
 とっさに身を伏せた。噴射の轟音が森を揺らして上空を飛び去る。敵機だった。カウルに包まれた双発のエンジンをそれぞれ前に伸ばしけれど翼は持たない。持つのは遷移制動用のスタビレータだけだ。それをひるがえして二機は連れ立って鋭く切り返す。
 敵の情報は知っていた。翼を持たずとも、反重力装置によって飛翔する装甲戦闘機だ。二機だけなどではない。それまで空を制していたホルニッセを追い払うように押し寄せてくる。空戦が始まっていた。ホルニッセが揚力胴を傾け、四隅のノズルからの噴射を一杯にして旋回する。低く飛ぶ敵の反重力戦闘機へと追いすがる。
 チャペック軍曹は身を起こした。胸元のマルチディスプレイに目を落とす。二機のグローサーフントは機能を維持していた。
「バーダー、聞こえるか。状況報告」
『小隊後列に異常なし』
 すでに四つ足を追求するどころではなくなっていた。敵の傭兵軍は森縁へと集結しつつあった。空中からの援護を受けて後退する為だ。それを援護するための空中からの銃撃とレーザ攻撃が繰り返し行なわれていた。反重力戦闘機は地上から打ち上げるレーザを怖れることもなく、無謀なほど勇敢に舞い降りてきて支援銃撃を行なう。
 森を盾にしなければならないのは、むしろチャペック軍曹たちシュトラール側だった。後退してゆく敵を阻むことはできなかった。追いすがるようにロケット弾が降り注いでゆくが数が少なすぎた。
 戦闘の行く末は、往々にして戦闘に直面している戦闘員とは別のところで決まる。小部隊同士の戦闘では、強力な航空支援が状況を一変させてしまうこともある。
 そのように思うことは、いささか負け犬の遠吠えに似ているのかもしれない。
 だがもう何年もこんな小さな戦闘を繰り返し、積み重ねる戦争をしてきた。この後も終わりなくそれが続くのかもしれない。
 あるいは幾度か、互いが試したように戦争を決するための作戦がくわだてられているのかもしれない。何が起きようとしているのか、戦争の犬に過ぎないチャペック軍曹にははかりかねる。
 けれど犬というものは、高く鼻をもたげて意外に広くあたりの事を知りもする。

グローサーフント イン アクション 7

2011-07-14 00:16:45 | Weblog


 森に金属質の轟音が響く。衝撃波を引きずって何かが飛びぬける。
 チャペック軍曹は見た。レーザではない。ロケット弾でもない。けれどその一撃は、ナッツロッカーの重装甲を撃ち抜いて完全に沈黙させていた。森の中にあがる煙はもはや動かないナッツロッカーから噴出すものだ。撃破はされた。けれど完璧に任務ははたした。敵の火力を引き受け敵を引きずり出すことだ。
「行くぞ!」
 ここからは軍曹たちの仕事だ。だが抽象的過ぎる要求は、グローサーフントを惑わせてしまう。
「第一小隊グローサーフントは前進!肉薄攻撃を実施せよ」
 見通しの効かない森ならば、それこそが勝ち目だ。たとえ敵にナッツロッカーを一撃で沈黙させる威力があるとしても、それだけでは決定的な違いではない。軍曹に従う四機のグローサーフントから、それぞれに了解符号が届く。そして地を蹴り、グローサーフントは駆ける。機械の脚で藪を押し割り、機械の腕で枝を跳ね除け、下生えを蹴って森をさらに奥へと進む。
 犬どもを横目に軍曹もまた森を駆けた。軍曹には軍曹の役割がある。グローサーフントを誘導して適切に敵との戦闘を行わせることだ。慎重に回り込んで敵のいるだろうあたりの、側面へと向かう。
 グローサーフントの戦闘人工知能はそれまでのもの―たとえばナッツロッカーよりもすぐれたものだが、自己の仕様にあわせて状況を曲解したがる癖は変わらない。だから無人機の誘導者 ‐ ハンドラーは適切に状況フレームを提示して、認識を支援してやらなければならない。そのためには軍曹自身が状況をよりよく認識しなければならない。人に楽をさせる兵器はまだ開発されていない。
 軍曹は足を止めた。砲声が響く。火薬砲のような重くとどろくものじゃない。いきなり金属質の衝撃波が鋭く響く。敵の姿が森の中にある。低く身構えるその形は一瞬、スーパーAFSに似た何かだと思えた。だがすぐにわかった。似ているのはその機体のほんの一部だ。全体の形も構えもまったく違う。四方にそれぞれ細く長い脚を伸ばした、四本足の姿だ。情報は知っていた。敵である独立地球傭兵軍の重装甲戦闘服だ。その前面はスーパーAFSに良く似ているが、似ているのはそこの形だけだ。背後に続く大型の機関部や、伸びた四つ足はすでに服の形ですらない。四つの脚を器用に繰って、滑るように真横に動く。
 四つ足は二機いた。互いにやや距離をとって並ぶのは、臨機の阻止線を作っているからだ。二機はそれぞれ機体の右側に大型の兵装を備えている。二機の四つ足はその砲を放った。
 砲口から衝撃波が輪となって広がり、唸りを上げて砲弾が飛ぶ。森の木々の間を短く飛びぬけ地へ突き刺さる。大きく土柱が上がる。土くれを浴びながらグローサーフントは駆ける。白の12号機だ。機体に描いた白抜き文字ですぐにわかる。白の11とペアを組ませた機体だ。だが四つ足は再び発砲する。
 こんどは違えなかった。森の中に金属の軋る音が響く。白煙が上がり、機械の腕が吹き飛ばされるのが見える。応射もあった。ペアのもう一機、白の11が森の中で足を止め、レーザを撃ち返す。だが小隊のグローサーフントは二機だけではない。もう二機、白の13と白の14がいるはずだ。
 軍曹が誘導するまでもなかった。二機の大柄な姿が不意に森から飛び出してくる。指示の必要すらなかった。異形の頭部を敵へと向け、餓えた野犬のように森を駆ける。四つ足の動きはわずかに遅れた。広げた脚を繰り動かしてグローサーフントへと向き直る。右脇に備えた砲を向ける。
 砲声がとどろく。衝撃波が飛びぬける。グローサーフントは強く地を蹴った。
『!』
 装甲同士の打ち合う響きが森を渡る。二機の異形はぶつかり合っていた。四つ足の機体はかしぎながら押し込まれている。後ろ脚の二本は地を踏み続けていたが、前の二本は浮き上がり宙を掻くようだ。砂地でも沈まない広い接地面が扇のように振られる。その前脚を押し上げるようにグローサーフントの大柄な姿がある。
 それは奇妙な拮抗だった。残りのグローサーフントと四つ足が撃ちあい、周りにレーザと砲撃とが飛び交い始めても、二機は押し合いから退かずにいた。互いに退けなかったのかもしれない。
 四つ足は大きく身を揺する。グローサーフントも抗う。その機械の右腕は四つ足の機体に掴みかかり、レーザ砲を埋め込んだ左腕はけれど四つ足を支えるのに手一杯だ。それでも闇雲に閃光を放つ。四つ足の脇をすり抜け、森に突き刺さる。四つ足も押し込まれる形ににかしいだまま、砲を放った。
 砲弾は森の天蓋だけを貫いて、青空に飛び去る。だが同時に、砲口の衝撃波がグローサーフントを打ち据えていた。揺らぐその姿へ向けて、四つ足は前脚を共に大きく振り上げる。鋭く振り下ろし突いた。一度、そしてもう一度と上から蹴りつける。三度目の蹴りでグローサーフントはしりもちをつく。
 その隙をついて、四つ足は後ろ足をたわめ退く。そして鋭く振り下ろす。突いた。目前のグローサーフントを上から蹴りつける。一度、そしてもう一度。三度目の蹴りでグローサーフントはしりもちをつく。だがグローサーフントはその左腕を振り上げる。四つ足は後ろ足をたわめて退いた。砲を向ける。そして放った。
 閃光もほとばしる。それは爆発の光ではなかった。正面から光を受けて、四つ足はがっくりと突っ伏す。音を立てて何かが吹き飛んだ。乗り込みハッチなのだろうとチャペック軍曹は思った。
「バーダー!小隊第二列は援護しろ」
『射界を取れない。前進する』
 目の前にいる敵は一機の四つ足だけだ。もちろん今相対しているだけが敵の全てでもない。だからこそ、こちらの数が有意であるからこそ、押し込み、討ち取れる時に討ち取らねばならない。
『ドナート、目標正面!』
『目標確認!四つ足!』
『パンツァーシュレックようい!』
 撃て、の鋭い命令と共に、森から白煙が噴出した。小さく炎をひいて鋭く駆け抜ける。吸い込まれるように木々の間に突き刺さる。爆発が巻き起こる。続けてもう一発のパンツァーシュレックが撃ち込まれる。
『はずした!』
『レーザ射撃用意!』
 わめき散らす通信を聞きながら、チャペック軍曹は胸元のマルチディスプレイへと目を落とす。指揮下のグローサーフントは一機、白の12が沈黙し、反応が無い。四つ足に撃破された機だ。残りの三機は戦闘が可能だ。その三機は、注意音を発振した。下位端末から上位管理者へ情勢の変化を伝えるものだ。
『小隊長!前方に反応!』
 小隊のバーダー伍長も警句を発する。チャペック軍曹は顔をあげた。森の中に、もはや見慣れた衝撃波の輪が広がる。唸りをあげて砲弾が飛び去る。木々の狭間に四つ足のまろい姿が見える。
「第一小隊グローサーフントは、パンツァーシュレック統制射撃ようい!」
 敵に救援が現れたというわけだ。だが敵の戦力の全貌はおよそ見えている。この森に増援が送られてこない限り、叩けばその分だけ減ってゆく。手ごわい敵ならばこそ、失えばその損失も大きい。
「撃て!」
 それを狩るのは軍曹らの任務だ。

グローサーフント イン アクション 6

2011-07-06 23:00:22 | Weblog


 地を蹴ってチャペック軍曹は駆ける。
 装甲戦闘服の力によれば、今のように軽く駆けても、生身の全力疾走のような速度を出せる。
 彼等の頭上をロケット弾が越えてゆく奇跡の列を広げながら、彼等の目指す森へと降り注いで行く。緑の中に突き刺さり、続いて列成して爆炎が吹き上がり、焼けた弾片がまき散らされて飛び散る。少し遅れて轟音が押し寄せ、けれど装甲と防護グラスにほとんど阻まれ、通り過ぎてゆくだけだ。敵は森にいる。だからそこへ向かってチャペック軍曹らは駆け進む。敵が対処を準備を整える前に森へ突入し、近接戦闘で排除しなければならない。楽な攻撃などどこにもない。
 軍曹の左手で、同じく速く機械の犬どもも駆ける。四匹の、いや四機のグローサーフントだ。長い脚で大股に地を蹴り、砂塵を跳ね上げる。犬どもは恐れを抱かない。威嚇するように前かがみに横列成して駆ける。
 小隊のさらに左を砂塵が押し進んでゆく。二両のナッツロッカーだ。背の高い砲塔が小刻みに動き、横に大きく張り出したアンテナが震える。装甲戦闘服の駆け足に合わせて進んでいるけれど、それはホバークラフトであるナッツロッカーにとっては這うようなものだ。硬式スカートから砂塵を吹き出すようにして、半ばそれに包まれながら進んでゆく。中隊配備の重火器小隊に所属する二両の任務は中隊の直接支援だ。レーザガン攻撃のみではない。
それら二両のナッツロッカーは重火器小隊のものだ。中隊に配属され、中隊を直接支援する。レーザで攻撃するのみではない。重装甲を生かして敵からの攻撃を引き受けることもその役割だ。中隊はナッツロッカーを中心に楔隊形で進む。
 さらに先んじて森の目前に迫っているのがノイスポッターだ。低く浮かぶ案山子のような姿は、ロケット弾の名残の白煙を前に、探査アームを伸ばし、地へと向ける。そのままゆっくりと森の中へと分け入ってゆく。見かけどおり森の妖怪そのものだけれど、任務は中隊尖兵だ。中隊本隊が敵に発見される前に敵を発見し、攻撃を誘導する。
 早速、軍曹のヘッドセットに着信注意音が鳴る。警報音ではない。ノイスポッターからの状況情報がアップロードされたのだ。駆けながら軍曹は胸元のマルチディスプレイへと目を走らせる。
「宛:独立第681機動歩兵中隊各機 内容:状況情報 認知圏内背景雑音レベル上昇。自然背景放射外雑音に対し有意変化。敵存在蓋然性:高」
 敵がいるのはわかっている。いまもう一つ判ったことは、敵はこちらを森の中に引きつけて戦うつもりであるらしいことだ。
 頭上を砂色の機影がとびぬける。揚力胴を傾けて巻き込むように切り替えし、森の上空には踏み込まない。空中指揮をとる中隊長の機体だ。
『中隊本部より各小隊へ、前進継続。警戒厳重と成せ。森へ突入せよ』
 了解符号を送信し、つづいて駆けながらチャペック軍曹は命じる。
「第一小隊グローサーフントへ、第一小隊長より口頭命令確認。先決のとおりに二機セル維持、セル間距離を維持せよ。横隊配置」
 四機からすぐに応答符号が来る。続いて軍曹は命じる。
「第一小隊、森へ突入する。森内では徐行。近接戦闘に備えろ。後衛は距離をつめろ」
『了解』
『重火器小隊戦車、森林へ突入する』
 通知と共に、二両のナッツロッカーは森へと押し入ってゆく。さらに速度を落とし、硬式スカートで下生えや茂みを押し切ってゆく。砂埃と共に枝葉が舞う。あの巨体では森の中では自由には動けない。視野も効かず、射線も通らない。森へ突入したらナッツロッカーの火力も装甲も十分には生かせない。
 森での接近戦でこそ装甲戦闘服がものを言う。森はもう目の前だ。
「第一小隊、林縁到達」
 チャペック軍曹は駆ける足を緩め木の一つへと身を寄せる。防護グラス越しに見る森は静かだった。今までと違うところに入り込んで、いきなりじたばた動くのは危険だ。戦術知識というより兵隊の知恵だ。
 ナッツロッカーを除けば森は静かといっていい。森とは言っても、乾燥地帯の森だ。進めないほど密に詰まっているわけではない。木々の向こうにノイスポッターの姿が見え隠れする。装甲戦闘服にとっては不自由なく通り過ぎることができる。少し大柄であるがグローサーフントたちにとっても同じだ。彼らは森に立ち異形の頭部を巡らせて見回している。まるで犬が宙のにおいをかぎ取ろうとしているようだ。実際、シーカーを使って似たようなことをしている。
「第一小隊グローサーフント、前進」
 グローサーフントらは犬に似た長い足で大きくゆっくり踏み出す。枯れ草色の下生えに先に撃ちこまれたロケット弾の跡が点々とある。枯草色の下生えが大きく穿たれ、また黒くすすけた筋は、弾片のなぎ払った跡だ。
 警報音が鳴った。ノイスポッターからの通報だ。確認する前に、光ではない何かが森を飛びぬける。ナッツロッカーの方だ。
 わずかに遅れて、ナッツロッカーは煙弾を射出した。煙の尾を引いて、扇のようにまき散らされる。それが宙でさらに炸裂した。燃える子弾が幕のように下りてゆく。対レーザスモークバリアだ。レーザエネルギを吸収するエアロゾルの防護壁だ。
 だがふたたび、金属的な衝撃波が森を走った。レーザじゃない、ミサイルでもない。それはスモークバリアを貫き、輪のように吹き散らす。ナッツロッカーから何かが飛び散る。スモークとは違う煙がはじける。地に引っかかるように砂塵を巻き上げ動きを止める。
「前方より射撃!」
 軍曹は見た。木々の向こうを低く何かが走る。丸みある姿は敵のスーパーAFSに似ている。けれど違う。
「戦車沈黙!前方に敵!第一小隊は即時交戦に備え」
 軍曹は命じた。
「ドナート、バックアップしろ。俺は敵に食いつくぞ」
『了解。第一小隊後衛はバックアップ』
「第一小隊グローサーフントは接近戦に備え!自由射撃許可。早足前進!前へ!」
 初めから食いつくつもりだった。警戒交互前進など命じるつもりも無かった。敵は逆襲してきたのだ。その踏み込みに応じて斬りつける。
 了解符号がすぐにヘッドセットに届く。忠実なグローサーフントたちは、森の奥へと踏み込んでゆく。
 警報が鳴った。前にいるノイスポッターからだ。木陰を何かがすばやく滑り動く。低く構えた姿はスーパーAFSに似ているがそうじゃない。四方に細い足を張り出させ、それをすばやくうごかして木陰に消える。
 何かが放たれた。砲声は無い。だが衝撃波が木っ端を散らし、森を飛び過ぎる。
 グローサーフントがすぐさま左腕のレーザアームを伸ばす。光を放った。木々のはざまに突き刺さる。
 たちまち森に光と音の死が飛び交う。