ネイチャーサロン by こうちフィールドミュージアム協会

 自然をより深く知ることの楽しさを,お茶会のような雰囲気で語り合いましょう.

クモバエの話

2011-11-03 01:53:32 | 日記
 高知県四万十市西土佐.ヤイロチョウの飛来地としても知られるこのエリアで,コウモリの調査をしているグループがある.先日その人たちに同行させてもらった.その時にゲットしたのがクモバエ(写真).
 データ:
ケブカクモバエ
2011年10月29日
高知県四万十市西土佐
宿主はユビナガコウモリ

 写真は実体顕微鏡(拡大率20倍)で見たクモバエ.その接眼レンズに,カメラのレンズを密着させて撮影.このワザを駆使して,結構きれいな顕微鏡写真を撮る人をよく見かけます.
 クモのように見えるけれど脚は6本.じつは昆虫で,ハエのなかまです.頭は矢印のところにある.体の前ではなく上(背面)についています.背面から見ると,まるで頭がないかのように見える.「アーサー王物語」に出て来る「頭のない騎士」を連想させて不気味.

 アフリカに,トリパノソーマという病源体を媒介するツェツェバエというのがいる.このハエは卵でなくて幼虫を産みます.クモバエとか,その他の寄生性のハエも,このツェツェバエと同様,卵でなくて幼虫を産む.
 ケブカクモバエについては,船越公威さんが大学院生のときに書いた秀逸な論文がある.この内容なら英語で書くべきであったと思うけれど,われわれにとって幸いなことに日本語で書いてくれていて,しかも全文を誰でもダウンロードできる.
http://ci.nii.ac.jp/naid/110001881554

 この論文によると,ケブカクモバエはコウモリの体表で交尾し,メスはコウモリのねぐら(コロニー)の天井などに幼虫(前蛹)を産みつける.前蛹はすぐ蛹になって,3~4週間(気温によります)で成虫となる.
 ふつう成虫は1日の絶食に耐えられないけれど,蛹から出て来たばかりの成虫は2~3日は大丈夫.その間にコウモリに付いて,以後は体表にいて血を吸う.
 産卵(産蛹,もっと正確には産-前蛹)は1回に1個だけ.メスは5日に1回ぐらいの頻度で産蛹する.想像だけど,産蛹のたびにメスはコウモリを離れて天井に産みつけて,また新しいコウモリに付く,というようなことだろうか.メスにとっては結構リスキーというか,大冒険かもしれない.絶食にどれほど耐えられるか,時間との競争でもある(あくまで想像です).

 最後に上記論文に書かれてない知識をひとつ.
 血液は昆虫の餌としては栄養的に不完全らしい.そこで,このテの昆虫は体内に特別な細胞を持っていて,その中に菌類を飼っている.血液だけでは足りない栄養分を,この菌類が供給している.ノミとか蚊はそういう細胞や菌類を持っていないけれど,コイツらは幼虫時代に血液以外のものをしっかり食べているので大丈夫.クモバエは幼虫(前蛹)や蛹のときは何も食べないので,一生を通じて血液しか食べない.だから菌類なしでは生きられない.
コメント
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