limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 60

2019年11月05日 17時25分44秒 | 日記
日曜日、多分、梅雨入り前の最後の晴れ間になると僕は踏んだ。6月も初旬を過ぎているのだ。鹿児島一帯を含む南九州の梅雨入りは、間近に迫っているはず。いよいよ灰の混じった雨が襲いかかって来る確率は、数段上がるだろう。姶良カルデラの北端、南に桜島と言う地形上、南風が吹くと雨になるのは必然性があった。錦江湾は南に向けて外海と繋がっている。東西と北は高い外輪山でガードされている。雨雲が流れ込むのは、南しか無いのだ。鹿児島のローカルニュースで、“これだけは見逃すな!”と言う情報があった。“桜島上空の風向き”だ!活発に活動中の桜島は、いつ大量の噴煙を挙げるか?予測不可能だった。降灰の向きは風向きが決めるから、南風だと最悪の場合、灰混じりの雨にやられるのだ!傘は銀色に、作業服は白く斑に、車には薄っすらと積もる。故に、ワイパーゴムは3ヶ月に1度交換しないと、機能しないし、灰は酸性なので速やかに洗車して取り除く必要性があった。雨が降れば洗車機が混む。1時間待ちはザラにあり、コイン洗車場も長い行列が出来る。寮生は、車を覆うフルカバーでガードするのが、常識として定着していたものだった。翌日が雨と予報が出ると、男女関係無く愛車をシートで厳重に覆うのだ。これが、唯一の対策であり、車を長持ちさせる秘訣なのだ。今朝は、多少なりとも雲があったが、概ね晴れの天気。雨は月曜日からになるだろう。待ち合わせ時刻は、午前8時。少し余裕を持って、寮の玄関先へ出ると、赤いマーチは既に横付けされていた。「おはよう。早いな」と千絵に言うと「待ちきれなくて、早く目が覚めたの。先輩、これ読んだ事あります?」と1冊のコミックを手渡される。助手席に座るとタイトルを見た。「“リップスティック・グラフィティ”か。懐かしな!時期的にちょうど高校時代とリンクしてるから、自分達の事の様に思えて親近感があるよ」と返すと「“海のオーロラ”にしても、“リップスティック・グラフィティ”にしても、どうやって読んだんです?立ち読みなんかしたら、明らかに“不審者”じゃあないですか?!」「教室の机の上に転がってれば、否応なしに手にするさ!道子と幸子の陰謀にハマったまでだ。授業のノートと交換で借りて読んだ作品だから、思い入れもあるしな!」「クラスメイトの女の子から借りた?ノートと交換で?どう言うシステムです?」「お互いに、得手不得手があるだろう?生物とか日本史や世界史、古文のノートを貸出す代わりに、数学や英語のノートをまる写しにする。“相互援助活動”の一環だよ。“補習授業”も各自が得意分野を担当してやる。だから、少し掘下げて勉強しないと教えられない。そうする事で“赤点”を免れるし、全員がレベルアップ出来る。キッカケは、インフルエンザで休んだ幸子のノートを手分けして作った事が始まりさ!」「上からの圧力とか、学校の雰囲気で潰されなかったんですか?」「新設校だったんだ!僕たちは2期生。1期生と共に“礎”を築く立場だったのさ。だから、煩いOBやOGも居ないし、伝統も無し!自由で風通しのいい環境だったからこそ出来た芸当だったんだろうな。逆に“悪しき事”は残せないから、卒業前は大変だった。僕等の代で改悪された諸々の“規則や会則”は全て破壊してから、“太祖の世に復せ”と下に命じて卒業したのさ」「“太祖の世”って何です?」「あー、分からないよな!“1期生の時代に戻れ”って意味」「先輩、たまに分かりにくいと言うか、“学のある表現”を使いますよね?それで同級生や下級生に通じてました?」「うん、それが当たり前だったからね」「あたしとレベルが全然違いますね。“太祖”って言われてもフリーズするしかありませんよ。もっと、かみ砕いて説明して下さいよ!元に戻りますが、“さよならなんていえない”とか、“Mickey”とか、短編の“きんぽうげ”とかも見てます?」「“さよならなんていえない”は“りぼん”の連載で読んだし、“きんぽうげ”も読んだよ。あれも割と好きだったなー」「先輩の頭の中はどうなっているんです?“孫氏の兵法”を読破して語れるだけでなく、少女マンガまでレパートリーがあるなんて!解剖と言うか分解してみてもいいですか?」千絵はマジになって首筋を触り出す。「どこかにネジが埋もれてるはず。それさえ発見出来れば・・・」「千絵―、僕はサイボーグじゃ無いぞ!くすぐったいから止めてくれー!」と言うが、千絵は必死に僕の身体を調べ続けた。「うーん、巧妙に隠してて見つからない!後で、つま先から頭のてっぺんまで隈なく探そう!」「それよりも、今日はどこへ行くんだ?」「あっ!すっかり忘れてた!どこへ行きます?」「朝からボケをかますなよ!よーし、人吉へ行くぞ!」「えー、何しに行くんですか?」「肥薩線の“おこば駅”を見に行くんだよ!この辺では唯一残っている“スイッチバック”と“ループ線”の撮影さ!」「ローカル線のどこに魅力があります?特急なんか走ってませんよ?」「ともかく、行こう!運転は代わってやるから」「OK、じゃあ、お任せしますよ!」千絵はキーを掌に乗せた。すったもんだの挙句のスタートだった。

溝辺鹿児島空港ICから人吉ICまでは、九州自動車道を走行した。「Y先輩、何故、肥薩線なんです?」千絵は不思議そうに聞いた。「かつては、こっちが“鹿児島本線”だったからさ。八代駅から先は、肥薩線の方が開通が早いんだ。川内回りのルートは、電化の際に変更になったのさ。明治時代は、海岸線沿いに鉄道を敷設するのをためらった経緯があるんだよ。国防上の理由からね」「海からの攻撃を恐れた?」「ああ、非常時には攻撃を受けにくい様にしなきゃならなかった。だから、球磨川沿いに線路を敷いた。けれど、後の工事では、複線電化を模索する際に土地の狭さとトンネルの問題故に“足かせ”になってしまった。だから、八代から先を西側の“新ルート”で敷設し直した。だから、“単線非電化”で残存してるのさ。“スイッチバック”と“ループ線”は、急勾配をクリアするための工夫って訳」「全国でもここだけなんですか?」「上越線の清水トンネルの例がある。最も、向こうは複線化の時に別ルートで上り線を敷設しているから、下り線だけだが・・・。かつては“本線”だった路線としては、御殿場線がある。熱海経由の丹那トンネルが開通するまでは、立派な東海道本線だったんだ!」「“オタク知識”までインプットされてるんですね。メモリーはどこに隠してあるんです?」千絵は“サイボーグ説”を捨てていなかった。「電子回路は付いて無いよ!全部、灰色の脳細胞に記憶されてる」「それにしても、広範囲な知識を良くもスラスラと言えますよね!どうやって覚えたんです?」「ひたすら掘り下げるのが、僕のクセらしい。気になると、とことん調べる悪癖があるんだよ!まだ、千絵に関しては謎めいた点を調べ尽くしてはいないけどね」「後で、存分に調べれば?」千絵はニッコリと笑った。人吉ICで降りて市街地を抜け、国道267号を鹿児島方向へと戻ると、肥薩線“おこば駅”の案内看板に沿って脇道を進む。駅はひっそりと佇んでいた。「これって、駅に入ってから方向転換するんですよね?」「ああ、現在は両方向に運転台のあるディーゼル車両だから、運転手が移動するだけでいいが、開通当初は当然蒸気機関車だから、機関車を回して連結し直したはずだよ。前も後ろも同時にな!」「えっ!後ろの機関車って、前後2両で?」「これだけキツイ勾配だから、引くだけじゃ登れない!補機として押す機関車も連結してただろうよ。しかも、先には下り坂が控えてる!ブレーキも効かせるには、補機は欠かせなかったはずだ。線路や“転車台”は撤去されているが、駅の敷地が結構広いところを見ると、かつては今言った施設はあったはずだ!」僕は要所でシャッターを切り続けた。「今だって、駅に列車が入線すれば、ポイントを切り替えてから、北や南へ向かうはずだ。すれ違いもここでやってるんだろうよ。上り下りの両方に対応可能なホームになってるだろう?」「確かに。山の中なのに、敷地が広過ぎるし、ホームも両面に対応してるわ!」「地図を見るとだな、えびの市側に出ても、余り山を下らずに山の中腹近辺を線路が走ってるだろう?昔はこうしないと、安定して走れなかった証拠さ!上り切ったら、なるべく高低差の少ない場所を選んだ結果だろう。霧島温泉駅から隼人駅の付近は、結構な下りだからな。八代へ戻るにしても、補機は必要だよ」「どのくらいのスピードだったのかな?」「うーん、下手をすると“自転車に負けた”可能性はあるかもな。蒸気機関車そのものが重たいんだから、1寸刻みに喘いで登っただろうよ」「鉄道が自転車に負ける?そんなに遅い訳?」「早く走れば、飛び乗れた事は確かだろうさ。無論、パワーのある機関車なら話は別だがね」「“トンネルの問題”って何です?」「電化するには、架線を上に通さなくちゃならないだろう?トンネルの断面積は、蒸気機関車が走る事を想定して掘られてるから、上下方向の高さが足りないんだ。“盤下げ”って工事、すなわち、地面を掘り下げる工事をしないとトンネルを通過できないし、鉄橋も併せて下に持って行かなきゃならない。しかも、運行を停めないと大々的な改造工事は無理だ。八代、隼人間には、短いトンネルが結構あるし、電力の供給にも問題があったんだろう。“新ルート”に切り替えたのは、そうした理由もあるだろうよ」フィルムを使い切り、パトローネ交換をしつつ千絵の疑問に答えた。「電力って普通のコンセントから取るヤツじゃなくて?」「同じ交流でも100Vじゃあ無いよ。20.000Vの高圧電流が流れてる。交流電源の利点は、変電所の数が少なくて済む事と、高圧だから容量を稼げる事にある。新幹線が交流を使っているのは、大容量の電力を必要としているからさ!時速300kmオーバーなんて速度を出すには、高圧電源が無いと無理だからね!」「感電したら黒焦げになるのね。山手線もそうなの?」「いや、ちょっと違う。直流1500Vだ。関東甲信越、名古屋周辺、大阪近郊などは、直流電化さ。電化された時期や電力供給の関係で、直流と交流に別れてるのさ。九州一帯は交流1本だがね」「じゃあ、ここら辺で走っている電車は、首都圏や信州には乗り入れできないの?」「それが、ややこしい話になるがね・・・」僕達はマーチに向かって歩き出した。「ここら辺で走ってる電車は、そのまま首都圏や信州に乗り入れ可能なんだよ。ただし、逆は無理だ。山手線の電車は九州に乗り入り不可能だ!」「どうしてよ?」「電車の構造が違うのさ。この辺りで走ってる電車は、415系か485系と言うが、“交直両様電車”と言って電化されていれば、どこでも走れるタイプなんだ。山手線の電車は“直流電車”だから、交流区間は走行不可能。では、何故、“交直両様電車”がどこでも走れるか?なんだが、実は床下に“変圧変換機”を持っているからさ。理科の実験で電源装置を使ったの覚えてないかな?コンセントにプラグを差し込んで、電流と電圧を調整すると、実験回路内の豆電球が光るヤツだが・・・」「何となく覚えてるけど?」「原理はアレと一緒だよ。交流を直流に変換してやる。それを電車の床下でやってるからさ。直流区間なら、“変圧変換機”を止めてしまえばいい。基本は直流型と一緒なんだ。床下に“変圧変換機”を持っているか、いないかの違いだけ!」僕はマーチを始動すると、人吉市内へと向かった。「うーん、何となく分かった様な、まだあやふやな様な・・・」千絵は盛んに首を捻る。「でも、何で、485系?だっけ?ややこしいモノを開発したのよ?」「必要があったからさ。大阪から青森まで走る“白鳥”と言う特急があるが、最初はディーゼル特急でスタートしたんだが、スピード・加速不足でね。時間短縮の要望が国鉄に挙げられたんだ。電車化に当たって、一番困ったのが北陸線内と奥羽本線の村上以北の交流区間だった。乗り換え無しで直通運転を可能にしたのが、485系“特急型交直両様電車”だったのさ。“必要は発明の母”だろう?苦労して辿り着いた結論が、たまたまそれだったのさ!今では、485系は直流区間でも活躍している、国鉄の“特急の柱”だよ!」「仮に、あくまでも“仮の話”だけど、あたしが“にちりん”を運転して、O工場の近くまで走って行く事は出来るの?」「気の長い旅路にはなるが、充分に可能だよ!でも、乗って来た以上は、返しに戻らなくてはならないがね!1編成をジャックするにしても、ダイヤに影響が出るからな!」「予備があるでしょう?」「電車にも車と同じように“車検”に相当する分解整備が義務付けられてる。予備を盗まれたら、代替えも出来なくなるし臨時運行も出来なくなる。国鉄から苦情が来るよ!」「そんな事、関係無いわ!あたしの都合に見合う様にしてくれなくちゃ!」千絵は“どこ吹く風”だった。人吉の街でコンビニを見つけると、僕等は食料と飲み物を手に入れて、九州自動車道を戻り、宮崎へ向かった。

宮崎ICの直前、清武PAまで来るとちょうど昼になった。車を停めると、まず手足を伸ばす。「いやー、速度を一定に保つのはキツイなー。だが、直進性は素直でいい!寮の“オンボロ、カローラ”よりは格段に素直だ!」「それ、どう言う意味です?」と千絵が睨む。「排気量が小さいから、坂道はやや苦労するがハンドリングは安定してるって事だよ。なーに、怒ってるの?」「怒ってません!」「ブリブリ言うな。千絵らしくないぞ!」「女子寮に居る“阿婆擦れ女”と比べないで!あたしの方が断然、Y先輩の事を知り尽くしてるんですから!」ご機嫌は、斜めでは無く断崖絶壁の如しだった。千絵は、マーチの後席へ座り込むと「ここに来て!」と言う。後席へ潜り込むと「抱っこちゃん!」と言って膝に座り首に腕を巻き付けて甘えて来る。「“前世”でも、あたし達は夫婦だった。子供は4人。男の子と女の子の2人づつ、ある日、大地が突然避けて山が噴火した。あなたは、あたしと子供達を逃がすために火に包まれた。そして、あたし達も海に流された。時は流れて、今、再び、あたし達は1つになるの。昨日見た夢よ!」「妙にリアリティーがあるな?まさか、“前世の記憶”が蘇ったとでも言うのかい?」「多分、そう。あたし達は結ばれる運命なの。誰にも渡さない!あなたは、あたしのただ1人の人よ!」唇が重なり、何度も舌が絡みつく。「しようよ!子供が欲しいの!」千絵は本気で望んでいた。「ここじゃあダメだよ。“2人だけの部屋”に行かなきゃ!」と言うが、千絵はスカートをめくって手を導き出した。「見られてもいい。触って!かき回して!」脚を広げてパンティに触れさせる。湿り気を帯びたパンティの中へ手を入れると、指でかき回してやる。「ああ・・・、漏れちゃう!イッてもいい?イッてもいいですか?」潤んだ目で千絵が言う。愛液が多量に流れ出し、パンティと僕のズボンを濡らした。千絵は、放心状態で喘いでいる。「ごめん・・・なさい。汚しちゃった・・・。でも・・・、気持ち・・・よかったの。早く・・・イタズラ坊やを・・・ちょうだい!」千絵は、息子を撫でながらキスを繰り返して誘惑を続ける。拒む理由は無かった。ビショ濡れのバンティを剥ぎ取ると、ゆっくりと息子を中に入れた。「あん!・・・大きい・・・のが・・・根元まで・・・入ってる!動く・・・ね」千絵は腰を使い、徐々に喘ぎ声を上げ出した。締め付けが強まり、息子に絡みつく。その感触は、誰からも感じる事が無かった“千絵からだけ感じる”ものだった。「出して・・・、中へ・・・、中へ・・・、出して!・・・出して下さい!」譫言の様に千絵は言う。ありったけの体液を注いでやると、ピクピクと身体を震わせて「気持ち・・・よかった。沢山・・・出してくれたね。うれしい」千絵は満足げに言った。唇を重ねると「綺麗にしなきゃ」と言いテイッシュで拭き取りをする。僕の息子も拭きあげてくれる。「千絵、着替えは?」「下着はあるの。でも、先輩のズボンが・・・」「千絵のモノだからいいよ」「ダメ!カッコ付かないでしょ!」結局、宮崎市内で服を買う事になった。

市内で衣服一式を買い、着替えを済ませると僕等はモーテルに入った。“2人だけの部屋”に落ち着くと、千絵を抱いてゆっくりとお互いの衣服を剥ぎ取って行く。千絵は盛んにキスをねだる。生まれたままになると、バスタブに湯を張り、まずシャワーを浴びる。ボディソープを塗り合ってから、並んでバスタブに浸かると「おっぱいちゃん好きでしょ?ねぇ、触って!」と言う。千絵の乳房は身体に似合わず豊満で、適度な弾力と張りがある。これまで逢瀬を重ねた女性達の中でも、一番好きな乳房だった。千絵の不思議なところは、僕の身体に“しっくり”とフィトする事だ。“前世で夫婦だった”と言った話が“真実”ではないかと錯覚しそうになるのも、彼女の身体が“しっくり”とフィットするのが由縁なのかも知れなかった。「あたし、あなたに抱かれるために生まれて来たと思ってるの。だから、あなたの子供が欲しい!産みたいのよ!」千絵は妖艶な笑みを浮かべる。「じゃあ、また、しようか?」乳首を摘んで刺激を与えると、たちまち息が荒くなる。ホールもかき回してやると、狂ったように身体を振るわせて「はやく・・・、ちょうだい!この・・・いたずら坊やを・・・、下さい!」とねだる。バスタブで2回戦、ベッドで3回戦を終えると、シャワーを浴びて汗を流した。千絵は、まだベッドで余韻に浸っていた。バスローブを纏い、千絵に「シャワー浴びたら?」と言うと「ズルイ。先に済ませたの?あたしと一緒にしなきゃダメよ!」と言って息子を掴んで舌を這わせる。「今日は、底無しか?」「何事も妊娠するためよ。子種をより多くもらった人が勝つの!」こうしてエネルギーを注入されると、理性のタガは意図も簡単に外れる。バスマットの上で4回戦を挑んでやる。「そうよ・・・、もっと・・・もっと・・・突いて下さい!」背後からの猛然とした突きに、千絵は声を上げて答える。体位を変えて相対すると、より激しく突きをお見舞いする。乳房を鷲掴みにして、腰を使うと「あー・・・イク・・・、あたしイッちゃう!イッてもいいですか?いいですか?」と叫んで絡みついて来た。残っている体液全てを注いでやると「良かった・・・、やっぱり、あたしは、あなたのモノよ」と言ってしばらく離れなかった。

身も心もスッキリしたところで、僕等は青島へ向かった。コバルトブルーに輝く海、波が砕ける岩。夢中でシャッターを切っていると「先輩、本当に海が好きですね。まるで、子供みたいに!」千絵は無邪気に笑う。「“信濃の国は十州に、境連ぬる国にして、そびゆる山は、いや高く、流るる川はいや遠し”長野県には海が無い内陸。日本海、太平洋どちらに出るにも、簡単には行かない。潮の香り、海風、沈む夕日、登る朝日、その全てに憧れを抱いて育ったものだ。海に魅せられるのは宿命だよ」「“信濃の国”って長野の人は誰でも知ってるの?」「ああ、そもそも、小学校で習うからね。長野県の地政学を学ぶには、丁度いい歌だしな!」「鹿児島県の歌なんて、聞いたことも無いのよ。そもそも、あるのかな?」「あるはずだよ!だけど、一般的に歌われてないから埋もれてる事が多い。“信濃の国”は特例的な扱いをされてるしな!」「何よそれ?」「分県論を“封印”した実績があるんだよ。戦後まもなく、長野県を“2つに分県しよう”って運動が起こって、県議会で採決する寸前まで議論が進んだんだが、突如として傍聴席から“信濃の国”の大合唱が起こってね、採決を見送らせた実績があるのさ!その後、議案は廃案になった。嘘みたいな本当の話なんだけどね!今では、県庁の仕事始めの式で“信濃の国”を歌うのが恒例になってる!」「何気に凄くない?分県を阻止するなんて、考えられないわ!」「それだけ愛着を持って歌い継がれているって事さ。故に特例的な扱いを受けてるって言うのさ」「十州って事は、10の国に囲まれてるって意味でしょう?」「そうさ、越後、越中、飛騨、美濃、三河、遠江、駿河、甲斐、武蔵、上野の10国さ。新潟、富山、岐阜、愛知、静岡、山梨、埼玉、群馬って言えば、分かりやすいかな?」「目が回るよ。それだけ覚えるだけでも大変なのに、スラスラと出て来る先輩の頭が凄すぎ!記憶モノは得意でしょ?」「ああ、割とな。だが、数学の方程式や英語の文法はダメだ!」「それで、ノートまる写しで逃げたの?」「赤点逃れでな」「でも、歴史や生物は“講義”を持ったんでしょう?同級生の前で“授業”やれるなんて、やっぱり普通じゃあないわ!」「千絵はどうしてた?」「赤は赤よ!大体、想像付くでしょう?」「まあな。化粧とかは?」「そんなの、無しよ!ノーメークよ!UVケアなんて無理、無理!」「でも、素肌は綺麗じゃないか。どうやってガードしたの?」「家で化粧水塗りまくりよ!就職してからは、屋内での作業でしょう?やっと、ここまで戻したってとこ!」「綺麗な素肌に触れられる特権は捨てがたいな。胸の形も気に入ってるし」「馬鹿!スケベ!」千絵は拳を振りかざすが、怒ってはいない。むしろ、笑っていた。「先輩、濡れちゃったパンティあげますよ!あたしの匂いを嗅いでお守りにしません?」「他の女性から隔離するつもりか?でも、隠し通せるかな?寮の部屋では、ブライバシーもあったもんじゃ無いからな・・・」「そんなの直ぐに気にしなくても良くなります!懐妊すれば自動的に“ご入籍”だもの。アパート借りて、2人だけの生活になれば、いつでも触れるんだし、選り取り見取りになるでしょう?」千絵が当然と言わんばかりに言った。「当たるかな?」「勿論!あれだけ注いでもらったもの!」「女の子だな」「男の子だったら?」「どっちでもいいよ。元気に生まれてくれれば」偽らざる本音だった。千絵と暮らす。それが自然な流れだろう。僕等は、日向灘のコバルトブルーの海を見つめていた。

帰りの宮崎自動車道で“中央フリーウェイ”が流れると、「先輩、このマーチで“中央フリーウェイ”を実体験するとしたら、どうすればいいです?」千絵がとんでもない事を口に仕出す。「車を持って行くなら、フェリーだが・・・、36時間はかかるだろうな?しかも、大阪からになるから、阪神高速・名神・中央道・首都高の順に突破をしなきゃならない。相当な長旅になるぞ!」「じゃあ、羽田でレンタカーを借りるとしたら?」「横羽線から、JCTの嵐を掻い潜って、首都高4号に乗るまでが大変だ!そこまで行ければ問題は無いが、どこに泊まる?日帰りで“とんぼ返り”するか?」「うーん、飛行機に間に合わなければ泊まりか。別に2人で愛し合えれば、あたしはOKなんだよね。でも、この車で行く事に意味があるの!何とかなりません?」「無茶を振ってくれるな!でも、フェリーで行くなら可能性はゼロじゃない。問題は、休みをどうするか?だよ。お盆は避けるとすると、3連休狙いになるが、それだと時間が足りない!自走して遥々と向かうとしても、地理不案内な地域の走行をどうやってクリアする?夜も関係無しに飛ばさないと、東京は遥か彼方にあるんだから、キツイぞ!」「ふむ、お盆に帰省しなければ解決出来ない?」「そりゃそうだが、渋滞をどう回避する?至る所に渋滞ポイントはあるんだ!一筋縄では行かんぞ!」「そうだ!先輩にくっいて帰省すればいいんだ!先輩の車なら渋滞とは無縁でしょう!」「まあ、そうだな。でも、帰らなくてもいいのか?」「どうにでもなりますよ!決めた!お盆は“中央フリーウェイ体験ツアー”に行く!」千絵は勝手に決めてしまった。それだけ憧れてしまったのだろう。無邪気な夢だが、“叶えてやりたい”と思えるのが、彼女の魅力だろう。「それなら、チケットの手配をして置けよ!タダでさえ込む時期だし、名古屋発着の便は数が少ない。腹を括ったなら、フライトプランは早めに計画しろよ!」僕は肩をすくめるしか無かった。千絵はキャイキャイとはしゃいでいた。“この道は、まるで滑走路、夜空に続く”を地で行くなら夕暮れ時に走るのがロマンチックだ。都内でどうやって時間を過ごすか?も考えなくてはならない。8月に向けて宿題は山積みだが、チャンスは1回限りだろう。走行車線をゆったりと流しつつ、僕も思案を始めた。「壮大な計画だな。真夏の夜の夢か・・・」赤いマーチは、鹿児島へ戻った。
寮の前で“別れの口づけ”を交わすと「Y先輩!お盆、楽しみにしてますから、必ず連れてってくださいよ!」と千絵が念を押した。「ああ、必ずな!」と言うと、千絵は微笑みながら駐車場へ車を回しに行った。部屋に戻ると、鎌倉が待ち構えていた。「お早いお帰りだな。どうだった?」「世話が焼ける“お姉さま方”だよ。これで、来週も安泰だろうよ」と返すと「Y、率直に聞くぞ!どこまで行ってる?」「男女の仲まで。それがどうした?鎌倉も違う匂いがするな?」「うむ、新谷さんに迫られてな・・・。拒めなかったよ。Y、和歌子先輩に対して罪悪感は無いのか?」「無いと言えば嘘になる。だが、僕等は帰れるのか?半永久的に釘付けにされたらどうする?取り敢えずは、派遣期間は半年だが、保証は無いに等しい。向こうの都合次第で、僕等の運命は左右されちまうんだ!ならば、いっその事“根を降ろす”覚悟も必要じゃないか?和歌子先輩が来てくれる保証も無い。僕は、“帰らない選択”も考え出してるんだ!“住めば都”じゃないが、僕はこの地で新たな道を見つけつつあるんだ。向こうでは望めない責任と地位も手にした。ここに未来を託すのもあるんじゃないか?」「確かに、Yの評価は群を抜いて高いよな。安田順二が容易く手放すはずが無い。Y、俺も同じ事を考える様になりつつあるんだ!美紀先輩には悪いが、帰れなければ“新たな道”を探さなきゃならない。今度、電力関係の“保守点検を任せる”と言われた。それも、4ブロック全体だ。俺としても“望むところ”なんだが、これで上手く行ったら、1つ帰る理由が無くなるだろう?向こうでは望めない責任と地位、お前さんと同じだが、それがここにはあるんだ。未来は国分にあるとしたら、向こうの事は忘れてもいいと思うか?」鎌倉も悩んでいたのだ。「そう思わなくては、ここではやって行けない。僕等は常に試されている。そして、結果を出している。僕も鎌倉も、“代えがたい人材”になりつつあるんだ。僕等にしか出来ない事が増えれば、国分側だって黙って帰すとは思えん!引き返すことが不可能な地点に僕等は立ってしまった。だとしたら、どうやって生き延びるか?を考えるよな?」「ああ、そうすれば、結論は1つしか無い。“この地に根を降ろす”選択だ。Y、腹は括ってるのか?」「ウチの“お姉さま方”も必死さ!ガチガチに固めて、動けなくしようと工作を展開中だよ。“安さん”への工作もやってるだろうよ。それを振りほどいて帰れるか?」「多分、無理だろうな。俺のところも、権限を持たせて“簡単には帰れない”方向に持って行くのが見え見えだ!ならば、その船に乗るのも筋か?」「新谷さん1人ならまだいいが、ウチは25名+25名の50名が蓋をしようとしてる。僕の力ではあらがう事は出来ん!」「俺よりキツイ話だな。Y、ここは、南の果てだ。向こうには見えないだろう?風の噂は届くかも知れないが、和歌子先輩も美紀先輩も実際に見てる訳じゃないよな。笹船の如く揺られているよりは、流れに任せるのもありだよな?」「ああ、そう考えなければやっては行けないよ。実際、向こうよりキツイし、責任も重い。僕等は選ばれてるんだ。克ちゃんや吉田さんよりは、期待も大きい。選ばれし者の特権だと割り切る事も必要じゃないか?」「いつ、割り切れた?」「ここへ来て2週間後。今の職場を預かった時点だ」「俺もそろそろ到達したらしいな。よし!思い切ってやって見るか!」「その方が鎌倉らしい。新谷さんの目は曇って無いらしいな?他の女性にも気を付けろよ!雨あられの如く降りかかるぞ!」「Y、お前さんもだ!一体何人と付き合ってるんだよ?」「話によるとだな、“大奥”になっちまってるらしい。もう、抜けだせないよ!」僕はお手上げのポーズを取った。「“大奥”か。職場全体から誘われてるなら、より取り見取りじゃないか!不満はないよな?」「それを言ったら火に油を注ぐ事になる。世の中を平らにするには、付き合うしかないんだよ」「交代するか?」「やれるものならやって見ろよ。半日で根を上げるハメに陥るぞ!」「女の集団は苦手だ!Yの様に操縦する自信は無いよ」鎌倉もお手上げのポーズを取った。こうして、僕等は“新たな道”を目指して突き進む事になった。故郷のO工場の事は、棚上げするしか無かった。そうしなくては、毎日の仕事に立ち向かう事は不可能だったからだ。鎌倉も僕も、国分で生きるには後ろを振り返っているヒマは無かったからだ。2人で缶ビールを買い込むと、ささやかな酒盛りと相成った。

life 人生雑記帳 - 59

2019年11月01日 18時04分22秒 | 日記
鹿児島からの帰り道、「ごめんなさい。あたしの弱みはやっぱり素直になれない事ね。でも、貴方と居ると不思議に素直になれるの!あたしを置いて行かないでね。Y,いつまでも変わらぬ愛を注いてくれない?」と岩崎さんは言った。「僕は、決めましたよ。”ここに根を降ろす”とね。“正室”である貴方を置いて行けると思います?」彼女は僕の左手に右手を重ねると「その言葉を待ってたの!これからも、貴方らしく突っ走りなさい!あたしは、その背をひたすらに追うわ!それが“正室”としての務めだから」と返して来た。逢瀬を重ねた2人に、余計な言葉は要らなかった。僕も、彼女も見据える方向は定まったのだ。“我はこの地に根を降ろす!”と誓い合っただけで充分だった。深夜、寮に戻ると別れの口付けを交わす。「愛してるわ!さあ、明日は、1番の元気印がお待ちかねよ!しっかりと眠りなさい!」岩崎さんは、寮の玄関先で言った。もう一度、口付けを交わすと「おやすみ!」と言って別れた。時刻は、既に日付を跨いでいたが、寮の前には人だかりが出来ていた。「“緑のスッポン”はまだか?!」「車を勝手にジャックするとは、どう言う了見だ!」と口々に怒りを露にしていた。「畜生!また、やられたな!」僕は毒づいた。元々、僕達が使える車は3台あった。しかし、その内の1台を高城が“ドリフト走行の失敗”でクラシュさせたので、2台に減ってしまっていた。男ばかりの所帯なので何とか、やり繰りをして乗り切って来たのだが、3次隊の到着後、車を女性陣が独占して中々返さないと言う問題が出て来ていた。今回も、“緑のスッポン”達が車をジャックして帰寮しないと言う事態に男達が怒っているのだ。遅番を終えてドライブにでも出かけたのだろうか?1時間待っても戻らない様だった。そんな喧騒をかわして、部屋へ戻ると誰も居ない。「鎌倉のヤツ、朝帰りになるな!」僕は1人ほくそ笑むと目覚ましをセットして、ベッドに潜り込んだ。“正室、岩崎恭子”の意外な一面、それも女性とすれば誰もが抱くであろう“寂しさと不安”を抱えていた事は、少なからずショックだった。普段はそんな素振りも見せず、1人じっと耐えていたのだろう。彼女はひたすらに抱かれたがった。不安を打ち消したかったに違いない。「何故、見抜けなかった!」後悔先に立たずだが、自分が情けなかった。しかし、代償は大きかった。疲れから来る睡魔に勝てず、僕は眠りこけてしまったのだ。夢の中でも、僕は彼女を抱いていた。

目覚ましが鳴る前に「ドサッ!」と言うモノの倒れる音で目が覚めた。TVの前で鎌倉が伸びていた。かなり酒臭いところを見ると、相当に飲まされた様だ。揺り起こそうとしても、ビクともしない。仕方なくシーツで覆ってやる。転がして置いても風邪を引く心配は無いだろう。食糧庫からパンとコーヒーを取り出して食すと、シャワーを浴びに行く。予約時刻は、午前8時に寮の前だ。着替えてから財布と免許証とカメラをバックへ押し込む。フイルムは3本用意してある。少し早いが、外へ出る事にした。酒の匂いが室内に充満していたからだ。「あれで、鎌倉も認められるだろう」と呟きながら階段を降りて、寮の前へ出ると銀色のシティ・ターボⅡ“ブルドック”が停まっていた。「Y先輩、おはようございます!」永田ちゃんが元気な声を響かせて降りて来る。「えー!これもしかして・・・」「愛車ですよ!さあ、峠道へ出かけますよ!」と言って僕を助手席へ押し込んだ。轟音を響かせて“ブルドック”は、国道10号を牧之原台地方面へと駆け上がる。「意外でしたか?」「うん、意外だった」「今日は、山道を攻めて攻めまくります!しっかり、付いて来て下さいよ!」と言う。デニムのショートパンツに薄紅色のTシャツ。足元はスニカーで固めている。「ワインディグロードがお好みとは、長野に連れて行きたいね!」「どうしてです?」「“信州峠スペシャル”って言ってるルートがあるんだ。1日中、ワインディグロードばかりを渡り歩くルートなんだが、蕎麦屋とか、神社の奥社へのハイキングも組み込まれてる。永田ちゃんなら気に居るはずだよ」「先輩もやりますね!岩崎先輩の車で、最速記録を叩き出した腕は“タダ者では無い”と思って見てましたが、やっぱり峠で鍛えてたんですね!」永田ちゃんは嬉しそうだった。地図には、山奥の峠道にマーキングがされており、クライマックスは霧島連山を目指すコースが記されていた。「絶好のルートだな。どこで交代する?」と聞くと「綾川渓谷~軍谷峠間をお願いします。そこまでは、裏道を飛ばしますよ!」と言うと永田ちゃんは“ブルドック”を更に加速させた。「やってくれるね!」僕は直ぐに愉しさを感じた。“ブルドック”は、都城方面へと駆け抜けていった。

永田ちゃんがブッ飛ばした事もあり、都城郊外に達したのは以外に早かった。だが、エネルギー不足に陥るのは、車も人間も同じだった。「先輩、何か食べません?ガスも入れないとヤバイですし」「ああ、腹が減っては何とやらだ。おごるよ!ファミレスとか無いかな?」と地図に目を落とすと、右折すれば直ぐ近くにある事が判明した。「よーし、腹ごしらえよ!」“ブルドック”はファミレスに突っ込んで停まった。スタンドは真向い、書店が隣にあった。朝から“ガッツリ”と食事を済ませると「ちょっと書店に寄りますね。適当に見てて下さい」と永田ちゃんは本棚の陰に向かった。ブラブラと見て歩く中、“海のオーロラ”を見つけた。古代エジプト篇~邪馬台国篇~ナチス篇~未来篇の全巻があった。ナチス篇を手に見ていると「Y先輩?これって完璧に少女マンガですが、読んだ事あるんですか?」と永田ちゃんに不思議そうな顔をされる。「ああ、意外にもハマるんだよ。“輪廻転生”については、それぞれに考えもあるだろうが、僕は半ば信じてるんだよ」「“輪廻転生”か・・・、あっ!さっき流れてたカセットの曲!“REINCARNATION”って・・・まさか!」「流石に鋭い!そのものズバリさ。“2人は知らない時代、どこかで巡り合っていたのかも知れない”って歌詞があったろう?形はどうであれ、意外と僕等も過去の世界で出会っていたのかも知れないな。偶然にしては、出来過ぎてると思わない?」「凄く意外ですけど、Y先輩は信じてるんですね。“生まれ変わり”を!」「“信じたい”そう思わせてくれるのが、“海のオーロラ”さ。道子が好きだった作品だ。彼女は“本当に信じてた”からな」「あのー、道子って誰ですか?」「幼馴染にして、高校の同級生。僕と道子は1度離れ離れになったが、高校で再会したんだよ」と言って高校1年の時のダイジェストを話した。「そんなドラマチックな事あるんだ!でも、話を聞く限り、道子だけじゃありませんよね?Y先輩?」「ああ、同級生では、雪枝、幸子、堀川、中島、西岡。1つ下には、上田、遠藤、水野、加藤。2つ下は遠すぎて忘れた!でも、女の子の友達と言うか知り合いは多かったよ」「そんな環境なら、あたし達や“おばちゃん達”に囲まれても動じない訳だわ!女性を扱う素地は、既にあったんですね!やっと謎が解けましたよ!」書店を出て、スタンドでガソリンを満タンにしている間に、永田ちゃんは謎解きを1つ終えた様だ。“ブルドック”は、再び山道へ向かってブッ飛んでいる。「あたしとY先輩の“前世”はどんな関係だったんだろう?夫婦かな?兄妹かな?意外と姉弟かな?想像すると楽しくなりません?」永田ちゃんは屈託なく笑って言う。「兄弟は?」「弟が1人います。頼りないと思ってたけど、最近“ウチの会社に入りたい”って言うんです。“ガッツが無いと生きていけないよ!”って言ったら“姉貴には負けねぇ!”って言い返すまでになりました!」「いいな、僕は1人っ子だから、姉さんが居て欲しかった。でも、今は手に余るぐらいに居るから、夢は叶ったな!」「下はダメですか?」「永田ちゃんならOKさ。だが、千絵は気まぐれだから、手が焼ける!」「あたしだって、気まぐれですよ!その証拠を見せましょうか?」永田ちゃんは路側帯に車を停めると、唇に吸い付いて来た。「岩崎先輩の様に妖艶では無いけど、あたしも女よ!若さでは負けません!昨夜、恭子にした見たいにキスしてよ!」と言う。そっと抱きしめてキスしてやると「昨夜、見てたんです。玄関先でキスしてるの」と言って迫って来る。「やっと先輩と2人だけになれた。だから、後ろに行きましょう」と言って僕を後席スペースに連れ込んだ。座席は畳まれており、2人で抱き合うには充分なスペースが用意されていた。彼女は、膝に座り込むと何度も唇に吸い付いて来た。「しようか?あたし抱いてほしいの」と言って、デニムのショートパンツを脱ぎ始める。透き通るような白い腿が露になると、白いレース地のパンティが見えた。Tシャツは脱がずに、ブラを巧みに外すと手を導く。「触って。そしてしっかり掴んで」誘惑に抗う事は出来なかった。彼女の望む通りに抱いてやると、か細い声で「もっと・・・、突いて下さい!そして・・・、中に・・・出して!」とねだる。ゆっくりと腰を使い、前後に動いてやると「ああ!・・・出る!出ちゃうよー!」と言ってから、息子を抜くと愛液が滴った。再び息子を吸い込むと、やがて絶頂に上り詰めて身体を痙攣させた。僕の体液は余す事無く、彼女の中に放出されれた。「気持ち良かった。自分で慰めてるとの全然違うね。あたし、自分ですると、びょ濡れに滴っちゃうの」と言い、体液を指ですくってホールに押し込んでいる。「綺麗にしなきゃな」と言いティシュで腿やホール付近を拭いてやると「先輩のも、綺麗にしなきゃ」と彼女も“始末”をしてくれる。しばらく、膝に乗せて抱いてやると「優しいんですね。実は、あたしの“初めての相手”は弟なんです。何となく“しちゃった”んです」と衝撃の告白をし始める。「それは、双方合意しての話?」と聞くと恥ずかしそうに頷き「でも、1度だけで終わってますから」と言った。「今の話は、聞かなかった事にするよ。これからもずっとな」と言って、しっかりと抱くと彼女は何度も頷いた。「また、してくれます?」か細い声で彼女は問う。「それなら、“誰にも見とがめられない部屋”に行かなきゃ!」と返すと「行きましょうか?」と言う。何とかして服を着ると“ブルドック”のハンドルを握り、反転して都城市内方面へ急ぐ。モーテルは意外と直ぐに見つかった。空き部屋を探し当て、エレベーターに乗っている間、永田ちゃんは僕にピッタリと寄り添っていた。“誰にも見とがめられない部屋”で改めて服を脱がし合う。まず、バスルームで身体を洗ってから、バスタオルを巻いてベッドで向かい合う。「恵美ちゃん、するよ」と言って押し倒すとバスタオルを剥ぎ取った。彼女は美しかったし、綺麗だった。2度目なので、突きは遠慮なく激しく入れてやる。途中で「上に・・・乗りたい」と言うので上下を入れ替えると、猛然と腰を振って来る。乳房を掴むと「あー、いい・・・奥まで・・・いっぱい入ってる・・・。お願い、今度も・・・、中に・・・出して下さい!」と狂ったかのようにせがんだ。望み通りに全てを注いでやると「気持ち・・・良かった・・・。名前・・・初めて呼んでくれたね」と満足そうに言った。

大分、寄り道をしたが、僕等は峠道を目指して再度出発した。意外にも宮崎県内には、コンビニが進出していた。2人で食料と飲み物を大量に仕入れると、“ブルドック”は一路、山道へ乗り入れた。「Y先輩、お手並みを拝見します!」永田ちゃんがキーを放って寄越す。1200ccの小排気量にも関わらず、ターボで武装した“ブルドック”は、苦も無く勾配をグングンと昇って行く。しかも、車体重量が軽いので動きも俊敏であった。ただ、FFなので、アクセルワークには気を使う。「おー、やりますね!流石に峠で鍛えているだけの事はありますね!」永田ちゃんはご機嫌だった。綾川渓谷から軍谷峠山頂までを駆け抜けると頂上で停まった。「海もいいが、やはり山の空気も捨てがたい!」「うん、清々しいですよね!」2人で車外へ降りて手足を伸ばして寛ぐ。「さて、“撮影会”でもやろうか?モデルは勿論、恵美ちゃんだ」カメラを取り出すとファインダーを覗く。「ポーズは?」「自由にしていいよ!」85/F1.4で恵美ちゃんのアップを狙う。まず、絞り解放で表情を切り取る。立ち位置を変えて「ジャンプしてみてよ!」と注文する。シャッター速度を目一杯、高速に振って飛び上がった状態の静止画を撮る。連写も使った。あっと言う間にフィルムを使い切り、交換作業にかかる。「何度見ても、手早くやりますねー。みんな、この作業が一番苦手なのに」「慣れの問題さ。要は確実に巻き付ければいいんだ」「失敗しないコツは何です?」「ゆっくりでもいいから、確実に溝へフィルムを差し込む事さ。僕だって何度もミスってる」「Y先輩でもそんな事あったんですか?」「ああ、現像したら“何も写ってなかった”なんて幾度もあるさ。でも、最近は少し楽になりつつあるよね?」「線まで引き出せば自動で巻いてくれるヤツですよね?あれでも、まだ失敗は多いですよ!」「作っていた人間としては、耳が痛い話だ!でも、策はあるよ!最初に全部巻き取ってしまえばいい。そして、写したコマを巻き戻して行けばいいんだ。巻けなければ音か表示を点滅させて警告をすればいい!だが、一部のコンパクにしか採用されてないけどね」「1眼レフでは無理だと?」「巻き上げレバー式には使えないし、プロは嫌がる傾向が強い。モーターを2個使えば、コストも嵩むしメカ機構も変更しなきゃならない。体積が増えるのもマイナス点だろうな。そして、何より困るのは“共通部品”が使えない事さ。開発コストを抑えるには、“共通部品”を使えばある程度までは圧縮出来るんだ。テストも簡素化できるし、信頼性確保もやりやすい。商品バリエーションを増やすには一番楽だからなー」「カメラの開発って何年もかかるの?」「最低でも4年はかかる。リメイクでも2~3年は必要だ。一番の手間は、性能試験だろうな。低温庫と高温庫に入れては、作動検査と撮影を繰り返す。極地でも、砂漠でも問題なく動かなくては意味が無いからね」「そうか、オーロラやサバンナ、水の中でも写らなかったら・・・」「価値が無いんだ!だから、徹底して極端な環境下でのテストを繰り返す。血と汗の結晶なのさ」「しかも、量産するんですよね?同じ品質のモノを作り続ける。あたし達には想像も付かないけど、最初の企画から通算すると4年って時間は短くありません?」「そうだな、あっと言う間に過ぎるよ。1枚のスケッチから、実際の製品にまでするんだから、大勢でかかっても時間は足りないよ。でも、常に結果を出すのが仕事だ。モノこそ違うが、ディプだってそうじゃないか!製造業は“作って供給してナンボ”の世界。その点は、カメラもサーディップも同じだよ」「先輩はどちらに“やりがい”を感じます?」「カメラには“逃げ道”が残されているが、サーディップに“逃げ道”は無い。失敗すれば速アウトだろう?ギリギリの世界で渡り合うのなら、サーディップの方が魅力はあると思うよ」「先輩、まさか“残る”つもりですか?」「当たり!折角来たんだから、任期満了で“帰る”つもりは更々無いよ!“我はこの地に根を降ろす”そう決めたばかりだがね!」「じゃあ、これからも一緒に居られるの?」「それは、まだ分からないけど、徹底的に抵抗はするよ!」「嬉しい!絶対に残って!あたし達と一緒に、仕事に遊びに全力で行こうよ!」背中から抱き着いて永田ちゃんは喜んだ。「さあ、また撮るよ。被写体としては、非常に興味深いからね」と言って撮影を再開した。女の子の表情はコロコロと変わるので、撮りがいは高い。様々な機能を試した撮影を終えると、今度は一旦下ってから霧島連山を目指す。途中でお腹を満たしながら、車は山道を快調に登って行く。「この地域は地下活動が凄いな。阿蘇に始まり、南は“鬼界カルデラ”まで、火山の巣窟だな」改めて僕は地下活動の凄まじさに驚いた。「“鬼界カルデラ”ってどこです?」「佐多岬の沖合、薩摩硫黄島を北端とする海底火山さ。南九州一帯に縄文遺跡が無いのは、“鬼界カルデラ”の大噴火で生命が絶滅してからだと言われているよ」「良く知ってますね。どうしてそんな話を調べたんです?」「日本の火山史に興味を持った時期があってね。読み漁った結果だよ。小学校2年のころだったかな?」「ウゲ!レベルが違い過ぎます!小学校低学年で良く読んでた本は何です?」「ジャポニカの百科事典だよ」「あー、付いて行けない!“田尾の軍事作戦”を意図も簡単に立案する博識の原点はそれかー!」「そう言えば、田尾は勝てたのかな?」「金曜日の夜、ピンクの粉だらけになって帰ってきて“大勝利!”って騒いでましたから、作戦成功ですよ!今回は何を使ったんです?」「消火器だよ。チカン撃退スプレーより射程が長いし、バズーカ砲としも効果があるからね」「その、発想力の源がどこから出て来るのか?また、謎が解けましたよ!この先の路側帯に停めますよ!」ちょうど、新燃岳が真正面に来る位置だった。左に韓国岳、右に高千穂峰。3峰が綺麗に見える場所だった。28/F2.8にレンズを交換して、景色を切り取った。露出も変えて山容を収める。「もう少し下ると、霧島神宮です。参拝して行きます?」「勿論!」「ちょっと覗かせて!」永田ちゃんはファインダーを覗く。「広く見えますね。レンズ1本でこれだけ変わるとは・・・。スームレンズでしたっけ?1本にまとめられないんですか?」「そうしたいけど、重さが半端なく重くなるよ。レンズの構成や設計も難しくなるし」「28-85でスームにすると何枚のレンズになります?」「どうせなら、24-85にしたいね。12群16枚程度にはなるだろうが・・・」「今、付いてるレンズだと?」「6群7枚。約半分だな」「よく分からないけど、複雑になるのは分ります。一番前が大きくなるんですよね?」「ああ、“前玉”を大きく取らないと、画角が稼げない。ガラスの塊になるから、構えるにも腕力が必要になるね」「プラスチックレンズは使えないですか?」「今の加工精度とコーティング技術を持ってしても、画質の劣化は避けられないね。ズームは“妥協の産物”だから、画質に拘るプロは、ズームを避ける傾向にある。だから、アシスタントは大変だよ。交換レンズの山を持って歩くハメになるから」「今日の先輩の装備は?」「レンズ2本とボディだけ。これで充分に“綺麗な恵美ちゃん”を撮れるさ!」「後で、プリントしたら見せて下さいよ!変な顔は残せません!」永田ちゃんはちょっと睨んでから笑った。彼女の笑顔は太陽の様に明るい。霧島神宮に参拝して、2人で“恋愛成就”と“大願成就”のお守りを買って、交換した。「きっと叶います!」彼女はそう言った。

山道を駆け下り、加治木町へ入ると永田ちゃんは、行き付けのラーメン店に車を停めた。「Y先輩、豚骨に慣れました?」「否応無しだからな!他に無いなら慣れるしかあるまいよ」「ここは、ちょっと変わってますよ!割とマイルドな味なんです!」永田ちゃんは手を繋いで僕を引っ張って行く。注文は、彼女に任せた。「あたし、醤油味のラーメンを食べた事が無いんですよ。スープのベースはどんなのがあります?」「鶏ガラや野菜、煮干しや昆布。カツオなんかもあるな。“しょっぱい”イメージがあるかも知れないが、地方や地域、店に寄っても味は違う。さっぱりと食べられると思うよ!」「あたし、横浜中華街へ行って見たいんです!バイキング形式のお店とかあります?」「“横浜大飯店”なら“オーダーバイキング”でより取り見取りさ。もっとも、その前に“江戸清”の肉まん・フカヒレまんを食べなきゃダメだ。高級店ならコースによっては相応な額が飛んでいくから、“横浜大飯店”に事前予約を入れて置く事をお勧めするよ!」「いいなー、“オーダーバイキング”かー。長野からなら日帰りコースですよね?」「それなりの強行軍にはなるが、不可能ではないな。朝、普通に出て、深夜に帰宅なら何とかなるか?」「ここからだと、羽田から横浜へ移動するだけでも大変なんです。朝の飛行機で発って、お昼でしょう?夕方の飛行機に間に合う様にするとなると、レンタカーを借りないと厄介な事になるんですよ!」「ふむ、確かに羽田からの移動手段に困るよな。長野からなら、車での移動だけで済むから、単純と言えばそうだが、横浜市内の渋滞を考慮しないと、予約に間に合わないケースもありそうだな。だがそれは、朝の出発を繰り上げれば解消されるか?」「いいなー、地理的優位は解消できませんからね。あっ!来ましたよ!」巨大な器が2つ運ばれてきた。たっぷりの野菜に、豚の角煮が入っていた。「黒豚の角煮。柔らかくて美味しいですよ!早速、いただきましょう!」箸を割るとスープを味わってから麺をすする。確かにマイルドだ。角煮も柔らかく味わい深い。「永田ちゃん、食べ歩きとかしてるでしょう?」「ええ、暇な時にフラフラと出かけるんです。ここは、穴場的隠れ家みたいなんで、気に入ってるお店の1つ。鹿児島市内より近いのもお勧めな点です。シメは白くまですよ!」「やはりそう来るか!」愉しい食事はしばし続いた。

国分へ戻ると、永田ちゃんは城山公園へ車を回した。市内が一望できる絶景ポイント。実里ちゃんを抱いた場所でもある。ベンチに座る前、シャッターを切った。季節は梅雨に向かっているが、風は爽やかに吹いている。「大きいですよね。あたし達の戦場は」「ああ、国内最大の工場だからな。24時間、365日、停まる事は無い。ここが僕の新たな居場所。戦うには、格好の場所だと思う」「先輩、本気なんですね!国分に残るのは?」「自らの居場所を見つけられた。やりがいもある。心強い仲間も大勢いる!去るには惜しいだろう?」「あたしは、ずっと居て欲しかったです!先輩がやろうとしている改革の成果を見たい!きっと見られる!そう、思ってました。決心は変わりませんよね?」「“やる”と言ったらやるよ。この先も大変なのは百も承知。知恵と知略の限りを尽くして道を開くさ」永田ちゃんは僕の手を取ると自身の胸に持って行った。「あたしは、貴方に着いて行きます。どこまでも、例え苦しくても。そして、この身体は貴方だけのモノ。誰にも触れさせません。だから、これからも抱いて下さい。愛を下さい!」彼女は抱き着くと顔を埋めて来た。「先陣を切って進むんだ。傷だらけになるぞ!」「あたしが手当てします。骨折したら手足の代わりをします」と言った。「“戦わずして勝つ”これが孫氏の兵法の基本だ。頭の回転が速くて、柔軟に対応ができる人材が必要だ。傍を離れるな!共に未来を切り開こう!」彼女は頷いてくれた。そして「あたし、愛しい人から離れたりしませんから!」と言いキスをして来た。誓いの場所で2人目の愛しい人を抱きしめて、決意を新たにした。寮の裏手の駐車場で別れ際、もう1度キスを交わして別れた。「Y先輩、また今度も!」永田ちゃんはTシャツの裾をヒラヒラさせて誘う。「おう!またな!」と言って男子寮へ降りると、白いハッチバック車が2台鎮座していた。最後のFRカローラだ。「よお、お帰り!」鎌倉が整備をしていた。車内を見るとAT車だった。「これは女子寮に回すのか?」と言うと「ああ、やっと届いた代物さ。“緑のスッポン”にくれてやれば、セダンが戻って来るだろうよ。これで、やっと無意味な争いにケリが付く!」「誰が手を回したんだよ?」「田中さんさ。来週から総務へ異動になるのを契機に、第4次隊の受け入れや第1次隊の帰還に向けての事業の指揮を執る事になったらしいぞ!」田中さんの勤務場所の変更は、既定路線ではあった。第3次隊の着任を受けて、椅子が空いたので早速の異動となったのだろう。しかも、第4次隊の宿舎は、1度民間アパートを借り上げての対応となる。第1次隊が帰還した後に、入寮させる2段階の策を実行しなくてはならない。既に寮は満杯だからだ。「第4次隊への対応、帰還に向けての準備に対応。それに、お盆休みの1時帰宅の手配。どれも一筋縄では行かない業務ばかりだ。田中さんも大変な事に変わりが無いな!」と返すと「そうだ。故に、専従者を置く。来年の2月頃までは釘付けになるって言ってたぜ!どれ、エンジンを始動させて見るか?」鎌倉がキーを捻ると、エンジンは1発でかかった。2台目も同様だった。「相当なオンボロだが、エンジンは元気さ!移動を手伝ってくれ!」僕と鎌倉で2台の車を女子寮の脇へ持って行く。セダンが1台置いてあったので、キーを奪還して男子寮の脇へ持ち帰った。「鍵は田中さんに渡そう。もう1台は夜には奪還出来るだろうよ」と鎌倉は言った。「今朝まで相当にやられたらしいな。誰に送ってもらった?」と聞くと「総務の新谷さんだよ。彼女は、珍しく“下戸”らしいな!」「ほー、それは初耳だな。“薩摩おごじょ”が“下戸”だと?まず、あり得ないな!2人きりになりたくて、“飲まない振り”をしてたと見るべきだな!鎌倉、明日辺りにインターフォンでお呼び出しが来るぞ!」と言うと「お前さん程派手じゃないが、ありえるだけに怖いな。“薩摩おごじょ”は攻めが早いか?」「速攻さ。覚悟しときな!」と言うと「Y、どうすればいい?俺はどう振舞えばいい?」と言うので「地金を“そのまま”出せばいいさ。彼女達は心を見る。誠実な“そのまんま”で付き合ってやれば、後は成り行き次第だろうよ。車は、彼女達が出してくれる。好きなところへ行って来るんだな!」「Yは気楽にそう言うが、本当にいいのか?」「“薩摩おごじょ”は、一度“こうだ!”と決めたら、何があろうと貫き通すんだよ!受け止めてやればそれでいい!」「“貫き通す”か。俺も腹を括れと?」「この地に居る限りはな!」鎌倉は黙して頷いた。「今朝はシーツをかけてくれて助かったよ。だが、お燗の付いた焼酎はキツイなー!」鎌倉が頭を叩く。「あの“洗礼”を受けてこそ、“国分の一員”として認められるんだ。みんな、同じ目に合ってるんだ。“儀式”だと思って忘れる事だ!」「Yは、全ての歓迎会を無事に乗り切ってるのか?」「いや、まだ“おばちゃん達”の総攻撃が控えてる!そろそろ、日取りが決まるだろうから、身構えて待ってるとこさ!」「社員よりパートさんの方がキツそうだな。軒並み“ザル”だったらどうするつもりだ?」「分からん!その時になってから考える。今から恐れていたら、何も出来ないし、憂鬱になるだけだ。とにかく、明日をどう乗り切るか?それを考えよう!」僕は前だけを見ていた。振り返っても何も戻らない。全てを受け止めてから、策を考える。高校時代の参謀長の肩書が復活した様に感じたのは、あながち間違いでは無いだろう。「新谷さん、何か言って来るかな?」鎌倉がソワソワし始める。いい兆候だ。故郷はしばらく忘れて、南国で思いっきりやればいい。仕事も遊びも。“異郷の地だからこそ許される事もある”そう思わなくては、これからの季節は乗り切れないだろう。梅雨が明ければ“炎暑”が待ち構えている。僕等にとっては未知の季節だ。「鎌倉、メシを食いに行くか?」「ああ、腹が減ったぜ!Y、行くか!」僕等は社食を目指して歩き出した。

life 人生雑記帳 - 58

2019年10月30日 16時48分40秒 | 日記
火曜日の朝、いつもの様に出勤の隊列を組むと「Y、昨日、土下座の浮き目に合ったんでしょう?良く我慢したわね!」と岩崎さんが言い出す。「誰?先輩を土下座に追い込んだのは?」「無論、八つ裂きにしてくれるわ!」「あたし達を甘く見ない事を思い知らせてあげるわ!」永田ちゃん、千絵、実理ちゃんが怒りを露わにし始める。「女だろう?美登里とか言う。礼儀を知らねぇヤツは、俺も気に食わねぇ!」田尾までが怒り出した。「でもさぁ、強制送還になるんでしょう?例え、現場に配属されても、誰も相手にしないよ!今日中には、工場全体に知れ渡るし!」と千春先輩が断言する。「そうか。みんな、釈明に追われるな・・・」と言うと「Yは、何も心配する必要は無いから安心しな。あたしから、事情は言って置くからさ!」と千春先輩が肩を叩いて言ってくれる。そう言われると少し気分は軽くなった。いつもの様に朝礼を終えて、淡々と仕事に精を出していると「Y,高山美登里とは、どんなヤツだ?!」と“安さん”が入って来た。「一言で言うなら、“剛直で恐れを知らぬ頑固者”ですが?」と言うと、「面白い!鍛えがいはありそうだな!顔を貸せ!レイヤーの責任者が待っている!」と言う。「まさか!配属になるんですか?!」と言うと「“ゲテモノ食い”が岩留の趣味でな!お前さんから、事情を直に聞きたそうだ!手間は取らせんから、着いて来い!」と2階の会議室へ連れて行かれる。岩留さんは、“安さん”とは対象的に穏やかな表情をしていた。唯一、同じなのは眼光が鋭く光っている事だった。僕は、高山美登里について、O工場での所業の数々を具体例を挙げて説明した。「とにかく、自分が“不条理”だと判断すると、節を曲げる事がありません!彼女の中の“憲法”に照らして、“違憲”と判決が下れば、上下や性別、経験に関係無く、攻撃的に攻め込みます!“引く”と言う文字は辞書に無いんです。故に味方が出来ずに、孤立無援になってしまう。我々も度々警告はしておりますが、あの“剛直で恐れを知らぬ頑固者”を矯正する事は至難の技なのです」と結んだ。岩留さんは、終始メモを取りながら笑っていたが「面白い!久々に骨のあるヤツに出会えた様だな。彼女は我々が頂くとしよう!」と即断でレイヤーに迎える事を決めてしまったのだ。「基本的な情報は手に入れたし、折角赴任した者を追い帰すのは、国分の威信にも関わる。まあ、任せてくれ!悪い様にはしないから」とやる気満々で引き上げて行った。「一見、穏やかに見えるが、俺よりアイツは厳しい事で有名だ!高山美登里もタダでは済まないだろうよ!Y、お前が土下座に追い込まれた事は、これから彼女自身に降り掛かって行く!成り行きだったのだろうが、お前の屈辱は“俺の屈辱”でもある!塗られた泥は塗り返す!それが俺のやり方だ!」と安さんは豪快に笑った。こうして、強制送還は見送られ、高山美登里はレイヤーパッケージ事業部に配属が決まり、残留扱いとなったのだ。噂は、瞬く間に国分全体に広まっていった。そして、その日の昼休み。社食の奥の休憩スペースでタバコに火を着けると「1本ちょうだい!」と岩崎さんがタバコを口元から横取りして行った。左側に座ると、もたれ掛かって来る。「どうしました?」と言うと「アレよ!邪な女の子達が狙ってるの!」と言う。有賀や滝沢、五味に西沢達がキョロキョロとしていた。同期の女の子達だ。千春先輩や千絵、永田ちゃんに実理ちゃん、細山田さんまでもが壁を作ってガードを固めだした。「Y,金曜日の夕方は開けときなさい!あたしの予約が優先よ!」と岩崎さんは言う。「土曜日は、あたしに付き合って下さいね!」と永田ちゃんが差し押さえを宣言する。となると、日曜日は当然ながら「あたしのモノよ!」と千絵が言い出す。まるで、心を見透かす様に。「休んでる暇はありませんね」とお手上げのポーズを取るしか無かった。「諦めたみたいよ!」と千春先輩が言うと壁を構成する女の子達がため息を漏らした。「神経質になり過ぎてません?到底敵わないのに・・・」「いえ、そんな事ありません!Y先輩に土下座をさせた人達です!近付けるのは危険です!」と永田ちゃんがハッキリと言う。「Yは既に、職場の中心人物なのよ。セクションの責任者だし、1ヶ月の差は簡単に埋められないわ!“トンビに油揚げ”なんてさせるものですか!みんな、気を引き締めて行くわよ!」岩崎さんの言葉に黙して頷くと、彼女達はやっといつもの様に喋り出した。「あーあ、お恥ずかしいったらありゃしない!鉄壁のガードでガチガチじゃないか」と言うと千絵が「そうよ!もう逃げられないからね!」と笑った。だが、敵も諦めては居なかった!次なる試練は、寮で待っていた。

残業で遅くなってしまったが、この日は鎌倉と買い出しに付き合う予定があった。寮に戻ったのは、鎌倉が戻る頃と差して変わらぬ時間帯になって居た。車は、鎌倉が押さえてあったので“足”はあった。「疲れてるのに済まんな。早速出ようか?」「ああ、時間は貴重だ。道は1回で覚えてくれよ!それ程“複雑怪奇”でも無いからな」と話ながら寮の裏手へ向かっていると「待ってよー!あたし達も連れててよー!」と有賀を先頭に4人の女の子達が追いすがって来た。「Y,お昼どこに居たのよ!あたし達必死に探したのよ!」と詰め寄られる。「ウチの“お姉様方”に囲まれてたからな。見えなかったんだ。ちゃんと第1社食に居たぜ!」とトボケる。「これじゃあ定員オーバーだ。ワゴン車じゃ無いから、2人に絞ってくれるか、女子寮の車を出してくれよ!」と鎌倉も困惑気味だ。「車は既に使われてるのよ!何とか押し込んで行けない?」と有賀は無茶を振る。「ダメだ。見つかったらヤバイ事になるぜ!ルールに違背すれば、車は使えなくなるし、始末書を書かされるぞ!高城がドリフト走行に失敗してやらかした時も、1週間の運行禁止を喰らってるんだ。みんなに迷惑はかけられない!」と僕は無茶を止めた。有賀は、あくまでも「一緒に行く!」と譲らないし、車は1台しか無い。「仕方ないな。鎌倉、地図を書くから自力で行ってくれないか?ルール違反だけは避けなきゃならない。このままでは、時間の無駄だよ!」と言って僕は地図を書き出した。「うーん、しゃあないか!目印はハッキリと書いてくれよ!」と鎌倉が折れてくれた。「Yは買い出しに行かなくてもいいの?」と滝沢が言うが「ストックはまだあるよ。週末に行けば何とか間に合うさ」と軽くかわす。「でも、週末まで車の予約は一杯よ!“足”はどうするの?」と有賀が無遠慮に言う。「ウチの“お姉様方”に助けてもらうさ。実は、この車を僕は使った事が無いんだ。そうでなくとも、週末は既に予定で埋まってる。身動きは取れないよ」と言うと鎌倉に地図を渡した。「まず、北へ向かって約1km,左折したら、踏み切りを渡ってから西に向かって約800m行けば、ホームセンターの看板が見える。後は、道なりに行けばOKだよ。ホームセンターを出たら左折して市内のスーパーまでは直ぐに見当は着くだろう。帰りは来た道を戻れば、迷う事は無い」と説明すると「じゃあ、行って見るか!Y、悪いな。貴重な時間を浪費さちまって、済まない」鎌倉は4人を乗せると車を走らせて行った。「やれやれ、手のかかる連中だ!」石を蹴りつつ寮に戻ろうとすると「Y先輩、行きましょうよ!」と実里ちゃんが声をかけてくれる。「見てたのか?」「ええ、ゴリ押しもいいとこ!誰です?あの4人組は?」「同期の女の子達さ。あれじゃあ、強盗と変わらないよ」とボヤくと「後で“通報”しときます!Y先輩を困らせるとどうなるか?思い知ってもらわないと!」と語気を強めて言う。「いつもの実里ちゃんらしくないね。どうしたの?」と車に乗り込みつつ言うと「目に余る無理強いは、許しません!わきまえてもらわないと、秩序が保てませんから!」と珍しく怒りを露にする。「また、ひと悶着ありそうな予感がするな。程々にしてよ」と返すと「あたしの大切な人に対しての侮辱は、許しません!」と言い放つ。「怖いねー」「そうですか?千絵先輩なら、殴りかかってますよ!あたしだから、手は上げませんでしたけど」と言うと頬にキスをして来る。「後部席、空いてますよ!」実里ちゃんは車を走らせると言った。「底無しが!」と言うとペロリと舌を出す。結局は、彼女を抱いてから寮に戻るハメになったが、次なるトラップは既に仕掛けられていた。

「Y!どこに行ってたのよ!いくら連絡しても“不在”とはどう言う事なの?!」インターフォンが壊れるかと思うくらいに、有賀が喚く。「どこで何をしてようが、こっちの自由だろう?あれから“お姉さま方”に捕まって大変だったんだ!もう、風呂に入って寝るから切るよ!」と言うが「待ちなさいよ!土曜日に近辺を案内してちょうだい!いい事、これは命令よ!」とまたまた無茶を振り回す。「悪いが、他を当たってくれないか?既に先約で一杯でね。身動き取れないよ!」と断りを入れるが「アンタが一番手が空いてるはずでしょう?早番だけなんだし!こっちは、地理不案内なんだから、面倒見てよ!」と勝手に決めつけ始める。「あのねー、こっちだって手一杯なの!事業部に関わる問題で飛び回ってるんだ!時間は裂けないし、やらなきゃいけない事は山積みになってるんだ!僕等は既に“国分のシステム”に組み込まれてるんだ!仕事が優先なの!空いてるヤツは他にも居るだろう?“命令云々”を言われても無理なものは無理!」と言うとインターフォンを叩き切った。午後9時まで後5分。これで諦めたか?と思いきや再び有賀の逆襲が襲い掛かる。「土曜日が無理なら、金曜日の夕方でもいいわ。どこかで時間取れない?」少しは軟化して来るが、ゴリ押しは続いた。「あのねー、週末に行けば行くほど、残業が増えるの!金曜日なんて一番不確定要素が濃い曜日だろう?下手をすれば、4時間はザラにあるんだよ!こっちは、もう事業部の戦力として計算されてるんだ。いくら事情があろうとも、仕事優先で動かなきゃいけないの!1ヶ月先行してる事を忘れないでくれ!ここでは、みんなが“各自の時間帯”で動いてる。それを理解してくれないと困るんだよ!」僕はウンザリし始めた。「そこを何とかして!Yにしか頼めないの!木曜でもいいからさ!」有賀は驚異的な粘りで対抗して来る。背後に居るのは恐らく滝沢だろう。彼女は、新入社員の時から付き纏って来た経緯がある。「その日の仕事の進捗に寄って左右されるから、曜日の確定は出来ない!週末も無理!本当に悪いけど他を当たってくれ!明日があるし、タイムオーバーだから切るよ!」僕はようやく解放された。だが、明日も昼休みは分からない。「困った連中だ・・・」早々に風呂に入ると僕は眠った。睡眠不足は集中力を低下させるだけで無く、判断力も奪う。睡眠が如何に大切か?国分に来て痛感した点だ。翌日の昼休みに、ひと悶着は待ち構えていた。

水曜日、昼の食事を終えて休憩していると、吉永さんが「子供が発熱して保育園から“お迎え”の要請が来てしまいました」と申し出て来た。「分かりました。直ぐに向かってください!後の事はお引き受けします」と言って“早退届”を受理すると、それを引っ手繰るヤツが現れた。「返して欲しければ、言う事を聞きなさい!」有賀と滝沢が僕の前に立ちはだかる。「てめぇら何しやがる!勝手な真似は許さねぇぞ!」田尾が駆けつけて2人を睨み付ける。同時に有賀の手を捩じ上げて“早退届”を奪還する人影が多数現れた。「Y、これ帰すわよ!」岩崎さんを筆頭に“お姉さま方”が集結し始めた。「事業部の事に手出しは認めないわ!Yは、25名のパートを預かっている責任者よ!職務遂行の邪魔は許さないわよ!」ピシリと言い放つと強制排除に取り掛かる。「他の事ならまだしも、仕事に関する事を盾に取るとは、問答無用!あなた達どこの事業部?責任者に言って不埒な真似を正してもらうわ!」と千春先輩も目を吊り上げる。「Y、これ、何なのよ?」有賀は下手に抵抗をし始める。「勝手な真似は許されないって事さ。個人的な事で、仕事の邪魔をすればどうなるか?分かっただろう?ここでは、O工場の論理や個人的な都合は通らないんだよ!“お姉さま方”をこれ以上怒らせる前に手を引け!」と言ってたしなめる。渋々、2人は引き揚げたが“お姉さま方”のお怒りは鎮まらない。「何なの?Yを“私物化”しようとしてるなんて信じられないわ!」と千春先輩が金切り声を挙げる。「ふふふ、あたし達と張り合おうなんて10年早いわ!千春、“回覧文書”を回してよ!あの2人を干してあげなくちゃ!」岩崎さんが不敵な笑みを浮かべる。「昨日もY先輩を困らせてましたよ!」実里ちゃんが更に追い打ちをかけると、千絵が「女子寮の掟をタップリと思い知らせてやるわ!」と燃え上がった。「あの2人、レイヤーの建屋に逃げ込んだわ!同期に手を回して思い知らせてあげる!」と神崎先輩も燃え上がった。「レイヤーのダチに言って置くぜ!“お仕置き”をお見舞いしろってな!」田尾も怒りに燃えていた。「あれではやって行けないのは明らかだ。“矯正プログラム”を組んでもらうしか無いな」僕はため息交じりに言った。「“矯正”では無くて“1からやり直す”べきだわ!」普段は大人しい宮崎さんも今日はお怒りだ!彼女は髪を緑に染めている不思議な方だが、いつも陰でみんなを支えている精神的な支柱でもある。その方をも怒らせた報いは、当然降りかかるだろう。「Y、あの2人の情報を教えなさい!あたし達に盾を突いたからには、無罪放免って訳には行かないわ!」千春先輩が僕の横に座った。「お手柔らかに願いますよ」と言って有賀、滝沢、五味、西沢の4人の情報を話した。「OK、直ぐに手配するわ!」千春先輩は内線をかけ始めた。「さあ、あたし達も手配にかかるわよ!」神崎先輩の号令で“お姉さま方”と田尾も動き出した。「こりゃとんでもない事になるな!」と言うと「当然です!一線を越えたんですから、相応の事は覚悟してもらいます!」と実里ちゃんが言い放った。これ以後、有賀たちは成りを潜めたと言うか、口を封じられて2交代勤務でシゴキを受けるハメになった。その証拠に、すれ違う事も無くなったのである。レイヤーパッケージ事業部の受注は好調で、休出に次ぐ休出も重なり増産に追われて行った。言うまでも無く“緑のスッポン”も否応なしに巻き込まれて、姿を見ることすら稀になったのである。女子寮でも、“要注意人物”のレッテルを貼られたのは言うまでもなく、厳しい監視下に置かれた様だった。

木曜日になると、寮内もやっと落ち着きを取り戻して、静かな時間が流れ出した。鎌倉の配属先は“総務部総合保全課”だった。A勤務と呼ばれる8時から5時の勤務帯だが、連日の残業で僕より遅く戻って来るのが日課になっていた。「何しろ広大過ぎて、設備も半端なく多いし、何もかもがデカイいんだよ!こんな巨大プラントを相手にするなんて想定外もいいところだ!」連日図面と格闘しつつ、鎌倉はボヤいた。「交代に放り込まれるよりはマシだろう?日曜日と祝日は確実に休めるんだから!」と吉田さんが言うが「訳が分からん!電力に水路にガスや危険物!あらゆる場所に何があるか?全てを覚えるんだぜ!脳のキャパを超えちまうよ!」と悲鳴を上げる。「女の子達だって2交代で365日連続稼働の世界に送られてる。そっちとA勤オンリーを秤にかけりゃ結論は簡単だろう?お盆休みだって何のしがらみも無く帰れるんだ。運がいいと思え!」と言ってやるが、「稼ぎは全く違う!俺は交代で稼ぐ事を選びたかったよ!」とむくれる始末だった。「だが、良い事もあるだろう?総務の“綺麗どころ”を毎日拝めるんだから!」と克ちゃんが言うと「唯一の救いはそれだな。土曜日に歓迎会でお相手をしてくれるってさ!」と少し上向きになる。「くれぐれも潰されるなよ!“薩摩おごじょ”は酒も強い!下手に調子に乗って飲み過ぎると、地獄を見るぜ!」と吉田さんがすかさず冷や水を浴びせる。「ゲッ!マジ?!ビールだけで済まないのか?」「お燗の付いた焼酎を飲まないとドヤされる!“水飲んでんじゃねぇ!”って総攻撃を喰らうぞ!みんな、それでコリてるんだ!」と肩を叩いて言い含める。「そんな・・・、聞いて無いぞ!」「聞いて無くても、それが現実なんだ。女の子だって“ザル”は大勢いるさ!それこそ“無敵艦隊”だよ!」と現実を教えてやる。「あー、一気に憂鬱になるじゃないか。Yもやられたのかよ?」「ああ、敢え無くノックアウトさ。みんなそうなる!そして、やっと一員として認められる。手荒いのが難点だがな。避けては通れない関門さ」「美人の前で無様は晒せない!対抗策は無いのか?」「無い!」3人で合唱する。「別の意味で頭が痛そうだな。日曜日は死んでるだろうな。くれぐれも起こさないでくれよ」鎌倉はスネた。「じゃあ、俺達は行って来るぜ!残業で遅くなるから、宜しくな!」吉田さんと克ちゃんは夜勤に向かった。入れ替わる様に田尾がやって来る。「Y、また知恵を貸せ!鹿児島日電の連中が仕掛けて来やがった!13対4で形勢は不利だ!何か手は無いか?」と喧嘩の作戦を立案しろとの仰せだ。「場所は?」「下井海岸を指定して来やがった!」「飛び道具が居るな。モデルガンかエアーガンはあるか?」「3丁しか無い。しかも、弾が切れたらそれまでだぜ!」「いや、まだ手はあるさ。鎌倉、消火器の更新がどうのとか言ってたよな?古い消火器はどこにまとめてある?」「Cブロックの排水処理プラントの裏にあるぜ。明日、業者に引き渡すが、それがどうした?」「本数は把握してあるのか?」「いや、廃棄するだけだから、台帳も何も無いよ」「鎌倉、ここから先は聞かなかった事にしてくれ!田尾、今夜中に消火器を10本ばかり手に入れろ!射程はスプレーより長いから、バズーカ砲の代わりにはなるだろう?」「ふふん!そう来るか!何となく読めて来たぜ!」田尾が不敵に笑いだす。「後は、釣り糸を50mばかり用意しろ!設置する高さは、足首の高さだ。それで陣地を形成する!逃げ道は背後にすればいい。前回の事を考えれば、奴らは接近戦を回避しようとするだろう。だから“腰抜け!”とか言って罵ってやれば、頭にきて前に来るはずだ。釣り糸に足を取られたところへ消火器をお見舞いすれば、目を潰せるし視界も悪くなる。後は、お前さん達の腕力で決めれば勝てるだろうよ!」「糸は2重3重か?」「180度で2重に張り巡らせろ!要は相手を転ばせればいいんだ。消火器の粉を喰らえば、呼吸も困難になる。粉を落とすには、海水で洗うしか無いんだから、人数が少なくても勝機はあるだろう?」「流石に抜け目がねぇな!じゃあ、ちょっくらと消火器を拝借してくるわ!陣地の図面を書いて置いてくれ!」「明日までに仕上げる。そっちも抜かるなよ!」「ああ、任せな!」田尾は勇んで出て行った。「お前、そんな事にも首を突っ込んでるのか?」鎌倉が呆れて言うが「成り行きだよ。同じ事業部に居たから避けようが無かった。でも、怪我はさせて無い!お互いにな」「悪知恵は、Yの独壇場だからな。研修の時に脱走の手口を考えたのも、お前だったよな?」「ああ、コンビニへ買い出しに行ったヤツだろう?あれは、今のよりは楽だったな!」研修期間中に、飢えた僕等は集団での脱走を敢行した事があった。その時に策を巡らせたのは僕だった。今でも忘れられない思い出だ。「ここでも、作戦参謀か。お前らしい生き方だな」「そうしないと、アイツらは傷だらけになっちまうし、上にバレたら大目玉さ。臨機応変にやってやれば仕事で協力してくれるし、目も瞑ってもらえる。何より信頼を得るのには、こうした事も面倒をみてやらないとな」「まあ、一理ありだな。女の子達にはどうしてる?」「マメに話を聞いてやったり、買い物に付き合ったりしてやれば喜ばれるな。鎌倉ならメカに詳しいから、車の修理とかメンテナンスをやってやれば、直ぐに仲良くなれるだろうよ。女性はボンネットすら開けないから、そこが付け目になる!」「相変わらず、抜け目無しだな。毎週末にYが居ない理由はそれか?」「どこから聞いてきた?」「田中さんからだよ。“Yは中々捕まらない”って言ってたぞ!」「優しい“お姉さま方”の注文は厳しいよ。あれやこれやと。聞かないと仕事に差し障るからな。ヘソを曲げられても困るんだ!」「全部で何人居るんだ?」「25名だよ。パートの“おばちゃん達”も含めれば、50名に膨れ上がる。それを回すのが、今来た田尾や徳田、それに自分さ。圧倒的に形勢は不利だから、機嫌を損ねるのは避けなきゃならない」「意外と苦労してるんだな。女ばかり50名かー。俺の手には余りある存在だな」「最初は、ビビッたさ。“どうやってバランスを取るか?”散々考えたよ。今は、自分の流儀を通させてもらってるがね」「“自分の流儀”か。いい事を聞いた。俺も“自分の流儀”を試してみるよ!ダメだったら、方向転換すればいいだろう?」「退け時をミスるなよ!それだけは見極めろ!」鎌倉との話は熱を帯びて続いた。

金曜日は何故忙しいのだろうか?毎週、朝から“飛び込み”も多く、出荷も集中する傾向は変わらない。だが、今月は徐々に押し戻す感じで仕事が進んでいた。一番頑張ってくれたのは“おばちゃん達”だ。明らかに目の色が違うし、競うように地板からトレーに返して行くのだ。“リスクの分散化”を目的にした僕の“弟子入り作戦”は、時間が経過する毎に結果を残しつつあった。最初は、2ロット程度の先行に過ぎなかったものが、今は10数ロットの先行に変わっているのだ。西田、国吉の2人を中心に、集団的かつ集中攻撃を繰り返せたのが大きかった。“飛び込み”が続いても、彼女達は果敢な攻めを繰り出しては乗り越えて行く。懐疑的な見方が無かったとは言えないが、効果が出ると“自分達で楽にしよう”と言う意識が働くので、1度転がり始めればプラスになるのは比較的に早かった。「こう言うことなのね。大勢でやれば、早く終わるから次が楽になる!」「次も終わらせれば、翌日も楽ができる。Yさんの計略はこれを狙ったとね?」西田、国吉の2名が僕の顔を伺う。「それもありますが、“飛び込み”があっても耐えられる様にするのが、最初の1歩ですよ。これから、出荷数量は加速度的に増えて行きますから、月末に向けて慌てない様にするのが今月の目標です。それには、僕が何でもカバー出来る様にならなくては!」こうして話している間も手は止まらない。随分と変わって来たものだ。「でもね、Yさんばかりに頼る訳にも行かないし、あたし達も努力しなきゃ!」「そうじゃね!風邪を引かれたりでもしたら、あたし達の責任だって言われそうじゃけん!」西田、国吉の両名が言うと、みんなが黙して頷いた。良い傾向だ。“今はこの路線を継続して行けばいい”と確信を持った。「Y、F社の金・銀ベースはどこだ?」徳永さんが見に来た。「もう検査に回ってますよ。“飛び込み”のロットも投入は済んでます!」「ほえ!随分と飛ばしとるな!その他は滞っておらんのか?」「大丈夫ですよ!連絡は絶えずとってますし、必要なキャップもベースも既にあります!」トレーを返しに来た神崎先輩が言う。「何!どれだけ先行しとる?」徳永さんは顎を外しそうになった。「約3日ってとこですね。Y、悪いがTI台湾の金ベースを入れてくれ!若干だが足りないんだ!」「了解です。僕がやりましょう。皆さんはこのまま進めて下さい」と僕が言うと「Y、返せるのか?」徳永さんが驚く。「あたしが伝授しました。安心して任せられます」と国吉さんが胸を張る。「“弟子入り”したとは聞いていたが、こんな短時間で習得したのか・・・」徳永さんは絶句した。「Yの底力、恐るべし・・・」「まだまだだ!Y、最速タイムは更新しておらんのだろう?手を緩めずに前へ進め!」“安さん”が乱入して来るとバシバシと肩を叩く。「徳永、Yの力はこんなモノでは収まらん!もっと尻を叩け!検査の尻も叩いて歩け!1ヶ月先行するまで手綱を引き締めろ!」と言うと検査室へ入って行く。「お前ら、Yのところに製品が唸りをあげて転がっとる!サッサと引き取りに行かんか!」と発破をかけて行く。「1ヶ月の先行?!まさか、本当にやるつもりか?」冷や汗を拭いながら徳永さんは“安さん”の後を追った。「あんな顔、初めて見るね!」「本当、今までに無い顔を見た気がする」牧野、吉永の両名がクスリと笑う。やがてみんなに伝染して行った。

「Y-、お疲れー!」岩崎さんがキーを放って寄越す。スカイラインを始動させると、気ままに街を駆け抜け始める。曲は“Drifter”。アルバム“For East”のスタートの曲だ。“放浪者”の意味で、僕等の気ままな旅にはふさわしいと思い、カセットを流した。「“木綿のハンカチーフ”とは、まるで別物ね」「ええ、1年間のニューヨーク滞在の後にリリースされてますから、アレンジも含めて全くの別物ですよ」「ニューヨークか。摩天楼が林立する街へ行きたくならない?」「2人なら行ってもいいですよ。でも、豚骨ラーメンは出ませんよ!」そう返すと、彼女はクスリと笑った。「気に入った!鹿児島市内まで飛ばして!今夜は寝かさないから!」「はい、仰せの通りに!」“正妻”の機嫌はこの上なく良い。国道10号を流れに任せて快調に飛ばして、市内のモーテルに入って行く。「久しぶりだから、ゆっくりと脱がせて」と彼女は言う。華奢なラインには不釣り合いな形の良い乳房に触れ、ロングスカートを落とすと、白いレースをあしらったパンティが現れる。「まだよ。坊やをあやしてから」と彼女は言うとトランクスを剥ぎ取り、舌を使う。「“ちーちゃん”はしてくれたの?」と尋ねて僕が頷くと吸い付いて舌を這わせた。「あたしだって負けないわよ」と嫉妬を隠さない。“正妻”を言うだけの事はある様だ。パンティを片足に残すとベッドに横になり「来て」と言う。激しく身体を動かして僕を受け止め「もっと・・・、もっと・・・突いて!」とうわ言の様に喘ぐ。初回が終わるとバスルームで汗を流し合う。身体を洗ってやると「初めてよ。気持ちいい!」と言って笑う。バスローブに身を包んでソファーで抱き合うと「美登里は、Yを追って来たと思うの。貴方を連れ戻す魂胆でね」と言った。「冗談でしょう!アイツはハナから“圏外”ですよ!」と否定すると「貴方にとっては“圏外”でも、彼女にすれば“圏内”に置いて置きたい人かもよ。滝沢にしても、“是が非でも手にしたかった”はず。ライバルの芽は早く摘んでしまわなくては、安心できないの!」と腕に力を込めた。「怖い。怖いのよ。貴方を失うのが何よりも怖いの!」と言うと頬に一筋の光が伝った。優しく拭いてやると「行かないで!お願いだからここに居て!」と顔を胸に埋めて泣き出した。「馬鹿な事言わないで。置いて行くものですか!」しっかりと受け止めて抱いてやると、何度も頷いてから泣き顔を上げた。涙を拭いてやり、外を見た。桜島が目の前に聳え立っている。「僕は帰らない。薩摩に根を降ろす」と言うと、やっと彼女は微笑んだ。久しぶりに恭子を抱いて、僕は決心を固めた。「我は、薩摩に根付く!」恭子は嬉しそうに馬乗りになった。「Y、2回戦始めるよ!」泣いたカラスが笑っていた。

life 人生雑記帳 - 57

2019年10月28日 14時58分30秒 | 日記
午前5時、けたたましく目覚ましが鳴りだした。上のベッドでゴソゴソと音がすると、克ちゃんがあくびをしながら着替えを始めた。土曜日の朝だが、克ちゃんは4直3交代勤務なので、曜日に関係無くご出勤だった。「わりぃ。起こしちまったか?」「いや、構わんよ。吉田さんは?」あくびをしながら僕が聞くと「残業だろうな。まだ戻ってないよ」と返事が返って来た。3人3様の時間帯で生活し始めて1ヶ月近くが経過していたが、3人揃って休みの日と言うのは今もって無い!「お前さんは、早番オンリーだけど、懐具合はどうなんだ?」と克ちゃんが言う。「それなりさ。克ちゃんの稼ぎには及ばないよ」と言うと「夜勤は儲かるぜ!今からでも遅くはねぇから、配置転換を希望したらどうだ?」と言われる。「そうしたのは山々だが、こっちにも“大仕事”が振られて来てる。それを放り出すのは認められないだろうな。もう、完全に取り込まれてるからな!」「第3次隊の連中もそうなる運命だ。知らぬ内が花さ。現実は甘くないって事を伝えて置けよ!どっち道、俺は歓迎会に顔は出せないからな」と克ちゃんは自嘲気味に言う。「ああ、そこら辺はきっちりと言っとくよ。向こうの常識は通用しないってな」「頼んだぜ!じゃあ、俺は行ってくる!誰が入って来るか知らねぇが、時間帯がズレてるってきちんと説明してくれよ!俺達が寝てる脇で騒ぐな!って釘を刺しといてくれ!」と言うと克ちゃんは仕事に向かった。「さて、寝直すか」とベッドに横になったところへ「Y、起きろ!お姉さま方からお呼び出しだぞ!」と田尾がシーツを剥ぎ取った。「インターフォンが入ってる。5番に出ろ!」と言う。「朝から何の騒ぎだ?今日は何も予定は入ってないぞ」と止む無く起き上がると「予定は向こうが決めるらしいな!岩崎が待ちくたびれてるぜ!」と鼻で笑われる。1階へ降りて5番のインターフォンに出ると「Y、昨日はどうだった?千春を満足させられたかな?」とクスクス笑っている岩崎さんの声が聞こえる。「それは、本人に聞いて下さいよ。日付を跨いでの帰りだったから、まだ眠いんですが・・・」と言うと「精気をすっかり抜かれた様ね!千春はどんな感じだった?」とたたみかけられる。「“ちーちゃんと呼んで”って言われまして・・・、疲れましたよ」と言うと「えっ!Y、今“ちーちゃんと呼んで”って言ったわよね!マジなの!」と声のトーンが跳ね上がった。「ええ、ご本人の強い希望でそうなりましたが、どうかしました?」「千春が“ちーちゃん”を言い出したとなると、彼女本気で奪いにかかってる証拠よ!千春が本気になったとなると、ヤバイ事になりそうだわ!また、“山口組の抗争”が勃発するわよ!それに、あたしの描いた構図にも狂いが出るの!Y、悪いけど非常招集よ!直ぐに支度して出て来てちょうだい!朝食を食べながら作戦会議よ!30分後に迎えに行くから急いでね!」と言うとインターフォンは切れた。「寝ても覚めても暇は無しか」僕は急いでシャワーを浴びると、寮の玄関前に急行するハメになった。

待機していたスカイラインに乗り込むと、岩崎さんは急発進をかけた。後部席には永田ちゃんと実里ちゃんも居た。「おはようございます」と言うと「Y先輩、実にヤバイ事になりましたよ!」と永田ちゃんが深刻な顔で言った。「“ちーちゃん”が出たと言う事は、予定外のハプニングじゃなくて、実に危険なサインなの!まずったわ!千春の心を読み違えるとは、迂闊だった!」と岩崎さんも唇を噛んでいる。僕にはさっぱり分からないが、彼女達にすれば一大事なのは間違い無さそうだ。車は海岸沿いの喫茶店に突っ込んで停まった。ボックス席で朝食をオーダーすると「Y、確認なんだけど、千春は“ちーちゃんと呼んで”の“範囲”を指定したの?」「ええ、“2人だけ”になった場合に限りと言われてますが」と言うと3人は一斉に安堵の溜息を洩らした。「指定されたなら、まだ手は残されてるわね。みんなの前で“ちーちゃん”が横行したら、血を見るだけでは済まないのよ!全てが崩壊するかも知れないの!千春が“ちーちゃん”を許可するって事は“誰よりも信頼するわよ!あたしを自由にしていいわよ!”って意味なのよ!悪いけど迂闊に“ちーちゃん”とは呼ばないでね!」と岩崎さんはコーヒーを飲んで言った。「それにしても、厄介な事には変わりがありませんね!“ちーちゃん”が出た以上は、これまでよりも神経を使わなければなりませんから!」と永田ちゃんも言う。「男性に対しては、初めてじゃないですか?」と実里ちゃんが言うと「そうなのよ!しかも、相手がYでしょう?どうやって封じるか?頭が痛いわ!」と岩崎さんも応じた。「“ちーちゃん”を言い出したのは、千春先輩ですが“イエローカード”なんですか?」と僕が聞くと「“レッドカード”なの!“Yと結婚します”と同じ意味よ!だから、困ってるのよ!」と岩崎さんに思いっきり釘を打たれる。「しかし、知り得ているのは、Y先輩と千春先輩とあたし達だけです。この中で封印してしまえれば、実害は免れませんか?」と実里ちゃんが言う。ちょうどモーニングセットが届いたところだ。「そうね。この中で封印してしまえれば、最善なのよ。でも、代わりの手も考えないと千春が爆発しかねないわ。さて、どうやって口封じに持ち込もうかしら?」3人はしばし思案に沈んだ。「千春先輩が納得した上で、“ちーちゃん”を封じる・・・か。まずは、公式の場では言わない事!これは当然ですが、千春先輩とはどう折り合います?」僕が言い出すと「Yには悪いけど、明日も千春の“生贄”になってもらうしか無いわね!果実で釣り上げてから、“ちーちゃん”を限定的にしか使わない様に説得するしか無いでしょう!千春に言い聞かせるのは、あたしがやるとして、実里と永田ちゃんはYの口元に注意してもらう。これしかないわ!」「でも、Y先輩なら口が滑る心配はしなくてもいいのでは?」と実里ちゃんが言うが「万が一に備えるのは、王道よ!Yだって完璧では無いの。監視の目は必要だわ!」と岩崎さんは主張した。女の子達は殊更に気を遣う。針1本でも見逃すつもりはない様だ。「Y、千春から連絡させるから、明日は予定を入れないでくれない?何事もこの先の平和のためよ!千春のワガママに、もう1日だけ付き合ってあげて!そうすれば、実害が出ない様に封印するから!」岩崎さんはそう言って釘を打った。「分かりました。平和のためなら、何でも致しましょう」と息を殺して返した。「さあ、行動開始よ!でも、ちょっとだけ遠回りしてから戻ろうか?Y!」岩崎さんがキーを投げて寄越した。「じゃあ、また、最速記録を叩き出しますか?」と僕が言うと3人が微笑む。こうして、朝の騒動は幕を閉じた。寮に帰るとトラックから大量の荷物が搬入されていた。いよいよ、第3次隊の受け入れが始まったのだ。

部屋に帰り着くと、吉田さんは眠っていた。そーと、必要な物品を揃えると、僕はずっとやりたかった仕事にとりかかった。国分に来てから僕は“ワープロ”を手に入れていた。欠勤届や早退届の類は、原本を使われると新たに作ってもらうのに、手間と時間を必要とした。コピーの原本を複数作成出来れば、余計な心配をする必要もなくなる。時間はたっぷりあるのだから、こう言う時間にまとめて作成するには持ってこいだった。フロッピーにデーターを保存すると、感熱紙を使って試し刷りをして行く。仕上がりは順調だった。これで、コピーを大量に取れば、しばらくは心配することも無いだろう。昼前になったので、作業服に着替えて社食へと歩き出した。しばらくすると肩を叩かれた。「久しぶりだな。お前さんが週末に居るとは、珍しいな」と長老の田中さんが言った。「そうですね。“優しいお姉さま方”にずっと誘われてましたからね」と言うと「“薩摩おごじょ”は豪快だな。酒も強いし話も上手い。ウチは4人だが、Yのところは何人居る?」「年齢を問わなければ50人居ますよ。半分はパートさんですがね」「花園で勤務か!羨ましいね」「いばらの道ですよ。強烈な“おばちゃん達”と渡り合うには“通訳”が必要ですから」と言うと田中さんは噴出した。「確かにそれは分る!半分も理解出来ればいい方だ。今度、着任する連中も同じ苦労を味わうハメになるな!」と言って笑った。「勤務は?」と聞くと「夜からだよ。昼間起きてないと寝れないから、仕方なくこうしてるだけさ」と返して来た。あれこれと話して昼食を食べ、寮に戻るとダンボール箱の移動を手伝った。女子寮に運ぶダンボール箱は結構な量があった。一汗流して談話室で休んでいると、インターフォンが鳴った。誰も居ないので仕方なく出ると、相手は千絵だった。「Y先輩、これから空いてますか?」「ああ、今のところは空いてるがどうした?」と言うと「買い物に付き合ってくれません?買い溜めするから、荷物持ちお願いしてもいいかな?」と言うのでOKすると「じゃあ、15分後に車付けますからお願いします!」と嬉しそうに言った。そそくさと着替えて、財布と免許証を持つと玄関を出る。千絵のマーチは既に横付けされていた。「運転任せます!」と言うので、マーチを市内に向けて走らせる。「何を買うか決めてあるのか?」と言うと「日用品と食料品だから、2ヶ所に行くわよ」と明るく笑って左手に右手を重ねて来る。“千絵となら未来が見えるのかな?”とフッと思った。同じ事を考えていたのか分からなかったが、千絵は横顔を見て「毎週、こうして買い物に行くのが夢よ。明るく楽しい家庭を築きましょう!」と言った。「いつからにする?」と聞くと「明日からでもいいよ。あたし、待ってるから!」と力強く言った。千絵の笑顔が眩しかった。

日曜日、赤いスタリオンは、錦江湾の東沿いを南下して、佐多岬を目指していた。「昨日、恭子に散々怒られたわよ!“大奥取締役が抜け駆けしたら、何も意味が無いでしょう!”って力説されて、延々とお説教!でもね、あたしは“一番槍”を取るわよ!見事に男子を挙げるからね!」ちーちゃんは挫けてはいなかった。2人だけの時は“ちーちゃん”と呼ぶが、公の場では今まで同様に“千春先輩”と呼ぶ事で合意した様だが、彼女は意欲満々で助手席に座っていた。デニムのミニスカートにチェック柄のタンクトップ。ノーメイクだが、肌は透き通る様に白い。明らかに“連れ込む”算段だろう。化粧道具を持参しているが何よりの証拠だ。問題は“いつどこで仕掛けて来るか?”だった。何故なら、ちーちゃんの右手は、既に僕の下半身を触っているからだ!「ちーちゃん、余り刺激しないで下さいよー」と言うが「Yの息子は良く知っておる。良いではないか!早くあたしの元へ来るがいい!」と笑っている。これは、半分拷問だ!恐らく、仕向けたのは岩崎さんだろう。条件提示の段階で、ちーちゃんの要求を飲んだ結果がこれなのだ。朝からこの調子では、先が思いやられる!鹿屋付近を過ぎると、対向車線から車が来るのも少なくなった。「Y、あそこに停まってよ」ちーちゃんが路側帯を指した。鬱蒼と枝が茂っている中へ車を停めると、ちーちゃんは襲い掛かって来た。唇を重ねている間に助手席が倒されて、ベッドの代わりになった。「Y-、おっぱいちゃんだよ」と言ってブラのホックを外すと、豊満な乳房に触らせる。巧みに体をくねらせると、スカートを脱いでパンティに僕の手を持って行く。湿り気を帯びているちーちゃんのハンティの中に手を入れてやると、嬉しそうに声を上げ始める。「お願い、早くしようよー」知らぬ身体ではない。ちーちゃんの中へと息子を入れていくと、たちまち喘ぐ声が高まった。「あん!もっと・・・、いっぱい・・・突いてちょうだい!」ちーちゃんは首に腕を巻き付けると、何度もキスをしながら突きをねだった。猛然と突きを入れてやると「あー・・・・、あーあー・・・、イク・・・あたし、いっちゃう!」と腰をくねらせた。ありったけの体液を注いでやると、痙攣しながら1滴も余さずに吸い取った。「気持ち良かった。Y、ティシュ取って」と言うと、ちーちゃんは溢れる体液を拭き取り、僕の息子も拭いてくれた。「抱いて」と言って膝に座り込むと、ピッタリと密着して「出来るといいね」と妊娠を願う。その表情は真剣そのものだ。「Y、このパンティあげるよ。濡れちゃったし、着替え持ってるから」ちーちゃんはあっけらかんと言う。この底抜けの明るさこそ、ちーちゃんの魅力だろう。どうにかして、お互いに服を着ると再び車を走らせる。佐多岬ロードパークまでは、まだ先があった。だが、ちーちゃんは我慢が続かなくなってしまったらしい。「Y―、もう1回しようよ!」と盛んにおねだり大作戦を展開し始める。「しょうが無いなー!」と諦めると急遽、鹿屋へ転進してモーテルを探す。やっとの思いで空き部屋を見つけると、ちーちゃんは直ぐに部屋へ僕を押し込んでから、服をもどかし気に脱ぎ捨てて、襲いかかって来た。応戦しつつ、後ろから猛然と突きを入れてやると、たちまち理性をかなぐり捨てて「もっと・・・、もっと・・・、いっぱい突いてちょうだい!そうよ・・・!もっと激しくして!」と喘ぎながら言って、自らも腰を動かし始めた。身体を入れ替えて正面から突くと「気持ちいい・・・!中よ・・・!中に出して・・・!お願い!」と盛んに言って脚をクロスさせて、逃さない態勢を取った。大量の体液を注いでやると「気持ちよかった。Y,頑張ったね」と言ってから、僕の左側に寄り添うと胸元に顔を埋めて目を閉じた。ちーちゃんは、スヤスヤと眠りの世界へと入って行った。乱れた髪を直してやりながら、寝顔を見るとカワイイ顔をしていた。シーツでそっと覆い隠すと、もう一度寝顔に見入る。女の子の寝顔なんて滅多に見られるモノじゃないので、しばらく観察していると、ちーちゃんが現実の世界へ戻った。「ごめん!あたし、今まで寝てた?」「うん、スヤスヤと」「どうだった?あたしの寝顔は?」「可愛かったですよ!寝言を除けば」と言うと「何ていったの?教えなさいよ!」と馬のりになって問い質す。豊満な乳房に手を伸ばして、乳首に刺激を加えてやると「ダメよー!また、したくなっちゃうー!」と身体をくねらせた。ちーちゃんも、僕の息子に触ってパワーを入れようとし始める。「元気にしてあげる!だから、もう1回頑張ってよ!」ちーちゃんは、舌を使って息子にエネルギーを送り込んだ。「今度は、あたしが上よ!あっ・・・、大きい・・・、Yのが根元まで・・・入ってるよ!じゃあ、動くね」と言うと、たちまち理性をかなぐり捨てて、喘ぎ声を出し始める。下から突き上げてやると、悲鳴に似た声をあげて「もっと・・・、もっといっぱい・・・突いて下さい!・・・突いて下さい!」とねだった。再度、背後を取ると猛然と突きを入れてやる。「いい・・・、気持ちいい・・・!あたし・・・、イク、いっちゃうよー!」ちーちゃんは絶頂に登りつめた。同時に体液が注がれる。ちーちゃんは、ベッドに横たわると、僕の体液を指ですくってホールへと押し込んで行く。「気持ちよかった。これで妊娠出来るかな?あたし、Yの子供欲しいの!」と言う目は真剣な眼差しだった。それからは、バスルームでシャワーを浴びながら、互いにボディソープを塗り合って遊び出した。バスタブに湯を張ってから、2人してゆっくりと浸ると「お腹が大きくなる前に、ドレスを着たいから今回は期待してるのよ!絶対に当てるからね!」ちーちゃんは、その気満々だ。「Y,あたしを置いて行くな!妻として何処までも共に歩むからさ!」抱き着いて来るちーちゃんを僕は優しく抱きしめた。結局は、もう一度の熱戦をして、佐多岬ロードパークには行かずに、国分の街へと帰ったのだが、ちーちゃんの機嫌はすこぶる良くなり、ちーちゃんと呼んで問題は無事に決着したのだった。「アンタ、相当に頑張った見たいね!千春の晴れやかな顔を見れば一目瞭然!Y,お疲れ様でした。次は、あたしの番だから、覚悟してなさい!」夕方に入ったインターフォンで岩崎さんが言った。「少しは、休ませて下さいよ!」と言ったが「ダメよ!大奥の掟は厳しいの!正妻の顔は立てなさい!」と敢え無く撃沈の浮き目にあった。「こりゃ、痩せるな。しっかり食べないと体力が続かない」僕は作業服に着替えると社食で目一杯食べて、翌日に備えた。

月曜日、月が代わって6月。南九州一帯の梅雨入りは、間近に迫っていた。全体朝礼に備えて整列していると「Y,昨日はありがと!」と千春先輩が後ろから抱き着いて来た。「はい!そこまでよ!千春、Yは共有財産なのよ!控えてちょうだい!」と岩崎さんに引き剥がされる。「Y,結局、何試合したのよ?」彼女は入れ替わり際に囁いた。僕は黙して指を4つ立てた。「ボクシングのタイトルマッチをしてから、アメフトの試合に出た訳ね。分かったわ、今日は仕事で無理はさせないから!」と言って列に並ぶ。延々と続く朝礼を乗り越えて、おばちゃん達との格闘も済ませると、1日はあっと言う間に過ぎ去った。「Y先輩、帰りますよ!」と千絵が呼びに来る。寮に向かって歩き出すと、後ろから第3次隊、50名が着いて来る。「道を譲るよ」と僕が言うと左側に寄って、隊列を先に出させた。数名が僕に気付いて手を上げた。「Y先輩、お知り合いですか?」と千絵がボケをかます。「全員が知り合いだよ!来月に第4次隊が着任すれば、今回の派遣隊全員が揃う。先月に着任したのを忘れたか?」と返すと「あっ、そうか!でも、Y先輩は元々居た様な気がするんです」と永田ちゃんが言う。「それだけ、Yの存在感は大きいって事よ。今回も誰か配属されるのかしら?千春、何か情報は?」「今のところ無し。ただ、レイヤーとディップで駆け引きしてるのは確か。押し付け合ってる感じらしいわ」と不穏なニュースを聞いた。「まあ、明日になれば分かるさ。今晩は、ヤツらの出方を伺うとしましょう!」僕等もゆっくりと寮へと歩き出す。「今回は、女の子が多いのが特徴的だよね。女子寮も久々に満杯になるのよ。各部屋へ分散するけど、どんな子が来るのかな?Yを付け狙う子は居そう?」岩崎さんが心配気味に言う。「厄介なヤツは居ませんよ。例え居たとしても、これだけ厳重にガードされてるんですから、付け入るスキはありませんね!」「そうだといいけど、予防対策はしっかりと取りますからね!」と女性陣は奪取されぬ様に厳戒体制を敷いている様だ。「好きな様にして下さい。どの道、みんなバラバラの時間帯に放り込まれるんです。すれ違う暇すらありませんよ!」僕は差して気にもしなかった。寮ですれ違う事でさえ稀な事なのだから、己の事で手一杯になる明日からの生活で余裕は無いはずだ。寮の玄関先で「また明日ねー!」と手を振り千絵達は女子寮へと入って行った。田尾と僕もそれぞれの部屋へ急いだ。誰が来るのか?皆目見当が付かないからだ。克ちゃんが爆睡中だし、吉田さんもTVの前で寝ている。部屋のドアには何も表示が無い。「セーフか?」と思っていると、ゴソゴソと音が聞こえた。「よお!」と言って現れたのは、同期の鎌倉だった。慌ててヤツの口を塞ぐと「静かにしろ!寝てる連中に袋にされちまう!ここでは、みんな違う時間帯で生活してる。騒いだらタダじゃあ済まない。手伝うから静かに運べ!」と言って荷物を運んでやる。吉田さんも起きてくれたので、鎌倉の荷物運びは、直ぐに終わった。「ベッドは僕の上を使え。細かい作業は、克ちゃんが起きる午後7時以降にしてくれ。どの道、寮長からの説明会だろう?」と言うと「お前さんは上がりか?」と言うので「僕は早番オンリーだが、吉田さんは3交代、克ちゃんは4直3交代だ。残業だってバンバンあるから、定時上がりは稀なケースさ!」と説明会をしてやる。「思ってる以上に過酷だな。コンビニはどこだ?」「無いよ!向こうの常識は通じないんだ!それから、調味料も丸で違うから、ここの味に慣れるまでは味噌と醤油は節約するんだな。ちなみに、醤油味と塩味のラーメンは無いから、覚悟して置け!」と釘を刺した。「マジ?!そんな中でどうやって生きてくんだよ?」「“住めば都”だろう?大丈夫だ。慣れればどうって事は無い」と吉田さんも言う。「さあ、談話室へ行け!詳しい話は、それからだ!」鎌倉は肩を落として階段を降りて行った。「最初はあんなもんさ。その内慣れるだろう。後の世話は頼んだぞ!俺達は仕事があるからな」と吉田さんが言う。「鎌倉で良かった。アイツなら妙な事はしないから、安心ではありますよ」「ああ、ヤツなら直ぐに女の子とツルんで遊び回るさ。お前さんの様にな!」「お姉様方に遊ばれてるんですが?」「同じだろう?」「違いますよ!」僕等は意見の相違を言い合った。時を同じくして、談話室でも言い合いは始まっていた。そして騒ぎは僕にも降り掛かって来た。「Y,助けてくれ!美登里が騒いでるんだ!鎮圧に手を貸してくれ!」田中さんが青ざめた顔でやって来た。「“緑のスッポン”がですか?!何故ヤツが国分に?」「直前になって入れ替えがあったんだ。本来なら向こうに釘付けになるはずだったのに、やむを得ない事情で送られるハメになったらしい。ともかく火を消すのに人が足りないんだ!何とか封じ込めるしかあるまい!」田中さんも唇を噛んでいる。1階へ降りると、激しいやり取りが聞こえた。「あたしは、不条理を指摘しただけです!!男子寮に空き部屋があるなら、そこを使わせて下さい!バラバラにされたら、連絡も容易には付きません!変えて下さい!!」美登里の金切り声は、相変わらずキンキンと響く。「ともかく、連れ出そう!Y,このままでは、他の連中の迷惑になるだけだ!行くぞ!」僕と田中さんは、素早く美登里を捕捉すると、有無を言わさずに談話室から屋外ヘ引きずり出した。

「離してよ!何をするの!」美登里は抵抗するが、僕と田中さんの手で、寮の外ヘ連行された。「初めに言って置くが、“郷に入れば郷に従え”と言うだろう?ここは、国分なんだから国分のルールに従うのが筋だろう?自己都合を押し付けて、みんなを困らせるな!」田中さんが、いつになく語気を強めて、美登里を黙らせる。「お恥ずかしいったらありゃしない!部屋割り1つであの騒ぎか?信頼を得るには、黙々と努力を積むしか無いが、失うのは一瞬でおじゃんさ!第1次隊と2次隊のみんなの顔に泥を塗る真似は許さんぞ!立場をわきまえろよ!」と僕も半分脅しをお見舞いする。「でっ、でも、各部屋にバラバラにされたら、連絡も取れなくなります!納得出来ません!大体、事前に根回しをして無いなんて、信じられない!みんな、受け入れ準備すらして無いじゃありませんか!無責任過ぎます!」美登里は悪びれる素振りも見せずに言い返した。「田中さん、向こうに連絡して強制送還の依頼をして下さい!これでは話になりませんよ!君は帰った方がいい。協調性の無い自己中心的な考えは通じないんだ!旅費は出してやる!だから帰れ!」と美登里を突き放した。田中さんは早速、O工場に電話を入れに行った。「そんな命令は無効です!不条理に立ち向かって何が悪い訳?」「アンタの理論では不条理かも知れないが、僕達には不条理とは見えないぜ!そもそも軒先を貸してもらうんだ。ありがたくお世話になるのが、普通じゃないか?」「それは男性だから言えるんです!女性の立場に立って、考えてくれなければ困るんです!」議論は平行線を辿ったままだった。“緑のスッポン”は石橋を叩き壊しても渡らない頑固者だ。田中さんが「美登里、総務部長が呼んでる!電話に出ろ!」と呼びに来た。美登里は、仕方なく受話器を取る。「Y,アレどう言う事?」千春先輩が聞いて来る。彼女は寮生会の幹部でもある。「見ての通りの頑固者ですよ!自分の我が通らないと、気が済まない悪癖があるんですよ。協調性の欠片も無い“鼻摘まみ者”で通ってます。すみませんね。皆さんの気分を害してしまい、お詫びのしようもありません。寮長さんに頭を下げて来ます。田中さん、いいですか?」「済まんが頼む!後で、1次隊と2次隊の隊長も行くと伝えてくれ!」「そんな!Yが土下座する必要は無いのに!あたしが取りなすから、止めときな!Yの責任にされちゃうよ!」千春先輩は止めに入ろうとするが、僕は聞かなかった。憮然とした表情の寮長さん達に詫びを入れて土下座を繰り返した。第3次隊の連中も必死になって詫びを入れ始める。「分かりました。もうその辺で頭を上げて下さい。Yさんに、こんな事されたのが知れたら、私が吊るされますよ!そうでなくても、現に睨まれてますから」と寮長さんは、慌てて僕の土下座を止めた。女子寮の幹部達が、僕を助け起こすと「Yの責任にしないで!やむを得ない事情があったんだからね!」と千春先輩が言い放った。「それは分かってるさ。彼が、どれだけの信頼を勝ち得ているか?を考えれば、女子寮の意向は無視出来ない。彼にかかっている期待と仕事も含めれば、罪に問える訳ないよ!」と寮長さんは言って、女性陣の追求を逃れた。「Y、ちょっといいか?」田中さんが呼びに来る。美登里はうつむき加減で、受話器を握りしめていた。「総務部長が、話たいそうだ!代われ!」僕は受話器を握りしめて話に耳を傾けた。美登利が、派遣隊に加わった経緯から説明されたが、現実に美登里が引き起こした“騒動”に話が及ぶと、総務部長の声は上ずり氷漬けになった。「信頼関係を一瞬で破壊されたんです!明日中には、国分全体に話が拡散するでしょうし、我々も釈明に追われるでしょう!Oの恥を晒す真似は許されません!部長!美登里は引き上げにすべきです!」と僕は釘を打った。「Yからそう言われると、無下には出来んな。お前さんの評価は、群を抜いて高いし期待も大きい。ウチのエースが無理だと言うなら、従うのが筋だろう。分かった!高山美登里は、引き上げとする!代替え要員は、1週間以内に派遣する。工場長、それで宜しいですか?」どうやら、会話はオープンマイクで聞いていたのだろう。工場長は、即断で引き上げを了承した。「詳細は、これから国分の方と詰めるが、そちらに迷惑をかけるつもりは断じて無い。田中さんにもそう伝えてくれ!Y,済まなかったな。大変だろうが、頑張ってくれ!」と言うと電話は切れた。「どうだ?」詫びを入れに行った田中さんが戻った。「引き上げが決まりそうです。O工場の恥は晒せない。工場長も同意した様です。我々に迷惑はかけないから、安心しろと言ってました」「やはりそうか!美登里、責任は取れ!我々の顔に泥を塗った罪は重いぞ!」彼女は蒼白で頷いた。寮長さん達の説明会が終わると、3次隊の連中が談話室から出て来た。一様に美登里を睨み付ける。1人の子が美登里の手を引いて、女子寮へ向かった。「“緑のスッポン”を派遣した方が間違ってるんだ!」「Y,済まなかったな!」男達は僕の肩を叩いて言った。「先が思いやられるな。これで終わりとは行かんだろう。爆弾を抱える覚悟はして置こう!」と田中さんは言った。実際、騒動はこれで終わらなかった。

life 人生雑記帳 - 56

2019年10月28日 14時35分43秒 | 日記
「Y先輩、1言お願いします!」千絵に言われて立ち上がったものの、僕は何を話していいか?分からなかった。すると「あたしから質問してもいい?」と神崎先輩が立ち上がった。「今の心境は?」「緊張して頭の中が真っ白です」と言うと笑い声が起こった。「美女の集団に囲まれて、戸惑ってるって感じかな?いつもの切れが無いわねー!リラックスして聞いて!別に噛み付くつもりは無いもの。鹿児島に来て1番驚いた事は?」「コンビニが近くに無い事。それと自販機が少ない事かな?」「コンビニは分かるけど、自販機はどうだろう?長野だともっと多い訳?」「公園や道端や駅に“これでもか!”ってくらいにあるので、そう感じるのかも知れません。タイプもモデルも違いますし」「どう違うの?」「歩道にはみ出さない様に全体的に薄く作られてますね。“スリムタイプ”と呼ばれてますよ。品数も多いですし、地域限定品もありますね。黒ビールなんかは向こうにしか無いかも」「黒いビール?金色じゃなくて、真っ黒?」「炭みたいに黒い訳では無いですよ。茶色のやや黒みがかった色って言えば分かります?」「何となく想像してるけど、黒は予想外だわ。他に無いモノは?」「インスタントラーメンの醤油味と塩味ですね。味噌味は見かけますが、他は陰も形も無いのがショックでした」「ここは、豚骨が主流だから諦めて!貴方の基本的戦略は?」「風林火山ですね!」「武田信玄か。原典を言える?」「“疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵略すること火の如く、動かざること山の如く、知り難きこと陰の如く、動くこと雷振の如し”」「流石、Yだわ!スラスラと出て来るのが貴方らしいわ。現代語訳を言える?」「物凄く簡単に言うと“進むときは風の様に早く、機を待つときは林の様に静かに、攻めるときは火が燃え広がるように急激に、じっとしているときは山の様にどっしりと、自分自身は暗闇の中にいる様に気配を消して、動くときは雷鳴が轟く様にドーっと、行動にはメリハリを付ける事が肝要であり、中途半端はダメだ。1つ1つの行動に全力で取り組まなくてはいけない”と孫氏は言っています」「やっと乗って来たじゃない!それでどうやって勝つのよ?」「誤解しないで欲しいんですが、孫氏の兵法の基本は、“戦わずして勝つ”なんです。如何に兵力を温存して相手を挫くか?時には引く事も考えるように、孫氏は言ってます。“撤するは恥にあらず。勇気を持って引くに際しては戦いを避けよ”とも言ってます。もっとも、今は引いてる場合ではありません。勇気を出して戦わなくてはなりませんよ。そのために私は選ばれたのでしょう。“安さん”が言ってました。“最初の2ヶ月は思う通りにやって見ろ!笛吹けど踊らずか?全員が踊るか?俺は後者に賭ける!お前をあそこに据えた真価を見せてみろ!必要な支援は、直ぐにしてやるから遠慮なく言うがいい!”と。ですが、正直に言うと引き継いだはいいが、何から手を付けて行くか?最初は全く分かりませんでした。しかし、問題点は直ぐに見えました。余り前任者の事を悪く言うのも気が引けますが、岡元さんは“放牧状態”で仕事をしてましたよね?統率を取って居なかったに等しい状態なんです。だから、“おばちゃん達”もお喋りに夢中になると手が止まるし、ふざけ始める。これを是正するとなると、相応に手がかかるし、時間も必要です。もう1つは、“情報の伝達”を怠っていました。朝礼で伝えるべき事を伝えていなかった。これは、意思疎通が全く取れていない証拠でもあります。そこで、まず考えたのは、伝えるべき情報を“漏れなく伝える”事です。朝礼のやり方は変えていませんが、関係がある事は、例え些細な事でも余す事無く伝える様にしてます。そして、みなさんご存じの“ボード”です。あれの目的は“情報の可視化”です。“言った、言わない”の様な不毛な争いを無くす事も勿論ですが、“次に自分は、何をやらなくてはならないか?”を常に意識させる事も含まれてます。“おばちゃん達”を動かすには、力で動かすのでは無く“自主的に動いてもらう”方が角が立たないで済みます。今、自分は国吉さんに“弟子入り”してますが、そこから学んだ事は順次横へ広げるつもりです。“おばちゃん達をマルチに使う”事が最終目的ですが、並行して“1極集中を避けて楽をさせる”目的もあります。人間は楽をする事を覚えれば、もっと楽をしたがるものです。楽をしたいなら、大勢で手早く片付ければいい。そうすれば、検査工程にもっと早く製品を送り込めるし、余裕も生まれる。質が上がれば受注も増えるでしょう。少しづつではありますが、流れは良い方向に向かいつつあります。みなさんには、今しばらく待って欲しいとお願いしたいのです。意識を変えれば、必ず好循環が生まれます。後は、継続して取り組むのに加えて、意思疎通をしっかりと取り続ける事です。鉄の扉を引き戸に変えるだけでも、溝は確実に狭くなるでしょう。僕が“こうしましょう!”と押し付けても、人は動きません。“動くように仕向ける”事で、僕は立ち向かっています。まあ、褒められた作戦ではありませんが・・・」と言うと、みんなは真剣に聞いていてくれた。「なるほど、こんな深慮遠謀が隠れていたのね。貴方なりに“おばちゃん達”を動かす算段をしてくれていたとは。確かに雰囲気は変わったわね。品証もそれは肌で感じる?」と神崎先輩が細山田さんを見た。「明らかに違いますね!今までは“厄介者”と見られているのをヒシヒシと感じましたが、今は“今日は何を取りに来たの?これ、持って行きなさい”って感じですから、行くのも苦にならなくなりました!実里は特にそうじゃない?」「ええ、Y先輩が直ぐに対応してくれるので、助かってます!」「あたしも度々お邪魔してるけど、トゲトゲしい雰囲気が和やかになりつつあるのは感じるわね。さあ、重たい話はこれくらいにしましょう!自由に聞いていいわよ!Yさんも座って飲んで!」と神崎先輩が宣言すると、女の子達はガヤガヤと話し出し、飲み始めた。「まずは、一献」と神崎先輩がお酌に来た。「恐縮です」と言い受けると「今まで、あたしに臆す事無く、真正面から受けて立ったのは“安さん”だけだったの。貴方はひょっとして信玄の生まれ変わりじゃない?“風林火山”の計で、あの手強い“おばちゃん達”に何も言わせないとは、驚き以外の何物でも無いわ!」と言われる。「僕には“最強の騎馬軍団”を率いる力はありません。ただ、聞いて信じて戦うだけですよ。まだ、道半ばですがね」と返すと「それでいいの!聞いてくれる。信じてくれる。どれだけ、あたし達が望んでいたか?今は分るでしょう?貴方は“自分らしく”走りなさい!どこまでも貴方を追って行くから!頼むわよ!」と手を重ねて言い含めた。彼女が去ると「Y先輩、どんなパンティが好みですか?ちなみに、今日はピンクのチェック柄ですよ!」と千絵がスカートをめくる。恐ろしいギャップだが、千絵らしい質問だ。「あたしは水色のレースよ!」と千春先輩も見せ付けるべくスカートをめくる。「ねえ!」「どっちが好き?」とステレオ攻撃を受けてしまう。「じゃあ、逆に聞くが“勝負パンティ”は何だ?」反撃するならこれしか無かった。「ふむ、数ある中でとなると・・・」千絵がもたついていると「Tバックの赤いヤツよ!」と千春先輩が先制攻撃を見せた。「先輩!入るのあるんですか?」と千絵も切り返す。「あたし、そんなにおデブじゃないもん!サイズ合うの持ってるから。Y―、見たいでしょ!今度お姉さんと遊んでー!」と抱き着かれる。だが、千絵も負けてはいない。膝元に座り込むと「Y先輩は、あたしのモノ!」と千春先輩の腕を引き剥がして行く。「それは無いでしょう!Yは共有財産なんだから!」と両者での争いに発展し始める。僕は“紛争地帯”から早々に逃げ出して、田尾のいるテーブルに潜り込んだ。「あーあ、派手にやってるねー。酒が入ってるから収拾が付くのは簡単じゃねぇだろうよ!」と田尾も気圧され気味だ。「もう、見てられないから止めて来るね!」と岩崎さんが調停に乗り出した。「Y、“おばちゃん達”をどう操縦するんだよ?」と田尾が突っ込んで来る。「操縦はしないよ。“自主的に従う様に仕向ける”のさ。力でねじ伏せようとすれば投げられるか潰さるが、自分の意志で付いて来るなら手を差し伸べる。極論にはなるが、脱落者が出ても仕方がないと考えてるよ」「ヒュー、そこまで腹括ってるのか?」「ああ、付いて来れなければ足手纏いになるだけだ。非情にならなきゃいけない事もあるだろうよ」「反発喰らってもか?」「勿論、既に予測は立ててあるさ。3分の1は入れ替わる可能性は否定しない!」「古狸は一掃するか、一気に塗り替えるつもりだな!相変わらず思い切りがいいじゃねぇか!まあ、1杯やりなよ!」と焼酎のお湯割りを差し出した。「これからの活躍を祝して!」男2人で乾杯をしていると、品証の2名が押しかけて来た。細山田さんが田尾に、実里ちゃんが僕に近寄ってお酌をしてくれた。「“山口組”の抗争は、しょうがないよね。2人共、Y先輩と遊びたいだけなのに、どうしても主導権を勝ち取りたいらしいわね?」細山田さんが言うと「御大将を差し置いて、何やってんだ?まあ、実害がねぇだけマシだけどさ!」と田尾は投げやりに返す。「Y、矛を収めさせる手立てはあるのか?」「ある訳ないじゃん!勝手にやってるんだから、火に油を注ぐ様なもんさ。あーあ、また飲んでからやり合ってる!こうなると最悪だ!」僕は陰に隠れる様に身を潜ませた。「Y先輩、こっち、こっちへ!」実里ちゃんが盾になる様にして僕を奥へと逃がしてくれる。「そろそろ、バックレる頃合いか?Y、幸い誰も見ていねぇ。まずは、一服着けてからにするか?」田尾がライターを取り出した。「外で一息付こうか。こう騒がしくちゃ落ち着けないからな!」田尾と実里ちゃん達と席を外すと、僕らは外へでてタバコに火を着けた。中の喧騒がウソの見たいに、静かに街は夕暮れ時へ向かっていた。「今は、喧嘩をやらかしてるが、千春も千絵も岩崎も神崎先輩もアンタの手腕に期待してる。無論、俺達もそうだ。返しと検査は一体で運用しないと、これから増々苦しくなるし、いずれは行き詰まりになっちまう。そうなる前に、アンタがどれだけ見せてくれるか?“安さん”の関心もその1点だ。御大将!采配に抜かりはねぇだろうな?」「日々の積み重ねがモノを言うだろう。“おばちゃん達”も抜け目なく見てるしな。失敗は許されないのは承知してるが、焦ったら負けだし手綱を緩めてもマズイ!ちょうど微妙な時期に差し掛かってるのは、間違いないが裏を見れば、思い切って動ける時期でもある。そろそろ、鞭を入れるタイミングかもな!」「それは、犠牲を伴ってもか?!」「さっきも言ったろう?3分の1は脱落しても仕方ないと。“古いしきたり”でしか動けないとしたら、これからのスピードには足手纏いになるだけだ。“新しいやり方”に慣れなければ、置いて行くしかない!時代の流れは速いし、弱者には優しくない!事業部の方針に乗り遅れないためにも、ピッチは上げるしかないんだよ!」「非情と言われてもか?」「ああ、それが僕に課せられた使命だとするならな!」「でも、Y先輩はそんな事はしないと思います。みんなを拾い上げて荷車に乗せてでも、時の流れに立ち向かうつもりでしょう?」細山田さんが言う。「あたしも、そう思います。先輩の性格からして、弱者を見捨てるとは思えません!」実里ちゃんも同調した。「見抜かれてるぜ!多分、“おばちゃん達”も抜け目なく感じてるだろうよ!鬼の面は似合わねぇ。“仏の参謀長”だったんだろう?」「そう言われた事もあるな。もう、昔だが・・・」「だとしたら、“仏の参謀長”を思い出せや!戦う姿は似合わねぇよ!じっくりと策を巡らせてジワジワとやればいい。“おばちゃん達”を敵に回したら、元も子もねぇだろう?」田尾は核心を突いて来た。「いずれにしても、流儀は僕の流儀でやるさ。それだけはハッキリと言える!」「その言葉を忘れるな!自分に対して、他人対しても譲れない流儀を貫けよ!御大将!」田尾の言葉は心に響いたモノになった。“自分の流儀を貫け!”と言うセリフは、最後まで僕を奮い立たせる指針となった。「ここに居たの?ごめんね!もう騒ぎは収まったから飲み直さない?」岩崎さんが呼びに来た。「よし、もう1度乾杯からやり直しだ!」田尾の一言で僕らは部屋に戻った。宴会はその後も盛大に盛り上がったし、僕は散々に女の子達に絡まれ続けたのは言うまでも無い。

そして、月曜日。眠い目を擦り、痛む頭を抱えて寮の玄関に立つと「オス!」と田尾がやって来た。だが、いつもの切れが無い。「昨日、何時に帰って来たか覚えてるか?」と靴を履きながら聞いて来るが「記憶が飛んでるんだよ。何時だったかな?目覚ましはセットしたらしいが、どうも靄がかかってるんだよ」と返すと「同じかよ。結局、最後まで付き合ったらしいが、どうもイマイチ思い出せねぇんだよな!」と言う。「3次会でカラオケに行ったのは、薄っすらと思い出せるが・・・」「確か、千春と千絵がマイクを離さなかった様な記憶があるぜ。それ以降はどうしたんだよ?」「・・・、分からん!」2人して工場へ歩き出すと、前を行く岩崎さんと永田ちゃんが振り返って「おはよー!」と元気な声を上げた。「千絵と千春は?」田尾が聞くと「それがね、2人共“化粧に時間がかかるから先に行って”って言うのよ。顔中、傷だらけなのを隠すのに必死なの!」と岩崎さんが笑って言った。「でも、“何で傷だらけなんだろう?”って口を揃えて言うの!喧嘩した事、完全に忘れてる見たいよ!」永田ちゃんが可笑しさを隠す事無く笑いながら言う。「都合の悪い記憶だけが抜け落ちてるとは・・・」「ノー天気なヤツらだぜ!」僕等は、お手上げのポーズを取るしか無かった。「カラオケで20曲を熱唱したのに、それもすっかり抜け落ちてるの!全くどう言う事かしら?」岩崎さんも首を捻るが、当人達にしか分からない事だろうと思った。多分、“安さん”の雄叫びを聞けば目覚めるはずだ。僕等に遅れる事5分後、千絵と千春先輩も到着し、朝礼に備えて整列を終えると「昨日はごめんなさいね。今日からまた、しっかりと頼むわね!」と神崎先輩が言いに来た。「お任せください」と言うと彼女はホッとしたのか微笑んで列に戻った。“安さん”のご機嫌は相変わらず斜めで、太く大きな声が頭の中で反響し続けた。今週を乗り切れば、いよいよ6月に入る。着任から1ヶ月が過ぎ去った事になるのだ。しっかりとメモを取り、パートさんの朝礼の“種”を拾い集める。月末でもあり、朝礼は1時間45分を要してやっと終わった。パートさん達が出勤して来るまで45分しか無い。ボードに書き込みを入れ、治具を用意して、炉から出た製品を仕分ける。その間に、徳田、田尾の両名が“本日の出荷予定と不足分”をボードに書き入れた。“おばちゃん達”は、早い組と遅い組に別れていた。早い人は8時15分には到着するし、遅い方は保育園へ子供さんを預けてからギリギリに入って来る。早く来てくれる人にも手伝ってもらい、何とか朝礼に漕ぎつける事が月曜日の宿命だった。型通りの朝礼を終えると、みんな三々五々に仕事を始める。検査担当のパートさんは、鉄の扉の後ろへ急いだ。僕も国吉さんの隣で“修行”に精を出す。スピードでは、まだ国吉さんに及ばないが、基本的な手技は大体掴みつつあった。「Yさんは筋がいい。後は、焦らんで確実にトレーに受け止めるだけよ」と“師匠”は言う。「Yさんは、全体を見ながらでいいのに、どうしてあたしに“弟子入り”したの?」と国吉さんが言い出した。「岡元さんの“遺言”なので。“オールラウンドにならんといかん!”って言われてますから」と返すと「それにしても、非常に熱心にやられるから、教えることはもう無いよ!」と言われる。「いえ、まだまだ盗ませてもらいますよ!」と言うと「家には来ないでね!」と笑われる。他のパートさん達も釣られて笑い出す。しかし、手を止める人はもういない。少しづつだが、ここは変わろうとしている。「Y、悪いけどF社の銀ベースとキャップ、至急寄越してくれるか?」徳田が急遽の返しを要請して来た。「了解、じゃあ手分けして一気に返してしまいましょう!」国吉さんと僕が銀ベースをその他の2人でキャップをトレーに返して、徳田に手渡す。その間、およそ20分。1人なら倍の時間を要する作業だ。「Y、サンキュー!」田尾が笑顔で検査工程へ送り込む。「こう言う事か!1人より2人。3人なら15分で終わるものね。Yさんの目論見は、楽に早く終わらせることなの?」と国吉さんが言う。「そうですよ。今みたいな“飛び込み”が今週は多いはずです。通常の流れもやりながら、“飛び込み”にも臨機応変に答えて行く。そのためには、複数の手が欠かせません。僕がマルチに作業する事で、少しでも手厚く構えれば、みなさんの負担は減りますよね?」「そうだね。そのために“弟子入り”したの?」「ええ、どうせなら少しでも楽したいじゃないですか!後ろに“借り”を作って置けば、大目に見てくれる場合もあるでしょうし、苦情も減る。険悪な空気より、和やかな空気にしたい。その一心ですよ」「ふむ、いいとこに目を付けるわね!“借り”を作るか。気分もいいよね!」担当してくれた方が頷く。「ですから、今後もみなさんから、色々と盗ませていただきますよ!」と言うと「警察に突き出そうか?」と笑われる。「家には侵入しませんから!」と言うと更に笑い声が広がった。「やってくれるじゃない!Yの真骨頂はこれか!」隠れて様子を伺っていた岩崎さん言うと「こんなモノでは終わらないわよ!彼の力はまだまだのはず。知らずに操縦されてる“おばちゃん達”が本気になれば、あたし達もずっと楽になるでしょうよ!」と神崎先輩が返した。目に見える成果は日に日に挙がっていった。

金曜日、月末最終日も何とか乗り切って、見事に月初予定の達成が成されると、僕は心底ホッとした。“足を引っ張らずに済んだ”と言う安堵感に浸れたからである。午後には終礼で目標達成が報告され、“安さん”のご機嫌も少しは良くなった。後片付けと来月の予定の書き込みに追われていると「この野郎!冷や冷やさせやがって!だが、口やかましい“おばちゃん達”を見事に使いこなしたのは、僥倖だったな!Y、どうやって躍らせた?」と“安さん”が怒鳴り込んで来た。「躍らせてはいません。“自主的に動いてもらった”だけです。やらなければならない事は、ここに全て書き出してあります。これを見れば誰でも分かるし、“飛び込み”があっても慌てなくて済みます。“可視化”した事で、自主性が出てきましたから、少しは良い方向に向いた結果です。眠っていた力を呼び覚ましたに過ぎません」と言うと「ふん!小賢しい物言いだ!お前が仕掛けた策が当たったにも関わらず、それを殊更に言わないとは、どう言う了見だ?!」「まだ、半月しか経過していませんから、成果に乏しいのが実情です。ですが、来月はもっと貢献出来るように努力します」と返すと「過少評価をするな!岡元が仕切っていた頃には、検査で手が空いて困っていたんだぞ!それが月末の今週、検査は誰も手が空いていなかったじゃないか!徳永も顎が外れるほど呆れていた!“Yが仕切ったら流れが変わった!”とな!俺の目に狂いは無い!お前はここの歴史を塗り替えたんだ!来月はもっと驚かせろ!徳永が腰を抜かすくらいにな!」と言うと、僕の頭をくしゃくしゃにして、豪快に笑って去って行った。「褒められたのか?はたまた、発破をかけに来たのか?どっちだ?」と言っていると「両方だよ!Y、お疲れ様でした!」「嵐の月末を、意図も簡単に乗り切った感想は?」と千春先輩と岩崎さんが顔を出した。「何とか、無事にやり切った!その一言ですよ。少しは余裕が出てますか?」と言うと「余裕も余裕よ!月初にドカンと1発売り上げが立つ!今までこんなウハウハな事はあった試しもねぇよ!」と田尾も言いに来る。「改革の成果は、確実に積みあがってるわ!あたし達もがんばらなくちゃ!」と岩崎さんが頭を撫でた。「Y-、今日これから空いてる?」千春先輩が聞いて来る。「そうですね、後、30分もすれば上がれますが、どうしました?」「ちょっと付き合ってよ!千絵の承認も取ってあるからさ!お姉さんと遊んでー!」と千春先輩に抱き着かれる。「岩崎さん、これどう言う仕組み何です?実里ちゃんともそうですが、次々にお誘いが来るのは何故です?」田尾が引っ込んだのを見計らってから、彼女に問いただすと「知らぬはYだけね。実は、大奥が出来てるのよ!」と彼女は悪戯っぽく笑って言う。「Yをこちらに頂くに当たりまして、“既成事実”を積み上げる事に決めちゃったの!誰かに“ヒット”したらYだって置き去りにはできないでしょう?何とかして残る手を考えるはず。それを狙って恭子とあたしが結託してるのよ!」と千春先輩は恐ろしい事を平然と口にした。「前にも言ったけど“正室”はあたし。他は“側室”だけど、みんな順番にYの“子種”をちょうだいするの!まだ、“当たり”が出ないのが気がかりだけどね!」と2人して魔性の微笑みを浮かべる。「だから、本日は、あたしの番なの。30分後に帰りましょう!後は、黙って付いて来て!」と千春先輩はノリノリだった。「大奥とは・・・、いつの間にそんな組織を?」「簡単に帰すと思ってるの?あたし達は帰すつもりは、更々無いからね!さあ、大車輪で片付けてよ。あたし待ちきれなくてソワソワしてるんだから!」岩崎さんも千春先輩も意に介す風が無い!どうやら途轍もなく深いワナに落ちたらしい。釈然としない事も多々あるが、彼女達は“帰任阻止”で一致して結託したらしい。「無駄な抵抗はしない方がいいですね。分かりました。さて、急いで片付けるか!」僕は半ば諦めつつも片づけを始めた。千春先輩と寮に戻って15分後、僕は先輩の車に連れ込まれたのだった。「海岸へ行くよ!」赤いスタリオンは、グングンと加速して行った。

国分の街は、錦江湾の最も奥まった場所にあった。擂鉢状のカルデラの北端に広がっている平地に形成されていた街である。猛加速で疾走した赤いスタリオンは、海沿いの空き地に停まった。「下井海岸よ。大丈夫、呼び名は怪しいけど、墓場じゃ無いからさ」と千春先輩は笑った。砂浜へ出ると「Y、高校生活はどうだったの?」と聞かれた。僕は、道子と雪枝との再会から始まった高校時代について、ダイジェストを話した。「へー、意外とドラマチックじゃない!小学校以来の再会かー、お互いに意識はしてたでしょ?」「まあ、それなりには。でも、僕には幸子が居ましたからね。名前の刺繍が入ったネクタイを交換して、3年間そのままでしたし、道子と雪枝もそれぞれにパートナーを見つけて付き合ってましたから」と返した。今、僕が鹿児島に居るとは、誰も想像しては居ないだろうが・・・。「あたしは、最初に総務に入ったんだけど、“何か違う”ってずっと思っててね、半年後にサーディプ行きを志願したの。そして、恭子と出会って彼女の“更生”に手を貸したの。当時、“カミソリお恭”って言われてたけど、内面は意外にもナイーブで心は傷だらけだった。この地域では“超有名なワル”で名前は轟いてたけど、今は見ての通り、普通の女の子よ。そして、Yの“正妻”を自負してるの。ちょっと強引なとこもあるけど、恭子は誰よりもYに信頼を寄せてる。最初に10人で自己紹介した時に“アイツが欲しいな”って言いだして、その通りに配属先が決まったから、恭子にしてみれば“してやったり”だったのよ。その辺は聞いて無いでしょう?」「ええ、全く聞いてません。最初からハメられてたんですね」僕等は少し小高い草地に座った。心地いい風が吹き抜けている。千春先輩は白いロングスカートに水色のタンクトップ1枚というラフな服装で、ブラがチラチラと見え隠れする。缶コーヒーを開けると「そう言えば、Yは大抵ブラックコーヒーだよね?何か理由があるの?」と聞かれる。「何せ猫舌なので、例えば、ファミレスとかに入っても“アイスコーヒー”なら、直ぐに飲めるでしょう?そのクセがあるからですよ」と言うと「如何にもYらしい理由だね!」と笑われる。今頃は第3次隊の連中は、眠れぬ夜を過ごしているだろう。月曜日には50名が新たに着任するのだ。その内3分の1は女子社員で構成されている。僕には1ヶ月のアドバンテージがあるが、いつ追い越されるか分からない。7月に着任する第4次隊を持って派遣部隊全員が揃う。総勢200名が各事業部に分散して半年の任期で働くのである。工場に残った人々も大変なはずだ。「Y、月曜日に着任する部隊から、1人品証に配属されるって知ってる?」「いえ、初耳ですよ。どこからネタを仕入れてるんですか?」「それは内緒よ!秘密の情報網を駆使して、調べてるの。さて、付き合ってもらうわよ!今日はあたしのモノなんだから!」千春先輩の目が悪戯っぽく輝いた。腕を絡ませると車へと歩き出す。「3回戦までは根性見せてよね!」と言いながら胸を押し付けて来る。千春先輩は、少しポッチャリとしているが、底抜けに明るいのがチャームポイントだ。車のドアを開けると、キーを放って寄越す。「Yが行きたい場所へ連れてってよ!」と言う。僕は垂水経由で鹿児島市内を目指して、スタリオンのハンドルを握った。「Y、これ見て!」千春先輩がスカートをめくってパンティを見せ付ける。赤いTバックは“勝負パンティ”だった。「これからは、“ちーちゃん”って呼んでね。あたし、離さないから!」彼女もマジで仕掛けてきていた。夕暮れが迫る中、僕は思い切ってアクセルを踏んだ。スタリオンは即座に反応して加速を見せた。ちーちゃんとは4回戦まで付き合うハメになった。寮に戻る頃には、日付が変わろうとしていた。