伯父の戦記 16 「艦砲射撃三時間四十五分の地獄_3」

2006-03-22 | 伯父の戦記



 伯父の戦記、「艦砲射撃三時間四十五分の地獄」の3回目です。
 今回は、伯父が参加したニューアイルランド島「カビエン」の地での戦闘の真只中、海上の米艦隊からの集中砲火を受け、米兵の上陸が迫ってくる局面です。慌しく作戦を伝える伝令兵が登場し、戦闘現場の慌しさを記した部分になります。

 今回の画像は本文とは関係はありません。桜が咲くより先に開花したミズキ科の「サンシュユ」という黄色い花を咲かせる樹木の写真です。

 お願い:今回の稿は連載形式を採ったものになっています。私のブログを初めてご覧いただく方は、このブログの左側のメニュー中のカテゴリーに「伯父の戦記」があります。そちらをご参照いただいたうえでこの稿をご覧いただければ幸いです。

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 兵達の顔は数時間の恐怖と疲労のせいか、また土砂にまみれた顔は別人のごとく人相が変わっている。
 砲弾は今も無気味な唸りと共に頭上を通過、首を縮める、轟音炸裂地響きに体が踊る。土砂が容赦なく陣地を包む。誰やら訳のわからぬお題目を口走る。恐怖の余り小便を漏らす者もある。何か哀れを感じる。しかし大半の兵達は観念したのか、恐怖から諦めの境地に達したのか、しごく冷静さを保っている。
 突然指揮所より伝令兵が弾雨の中、我が陣地に飛び込んで来た。電話線が寸断されたのか、「全員直ちに陸戦の準備をなせ」と伝え、再び弾雨の中飛び出して行った。
 「とうとう敵さんの上陸か」、来るべき時が来たのだ。覚悟は出来ている。何も此処へ来てためらう事はない。潔く死するのみと心を決める。
 唯、心残りに思う事は父母の事である。長い年月、慈愛と労苦を以って育ててくれた父母に対し、何一つ孝行らしい事も出来ず、この23年の人生が終わるのかと思う時、何か切なく、寂しく、情けない気持ちが胸の片隅に残る。
 轟音炸裂、現実の世界に戻される。そこには一人兵としての自覚と忠誠心が電流のように体の中を走る。「さぁ忙しくなって来た」と防空壕から這い出る。硝煙が鼻をつく。兵達の今までの悲愴な顔は何処へやら、動きは激しく活発になり、小銃、手榴弾を手にし、敵の上陸を待つ。敵艦隊は今なお間断なく撃ち込んでくる。轟音炸裂硝煙が鼻を突く。
 再び第二の伝令が飛び込んで来る。「各陣地は南側の円体を崩せ。機銃が水平撃ち出来る状態となせ。機銃を仰角50度となせ。」と伝える。この角度で射撃する事は、敵の上陸予定とされる地点に25ミリ機銃弾が雨あられと落下炸裂し、上陸部隊の兵員殺傷に大きな効果を上げる角度である。
 こうして陸戦の準備は進めれている。しかし三時間を経過するも砲弾は未だ衰える事なく、つるべ打ちに撃ち込んでくる。轟音炸裂、弾片落石が容赦なく風を切る。兵達は蟻の如くせわしく動いている。隣の陣地から突然異様な声がした。誰か気でも狂ったのではないかと気に係る。
 この時、再び私の脳裡に今まで考えた事も、想像すらした事のない、生々しい現象が過ぎる。それは敵が上陸し激しい戦斗となり、小銃弾は撃ちつくし手榴弾も使い果たし、最後は白兵戦となり、戦友の屍を乗り越え血達磨となり奮戦している自分の姿である。(以下続く)
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