IPSO FACTO

アメリカの首都ワシントンで活動するジャーナリストの独り言を活字化してみました。気軽に読んでください。

名門合唱団、経営難が原因で立ち退きに

2006-02-03 13:53:30 | エンターテーメント・カルチャー
少し前からポッドキャスティングを利用しているんだけど、数日前に東京にあるラジオ局のスタッフとその事について少し話す機会があって、ポッドキャスティングのコンテンツについて少し調べてみた。僕はNPR(公共放送)やテレビニュースの音声版ポッドキャスティングをよくダウンロードして、地下鉄の中でラジオ代わりに聞いたりしているけど、昨日の晩になってワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズ、ニューズウィークといった活字媒体までがポッドキャスティング事業を開始していた事を知りビックリ。アップル社のiTunesでポッドキャスティング用の番組を検索してみると、ニュースや音楽番組の他に、コメディアンのビル・マーや民主党のスター候補生バラック・オバマ上院議員が発信しているコンテンツもあった。まだまだ発展途上のメディアだけど、予想以上に幅の広いコンテンツを見ていると、将来的に面白そうな媒体に化ける可能性も…。さて、今日は世界的にも知られる「ハーレム少年合唱団」の経営ミスに関する話を。

ニューヨークにあるハーレム少年合唱団は世界中でのパフォーマンスや、ルチアーノ・パバロッティといった大物歌手との共演で知られているが、経営上の問題が発覚したために、間借りしていたニューヨーク市内の学校から追い出されてしまった。1968年に音楽家のウォルター・ターンブル氏によってハーレム教会の地下室で作られた合唱団は、1993年からニューヨーク市教育課の監督下にあるハーレム合唱アカデミーの一室を無償で借り受けおり、アカデミー内の音楽プログラムの企画にも携わってきた。2月1日現在、ハーレム少年合唱団は新たなオフィスを見つけれないでいるが、ハーレム合唱アカデミー周辺では約100人が抗議集会を開いている。国連への表敬訪問や、ホワイトハウスでの演奏など、様々な場所で活躍してきた黒人主体のこの合唱団は、いつ頃からか地元で「ハーレムの天使達」と呼ばれるようになっていた。

しかし、近年は合唱団内部における性的虐待スキャンダルや500万ドルにも達する借金の存在が問題化し、経営方針をめぐって上層部でも様々な衝突が繰り返されていた。合唱団の経営責任者達は、すでにスタッフのほぼ全員を解雇しており、ハーレム合唱アカデミー内での音楽の授業も長く行われていない状態だった。ニューヨーク市教育課のケリー・デバース氏は英ガーディアン紙の取材に対し、合唱団の最近の経営は明らかに失敗で、財政的な問題の解決も見通しがたたなかったため、立ち退きを実施せざるをえなかったのだと語っている。立ち退きに関してはマイケル・ブルームバーグ市長も支持する姿勢を打ち出しており、「期日までに約束が守れないのならば、仕方のないことだ」とコメントしている。合唱団の経営スタッフは1月31日までに立ち退きを行うよう通告されていた。前出のターンブル氏は2月1日も普段どおり合唱アカデミーに向かったが、建物へ入ることを拒否されている。

ハーレム少年合唱団にトラブルが発生したのが今から5年前。合唱団のメンバーだった少年がスタッフの1人から性的ないたずらを受けたと訴えたが、その後行われた警察による捜査で、ターンブル氏が少年の訴えを警察に報告していなかった事実も判明している。ターンブル氏は2000ドルの保釈金を払い、問題の渦中にあったスタッフを現場復帰させている。このスタッフにはやがて有罪判決が下され、2年間の懲役刑も科されている。事件後、ニューヨーク市は合唱団の経営陣と合唱アカデミーの校長に対して辞職を勧告し、ターンブル氏も合唱団の監督からスタッフの1人に格下げされている。この性的虐待スキャンダルが引き金となり、寄付金による活動資金が全く集まらなくなった合唱団は、それに比例するように増え続ける借金に直面しなければならなかった。1月には元ニューヨーク市長や地元政治家によってキャンペーンが行われ、約1ヶ月で100万ドルが集められたが、問題の解決には至らなかったようだ。

デンマークの保守系新聞が昨年9月、イスラム教の預言者ムハマンドが導火線に火の付いた爆弾を連想させるターバンを巻いた風刺漫画を掲載し、これが先月になって再びノルウェーのキリスト教系保守派紙に掲載された事から、イスラム諸国では連日のように抗議デモが行われている。ドイツとフランスでも、「言論の自由を守る」という理由から、同じ風刺漫画が新聞に掲載されている。2日にはパレスチナ自治区のガザにあるEU代表部にファタハ系の武装組織「アル・アクサ殉教者旅団」などが乱入し、ノルウェー、デンマーク、そしてフランスに対して48時間以内の謝罪を要求している。「言論の自由」というテーマから考えると(なんだか、大学院の時のディスカッションみたいだね)、今回の問題に対して各国政府の謝罪や報道機関への介入は必要ないと思し、するべきではないと強く感じる。でも、偶像崇拝が絶対的なタブーであるイスラム教をテーマに(ずいぶん前に何かの記事で見たけど、イスラム諸国ではポケモンのキャラクターさえ議論の対象となったらしい)、「言論の自由」を理由にしてムハマンドの風刺漫画を掲載した北欧メディア関係者は、たとえそれが表現の自由として認められていても、アホだなぁと思うね。


写真: 2004年9月22日、ニューヨークを訪問中のオバサンジョ・ナイジェリア大統領を前に歌声を披露するハーレム少年合唱団。 (AP通信より)