トーキング・マイノリティ

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ジャンゴ/繋がれざる者 12/米/クエンティン・タランティーノ監督

2013-04-05 21:10:37 | 映画

イングロリアス・バスターズ』(2009)以来のタランティーノ最新作。マカロニ・ウェスタンをベースにした作品だが、主人公が元奴隷の黒人という異色西部劇。以下は映画のチラシにあるストーリー。

南北戦争勃発直前のアメリカ南部。奴隷のジャンゴが元歯科医に銃の手ほどきを受け、賞金稼ぎで荒稼ぎ!へんてこなコンビが涼しい顔して、お尋ね者を次々殺しまくる。ジャンゴの目的は、ただひとつ。彼の自由と妻ブルームヒルダを奪った白人に復讐し、妻を取り戻すこと。妻が農園の領主ムッシュ・キャンディの元にいることを突き止めたジャンゴ。
 だが、キャンディは奴隷たちを鍛え上げ、互いに闘わせて楽しむ極悪人だった。妻を取り戻すための“生きるか死ぬか”の壮絶な戦いが始まる―。

 毎回ながらタランティーノ作品はバイオレンスシーンが多く、流血がド派手。終盤ではといった印象だし、敵方の館は血の海となる。血飛沫が綿花に飛び散るシーンはある種の様式美にもなっていたし、『キル・ビル Vol.1』のラストも似たようなものだった。暴力場面が多くともタランティーノ作品のストーリーは面白いし、人気があるのもそのためだ。
 私的には、ジャンゴを助ける元歯科医Dr.キング・シュルツの動機が最後まで分からなかった。何故あれほどまで親身になったのか、映画では説明されていなかった。この手の白人は南部の白人至上主義者からはもちろん憎まれ、KKKを連想させる覆面集団が2人を襲撃する場面もある。

 黒人奴隷デスマッチ観戦が趣味の農園の領主キャンディに扮したのがレオナルド・ディカプリオ。今回初めての悪役らしいが、あまり憎々しげではなくむしろコミカルな印象。この映画のように奴隷主が奴隷を剣闘士よろしく仕立て上げ、黒人同士殺し合いをさせたことには疑問の声もあるようだが、そのような見世物試合が決してなかったという確証もないらしい。殺し合いをすることを拒否した奴隷は、犬をけしかけられて殺された。
 また、「クレオパトラ・クラブ」という黒人女性ばかりが侍る酒場が出てくる。ドレスを着た若い黒人美女が白人男を接待する高級クラブであり、このようなクラブは実際にあったと思う。自らの所有物である奴隷女をどう扱おうが、主人の自由なのだから。

 ジャンゴの妻の名が興味深い。シュルツによれば、ドイツに伝わる伝承(ジークフリードとブルームヒルダ姫の物語)から取られているとか。映画ではブルームヒルダと呼ばれていたが、ブリュンヒルトを指しているのだろう。昔『黒いオルフェ』という映画があったが、黒いガンマンは黒いジークでもあるのか。

 黒人でありながら黒人を差別する奴隷頭も登場する。キャンディの執事スティーブンがそれで、白人の主人には徹底して媚を売り卑屈な態度で接しつつ、部下の黒人には威張り散らす嫌味な男。奴隷制の時代には哀しいことだが、スティーブンのような黒人奴隷も珍しくなかっただろう。
 黒人奴隷制度が米国史の暗部と恥部なのは言うまでもないが、表向きは奴隷制のない現代も雇用主と労働者の関係は複雑である。2007-04-08付で私は皮肉を込めて、「もし昔の奴隷があの世で現代の長時間労働させられている自由民を見たら、オレは18世紀の奴隷に生れてよかった、と哀れんでいるかもしれない」と書いたことがある。「ぼろぼろになるまで虐待され、レイプされる現代のメイド」というブログ記事には、「クレオパトラ・クラブ」がお気楽と思えるほど凄まじい実態が紹介されている。

 ラストで監督自ら登場、ジャンゴに爆殺される場面は笑えた。それにしてもタランティーノ、思い切り太った。少し前まではしゃくれ顔の小生意気そうな兄ちゃんの容貌だったが、今は完全なメタボ親父となった。



◆関連記事:「ルーツ
  「イングロリアス・バスターズ

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
崖の上のポニョのヒロイン (madi)
2013-04-06 21:22:41
崖の上のポニョのヒロイン ポニョもブリュンヒルデです。ポニョのほうもワーグナーの歌劇が下敷きになっています。

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RE:崖の上のポニョのヒロイン (mugi)
2013-04-07 20:47:21
>madiさん、

「崖の上のポニョ」のヒロインもブリュンヒルデでしたか!ポニョは人間の少年に付けられた名前でしたね。
銀河英雄伝説の主人公の旗艦は「ブリュンヒルト」で同じです。闘うヒロインの名前には相応しいのでしょう。
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