トーキング・マイノリティ

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アイ、トーニャ 17/米

2019-01-19 21:10:12 | 映画

 羽生結弦選手と同じく仙台っ子でありながら、私は今も昔もフィギュアスケートには殆ど関心がない。しかし、日本選手の活躍よりも印象的だったのは、'94年リレハンメル冬季オリンピックに出場した米国のトーニャ・ハーディング
 オリンピック史上、最も注目を集めた女子フィギュア選手であり、華麗な技ではなくスキャンダルで記憶されることになった初の選手かもしれない。これは彼女の伝記映画なのだ。

 この映画で面白いのは、トーニャ本人や彼女を取り巻く人々が登場、インタビューに応えながら役者の演技でストーリーが進行していくこと。もちろん映画特有の脚色も入っているだろうが、ストーリーはトーニャの生い立ちから始まる。はじめに彼女の母ラヴォナ本人が登場、娘の幼少期を語る。
 ラヴォナいわくトーニャは4番目の夫との5人目の子供で、現代は6番目の夫と幸せに暮らしているとか。この発言だけでぶっ飛んだ日本人も少なくないのではないか?いかに貧しい労働者階級にしても、これだけ結婚と離婚を繰り返すのは珍しくないのか?尤も映画にはトーニャの異父きょうだいは現れず、5人目の義父だけが登場している。

 ラヴォナはウェイトレスをしながら、娘のスケート生活を全面的に支える。但し愛情深いのではなくスパルタ型で、試合結果が良くなかったり、少しでも口答えをすれば、すぐ手を上げた。身体だけでなく常に言葉の暴力も振っており、「お前は出来ない」というのが彼女の口癖だった。
 ラヴォナがこの言葉を連発するのは、返って娘が力を発揮すると思い込んでいたためだ。実際にトーニャは試合前に「お前は出来ない」と言われ、怒りをバネに演技に集中、好成績を収めている。自分が言うだけではなく、赤の他人に金を払ってまで「下手くそ」と言わせる始末。試合前、母が陰で雇った男から「下手くそ」呼ばわりされても結果を出すのだから、元からタフな精神だったのだ。

 娘にスケートを習わせたのも貧困脱出が目的であり、娘の才能を活かすためではなかった。こうしてトーニャは4歳頃からスケート漬けの生活を強いられる。傍目からみれば鬼母でも、ラヴォナのような母がいなければ、トーニャはオリンピック代表選手にはなれなかっただろう。
 かなり前、英国では労働者階級に生まれたら、サッカー選手かロックスター以外、金持ちになれないと聞いたことがあるが、米国でもスポーツ選手か芸人になる以外、金持ちへの道は険しいようだ。

 強圧的な母親と暮らしていたトーニャも成長し、恋に落ちる。しかし、男運と男の見る目の無さは母親と変わりなく、早々とゴールインした初恋の相手はDV男だった。元夫ギルーリーはインタビューで妻への暴力を否定していたが、結婚から僅か1年で離婚している。離婚後も元妻に付きまとい、腐れ縁で繋がっていた。
 そしてリレハンメルオリンピック直前に起きた「ナンシー・ケリガン襲撃事件」。映画では元夫とその友人が勝手に襲撃事件を企て、トーニャは全く知らなかったという設定になっている。例えトーニャが関与していたとしても、あまりにもお粗末な襲撃だった。この事件をニューヨーク・タイムズ紙は、「スポーツ界最大のスキャンダル」と報じたそうだ。

 私の職場でも襲撃事件は話題となっていたし、普段フィギュアスケートに関心のない上司や同僚もお昼休みには揃ってТVを見ていたものだ。ジャンプに失敗し演技を中断したトーニャが審判員にスケート靴を見せつけ、泣きながら靴紐の不具合を訴えたのは忘れ難い。
 あれで演技のやり直しが認められたことに納得がいかぬ視聴者は少なくなかったと思うが、結果は8位に終わる。ライバルのケリガンは銀メダル、優勝は一般には知られてなかった16歳のオクサナ・バイウルだった。

 オリンピック後、トーニャは母と絶縁状態となり、プロボクシングにも挑んでいる。映画はKOされたトーニャの顔を映して終わりとなるが、wikiには彼女が再婚して一児を儲けたことが載っている。尤も再婚前は恋人への暴行で2度も逮捕された過去もある。
 ニュース記事「トーニャ・ハーディングは、自分の映画が作られることにどう反応したのか」は面白い。トーニャを演じたマーゴット・ロビーは直接本人からスケートのアドバイスを受けたそうだ。今年であの襲撃事件から25年目となる。映画化で久しぶりにトーニャの名を思い出した中高年世代は多かっただろう。



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2 コメント

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女子プロレスラーになっていたら (madi)
2019-01-20 06:46:48
スキャンダル直後に日本の女子プロレスラー団体のスカウトが訪米していっています。もしレスラーになっていたら、そこそこの成績をのこせていたのじゃないでしょうか。女子プロレスの地位がアメリカではひくいせいもあってことわられています。メデューサ現在の日本人女子プロレスラーのアメリカの活躍より10年も20年も前ですが。

弁護士で生活保護階層の事件もやっていると5人以上の夫とか5人以上のこどもというのも数年に1度程度は目にします。収入がこどもがふえると増加する環境にはまってしまえば制限はなくなる例もあります。母親の体力の問題もありますが。
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Re:女子プロレスラーになっていたら (mugi)
2019-01-20 22:41:03
>madi さん、

 プロレスの本場のイメージのあるアメリカでは、女子プロレスの地位が低かったのですか??日本とアメリカ双方で活躍する女子プロレスラーもいますが、トーニャほどのスケーターなら断られても仕方ありませんね。

 いかに事件を起こす生活保護階層にせよ、5人以上の夫や5人以上の子供を持つ女が日本にもいたのですか!仙台でも、生後1カ月の乳児に十分な水分などを与えず死亡させた母親(28歳)の事件がありました。未婚で4人の子供がいたとか。
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