この頃だったか本部から
「作業所で過酷な取り扱いを受けている所は申し出よ」の通達があった。
私達は早速、現在行っている道路作業所の状況を報告して「何とか改善して欲しい」と訴えた。この作業所は現地人が監督して、ひっきりなしにコンクリート作業を、ろくすっぽ休憩もさせずに、何か日本軍人に対して憎しみを持っているのか、次から次えとへとへとになるまでこき使った。
「どうしてあいつは、こんなにこき使うのか?」
「あいつは我々をこき使って成績を上げ、英軍に取り入ろうとしているんだ」なんて話し合った。それから1日位経った午前中、ライトの横に小さな三角旗を付けたカーキ色の自動車が1台停まって、3人の元日本軍将校と見える人が事務所に入っていった。そして4,5分してから出てきて私たちの作業ぶりを見て再び自動車で帰って行った。
それから2,3分したら監督が来て
「今日は仕事はこれまで。帰ってよい」と言った。「どうしてだ」
「今、お前達の偉い人が来て、話があったので帰ってよい」さてはこの間の申し入れが効いたかなあ と帰ったことがあったが、その次の日から作業が非常に楽になった。
事務所に入って行った態度は実に堂々たるもので、勿論、丸腰ではあったが頼もしかった。英軍の司令部に南方総司令官の綾部中将が行った時、英軍の衛兵が直立不動、捧げ銃をしたそうだが私達は
「腐っても鯛だ」と話し合った。