のんびり・・・いそいそ~(*くうかんあそび*付き)

なんとか音楽の勉強を続けているちょっと変な主婦兼ピアノ指導者兼ボランティア演奏者の日常。取り留めのない駄文揃い。

レッスンを続けたい

2007-02-18 15:21:39 | おんがく
ちょっと前のことだが
1人の生徒さんのレッスンの継続が困難になりかけたことがあった。


「あのさ、昨日レッスンに来た子に聞いたんだけど
 Yちゃん、ピアノやめちゃうって本当?」

「・・・うん、あのね・・・。」



Yちゃんは一昨年、2年生の冬にワタシのピアノ教室に通いだしてくれた。
ご両親は離婚されており、祖父母と父親、2人の弟がいる。
おばあちゃんが付き添いで教室の申し込みをされた。
生活環境のせいか、随分落ち着いてしっかりしたお嬢さんだ。


恐らく自発的にピアノを始めたのだろう。
自宅ではキーボードでの練習に限られているのにも関わらず
人一倍熱心に練習し、レッスンも積極的に受けた。
なのでその曜日の1番手の生徒さんということもあり
レッスン室を早めに解放して
彼女にピアノでの練習時間を確保させた。
そんなこんなでこの1年で目覚しく上達し
お互いの信頼関係も築くことができ、
ワタシも彼女のレッスンを楽しみにしている。


極めて順調なレッスン経過を持つ彼女。
それが一体なぜ??


彼女の話した理由を簡単にするとこうだ。
彼女のお宅はある自営業をやっている。
仕事でパソコンを使うのだが、父親の手の調子が悪い。
そこで子供の中で最も年長な彼女にパソコン教室へ通ってもらいたい。
だからピアノを止めてくれ、と父親に言われた。


・・・・・・なんじゃ、ソレ。
彼女の家のパソコン事情がどうなっているのかわからないが
打ち込みじゃあるまいし、そんなに激しい入力作業があるとも思えない。
大体彼女は誰よりも週一のレッスンを楽しみにしている。
それに他に習い事もしていないし、母親がいないから
女の子らしい楽しみだってそんなに与えられているわけではない。
しかも下に弟が2人もいるんだぜ。
彼女が毎日、他の同じ年頃の女の子よりも苦労していることは
レッスンで接する程度のワタシにも察することができる。
だから彼女は去年の発表会を誰よりも楽しみにしていたんじゃないの。
普段は着ることの出来ないドレスを着て
髪を美容院で結い上げてもらった彼女は
心を込めて演奏をしていたじゃないか。
そもそもその発表会だって、
父親は照れくさいのか用事があるのかで観にいらっしゃらなかった。
他の生徒さんたちは両親は言うに及ばず、
おじいさんおばあさんもわざざわざ聴きに来てくださったお宅が
大部分だったというのに
彼女のおばあさんが来てくれたとはいえ・・・。
その時の彼女の気持ちを思うとなぁ。
それに彼女はレッスンの行き帰りも基本的に自分1人自転車で通っている。
レッスンに通うのに、それほど家庭に負担をかけているとは思えない。
ピアノ1つ、続けることはできないのだろうか?


「で、Yちゃんはピアノはもういいの?」

「ワタシはピアノを続けたいし、おばあちゃんも続けさせた方がいいって
 お父さんにいってくれているんだけれど・・・。
 ・・・パソコン教室なんて行きたくない。」

「うちはね、自分からピアノを始めたいという人しか原則的に入れないし 
 自分から止めたいという人しか止めさせないの。
 Yちゃんのお父さんはこの間の発表会も来ていないし 
 Yちゃんがこの1年でどれだけうまくなった知らないんだろうね。」


それでうち用に撮影しておいた発表会のDVDを彼女に渡した。

「もし家でDVDが観れたらお父さんに見せてあげて。
 写りは悪いけれど、少しはYちゃんの様子もわかると思うから。
 それでもしレッスンを続ける上で何か負担があったら
 ご相談くださいってお父さんに伝えて。電話でもいいから。
 ワタシはYちゃんにレッスンを続けて欲しいし、楽しみにしているのよ。」


「私、ピアノ止めない。」

その後しばらく
ワタシはいいようのない怒りと心配の中にいる羽目になった。
もしまだ父親からの反対があったとしたら
一介のピアノ教師の立場をあえて超え
ワタシは損得抜きで彼女と付き合おうと考えていた。



1週間後、彼女はレッスンに来た。

「どうだった?ピアノ、許してくれた?」
「うん。ピアノは続けていいって。
 でも4月からパソコン教室にも行くことになったの。」
「うひ~。大丈夫?」
「うん、Yね、パソコンもやってみたいんだ!」
「なるほど・・・でもよかったね~!」



世の中にはやりきれないほど沢山の習い事をしている子供がいる。
そのために自宅での練習時間が取れないまま
次のレッスンに来る子供は珍しくなくなった。
「私はピアノだけは止めない。」
そういう気力をもつ子供が減ったのは、やはり悲しいこと。
そんな中で一生懸命な彼女とのレッスンはとてもやりがいがあったのだ。
ワタシが生徒さんたちと接することができるのは
彼女達の一生のうちのごくわずかな期間だとは思うけれど
今後もそのわずかな期間を濃密に過ごして行きたいと思う。