浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

マシーネンクリーガー SS シリーズ1 その8

2010-04-27 22:49:25 | Weblog
 『……了解した、リンツ。こちらの位置を表示する』
 小隊長からの声に、コンラート・リンツ一等兵は息をついた。
 夜の丘にただ一人でへたり込んでいるなんて、心細いことおびただしい。顔を上げ、まろいキャノピー越しに夜空を見上げる。
 暗視視野の星空は降るようだ。きっと大昔の人間もこうやって星空を見上げて、その先に何があるのか思いをめぐらせたに違いない。そんな感慨が今おかれた自分の状況とはかかわり無く胸に沸いてくる。そして人類は星々の世界に手を届かせながらも、争いを止めることもできず、母なる地球を足蹴にして去ったのだ。
『東方上空注意』
 小隊長の声が無線に響く。
 何かが夜空の中に現れた。動かない星々の中にゆれながら動く一対の光がある。それはふるふるとゆれるようにしてみせる。小隊長のホルニッセだ。全翼胴の両脇につけたマーカーライトの光を振って見せている。
「552丘より東方上空にマーカーライト確認」
『了解』
 短い答えがあって、その光はすぐに消えた。敵も暗視能力を持っている。長く光らせていればすぐに見つかってしまう。
『B6Zは、6Aとともに上空援護に入る。落ち着いて行動しろリンツ』
 Bはベルタ中隊、6は第六小隊、いずれも所属を示す。Zは小隊長、Aは先任だ。つまり小隊長と先任が残って援護してくれている。
 キャノピー越しにエンジンの轟音が響く。それはすぐに遠ざかってしまう。見上げる暗視視野の中で、赤外線反応が弧を描いて過ぎる。
『リンツ、アンファングは機能するか』
 アンファング、すなわち装甲戦闘服はホルニッセの操縦席として機能する。地上戦闘時には着用者の能力を補い、強化する機能ももっている。
「問題ありません」
 胸元のマルチディスプレイを見下ろしながらコンラート・リンツは答えた。表示される装備自律チェックに異常は無い。
「ただ、武装に限りがあります。現在、ハンドグレナーテを四発のみ。パンツアーファストを喪失しています」
 ハンドグレナーテは、装甲戦闘服PKAの下腕に取り付けた発射機の中にある。発射機といってもただのチューブだ。その中にグレナーテ本体が入っていて、射出される。片腕に二本ずつ、合わせて四発、射程は短いが上手く当てれば敵装甲服の殻を破れる。
『了解した。機体を離れ、防御に有利な位置へ移れ。丘の頂上だ』
 小隊長の言葉は、いつもどおり冷静なままだ。
『中隊が援護する。武器を節約しろ。いいな』
「了解しました。リンツは機体を放棄、丘の頂上へ移ります」
 ロック解除操作をする。一瞬、それも壊れているかと案じた。けれどいつもどおり結合金具の外れる音がする。胸元のマルチディスプレイの表示が、分離と地上機動操作に切り替わったことを示す。これからは装甲服自体が、リンツの思うままに動く。
 立ち上がり、それから振り返る。彼のホルニッセは着陸脚を失い、胴体そのままでへたりこんでいた。弾痕、というよりレーザーによる焼損あとが機体後部にいくつもあった。機体四隅についているノズルはすべてもぎ離されている。丘の斜面の下のほうにははじめにぶつかったらしい跡も見える。
 運が良かったとリンツは思った。引き起こしが間に合わなければ地面に突っ込んでいたし、丘の登り斜面にぶつかったからこそ、上手く跳ね上げられたのだ。大地にそのままぶつかっていたら、機体ではなくリンツのほうが壊れていた。
 主武装のパンツァーファストを無くしたくらい、不運でもなんでもない。最初の一撃で爆発しなかったのは運が良かった。エンジンが吹っ飛ばなかったのは運が良かった。僕は運がいい。
 自分にそう言い聞かせて、リンツは丘の斜面を登り始めた。敵はすぐ近くにいるはずだ。
 敵の装甲戦闘服AFSは、レーザーを持ち、それに地上でしか行動しない。だからPKAのような大きなキャノピーを持たない。
 砂まみれの殻豆野郎どもが。
 空中では言える強がりを、胸の中で何度も唱える。来られるものなら来てみやがれ。でも、出来れば来るな。ここには中隊が総掛りで支援に来るんだ。
 登ることは少しも苦にならない。装甲戦闘服PKAは、背中のエンジンを回し、リンツの思うままに手足に動力を注ぐ。レーザーに耐える主装甲をまとわせたまま、時速40キロでさえ走らせる。足元で細かい砂が舞い、つま先まで装甲された足が小石を蹴り上げる。
 けれど丘の頂はすぐそこだった。その先には星空しか無い。太陽も月も無い空で、星たちは思うままに光を放っていた。天の川の流れでまたたき、星座を形作り、あるいは星空の中でゆっくりと動いてゆく。流れる星の最後の名残もひとつ、ふたつと見える。あるものは人類発祥の時と変わらず、あるものは人類が生み出した星だ。あるいは生み出しながら壊した星のかけらの最後かもしれない。
 人類の新しい世界は星の中にある。
 そこでも人類は、かつてと同じように生活を営み、国を営んでいた。リンツのふるさともそこにある。シュトラール共和国、銀河連邦より今の地球の統治をゆだねられた国だ。
 人類は星々の中に作った世界から、再びこの地球へと戻ってきたのだ。汚染に、あるいは戦争の荒廃に、身勝手に汚し、そして捨てたこの星に。
 人類はこの星で再び常を営んでいた。争いもその中にあった。どこにいても人は変わらない。変われないのかもしれない。
 変わらず光り続ける星たちは、どれだけの戦いを見下ろしてきたのだろう。この大地には戦いがあった。爪と牙で、獣の骨で、石斧で、弓で、銃で、砲で、あるいは流星となって飛び交った弾道ミサイルで、無数の戦いが行われた。
 リンツは思った。
 ようこそコンラート、本場の星へ。
 これからが本番さ。

マシーネンクリーガー SS シリーズ1 その7

2010-04-27 19:02:50 | Weblog
 誤字脱字の訂正をしようとしたら、興が乗ってどんどん書き直してゆくなんてよくあることです><
 
―――――――――――――――――――――
 轟音の連なりに彼は思わず首をすくめた。
 振り返ると、夜の中に全翼機が飛び立ってゆく。
 その姿はすぐに作業照明の外に飛びぬけ、噴出す四つの噴射炎しか見えなくなる。まずは二機が、つづいてすぐに四機が追いかけ駆け上ってゆく。遠ざかるにつれて四つのノズルの炎はひとつの光点にしか見えなくなってゆく。六つの光点は編隊を組んで夜の中を滑り飛び行く。
 それがB中隊長と曹長機、それから対地支援重装をした第四小隊機であることを彼も知っていた。
 続いてもう少し穏やかな、けれど重いローター音が続く。連隊本部棟近くを低く飛ぶそれは、バスを思わせる細長い胴体と、それに寄り添うような前後に長い、けれど幅の狭い短翼を供えていた。短翼の中にそれぞれ備えられたローターは重い音を地へ吹き付けながら飛ぶ。それが敵中脱出した兵員を救助するホバー機であることも知っていた。
 第四小隊が空中から援護し、ホバー機が強行着陸して兵員を救助する。その段取りが上手く行けば、B中隊の残りの部隊、第五小隊と重火器小隊は出動せずにすむ。代わりに連隊は、第五小隊と重火器小隊をはじめから行動計画に組み込むことができる。
 敵が動き始めた以上、どうなろうと出撃しなければならない。
 彼は息をついて、胸の前に持つ大き目の操作パネルの最後のチェックをする。個別機器の表示は正常。
「1B、2B、起動する!作業員は退避!」
「退避!」
 復唱の声とともに、起動準備をしていた作業員達が「娘」たちから離れてゆく。
 夜の中にうずくまるそれは、一人二人と数えるようなものではない。一つ二つと数えるべき物体にすぎない。敵も味方も「娘」などと呼ばない。
 ナッツロッカー、胡桃割り人形と呼ぶ。だが人形の形すらしていない。地に置かれたスリッパに増加食の一口プリンを落っことしたような、というのはまだ良いほうだ。口の悪いやつは災厄持ちのでかいナメクジなどと言う。
 たしかに「娘」の姿はかわいらしいとは言いがたい。彼女らは巨大な装甲ホバークラフトだ。全長で10メートル、全幅で5メートルはある。ホバークラフトであるが、おなじみのゴムスカートを持っていない。彼女らのスカートは装甲だ。なだらかに傾斜し、柔らかな曲線で一つなぎになった伏せた楕円をしている。
 その上部、胴体の前よりにプリンの器を伏せたような砲塔がある。車体と砲塔を合わせ全高で4メートル。そして砲塔からはアンテナを横合いに伸ばし、パラボラを立て、敵には探照灯を向け、さらにオプチカルシーカーであたりを探る。
 そのシーカーはすでに動作しているが、今はまだ何物も見てはいない。
 二両の無人装甲ホバークラフトは目覚めよと呼びかけられるのを待っていた。
「1B、2B、起動する」
 彼はパネルを操作した。彼女たちにはキスはいらない。それが受け付けられた表示のあとに、プロセス進行表示が動き始める。不意に吸気音が響き始める。操作パネルの表示がイグニッションを示す。低い破裂音に似た響きのあとに、エンジン音が唸り始める。
 操作パネルには次々と起動工程が表示されてゆく。自律チェック終了。エンジン正常。主電源切り替え。異常なし。それはやがて無人戦車として自律行動するための自己覚醒へと移ってゆく。すでに正常に動作し接続も認識も正常なそれぞれの機構を、制御中枢が再認識してゆく過程だった。
 それは人が目覚めのあとで無意識に目をこすったり、背伸びをしたりすることに似ていた。砲塔にあるシーカーがかすかに動く。それはやがて正面に立つ彼の姿を見つける。
「重火器小隊、無人戦車1Bならびに2B起動よし!」
 無人戦車に見つめられ、動くたびに砲塔を巡らせられて、眼で追いかけられることに慣れるまで、ずいぶん時間がかかった。
 彼女らの本来の機能は、装甲戦闘服AFSを着用した敵歩兵を一つ一つ駆逐することだからだ。敵かどうかを状況と見かけから判断し、大出力レーザーで打ち抜く。
 その砲は、敵の使っていた化学レーザーを拡大コピーしただけのものだ。だがその効果も保障済みだ。切断するか、内側から吹き飛ばすか、どちらにしても敵装甲歩兵の殻を、やすやすと叩き割る。
 敵自身が、それを「ナッツロッカー」と呼んだ。
 そして「娘」たちナッツロッカーは、人工知能ならではの執拗さと、頑固さでそれを追い求め、果たして見せる。多少の間違いもする。
 だから彼らがいる。彼ら重火器小隊の任務は「娘」を戦場につれて行き、敵の男どもに紹介することだ。
『待機せよ』
 彼は操作パネルに指示を入力する。
「無人戦車操作下士官は、飛行準備に入る」
 そのため彼も装甲戦闘服PKAを身に着け、PK-41ホルニッセに乗って飛ばねばならない。急ぎ足に、飛行準備中の彼のホルニッセへと向かう。
 夜はまだ深く、夜明けはまだ遠い。
 子供が寝巻きをつけているときに、彼らは装甲戦闘服PKAをつけ、子供がベッドに横たわるときに、彼らは装甲戦闘服PKAを操縦席として、軽装甲偵察機PK-41ホルニッセに乗る。子供がベッドで夢を跳ぶとき、彼らは金属の「娘」のために闇を飛ぶ。
 本当の娘のところに帰るには、まず戦って、そして生き延びなければならない。
 彼は、飛行区画へ向かって歩きながら、個人携帯端末に一つ操作をした。
 小さな表示領域に少しの笑顔が小さく写る。立体モード表示にしてもその幼い笑顔に触れることはできない。
 彼は操作面を軽く撫で、画像表示を消した。
 今、彼の手に触れられるのは昆虫のように身構えたホルニッセであり、操縦席でもあるPKAはキャノピーを大きく開いて彼を待ち受けている。
 それが彼を包む世界だ。

マシーネンクリーガー SS シリーズ1 その6

2010-04-23 18:47:38 | Weblog
 夜の空の中で、二つの光が蛍のように舞い上がる。
 星空を背にしたそれは、やがて全翼胴をめぐらせ旋回を始める。ひとつが先を行き、もうひとつはその後を忠実に追いかける。
 その幅広の胴体の四隅には浮上ノズルがあり、後端にも推進ノズルがある。機首は、けれど飛行機というより昆虫に思える。星空を映すまろいキャノピーは昆虫の頭に見えるし、楕円のサイドウィンドウは複眼のようだ。そして航空機の機首でありながら空気の流れなど気にせず、動力化された装甲四肢が伸びている。まるで昆虫の顎のように。
 その奇妙な形ゆえにホルニッセ、スズメバチと呼ばれるPK-41軽装甲戦闘機だ。操縦席は装甲戦闘服PKAがそのまま接合され、そのまま機能している。
 星々の光を大きなまろいキャノピーに流しながら、二機のホルニッセは夜空をめぐる。機体を傾け、楕円のサイドウィンドウから地面を透かし見ながら、第六小隊長は呼びかける。
「B6Zより、B62、64、聞こえるか」
 闇に閉ざされた大地には、顕著な熱反応は見当たらない。B62号機とB64号機の姿はまるでその闇の中に飲み込まれてしまったようだ。
「B62、64、応答しろ。B6Zは現在上空待機中」
 B62号機も、B64号機も、戦闘員としてもパイロットとしてもまだまだ経験が浅い。高い資質を持つと評価されたからこそ実戦部隊の装甲歩兵とされたものの、そこで直面する多様な状況に対応できるとは限らない。
 突然の攻撃に対応できなかったのは、第六小隊長も同じだった。敵の装甲戦闘服AFSは、足が速く、隠密性も高い。十分に警戒していたつもりだが、先手を取られていた。回避に手一杯で僚機を気遣う余裕も無かった。
 第六小隊長は唇を噛んだ。二人ともまだ18の若造だ。まだ死ぬには早い。
 通信呼び出し音が第六小隊長のヘルメットに響く。
『B中隊長、第六小隊長聞こえるか』
 B中隊は、第六小隊の親部隊だ。
「B6Z第六小隊長。行方不明の二名を捜索継続中。地上に墜落痕跡を発見できない」
『連隊本部がB62の救助非常通信を受信した。B中隊は捜索救助体制をとる。第六小隊は援護せよ』
「B6Z第六小隊長了解」
『B62へ中継する』
「B6Z了解」
 第六小隊長は大きく安堵の息をついた。胸元のマルチディスプレイにB62号機の位置が示される。対空射撃を受けた地点から、さほど離れていない。
 第六小隊長は唸った。
 それはつまり対空砲火を放った敵が、ごく近くにあるということだ。
「B62聞こえるか。こちらB6Z、これより上空援護に入る。 
 流れる星空をキャノピーに映し、二機のホルニッセは大きく夜を巡った。飛び行く。

マシーネンクリーガー SS シリーズ1 その5

2010-04-22 22:33:55 | Weblog
 ようやく鼓動が収まってくる。
 コンラート・リンツ一等兵は少し身じろぎして、胸元のマルチディスプレイを見た。
 自分のバイオバイタルサインは正常、とりあえず大出血による血圧低下も、骨折や内蔵損傷による変化も無い。けれど機体は損傷だらけだ。主エンジン停止、機体動力系ラインに反応無し、浮上ノズルも推進ノズルも全滅だ。機体はかしいでへたりこみ、要するに二度と飛ぶことはできない。だが予備電源はかろうじて電圧を保っている。
 コンラート・リンツは恐る恐る非常通信系をオンラインにした。
「こちらB62、損傷して不時着した。パイロットに負傷無し。小隊長、聞こえますか」
 この通信系は非常用にしか使えない。代わりに衛星を含めた通信網に直接接続して不時着したり、脱出したパイロットからの信号を伝える。
 応答は無い。これが死んでいたら、コンラート・リンツがどこにいるのか誰にも知られないままだ。
「・・・・・・あせるな」
 自分に言い聞かせながら、リンツはもう一度、無線系のオンライン操作をやりなおす。
「!」
 不意に接続信号が鳴った。自動応答系が送信を開始する。その表示を見て、初めてリンツは自分の不時着位置を知った。あわてすぎて確認することも忘れていたのだ。それから自身でも戦術マップで確かめる。
 表示が現れる。状況確認に向かった24地区内だ。クレーテの燃えた丘より離れて、かなり連隊駐屯地に近い独立丘だ。戦術マップ上の呼び名は552丘という。
 すぐ先には丘の稜線が見え、星空に盛り上がってさえぎっている。左右に、そして背後に向けて緩やかな斜面となっているはずだ。リンツは振り返り、それを確かめた。だが背後は機体にさえぎられてよく見えない。それに熱感知と光増幅を同時にやる暗視映像でも大地は闇に沈んでいる。
 その中のどこかに、敵がいるはずだ。
 再び接続音がした。
 聞こえてくる人間の声に、リンツは心から息をついた。

 彼の非常信号は実際のところ、ごく身近なところへ中継されていた。それは低軌道通信衛星でもなく、偵察衛星の通信支援機能でもなく、すぐ近くを飛んでいた第六小隊長機だった。彼の小隊の小隊長機だ。
 非常通信を受けた小隊長機は、小隊長も知らぬうちに、彼らの連隊へ自動転送していた。そして非常通信を受けた連隊指揮システムは表示パネルにひとつの光点として示す。
 そして、連隊指揮所には人のざわめきが満ちるのだ。
 状況は同じ指揮システムを通じて、第六小隊の上位部隊であるB中隊へも通知され、中隊長の携帯端末にもそれを表示するのだ。
 B中隊長は表示を見つめ、唇を噛んだ。
 何が起きているのか把握することもできず、何かをするまえに兵が敵前に取り残されている。結果としての損害はやむをえない。だが、何もせずに見捨てることはあってはならない。
「中隊長!」
 呼びかけながら駆け寄ってくる姿へ、中隊長は振り向いた。駆けつけてくる中隊准尉の手には、携帯端末が握られている。彼も状況を伝えられたのだ。
「中隊長、第六小隊機の非常信号が受信されました」
 その言葉にうなずき、指を上げて少し待つように示す。代わって携帯端末にキーインする。
「B中隊長より連隊指揮所」
『連隊指揮所、当直参謀。第六小隊機の不時着信号はこちらでも受信している』
「B中隊は、捜索救助体制をとります」
『待て、B中隊長』
 だが、その言葉は、捜索救助体制を阻んでのものではない。
 携帯端末の沈黙の間に、中隊長は顔を上げた。目の前に広がる駐機エプロンには、彼の指揮するB中隊のホルニッセが並んでいた。すでに離陸した第六小隊を除く、残りの第四、第五小隊と重火器小隊だ。
 第四小隊はロケット弾を搭載した航空支援重装、第五小隊は機体下部にノイパンツァーファストを吊るし、装甲戦闘服PKAの腕にもそれをひとつ携えさせた地上戦闘重装をとっている。
 敵を阻止し、降下して552丘を確保するには十分だ。加えて重火器小隊には二両の無人ホバー戦車ナッツロッカーがある。
 だが、ナッツロッカーに空中機動はできないから、現場到着は中隊より遅れることになる。
 ややあって、携帯端末から再び声が響く。
『B中隊長、連隊長だ。許可する。連隊から捜索救出機を派遣する』
「ありがとうございます連隊長」
『連隊は、翌朝までに出動態勢に入る』
 その言葉は翌朝以降、中隊は連隊の戦闘計画に組み込むという意味だった。
「了解しました」
 B中隊長は応じた。
「B中隊、出動します」

マシーネンクリーガー SS シリーズ1 その4

2010-04-21 21:01:02 | Weblog
「・・・・・・っ」
 背中の痛みに目が覚めた。
 目は覚めたけれど、闇は晴れない。緑の光がまぶたの向こうに見える。ぼやけた視野をはっきりさせようとして、目をこすろうとする。
 警報が鳴る。はっとして顔を上げる。瞬きをしてあたりを見回す。緑の暗視視野の中で闇の地平が近く大きく盛り上がっている。自分もまた、傾いてある。
 警報表示に気づいた。胸元のマルチディスプレイに目をやる。操縦操作を受け付けられない。あとは損傷表示ばかりだ。推進エンジン停止、右後部浮上ノズル作動せず。右前部ノズル作動せず。主エンジン停止。ようするに彼のPK-41ホルニッセはもう飛べないのだ。
 コンラート・リンツ一等兵は唸り、頭を振った。くらくらする。何が起きたのか、必死で思い出そうとした。
 小隊長の二番機として夜を飛んでいた。予定の24地区に入ってから、小隊長は旋回を命じた。大きく旋回しながらクレーテの配置されていた丘を確認する予定だった。
 そして緩く大きな旋回しながら、先に小さな灯りがあるのに気づいていた。暗視視野だからこそはっきり判るそれは、燃えているクレーテだった。クレーテが燃えているかどうかは大した問題じゃない。問題はなぜ、であり何よりそれが敵の手によるものかどうかが問題だった。
 そのとき、不意に小隊長は叫んだのだ。
『前方より対空砲火、回避!』
 それまで発熱源としてだけうかがえていた小隊長機の浮上ノズルが、激しく炎をひらめかせ、全翼胴を大きく傾けて、滑り落ちるような急旋回をした。
 コンラートもあわててその後を追った。編隊従機は長機から決して離れてはいけない。ただそれだけを思っていた。何が起きているのか、対空砲火が何なのか、全く判らなかった。小隊長のホルニッセは激しく噴射をひらめかせながら、右へ左へと切り返す。
 そのときだった。何かに下から突き上げられた。すぐに推力がなくなった。操作感覚を与えてもいつものように応えない。見下ろしていたはずの闇の大地がくるりとめぐって機体が上手く操れない。星空がめぐり、闇の大地が迫る。
「!」
 大声を上げながら、推力を上げた。不意に機首が上がる。浮揚の感覚もあった。けれど駄目だった。再び下から突き上げられた。闇にぶつかって跳ね飛ばされたように。
 それからもう一度、闇にたたきつけられ、コンラートはその中へ飲み込まれていった。
 運が良かったな、と思った。
 少なくとも目覚める事はできたのだから。

マシーネンクリーガー SS シリーズ1 その3

2010-04-20 21:42:22 | Weblog
別冊SF3Dオリジナルの編成設定を参考に書いていたつもりが
設定を読み違っていました。
設定上の編成では、小隊指揮官は下士官です。
それにあわせて、訂正します。


 降るような星空を、流星が流れる。
 一筋、二筋。星空を切り裂くような刹那の光だ。
 星空を背にさらに強い光が飛びぬける。
 右に、左に、切り返すた炎をひらめかせる。全翼胴を翻し機体の四隅につけたノズルから炎をひらめかせ、星々の間をすり抜けるように身をよじる。それから星空を背に大きく巡って飛び向けた。
 ノズルの炎にわずかに遅れて閃光の筋が闇を切り裂く。光跡に追い立てられるように、その機は高度を落とす。闇に閉ざされた大地に半ば沈み込むように飛ぶ。浮上ノズルからの炎と光にその姿は浮かび上がり闇の中を滑る。全翼の軽装甲戦闘機ホルニッセだ。
「B6Zより中隊本部へ!」
 その機体を横滑りさせながら、小隊軍曹は叫んだ。彼の着用する装甲戦闘服が、そのままホルニッセの操縦席となっている。楕円のサイドウィンドウに一瞬、赤い閃光が映りこむ。首をすくめ、けれど小隊軍曹は続けて叫ぶ。
「24地区に、殻豆ども!概算で中隊規模!」
 首を捻じ曲げ背後をうかがう。全翼胴にさえぎられて後ろはあまりよく見えない。けれど闇の地平にちかちか赤い光がまたたく。サイドステップするように、思い切って機体を横滑りさせる。
 機の横合いを赤い閃光が切り裂いて飛びぬける。大気中なら、そして大気中に微粒子が多いほど、レーザーの光は見えることになっている。だが戦場ではすべては運だ。
 首をめぐらせ僚機を探す。だが見えない。二号機も、四号機も若年兵だ。
「小隊各機は各個離脱!」
 マイクに怒鳴り、さらに続ける。
「先任!生きているか!」
『もちろんです』
 彼の声はいつもと変わりない。
『だが四号機行方不明』
「やむを得ん、離脱を優先しろ」
 了解の声を聞きながら、闇の稜線を夜飛び越える。

マシーネンクリーガー SS シリーズ1 その2

2010-04-20 00:35:05 | Weblog
別冊SF3Dオリジナルの編成設定を参考に書いていたつもりが
設定を読み違っていました。
設定上の編成では、小隊指揮官は下士官です。
それにあわせて、訂正します。


 呼び出し音に小隊軍曹は跳ね起きた。
 慌てて携帯端末を取る。
「待機小隊、第六小隊、小隊長」
 仮眠ベッドに腰掛けて目をこする。時刻表示はまだ0216時だ。
『こちら連隊当直参謀。待機小隊B6、直ちに武装偵察飛行』
 端末からの声が言う。
『26地区のクレーテが異常信号を出して沈黙。敵襲の可能性がある』
「26?」
 小隊軍曹は携帯端末から共用映像パネルへ目を向ける。仮眠室の共用映像パネルは光を取り戻し、そこに連隊戦区マップを映し出す。
「24地区ではないのですか?」
『26地区だ。隣接地区の25のクレーテが、26前進哨所付近に赤外線反応を捉えている』
 画面内に新しく窓が開く。そこに表示された画像は、コントラストのきつい増感映像だ。闇の中の丘の稜線に何かが明るく輝いている。すぐにわかった。
 座屈したクレーテが燃えている。
 小隊軍曹は顔を上げる。すでに先任と二人の兵は仮眠ベッドから起き上がり、小隊軍曹を見ている。
 小隊軍曹は先任にうなずき返し、そして携帯端末へと答えた。
「了解しました。B6は直ちに武装偵察飛行を実施します」
『連隊は警戒態勢に移行する。以上』
「了解。以上」
 小隊軍曹は受話端末を閉じて胸のポケットに収める。それはつまり即応指定の彼の第六小隊だけでなく、彼のB中隊が出動準備をして即応出撃した彼らの報告を待つということだ。
「出動ですか」
 先任が問いかける。小隊軍曹はうなずいた。
「そうだ。26地区前進哨所のクレーテが機能を喪失した。小隊は武装して急行する」
「敵襲…ですか?」
 二人の兵の一人が不安げに問いかける。
「それを確認しに行くんだ」
 小隊軍曹はつとめて冷静に、そして何でもないように言った。自身もまた野戦服に袖を通しながら。
 敵がいるかどうかはまだわからない、彼ら第六小隊がそれを確かめる。敵の動きを発見すればただちにB中隊が出動し、対応するということだ。
「急げ。通報から五分以内に離陸だ」



 タービンが高鳴る。機体が震える。
 小隊軍曹は首をねじまげ、楕円のサイドウィンドウから機体を見やった。緑の暗視視野に全翼胴が見える。そのほぼ前縁いっぱいに口を開いたエアインテイクを見、それから機体の端にに付けられた浮上ノズルを見た。
 機体の前部の右端、そして左端にあるノズルは問題なく動く。つづいて足元のミラーを見ながら、後部の二つのノズルの動きも確かめる。
 機体の四隅には、それぞれ浮上用のノズルが取り付けられ、その制御によって、この軽装甲偵察機PK-41は自在に飛翔する。軽快で力強い飛翔ぶりからホルニッセ、スズメバチの名を奉られるほどに。
 その四つの浮上用ノズルに異常は無い。後部の推進ノズルにも異常は感じられない。
 機体から少し離れて腰を屈め、機体を窺っていた機付長が親指を上げてみせる。
『異常なし』
 小隊軍曹はうなずき、口元のマイクへ呼びかける。
「小隊長より各機へ、状況報せ」
『三号良し』
 先任の声だ。続いて報告が入る。
『四号良し』
『二号良し』
 小隊軍曹は反対のサイドウィンドウから彼の編隊を見た。小隊の残り三機のPK-41ホルニッセは、扁平な全翼胴と、その四隅から下に向けた浮上ノズルを震わせている。
「管制塔、B6編隊離陸準備良し」
『B6、少し待て』
 小隊軍曹は、少し訝しい思いで、胸元を見やる。
 長椅子に座ったまま爪先を見るように視線を向けると、ちょうどそこにはマルチモードディスプレイがある。装甲戦闘服PKAの胸元に付けられた装備だ。時計は、離陸要請から四分を少し過ぎたことを示している。
 今、彼は装甲戦闘服PKAを着用してその装甲戦闘服そのものを操縦席とし、装甲戦闘服そのものを操縦感覚抽出装置とする軽戦闘偵察機PK-41ホルニッセの機上にあった。
 装甲戦闘服PKAがそのまま軽装甲偵察機の操縦席となるという異端極まりない設計のために、彼の胸元から頭上にかけて大きく切り開かれ、代わって丸みあるキャノピーに覆われている。左右も装甲に大きな楕円を穿ったサイドキャノピーとなっている。
 パイロットの操縦感覚は装甲戦闘服PKAを通じて、その感覚のまま機体に取り込まれる。
『B6、無人哨所への識別信号再配布確認を終了した。離陸を許可する』
「B6編隊離陸する」
 小隊軍曹は応じた。
「みんないいか」
 むしろそれは自分に言い聞かせる言葉だった。
「いくぞ。離陸」
 スロットルを開く感覚を装甲戦闘服PKAが捉える。タービンが吼える。砂埃が舞う。乳色に閉ざされた中で、ふわりと浮き上がる感覚に反射的につりあいをとる。機体の四隅の浮上用ノズルが生き物のようにうごめく。
 釣り合いをとったまま推力をかける。乳色の砂埃を抜けて、高く、さらに高く。
 闇の地平は低く過ぎ行く。暗視視野の中で、星は降るようだった。
 あの星を越えて、人類はふたたび、この地球へと戻ってきた。
 見捨てられそれゆえに大自然の回復力によって、ふたたびよみがえったこの星へ。
 小隊軍曹は思いを振り払ってサイドウィンドウから編隊を見る。先任の三号機は揺らぐことなく垂直上昇してくる。残りの二機は少し危うい。
 だがやむをえない。このまま行くしかない。
「行くぞ」
 小隊軍曹は言いスロットルを開いた。推進ノズルが吼える。
 彼と、彼の小隊の四機のPK-41ホルニッセは、滑るように夜を飛翔した。

マシーネンクリーガー SS シリーズ1

2010-04-19 22:52:18 | Weblog
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感あり。
発熱体。
警戒対応階位三へ。目標評価開始。
目標移動中。移動中。
能動対処。
探照灯照射。移動体コントラスト捕捉。
目標移動中、目標移動中、目標移動中。
脅威行動無し。離れつつあり。
目標移動中、目標移動中、目標移動中。
目標評価。環境中生物。脅威度0
対応行動停止。
探照灯消灯。
警戒対応階位二へ。静穏警戒態勢へ再移行。
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 ふたたび訪れた闇で、それはゆっくり巡る。
 まるで闇を見回すようだ。そしてそれは確かに、見回していた。
 わずかに先を絞ったまろみある形の上に、大型の探照灯を乗せている。
 その形はたしかにヒキガエル、クレーテに似ているかもしれない。
 だがそれは銃塔だ。飛び出した目の代わりに探照灯が一つあり、正面に開いたのは口ではなく、シーカーと1.5cmガトリングガンのための開口だ。その銃塔を支えるのが、金属の二本足であることが、なおさらその姿をクレーテのように見せる。その足も、人のような洗練された形ではなく、頑丈さと瞬発力と、そして整備性の良さという合理性から組み立てられた、いかにも跳ね飛びそうな形だからなのかもしれない。
 クレーテは、くすんだ砂色の迷彩色に身を包み、彼は夜の闇を見回していた。
 天空を横切る天の川にも、時折はしる流れ星にも、またゆっくりと星空の中を這ってゆく人工天体にも心動かされることなく、彼は銃塔をめぐらせ、闇の大地を見渡していた。
 それが彼に与えられた役割であり、それ以外のことを思う力は与えられていなかった。彼は丘の上に立っていた。そこに立ち、そこより大地を見渡して警戒せよと命じられていた。
 彼は闇を恐れなかったし、単独任務を不安がったりしなかった。眠りもしなかった。
 けれど彼は、機械の癖に、新兵のようなしくじりを良くした。新兵が泣くように、警報を鳴らし、戦闘中に指示を要求したりもした。カエル遣いの魔術師、技術下士官以外には良く判らない愚痴をくどくどと表示し、なだめられるまで言うことを聞かないこともよくあった。そして時には味方にさえ火を噴いた。
 彼の持つ1.5cmガトリングガンは、生身の人間くらいばらばらの肉塊にしてしまう。一般車両をずたずたにし、ちょっとした家屋なら壁も柱も打ち崩して瓦礫の山に変える。
 そのくせ、敵のAFS、装甲戦闘服に対する打撃力は不十分だった。集中弾を浴びせ、打ち倒しても、敵AFSは平気で起き上がり、すたこらと逃げてゆくこともあった。
 彼らは勇気も知らなかったが、怖れも知らなかった。
 悲しみも知らなかったし、彼らが倒れても誰も悲しまなかった。そしてそれがゆえに、彼らは地球に送り込まれていた。
 彼ら、無人強襲偵察歩行戦車クレーテは、そういうものだった。
 人間を単独配置するには、危険であったり、離れすぎているところに置かれ、闇に、あるいは地平線に目を凝らし、敵が訪れるまでひたすらそうしているものだった。
 彼も、その一つだ。
 S6という彼の名は、彼が部隊のどこに位置づけられているかを示している。Sは偵察中隊を示し、6はその六番目を示す。より正確に言うなら、連隊に二つある強襲偵察中隊のうちの一つの、その中にある二つの偵察小隊のうちの二番目の小隊の機体だ。
 彼ら偵察小隊のクレーテは、前進配置され連隊の固定警戒線の最前縁を構成していた。
 夜には闇に目を凝らし、動くものがあれば容赦なく探照灯で照らしつけた。朝が来れば、哨戒機とデータリンクして情勢を知らせ、昼にはただ広大なこの砂色の大地を見張り続ける。夕暮れの哨戒飛行を見送ったあと、ふたたび夜を迎え、ただ立ち続けて夜を見張る。
 そして、彼は夜の中に目を向けた。


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感あり。
発熱体。
警戒対応階位三へ。目標評価開始。
暗視画像獲得。
目標消失。
警戒中、警戒中。
異常、異常、異常。
主シーカー機能喪失。外部映像獲得不能
不能、不能、不能。
異常、異常、異常。
機体姿勢異常。
修復困難。オートバランス作動不良。
警報、警報、警報。
燃料漏洩。
火災警報、火災警報、火災警報。
自動消化装置作動不良。
警報、警報、警報。
警報、警報、kkkkkkkkkkkkkkk
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マシーネンクリーガー SS

2010-04-19 22:48:56 | Weblog
はじめに
 わたしは、横山宏先生によるマシーネンクリーガー作品群を愛しています。
 その作品群が、プラモデルとして製品化され、ファンの手によって組み立てられ、楽しまれているこれまでと、これからの未来を愛しています。

 そして、マシーネンクリーガーを楽しむ試みの一つとして、ショートストーリーを作ってみました。

 
 もちろん、マシーネンクリーガーに関する諸権利は横山宏センセに帰属します。