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白土三平作品の正しい見方 その三

2021-11-10 22:20:10 | 漫画

その一その二の続き
 歴史書というものは先人の英知を学びながらも、歴史の粗を見つける記述でもある。偉大な歴史家にも間違いや現代では到底受け入れがたい価値観があり、歴史研究者たちは歴史の粗を見つけつつ、自説を展開する。
 そして歴史の粗を見つけることは誰にもできる作業ではない。くもり氏のいう通り、歴史の空気を正しく知るためにはかなりの勉強が必要なのだ。現代の価値観で過去を裁くのはマルクス史観の十八番だが、歴史書は勝者の記述でもあるから、敗者となった対象は否定される。

 くもり氏は白土の劇画を見ただけで歴史を知っているつもりになっているようだが、果たしてマトモな歴史書を読んだことがあるのか?と言いたい。白土作品に対しては以下のコメントを頂いたが、全面同意する、

私の教師もファンでした (スポンジ頭)
2007-01-27 22:59:18
こんばんは。

私の小学校時代の教師もヒダリマキ+白土三平のファンで、私も「カムイ伝」をほんの少しですが読み、江戸時代はろくでもない時代だと思った時期があります。
「みの踊り」は島原の乱を引き起こす元になった松倉勝家がキリスト教徒以外の百姓を拷問するのに使用しています。但し彼は幕府に島原の乱の責任を問われて江戸時代大名で唯一の打ち首にされるので、むしろ過酷な扱いは犯罪と考えられていたことを示しています。
「生き埋め」に関してはシナ歴史ではありますが、日本の歴史で聞いたことがありません。どこの誰がそんな刑罰をしていたんでしょう。
その日本軍の蛮行ってシナ人の行動そっくりなんですが。
白土三平は才能があると思いますが、創作を実際の日本歴史の暗部として書くのは困ります。

 特に「45年前の、子供に真実を隠す世論の中で」ほど、くもり氏の全くの世間知らずぶりが表れている箇所はない。歴史を否定、子供に真実を隠していたのこそ左翼だが、45年前に限らず子供に「真実」を公表した国が何処にある?白土を読んでいるなら少なくとも中年世代のはずだが、青臭い学生並みの社会観には呆れる。
 どの国も負の歴史があるが、小学生くらいの児童にはそのようなことは教えない。未だに自国の負の歴史を教えるどころか、愛国教育と称し自国礼賛と他国への憎しみを植え付けている国も珍しくない。このような歴史教育は45年後でも行われているだろう。

 ベストセラーになった西尾幹二氏の『国民の歴史』には興味深いことが載っていた。歴史記述とは自国の恥部をできるだけ少なく描き、他国のそれを大きく取り上げるのが基本というのだ。特に顕著なのが英国で、現代は不明だが、21世紀初めになってもアヘン戦争は教科書に記述されていなかったという。
 私が読んだ他国の歴史教科書はインドとイランのものだけだが、実にバランスの取れた描き方で感心させられた。尤も英領時代のインドの歴史教科書はインド側の悪逆と残酷がくどくどと書き連ねられており、インド初代首相ネルーはそれを「逆立ちした歴史」と憤っていた。

 白土についてwikiには、こんな記述が見える。
1956年、板橋に転居し、「太郎座」のメンバーの一人だった李春子(通名・小林まゆみ)と結婚。このころ日本共産党への入党を希望し、1年間ボランティアで機関紙『赤旗』を配達したが、入党は叶わなかった。
 太郎座という人形劇団があったことは知らなかったが、上の記述が正しければ、やはりねぇ……と思った。妻が在日女なのはさておき、共産党への入党が叶わなかったのは何故だろう?1年間ボランティアで機関紙『赤旗』を配達したにも関わらず、学歴面がネックだったのやら。

 カムイ伝は1968-70年の全共闘運動・大学紛争に少なからぬ影響を与えたと云われる。しかし'70年代に入り、左翼諸派間の内ゲバや連合赤軍によるリンチ殺人事件が典型で、過激な学生運動は急速に支持を失う。カムイ伝第一部も時を同じくするように、1971年7月号で雑誌連載を終了している。第二部は17年後に開始された。

 ゴルゴ13さいとう・たかを氏は、白土より二週間前の9月24日に死去している。彼の死はNHKでも取り上げられたが、白土は未だに特集報道されていない。今でも読まれているゴルゴ13と違い、今の若い人の殆どは白土作品を見ていないだろう。白土は既に過去の劇画家となっており、時代の寵児も時代が変わるや時代遅れとなる。

◆関連記事:「逆立ちした歴史
イランの歴史教科書

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4 コメント

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Unknown (牛蒡剣)
2021-11-10 23:14:21
私は共産主義のヤバさを知った後に白戸氏の
作品を知ったので、端から読んでみようとする気が
ありませんでした。

江戸時代ですけど、意外と法治主義的志向で行政
が運営されていることに驚きます。以前天領の代官に関する本を読んだことがあるのですが、領民は
法令や年貢の制度、前例を熟知しており、容赦なく
幕府に訴えて、処罰を求めてくるし、公事方御定書を熟知したロビストがいて、「どこの誰にどれだけ報酬をだして、何となにの書類と証拠をあつめて
持っていけばいいか」を手配する、(ただし詐欺師まがいも多かった)のが職業として成立していたそうでです。幕府も訴え妥当であれば、容赦なく処分
され、代官は不法なことをするのは簡単ではなく、
しかも、簡単に切腹に追いやられやすく、収入もしくなく、円滑な行政には自分で持ち出しも多い。その上、任期中に一定額借金をふやすと死刑!ときわめて人気のない仕事だったようです。まあ300ある各藩全部が、そこまで法令主義だったとは思えませんが、
武士の勝手な裁量だけで運営できるほど、傲慢な行政ができる時代ではなかったといえるかと。
牛蒡剣さんへ (mugi)
2021-11-11 22:30:25
 私は共産主義のヤバさを知る前の小学生の頃に白戸作品を見たので、昔の日本では生き埋めが行われていたと本気にしましたよ。記事にも引用しましたが、スポンジ頭さんも江戸時代はろくでもない時代だと思った時期があったとか。小学生なら鵜呑みにするでしょう。

 天領の代官のエピソードは興味深いですね。天領なので各藩とは事情がいささか違っているかもしれませんが、代官はうまみのある仕事ではなかったとは驚きました。
 時代劇では悪代官が付き物だし、結託する悪徳商人と「おぬしもワルだのう」と言い合うシーンは定番です。左翼学者こそ、武士の勝手な裁量だけで運営できるほど、傲慢な行政ができる時代ではなかったという真実を子供たちに隠していた。
Unknown (牛蒡剣)
2021-11-11 22:49:20
>結託する悪徳商人と「おぬしもワルだのう」と言い合うシーンは定番です

これも世知辛い事情があって。例えば検見法でコメの出来高が悪いと減免しなければならないですが、
納めるべき料と差がでますよね。災害が起きますよね。放置すれば領民の生活が悪化して来年の税収
が落ちますよね。勿論対策費が必要ですよね。
代官の現地スタッフて定数が30人ぐらいで2から3万石の領域を統治するんですよ。赤穂藩が6万石で数百人藩士がいたのに対してですよ。こうなると現地で人の手が必要になったら?という感じで諸々の経費が発生しても原則自分で負担するしかないのです。俸禄は給料ではなく、お役目をなすためにもらっている建前ですから。勿論インフレ率を無視して
元和の石高しかもらえない武士にそんな蓄えなんてありません。必然的に商人に頭下げてカネを借りるほかない。でこれらの借金は任期終了までに返済できないと死刑です。しかも赴任引っ越しの時点で
借金している!そうなると、傑物でもなければ
商人に顎で使われる素敵な代官生活というわけです。しかし、代官側も幕府で難しい仕事なのでたたき上げのベテラン官僚が回されてくるので、これをいなしつつ、商人に利益を出しつつ、領民の人気取りもしつつ、借金返済もしていく綱渡りを要求されていくのです。w領民 商人 お上どれにも恨まれかねないしどれも自分を殺せる存在ですからねえ。

まあそんな状況なんでそりゃあ商人とは大なり小なり結託は必然ですねえ
牛蒡剣さんへ (mugi)
2021-11-12 22:49:52
 時代劇に登場するのは悪代官が大半で、困窮している領民をしり目に悪徳商人とつるんでうまい汁を吸っている……といったキャラです。wikiには、「実際には問題が発生すれば多くの場合はすぐに罷免され、時には切腹も有り得るなど、江戸時代の代官は厳しく管理されていた」ことが載っていました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%82%AA%E4%BB%A3%E5%AE%98

 代官は職務上、借金をしなければやって行けず、しかも借金は任期終了までに返済できないと死刑だったのですか??内容からかなりハードな職業だったことが伺えました。
 代官の実態を詳しく教えて頂き、とても勉強になりました!時代劇のお代官様のイメージは実態とはかなりかけ離れていたことを知らない人が多いでしょう。