トーキング・マイノリティ

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僕の大事なコレクション '05年【米】リーブ・シュライバー監督

2006-11-21 21:18:37 | 映画
 傍目から見れば大したことのない品物でも、熱心な収集癖を発揮して集めるコレクターがいる。この映画の主人公のユダヤ系アメリカ青年ジョナサンもそんな 人物。自室の壁はジプロックに収められた家族にまつわる様々な思い出の品で飾られている。カセットテープやピンといった品から兄弟の使用済みのコンドーム まで丁寧にジプロックに入れてあるのは笑えた。いかにケチで有名なユダヤ人でも、再利用するとは思えないが。
 ある時ジョナサンが祖母から貰った古い写真がきっかけで、彼は自分のルーツ探しのため、ウクライナに旅立つことを決意する。

  ジョナサンの祖父はウクライナからの移民だった。祖母から貰った写真にはまだウクライナにいた若い頃の祖父と、彼をアメリカに逃がしてくれた女性が写って いた。祖父がアメリカに移住できなければユダヤ人は命が危うかったので、この女性は祖父の命の恩人に当たる。ジョナサンは今は亡き祖父に代わり、女性に会 い礼を言うつもりだった。

 ジョナサンを迎えたガイドはアメリカ文化に心酔する軽い調子のウクライナ青年アレックス。マイケル・ジャクソ ンやヒップポップが大好きでアメリカかぶれの若者なら、日本でも珍しくもない。ユダヤ嫌いを公言してはばからないアレックスの祖父も若い頃、ルーツを求め ウクライナにやって来るユダヤ系アメリカ人相手にガイドをしていたこともある。ロシアはじめ東欧から数多くのユダヤ人がアメリカに移住した過去を思えば、 ユダヤ系アメリカ人相手のガイドという職業が成り立つのも肯ける。

 父祖の地に着いたジョナサン。ホテルのサービスの悪さに驚くのはアメリカ人ばかりでなく日本人も同様だろう。愛想も食事もまるでなってない。旅なれた人が「お客様が神様でいられるのは、日本の特殊事情」といった言葉を思い出す。
 ジョナサンのガイドとしてアレックスとその祖父も同行する。さらに祖父の愛犬も車に乗せ、祖父が暮らしていた村“トラキムブロド”を目指した。ユダヤ嫌いのガイドの祖父はジョナサンにはそっけない態度を取る。

  この映画を見ると、ウクライナに来るアメリカ人はカモにされているようだ。ガイドブックでアメリカ煙草マルボーロが喜ばれるのを知ったジョナサンが旅先で お礼にマルボーロを渡そうとするが、アレックスは咎める。アメリカ人と判れば強盗に遭うか誘拐される、とまで注意する。おそらく日本人もカモリストに入っ ているのは確実だから、第三世界ばかりか東欧圏でも注意されたい。

 かなり苦労してジョナサン一行はついに目的の“トラキムブロド”を捜 し着くが、その地で恐ろしくも悲しい真実を知る。祖父と写っていた女性は実は妻だった。祖父が一足先に米国に旅立ち家族を呼び寄せる予定だったが、祖父の 出国後まもなくナチスが侵攻、村人は虐殺された。妊娠中の妻も殺害され、かろうじて生き残ったその姉がジョナサンに真実を語る。
 ガイド・アレックスの祖父も実はこの村出身のユダヤ人だった。僅かな生残りだった彼はユダヤの出自を隠して生きてきたのだ。久しぶりに故郷に戻った祖父は帰り道ホテルの中で自殺する。ただ、穏やかな表情を浮かべての死だった。

 ジョナサンがジプロックに“トラキムブロド”の土を入れ、アメリカに持ち帰るのは面白い。彼はその土を祖父の墓にかけた。甲子園の土を持ち帰る高校球児と同じ感性で、愛着の地の土を持ち帰りたいのは洋の東西変わりないようだ。
 映画で見たウクライナの風景はとても美しかった。青々とした麦畑にどこまでも広がるひまわり畑。旧ソ連の穀倉地帯と謳われただけある。

 この映画もある種のユダヤ人受難物語だが、ウクライナもロシアやナチスと同じく反ユダヤ主義が強かった。侵攻したナチスにはホロコーストを積極的に手伝ったという。以前の記事「標的は11人」 でも紹介したが、東欧系ユダヤ人は「排他性、自堕落、自惚れ、狡猾、嘘つきを特性とする」「平然と嘘をつくし、信念よりも物質に重きを置く」とハンガリー 生まれのユダヤ人さえ書いているほどだ。つくづくユダヤとはどこでも憎まれる民族だと思えてくる。バルト三国の一つラトビアでもナチスに協力した現地人が 多数いたのは、英国人作家F.フォーサイス氏の小説『オデッサ・ファイル』にも見える。

 主人公ジョナサン役は『ロード・オブ・ザ・リング』でも主役を演じたイライジャ・ウッド。七三分けにした髪と太縁眼鏡、地味なスーツ姿とスーパーマンに変身前のクラーク・ケントみたいだったが、フーリガンや殺人鬼、オタク青年などに扮するのは『ロード~』からのイメージ脱却を狙っているのだろう。

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