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ネイチャーサロン by こうちフィールドミュージアム協会

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クモバエの話

2012-12-27 14:50:25 | 日記
 年末のあわただしい中,地元の声楽愛好家たちによる喜歌劇「こうもり」を見に行った.観客の多くは出演者の家族や友人らしい.私のような素人にもわかるように演出されていて,楽しめました.

 という訳で,今日は少し趣向を変えて,クモバエという生物を紹介する.コウモリの体表面に生息する,いわゆる外部寄生虫の一種です.
 クモバエは昆虫で,ハエの一種.しかし外見はクモに似ている.変っているのは頭が胸部の前ではなく「上」(つまり胸部の背面)に付いていること.このため一見まるで頭がないように見える.



(ケブカクモバエを背後面からのアングルで撮影したもの.頭部は胸部の前ではなく背面に付いている.)


 キクガシラコウモリなどに寄生するコウモリバエは,もっとハエらしい形をしていて翅がある.それに対しクモバエには翅がない.
 コウモリバエとクモバエの共通点は,どちらも「卵」ではなく「前蛹」を産むこと.多くの昆虫は卵>幼虫>蛹>成虫と発育する.蛹になる直前の幼虫は餌をとるのをやめて,その時期の幼虫は「前蛹」とも呼ばれる.コウモリバエやクモバエでは母虫の体内で卵が発育し,やっと前蛹になってから体外に産み出される.同じように前蛹を産むハエとしては,吸血昆虫であるツェツェバエ**がある.コウモリバエ,クモバエ,ツェツェバエなどを総称して産蛹類(Pupipara)と言う.

 ** ツェツェバエはアフリカで「睡眠病」の病原体であるトリパノソーマを媒介する.


(キクガシラコウモリについているカノウコウモリバエ.)


 産蛹類の成虫は動物の血を吸う.そして前蛹を産む.前蛹は餌をとらないで蛹に,そして成虫になる.だから一生を通じて血だけが唯一の栄養源である.これでは栄養が不足するらしく,体内に菌類を飼っている.菌は母虫から,体内で発育中の幼虫に渡される(Askew, 1971).

 クモバエのうち,ユビナガコウモリに寄生するケブカクモバエは体が大きく,よく目立つ.船越(1977)によるとケブカクモバエの♀は一時コウモリから離れて,コウモリの止まっている付近の天井や壁に産卵(産蛹)する.ケブカクモバエは絶食に弱く,コウモリの血を吸えない状態では1日ほどしか生きられない.だから産蛹したら急いでコウモリに付く必要がある.産み出された前蛹のほうは壁面に付着していて,数日で成虫になる.そして近くに止まっているコウモリに付く.

 四国自然史科学研究センター http://www.lutra.jp/ は高知県四万十町西土佐でコウモリ調査を実施している.コウモリの一部は捕獲して計測やバンディングをして放すので,その時ついでに外部寄生虫を調べることができる.ユビナガコウモリに付いているケブカクモバエは,大きくて迫力がある.そのほか,ヘラズネクモバエ類がユビナガコウモリとモモジロコウモリについている.今後もっと詳しい調査をしないといけないでしょう.

文献
 Askew, R. R. (1971) Parasitic Insects. Heinemann Ltd., London.
 船越公威(1977)ユビナガコウモリに外部寄生するケブカクモバエの生態学的研究,特に生活史からみた宿主への適合性に関して.日生態学誌27, 125-140.

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