トーキング・マイノリティ

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アレキサンダー 2004年【米】オリバー・ストーン監督

2005-08-29 21:18:07 | 映画

 この映画を見て“アキレサンダー”と揶揄した評論家がいたが、確かに主役のコリン・ファレルは完全なミスキャストだ。世界史に名を残す美男の誉れも高い若き征服者の品位、風格共になし。もっと他に相応しい役者はいなかったのか不可解だ。

  歴史スペクタクル映画は私の好みだが、映画のポスターを一目見て劇場に行くのをためらった。愛馬ブケファラスに跨った姿があまりにもイケてない。普通なら民族衣装を着て馬に乗った若者は映えるはずだが、田舎の普通の兄ちゃんにしか見えない。
  それでもあのアレキサンダーで戦闘シーンは大画面なら迫力モノだろうと思い直して、結局映画館に足を運んだ。実際見終わったら、風采の上がらない主役はあまり気にならず結構面白かった。
 やはり注目したのは戦闘シーン。歴史書ではガウガメラの戦いで圧倒的大群のペルシアに完勝しているが、その割に何故かギリシア兵のヤラレるシーンばかり目に付いた。負傷して苦しんでるのもギリシア側。死傷者だけで十数万とされるペルシア兵の遺体は写さないのは欧米人の視点だろう。ストーン監督の出世作『プラトーン』でも死亡したベトコンはまず登場しない。

 評論家に受けのよい『グラディエーター』は史実はデタラメだが、この映画は細かい点を除けば(例えばアレキサンダーに家族の生命の保証を懇願したのはペルシア王の娘ではなく母)史実にかなり添っている。にも係らず欧州映画のような重層感がないのは、史劇を撮ると下手さが際立つアメリカ人監督ゆえか。

  数年前、阿刀田高氏の歴史小説「獅子王アレクサンドロス」を読んでいる為か、主人公ばかりでなく親友ヘファスティオン、王妃ロクサネ、母のオリンピアスなど皆イメージが違った。実際はかなり智将でアレキサンダーの右腕だったのに、同性愛的傾向が強調され気味の親友、黒人のような容貌の王妃。あの時代のバクトリア山岳民族なら紅毛碧眼のアーリア系だったはずだ。母親役の女優は若すぎる。いかに大喧嘩したといえ、亭主ならともかく最愛の息子の顔に唾を吐きかけるだろうか?

 本国アメリカではこの映画の評判は散々だったらしい。主人公が感情露わで女々しすぎる、同性愛を思わせるシーンはケシカランなど。アメリカには同性愛を禁じた州が数箇所もあると、妙なお国自慢をぶった評論家までいたとか。古代ギリシアでは別に不道徳とされなかったが、この辺のところがアメリカ人には分からないようだ。

 昔から若死にしたアレキサンダーは実は暗殺との説があるが、この映画もそれを暗示する結末だった。大王の側近プトレマイオスの回想という形で物語る展開だが、「夢想家に振り回された」は正鵠を得ている。概ね英雄は壮大なビジョンを持った夢想家だ。



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