ネイチャーサロン by こうちフィールドミュージアム協会

 自然をより深く知ることの楽しさを,お茶会のような雰囲気で語り合いましょう.

ハンギングドロップ法

2014-08-07 01:41:28 | 日記
 虫メガネの延長という感覚で気軽に使える実体顕微鏡と違って,普通の顕微鏡はいろいろ面倒だ.たとえばミドリムシを顕微鏡で観察したければ,まずミドリムシのいる水を1滴,スライドグラスの上に置く.次にカバーグラスをかける.そのスライドグラスを顕微鏡のステージに置く.

 これでミドリムシが見れるかというと,なかなかそうでもない.視野の中にたまたまミドリムシがいれば良いけれど,それは滅多にないこと.観察者はスライドグラスを少しずつ動かして,虫を探さねばならない.カバーグラスを1辺18mmの正方形とすると,ミドリムシはこの正方形の中のどこにいても不思議でない.つまり虫がいる可能性のあるエリアは18mm × 18mm という広さだ.

 このエリアをもっと狭めることができれば,そのぶん虫を探す手間は減る.そのための1つの工夫がハンギングドロップという方法だ.下の写真は筆者が用いているハンギングドロップの道具立てである.



 写真の中で,1はスライドグラス.3はカバーグラスだ.ピンボケ写真でごめんなさい.
 ポイントは2だ.これは外径18mmのプラスチック管を3mmの長さに切ったもの.つまりスライドグラス(1)の上にプラスチック管(2)を載せる.その上にカバーグラス(3)を載せる.

 もう少し説明しよう.ミドリムシの入った液をピペットでごく少量取って,カバーグラスの上にチョンと付ける.するとカバーグラスの上に小さな水滴が置かれた状態になる.

 そのカバーグラスを,「えいっ」とひっくり返す.つまり上下を反対にする.そして2の上に置く.するとカバーグラスの下面に,虫の入った水滴がぶら下がった格好になる.これがハンギングドロップという名の由来です.

 注意を1つ.水滴は小さいほど良い.極端な話,水滴全体が顕微鏡の1視野に納まれば,観察者はもう虫を探す必要はない.視野内の必ずどこかにミドリムシがいる.もちろん水滴自体がミドリムシを含んでいれば,の話です.

 もう少し改良することもできる.
 ハンギングドロップ法ではスライドグラス,プラスチック管,カバーグラスという3つの「壁」で囲まれた「部屋」があって,その天井から水滴がぶら下がっている状態になっている.管の内側に微量の水を入れておくと,「部屋」の内部では湿った状態が保たれて,ミドリムシの水滴が多少とも長持ちするだろう.

 管の上下面にワセリンを塗っておけば,保湿性はさらに高まる.これは管やカバーグラスを粘着物で固定することにもなるので,その方がいろいろ好都合かもしれない.

 子供に見せたい時は,カバーグラスで怪我をする可能性を考えておかねばならない.「プラ板(ばん)」というものを100円の店で売っているので,それをハサミでカバーグラスの大きさに切って代用させると良い.プラ板は選べるようなら,できるだけ薄いものが良い.カバーグラスの薄さに近いほうが画質も多分よくなる.
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ミドリムシを飼う

2014-08-05 00:03:05 | 日記
 最近はミドリムシがすっかり有名になってしまった.夏休みのイベントなどで,顕微鏡や実体顕微鏡を使って「小さな生物」を見せることがある.ミドリムシには子供よりも,付き添って来たお母さん方が興味を示す.問題はミドリムシの小ささ.これがゾウリムシなら「ファーブル」(ニコンの実体顕微鏡)で簡単に見ることができるのだけれど,この程度の拡大率(20倍)ではミドリムシは点にしか見えない.ミドリムシがよく増殖している液をスライドグラスに1滴取って,カバーグラスをかけて,顕微鏡(拡大率100倍とか)で観察するというのが常道でしょう.

 そのミドリムシの飼い方は,私の自己流ですが,次の通り.
1.小麦浸出液を作る.三角フラスコに水道水500mlを入れる.それに小麦を40粒入れて5分間ほど煮沸する.火からおろし,十分に冷めてから,濾過して小麦を除去する.最後に水を加えて,全量を1リッターにする.
2.0.1%ハイポネックス液.水1リッターにハイポネックス原液(液体)を1ml入れる.
3.上記1と2を等量混合する.これがミドリムシの培養液です.

 ちょっと説明が必要だ.上記で単に「水」と書いたものは,水道水ではない.蒸留水でもない.次のどちらかが良い.
a. 汲み置き水道水.つまり水道水を容器に取って1日以上置いたもの.
b. 市販の天然水.「六甲のおいしい水」でも「ボルビック」でも構わない.

 「科学館」とか学校の理科クラブなどで実験室の器具が使えるなら,これで良い.そういう環境がない場合は,家庭で利用できる容器や機械を使う工夫が必要になる.たとえば1リッターとか500mlを量るには,ペットボトルで売られている清涼飲料水の空きボトルが使える.1mlを量るには,実験室用の使い捨てスポイドが良い.私の手元にあるのは(株)栄研器材の「滅菌スポイド3号」というスポイドで,実験室の人は使ったら捨てているわけだから,それを1本だけ頂くと良い. 「滅菌スポイド3号」は2ml用で, 0.5ml刻みで目盛りが4つ付いている.下から2番目の目盛りが1ml,上のはしが2mlである.

 小麦浸出液を作るには,たとえばマグカップに小麦粒と水道水を入れて電子レンジにかける.とにかく沸騰させて,自然に冷めるまで待つ.その上清を使う.少し濃いめに作って,ハイポネックス液に少量を混ぜ込むようにすれば良い.

 話が前後するが,いろいろ始める前に,ミドリムシを飼う容器を用意しておく.たとえばジャムの空き瓶をきれいに洗って,それで飼うことにすれば良い.まず熱湯を入れる.このとき瓶が割れないように,ゆっくり注ぐよう注意する.注ぎ終わったら,そのまま放置して,冷めるのを待つ.十分に冷ますこと.

 次に容器内の水を捨てて,ハイポネックス液と小麦浸出液を入れる.場合によっては水を追加する.これにミドリムシを入れて,日の当たる涼しい場所(たとえば部屋の北側の窓辺)に置く.蓋はきっちり閉めないで,緩く閉めて,空気が多少とも通る状態にしておく.

 こうしてセットアップした培養は,うまくミドリムシが増えていれば,次第に緑色に色づいて来る.1滴だけスライドグラスに取って,カバーグラスをかけて顕微鏡で見てみよう.

 「岩国市立ミクロ生物館」は「原生生物採集&培養ガイドブック」という小冊子を発行している.
http://www.shiokaze-kouen.net/micro/info/page458.html
その中にミドリムシの飼い方も書かれている.私の方法と少し違っていて,小麦浸出液でなくクノップ液を使っている.それで本当に飼えるものか私は試したことがないけれど,試す価値はあると思います.

 市販のミドリムシ製剤は無菌培養されたミドリムシを使っている.それに対しここで紹介した方法では,液の中で雑菌がたくさん繁殖しているだろう.ドブの水と同じです.決して口に入れないよう注意してください.
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