浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

チーム0・F・INF 助走 エピローグ

2015-11-20 02:07:09 | ガンプラバトル系SS チーム0・F・IN

 「おいーす」
 玉ちゃんが手を振る。通りを、有田君が歩いてくる。その隣には、女の子がいる。
 俺たちに気付いたのだろう。女の子は急に足を止めた。有田君はすぐに振り返り、彼女の手を自然に引いた。
 女の子は、見るからに恥ずかしげに、それでも引っ張られるままにこちらへとやってくる。俺と玉ちゃんは互いに互いの横顔を窺い見ながら、互いにニヤニヤするんじゃねえぞ、と脳量子波を送りあった。
「おはようございます」
「おはよう」
 女の子も、つづけて小さく、おはようございます、と言いながら、有田君の影に隠れる。えーと、誰?と有田君へ向けて、小さく囁く。
「あれ?乾、知らなかったっけ?」
 おい、呼び捨て来たぞ。有田君は俺を示す。
「相馬さんと玉田さん。僕のチームメイト」
「ういっす」
「乾さんっていうんだ。一度会ったよね。池郷模型店の前で」
 え?と女の子は驚き、それからぶんぶんと首を振る。あー、この子、ホントに覚えてないなあ、と俺はほっこりにやにやする。
「荷物、後ろに乗せなよ」
 玉ちゃんは、SUVの後ろ扉を開く。俺と玉ちゃんの機体は、もう積み込んである。詰み込んであるって言ったって、箱一つずつだけどな。これから、西東京地方大会予選だ。
「彼女?」
 俺はニヤニヤと有田君へ聞いた。
「ちがいますっ!」
 真っ赤になって応えたのは乾さんのほうで、そんなんじゃありません!と強く打ち消す。
「じゃあ、何?同級生?」
「中学まで一緒でした。でも、こいつ、女子高行っちゃったんで」
「哲ちゃんが頭良すぎるんだもん」
「そんなこと無いって」
 哲ちゃんときたよこれ。幼馴染属性だよこれ。
「えー、じゃあ、いつもは池郷模型店で待ち合わせ?」
「そんなことしてません」
 有田君は言うけれど、乾さんは真っ赤だ。かわいいなあ。乙女心だよ。っていうか、有田君、あんだけ頭いいのに、まるで気付いてないとか、どこのラブコメだよ。その有田君は、荷物を車に乗せる。
「店長はまだですか」
「え?店長じゃないよ」
 玉ちゃんが応じる。
「理恵子さん」
「聞いてないよ」
 俺はホントに聞いてない。玉ちゃんは言う。だって昨日、電話あったんだもん。
「なんて?」
「いや、それだけ。あたし行くからって、それだけ」
 なんだそれは。俺は首をひねり、有田君はなぜかそっぽ向く。
「おっはよー!」
 やたら元気な声は、その理恵子さんだ。振り返り、俺はちょっと驚いた。理恵子さん、わりとキメてきてる。まあ、これはこれで良いものだ。うん。
「あら、美佳ちゃんも来るの?」
「ちがいます、ちがいます」
 乾さんはぶんぶん首を振る。けれど有田君は、あ、そう、帰るのか、見たいなことを言う。やっぱ高校生だな。ここは大人が後押ししてやらにゃいかん。
「いいじゃん。来なよ。この車、6人乗りだろ、玉ちゃん」
「7人。乾さん一人くらい、ぜんぜん軽い軽い」
「重いかもしれませんよ」
 有田君が軽口を叩く。もう、ばかっ!と乾さんは有田君の背を叩く。これだ、これだよ。うん。玉ちゃんもうんうんとうなずいている。
「お家大丈夫なら、ホントに来ていいのよ」
 ナイス発言、理恵子さん。乾さんは、えー、とか、いいんですか、とか言いながらもじもじしてる。
「いいよな、有田君」
「ええ、まあ」
 この程よい鈍さ、わざとじゃないところが謎だ。乾さんは、え、でも、とかいいながら、家に電話してみます、などと車の陰に回る。うん、もしもし、あたし。うん。あのね、今からね、ちょっと出かけて来ようと思って。哲ちゃんたちとだけど、池郷さんちの理恵子さん一緒なの。
 おおう、理恵子さん、信頼有るじゃないか。俺は理恵子さんを見る。理恵子さんの横顔は何やらニヤニヤしている。俺はこっそり聞いた。
「中学くらいから?」
「そうそう」
 その笑みのまま、理恵子さんはうなずく。
「もう、もどかしくって」
「まあねえ、大人的にはねえ」
「あの、何時くらいまでかかりますか?」
 乾さんが車の陰から振り返る。すぐに有田君が応える。閉会式が15時半。だから、玉田さんどうですか?と。玉ちゃんは一本指を立てる。
「普通なら一時間。でも会場出たあと混んでるだろうから、プラス三十分」
「じゃあ五時半くらいかな」
「六時前には帰れると思う」
 乾さんは電話にそう話す。おいおい、30分鯖読んでるのは、あれか?二人の時間か、と俺は思う。
「うん。わかった。寄り道しないで帰るから」
 乾さんは俺たちへ振り向く。おかあさん、良いって。
「それじゃ、乗っちゃって」
 玉ちゃんが車の天井を叩く。
「乾、酔うだろ?」
「もう、小学生じゃないよ」
 ちくしょう、なんだ、この致死性のほのぼのは。俺は死ぬ前に、後ろのドアを開けた。
「理恵子さん、どうぞ」
「ありがと」
 微妙な笑みで、理恵子さんは、それでもすっとシートにつく。俺は助手席だ。乗り込み扉を閉めたところで、玉ちゃんが言う。
「シートベルト、な」
「へい了解」
「言っておくけど、超安全運転だからな、俺」
「ユーハブコントロール」
 俺は振り返る。
「アテンションプリーズ、皆様、シートベルトをお締めください。確認終了次第、当車は出撃いたします。機長はおなじみ玉田。ロードアテンダントは相馬が担当いたします」
 俺は続ける。
「なお、戦術予報士兼チームリーダーは有田となっております。有田君、よろしいでしょうか」
「よろしいです」
「そうじゃないっしょ、有田君」
 バックミラーを覗き込みながら玉ちゃんが言い出す。
「理恵子さん、いつもの、行っちゃって」
「あら、あたし?」
「どぞどぞ」
 それじゃ、と理恵子さんは、小さく咳払いする。
「それじゃ、ガンダムファイト!」
 皆、すぐに気付いた。声が合わさる。
「「レディー!ゴー!」」
 笑い声が広がる。そうして、俺たちは出発したんだ。


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