もの想う鷲 (A thinking eagle)

自然・環境を科学してみる

マグロ漁船がアホウドリを絶滅に追い込む?その2

2006-08-16 23:52:00 | 野生動物保護
続きです。

凍りつく様な強風に向かって頭を下げ、Nigel Brithers (一人の人の名であり、“Nigel 兄弟”ではない) は、オーストラリアのMacquarie Islandsの沼の多い草むらの上を、テクテク歩いていた時、突然後ろから、ビューッツと音がして何かが襲って来たので、彼は身を屈めた。小さな飛行機の大きさほどもある大きな鳥が彼の頭の上を低く掠めて飛んで来て、円弧を描いて彼の足元に降りた。あっけにとられて、その若い博物学者が膝をついていると、そのwandering albatrossは、その大きなゴムで出来たような足で、ヨチヨチと歩いて来て、魚を捌くナイフ(fishing knife)の様に大きく鋭い嘴で、彼の胸をつついた。Brothersは仰向けに倒れた が、その鳥は彼の胸に上って来て彼のふさふさした頭髪と顎鬚を嘴で整えたのである。

鳥や海への倦まぬ愛情を持ち、背が高く、筋骨逞しく強いBrothersは、彼自身、大洋の逍遥者(wanderer)の様なところがあった。学校の休暇をタスマニアの農場で過ごしている間に、Brothersは、熱狂的なアマチュアの博物学者となり、まだ生徒である間に、タスマニア政府の為のwildlife(野生の動植物)のfieldworkを始めた。1970年代の中ごろ、16ヶ月の間 wildlife ranger として、配属されて、海鳥を餌食にしていた、昔の船員が残して行った猫を、根絶する助けをした。タスマニアに帰って、Brothersは、marine lifeをモニターする仕事につき、毎年海岸に沿ってテクテク歩き、最も遠い沖合いの島々に航海した。彼自身の運命が、まもなく その華麗な大洋の航行者である鳥の運命と深く結びつくことに
なろうとは露知らず、しばしば あのwandering albatrossとの彼の不思議な遭遇を思い返した。

一方、この消滅しているアホウドリの不思議は、海鳥のエキスパートの間に 急速にホットな話題となった。24種のアホウドリの種の中で、21種が減少しており、多くの種が絶滅の危機に瀕していた。Brothersは、失われた鳥達の運命について、直感的なものを感じていた。
“私は何が起こっているか知っている。だから何としてもそれを証明する積もりだ。”
と、彼は友達達に語っていた。

彼が少年であった時以来、毎冬、錆びた白い漁船が、新鮮な野菜や燃料を求め、そして修理をする為にHobart港(タスマニアのCapital)に、どっと入港して来るのだった。それらは南半球の大洋を遊泳する、刺身の元になり、そして、海で最も高価な魚に入る、1kg 50ドルの価格の、青いひれのマグロ(bluefin tuna) の 漁をする日本の漁船団の一部であった。毎日 各漁船は、3000の えさを付けた釣り針 が付けられた100km長さの糸をセットしている。

何と多数の漁船、何と多数の釣り針、とBrothersは考えた。
これらの漁船の他に、そんなに多くの鳥をころすものが、何か あろうか?
他の科学者達も、同様な疑いを持っていたが、かれらは考えるだけだった。
答えを証明する為には、誰かがちゃんとした観察をして、数値を集めなければならない。

2年間、日本の漁船の1つに観測者として乗船する許可を得ようと努めた。1988年の冬かれの忍耐が実って、許可を得て、タスマニアの320km南で漁をしている、大きなマグロ漁船に、ゴムボートから乗り込んだ。その顎鬚を生やした若いオーストラリアの若者が、なぜ彼らの中に現れたのか、あるいは ノートと双眼鏡を手にして、雨としぶきの中で背中を丸めて、外の厳しいデッキの上で坐っているのか、乗組員達は、何も解らなかった。この特等席から、乗組員たちが、1日6時間の間、7.3秒に一回、引っ掛けのある釣り針に、魚や剣烏賊をえさとして付け、船尾からそれらを投げ込んでいるのを、Brothersは観察することが出来た。同時に数百の海鳥たちが、デッキの下の魚の加工工場から海に放出される魚の頭や内臓を取りに、急降下して来るのである。船尾での彼の孤独な監視を始めてすぐ、一羽の王様然としたwandering albatrossが、突然海面に急降下して浮かんでいる魚の1片をくわえるのを、Brothersは見た。これが、釣り針に付いた餌であると知らずに、その大きな鳥は、釣り針も餌も、一気に飲み込んだ。鳥が飛び去る過程で、釣り針についている糸が張って、アホウドリは海中に打ち付けられた。慌てて鳥は、激しく翼で水をかき、翼をばたつかせながら糸を引っ張った。しかしながら、事態を逃れられるわけはなく、すぐに糸に引っ張られて沈んで行った。その夜、乗組員達は Lindsay Smithの様な科学者や鳥のエキスパートたちがアホウドリの足に付けた番号つきの足輪で一杯になった引き出しをBrothersに見せた。乗組員の中には、それを戦利品(トロフィー)として自身の指に嵌めている者さえいた。次の2~3日の間に、同じようにして更に11羽のアホウドリが釣り針にかかり殺されるのを、Brothersは見た。

彼の観察に基づいて、南半球の大洋で、糸で釣る日本漁船によって投げ込まれる1億8百万(108 million)の釣り針は、最低でも、毎年 44,000羽-1時間に5羽-のアホウドリを殺していることになると、Brothersは計算した。Hobartのオーストラリア南極部門の科学者、Graham Robertsonは、“アホウドリが何処へ行こうと、凶悪な殆ど目に見えない生命の殺戮が、常に起こっている。それは空を空(から)にし、彼らの生存を危地に陥れている。”と言う。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« マグロ漁船がアホウドリを絶... | トップ | マグロ漁船がアホウドリを絶... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

野生動物保護」カテゴリの最新記事