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日本の政治経済的課題 (その9)

2007-09-17 01:38:55 | 政治・経済関連
日本の政治経済的課題 (その9- - -課題1(脱税大国 - その1/5))

著者の精細な研究は前回の1990年で終っていますが、最後に述べている日本の資産インフレの評価はかなり甘かったようです。当時の日本の資産の高値ぶりは、土地だけを見ても、現在の2倍近く(29,000円/坪)、アメリカの100倍でした。従って日本全土を売れば、アメリカが4個買えるという異常振りでした。こんな状況が続くわけはなく、皆様もご存知のように、この間に湯水のように貸し付けた銀行は、多額の不良貸付を持つ結果になり、同時進行していた製造業の空洞化や、デフレ経済の下で、その収拾に15年を要したのでした。その間、株式は低迷し、日経株価指数は2003年には7,600円にまで落ち込みました。 国債残高は166兆円(1990年末)から499兆円(2005年末)に増え,政府が国債を乱発して事態収拾にあたった様を物語っています。この資産インフレに警鐘を鳴らした人は、政界、財界、学会、マスメディアにもいなかったと思います。影で儲けた人は、冷静に事態を観察しながら、黙って儲けを増やすことに専念したのかもしれません。著者の言う、前回の最後のところで触れました ”全てを持つ1/3の日本人” のことです。実際の”全てを持つ日本人”は遥かに少ないと思いますが。

前回までの8回で、著者の日本歴史の政治経済的な概説と1945年~1990年末までの日本の政治経済情勢の時局の詳細な分析を見てきましたが、世界各国が相互に密接に絡み合った現在の政治経済的な情勢がよくわかります。アメリカは豊かな資源と、独創的な人々に支えられ豊かな国民所得の基に世界をリードしていますが、政治的には、嘗ての独立当時のような優れた政治家が姿を消し、豊かな財源を浪費、迷走している様子がよく見えました。自由競争とGlobalizationの理念のもとに世界をリードしていますが、多くの問題を起こしています。ヨーロッパは、自由を庶民が支配階級から勝ち取った過去の豊かな歴史を持ち、また絶えざる抗争の中で多くの激しい戦争を経験した苦い経験を生かすべく、戦争をなくするという目標に向かって、Robert Schumanの唱えた、United States of Europe、を達成するべく着々と目標に向かっています。壮大な夢に向かって進むヨーロッパ連合(European Union)は、2007年で加盟国は27ヵ国に達し、将来の地球国家への夢を感じさせる道を歩んでおり(キリスト教という共通の宗教を持っている優利な点は有りますが)、日本もヨーロッパ連合を参考にして、アジアでの政治的経済的な統合の試みをリードするような役割をして欲しいと思います。しかしながら、国家としてはまだまだ多くの問題点を持ち、それをまず修正しなければならないと思います。国と地方の債務は約810兆円(国債残高547兆円地方債263兆円)、これは日本の国民所得(GDPまたはGDI)540兆円の150%に相当します(ビジネス社発行の森木亮氏著の”日本は破産する”から)。これはECに加盟できる条件の2.5倍の国の借金です(ECに加盟する為には、国債残額は国民所得の60%以内でなければならない)。もう破産寸前の状態の様です。このような多額の借金をどうして返済できるのでしょうか?金利が5%(これが正常な利子率です)ならば、税収がすべて、利子で消えてしまうのですから。

今回は著者の述べる日本の最大の問題点- -脱税大国- -について考えて見ます。これは1990年までの記述ですからその後の改革で少しは修正されてはいると思いますが、未だ大部分は変わっていないと思います。(私は門外漢ですからその後の改革については、残念ですが言及する力がありません。ご了承下さい。)
著者は言います

”1949年4月、Carl A. Shoup教授の率いる7人のアメリカ人が、崩壊の瀬戸際にあった日本の古い税制を調査すべく日本を訪れた。同年8月に提出されたShoup Mission の報告書はそれ以後の日本の税制の基礎となった。アメリカ人はボストンティーパーティ以来 間接税を嫌ってきた。したがってShoup派遣団の提案が、税収の大部分が 消費よりは収入と利益に対する税から来る様に計画したのは少しも驚くには当たらない。納税者の所得が高ければ高いほど税率が高くなる、累進的所得税システムは、一般的に、低所得の納税者に最も重くなる、間接税よりもより公正であると見られている。しかし累進的所得税システムは、消費に対する税に
比較して2つの欠点がある。消費税をとる店の数以上に課税すべき所得を持つ人の方が多い、ということと、取引がその取引の航跡として記録やしるしを残すところで、あるいは納税者が信じがたいほど正直である、ところでのみ所得税は有効である、という2点である。現金が殆どの取引で使用される日本では、これらの2点は利かないのである。また日本人は信じがたいほど正直でもなかった。Shoup派遣団に公正を期すれば、彼らは現在大抵のヨーロッパの国で行われている付加価値税と同じ線上の付加価値税も提案した。これは地方政府の費用を賄う為に指示された。Shoup提案の残りの部分は幅広いベースの中立的なシステムであり、そこでは税
率は低く免除は少なく小額であった。結論としてShoup派遣団は1980年代のイギリス、アメリカ、ニュージーランド、や世界各地の供給側の改革者達が理想としていた種類の税制を日本に与えたのである。全てのShoupの提案はSCAP(Supreme Commander of Allied Powers)に受け入れられ、日本政府によって1950年に制定された(付加価値税は延期されたが)。Shoup派遣団が作り出し、SCAPが日本に課した税システムは革命的であった。アジアの国で現代的な税制を持っている国は無かった。未だ嘗てこれだけの多額の課税が消費にではなく収入に課されたことはなかった。これだけ多くの人々が直接に政府に対して税を払うことを期待されたことは嘗て無かった。中国式の文字システムと現金を使うアジアの国で税の責務を決めるのに、書かれた記録にこんなにも頼る税制を持った国は嘗て無かった。SCAPは1952年に去った。彼らが去るや否や、日本人は税制をいじくり始めた。Shoup派遣団の提案した素晴らしい税制は、日本の政治家達の目的に合うように歪められた。
すなわち、政治家達は彼らの支持者の為に、多くの、各種の救助策や控除を提供して、愛顧を買った。
官僚は活動を規制し彼らが選んだ線に沿って産業発展を制御する為に税をいじくった。
Shoup派遣団は5ヶ月かけて単純で、実際的で、優雅で、公正な税システムを日本に与えた。それ以来日本人は数百万のman-hourをつぎ込んで、その税制を、複雑で、非実際的で、奇怪で不公正なものにしてしまった。その混乱を解きほぐす作業はやっと始まったばかりだ。” と。

勿論1950年から1970年にかけての脅威の成長はこれらの政治家や官僚の税制をいじくったことによって達成されたという面は確かにあると思いますが、これからこの歪をなおして、単純で実際的で公正なものにして行かねばなりません。
著者は続けます。

”Shoupの単純な税制は虐殺された。彼のシステムは、全ての収入源から全ての収入を、キャピタル・ゲインも含めて、加算して、単純な個人的な控除を控除して、残った額に対して、2,3の段階の累進率にし一番上の率もそんなに高くならない様にして、課税するのであった。日本人はこれを、収入の種類 と 国、県、市の段階によって、16の異なるシステムにしてしまった.通常の収入は、雇用所得、年金、営業収入、利子と配当、キャピタルゲイン、木材産出による収入、ギャンブルから得た収入、等の10の異なった種類に分割された。 それぞれの収入は、それぞれの控除を受ける。営業費用は各タイプの収入別に定義されている。課税所得は各
タイプの収入別にそれぞれの控除を差し引いて別々に計算される。個々の課税対象収入は合計されて課税対象額となり、個人的な控除が差し引かれ、累進課税率が適用される。1989年までは、所得の段階は15段階あり、これに対して累進的税率が10.5%から70%まで上がっていく。この計算が中央政府に対する所得税責務である。同じ所得が県税と市税を受ける。県税は2%、3%、4%の率である。市の所得税は7段階で3%~12%である。段階や控除は、中央政府、県、市とそれぞれ異なる。3つのタイプの収入はこのシステムには統合されない。すなわち、賞金やギャンブル、退職金、材木収入である。各々は別々の税処遇を受ける。
例えば木材収入は、収入の1/10に対して累進的税率をかける。その税額を5倍にしたものが合計税額である。。
納税者は利子と配当は通常の課税所得から外す選択が出来る。この場合は35%の一律税率であり、累進税率の高い高額所得者に有利である。日本の税単位は、配当収入を除いて、個人であって、家族、言い換えれば世帯ではない。上述のような税制の為に、納税者は収入を、自身から、家族構成員に、1つのカテゴリーから他のカテゴリーへ、とシフトして控除を最大限にし、税率を最小化する。営業収入から控除する項目ごとの費用の控除は特に寛大である。それと対照的に雇用収入に対しては、少しの低い標準の控除しか許されていない。一方雇用収入が営業収入に転換出来る会社のステータスは容易に取得できる。有限会社は10,000円の払い込み資本で設立できる。組合や無限責任会社は払い込み資本無しで設立できる。その結果全ての小さな店の経営者、専門職の人、自身を雇っている人は、このような会社を設立している。それによって彼らは寛大な営業支出を控除する事が出来るだけでなく自身と、妻と、他の家族構成員に雇用収入を支払うことが出来るのである。そして彼らは彼らの収入のそれぞれに標準の控除を得るのである。最後に家族の収入の各々に累進税率が適用されるのである。その結果は、当たり前なのだが営業費用は莫大になりえる。巧くやれば、小さな会社は一銭も会社として税金を払わなくて済むのである。1985年には、日本の半分以上の会社が赤字であった。”と。
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