11日に起きた東北・関東大地震の最中、私は職場の機械浴室で入浴介助中でした。女性入所者Mさんが入浴用リフトを利用して浴槽で温まっていたところに地震がやってきました。浴室内で最初に地震に気づいたのは入所者Oさんです。
『あれ?揺れてる?』
車椅子に乗り、次の入浴の順番をじっと待っていたOさんが一番感応しやすかったのでしょう。その何秒後か憶えていませんが、すぐに私たちも感じました。今まで経験したことのない強い揺れです。多摩地区でも震度5弱~強の震度が観測された揺れは、どのくらいの間、揺れていたのかも分かりません。数分の間揺れていたように感じました。鉄筋コンクリート造の建物がミシッミシッと軋み、不気味な地鳴りも聞こえたような気がします。
ともかく入所者の安全を確保するために各職員が即座に動きました。私は、目の前のMさんの乗ったリフトを浴槽から出し、車椅子に移乗可能な場所に移動しました。Mさんが出た後の浴槽のお湯が大きく波を打っていました。
Oさん他、入浴待ちの方々が安全なことも確認し、各所の安全確認に回っていた介護主任に、
『浴室内、安全確認!』
と、大声で伝えました。同じような確認の声は各所から聞こえてきました。声のかけあいを速やかに行い、施設内の全てで入所者・職員の安全は短時間で確認されました。
それから6日後の17日(木)、私たちの施設の地域は15:20~19:00の間、最大3時間にわたる計画停電が予定されていました。当日の14時から[処遇委員会]が開かれました。この委員会は、通常は入所者の介護の方針・手法などを議論するための場ですが、この日は通常議題から停電への対処へと変えました。
私たちの施設では17時台に夕食を提供しています。その只中に停電が起きるとなると、調理から配膳、食事介助まで影響を受けます。介護・厨房・医務が連携を密にしないと対処できません。委員会では食事時間を通常より早めること、出勤者一人一人の持ち場を決めて何を担当するのかを決めて各部署に一覧表を作成しました。
15:30、停電は何の知らせもなくいきなり始まりました。非常用発電は作動しますが、それは廊下の蛍光灯が弱々しく光る程度で、山間にある私たちの施設は、夕方に向けてどんどん暗くなる時間帯です。暗がりでの介護は危険が伴いますから、排泄介助から食事のための離床介助、全ての介護業務を30分以上前倒しで行いました。
配膳は16:45に始めました。
私たちの施設は厨房と食堂が1階にあり、入所者60人中52名の方々が2階に居室があります。エレベーターが動かないため食堂への移動はできません。1階の入所者の方々はいつも通りに食堂で召し上がっていただけますが、2階に入所する方々には、急遽、2階の[機能回復訓練室]に30名ほど、残りの方々はその最寄りの廊下と居室を食堂の代わりに充てさせていただきました。
厨房からの2階への配膳は人海戦術です。栄養士が厨房から台車に載せたお膳を階段付近まで出し、そこから事務職員1名と男性職員4名が階段各所に立って2階へリレー、2階で施設長と女性職員が受け取り、医務職とともに入所者のもとに配膳、という形を取りました。こぼれやすいお味噌汁やお茶は、鍋とヤカンを予め2階の事務所に上げておき、そこで調理員が注いでから別途に配膳しました。
食事中は、普段以上に入所者への[声がけ]で不安を持たれないような配慮、入所者同士が近接した狭い中での食事の安全確認など、いつも以上に気を配らなければなりませんでしたが、完全に日没する前には食事後の居室への誘導、臥床介助も完了し、暗闇になる前に安全を確保できました。この時間帯、施設長以下16名が従事していましたが、総員で対応した甲斐があります。
暦で見ると、東京地方の17日の日没は17:50になっています。私たちは次第に暗くなる施設内の巡回を続け、入所者お一人ずつに声をかけて回りましたが、心配したほど入所者の皆さんの多くは不穏になられていませんでした。
『なんでこんなに暗いのぉ~?』
と、女性入所者Iさんが私に声をかけて来られました。Iさんは軽い認知症、通常歩行可能な方です。
私 : 『あのね、電気が止まっちゃったんだよ。でもね、きっともうすぐ元に戻るからこのまま待っていてね』
Iさん:『いややわぁ...なんだか戦争のときみたい...』
暗い廊下を行き来するIさんは、つい先日に起こった大きな地震のことは忘れてしまい、遠い昔の記憶は甦ってしまった様子です。
18:20、通電が再開して施設の中がパッと明るくなりました。全員が安堵した瞬間です。最も寒くなった居室は室温が14度台まで下がっていましたが、暖房も再稼働し、徐々に暖かさも戻ってきました。再度、施設内の安全確認をして回ってから、その日の日勤業務を終えました。
最新の画像[もっと見る]
- 一心亭(東京都奥多摩町 蕎麦店) 10年前
- 一心亭(東京都奥多摩町 蕎麦店) 10年前
- 一心亭(東京都奥多摩町 蕎麦店) 10年前
- 一心亭(東京都奥多摩町 蕎麦店) 10年前
- 一心亭(東京都奥多摩町 蕎麦店) 10年前
- 一心亭(東京都奥多摩町 蕎麦店) 10年前
- 一心亭(東京都奥多摩町 蕎麦店) 10年前
- 一心亭(東京都奥多摩町 蕎麦店) 10年前
- 一心亭(東京都奥多摩町 蕎麦店) 10年前
- 節分 10年前
一般的な仕事に比べても停電は辛いと思うのですが、整然と作業されたのはスゴイと思いますよ。
とにかく、皆さんがご無事で良かったです。
自宅はまだ、一度も停電していません。
救急病院とか、警察署があるからではないかと思います。
『備えあれば憂いなし』と言われますが、まだまだ危機への備えが足りないことを実感してしまったのがこの数日です。
実態は、とても整然とした流れではありません。
今回の一連の非常事態はちゃんと記録して、『もしもの備え』に活かしたいと思っています。
停電が複数回あった地域、一度もない地域と差が出てきましたね。平等に、とするのは難しいようですね。
そして、気になるのがそのみなさんの通勤の足です。
非常事態でありますから、本当に個人のレベルでガソリンをだらだら買いあさるのはもっと早い時期に強制的にやめさせてほしかったと思います。
ご利用者の皆様、そして職員の皆様のご無事をお祈りしてます。
被災地から介護職員の派遣を求める声が届いていますが、派遣してしまうと自らの介護が成り立たなくなってしまう施設がほとんどでしょう。歯痒さを感じてしまいます。
通勤手段は、私たちの施設がいくら山間にあるとはいっても、本数は少ないながらバスが通っています。いざとなれば時間を調整して電車とバスを使って通います。
職員の中には、片道7kmほどの距離を自転車通勤する者も出始めました。『健康的で良い』と言っています。何事もポジティブに考えるべきでしょう。
職員は皆、元気です。
『知恵のある奴は知恵を出そう。力のある奴は力を出そう。金のある奴は金を出そう。“自分には何もできないよ”って奴は元気を出せ!』
という松山千春さんが震災に寄せた言葉を心にとめてがんばります
施設でも病院でも、人命をお預かりしている職業柄、non_Bさんはじめ職場の皆様も、ご自身の身の上以上に、入居者さんに第一に気を使われたこととお察し申しあげます。
我が職場は計画停電がおこると言われて4日目の木曜日(なのでnon_Bさんと同じですね)の午後6時半~午後9時半が初日でした。
真っ暗ではありましたが、逆に配膳・下膳も既に済んる時間帯なので、後はナースコールが鳴らない中でどうやって患者さんの容態変化を察知するかが課題でした。
我が職場も連日のように、対策会議を開きました。実際に停電が起こるまでの間に少し日にちがあったので、医局や事務室や職員に呼びかけて20本のデスクライトを供出させ、初日は廊下とナースステーションの明りをある程度確保できたのと、配膳訓練等をする間があってよかったと、もろに夕食配膳時間にあたった、停電二日目には思いました。伝達の掛け声は訓練しなくても自然とかかりますね。
とは言っても、non_Bさんも書かれているように、現実問題となると実際は整然とした流れではなく、予想外のことも沢山おこりました。しかしこれはあくまでも「計画」停電で、予想されていてすら、この有様なのです。普段の防災訓練など、ほんの形式だったと、今更のように思います。被災地の方々には申し訳ないのですが、今私たちは、ほんの少しの痛み分けをすることで、大変な学びをさせていただいているのだと思っています。
この方法が効率的だったとか、そういう情報交換が出来る仕組みづくりができるといいですね。
明日を含めて、この3日間は回避されたので一息つけました。火曜日からはまた夜から始まります。長丁場なので、お互い疲れないように、がんばりましょう。
施設では、食事の最中の停電は、入所者の方々のほとんどが二か所に集まれましたが、就寝中など、各居室に戻られてからの停電では、ナースコールが鳴らないことへの対応が難しくなりますね。
声を出すことができる入所者の方なら声がけの励行だけでも安否が確認できますが、そうではない方も大勢いらっしゃいます。様子を確認するための巡回も、いつもより念入りになります。
今回の停電騒動は、今更ながら電気に依存しきっている環境を実感してしまいます。
自然な伝達の声がけなど、『形式だけ』の今までの防災訓練の経験が活きた部分もあったと思います。
予想外の事態への対応も、防災訓練の経験のいくつかが応用できると思いたいです。
今日は夜勤なのですが、計画停電は、記事に書いた17日と同じ時間帯が予定されています。前回と同じ動きをすれば良いので心構えはできているはずですが、やはり緊張してしまいますね。
休めるときにキチンと休む。これもまた必要だと思います。
どうぞご自愛ください。