トーキング・マイノリティ

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サムライ宣教師クルーズ

2018-01-18 22:40:29 | 音楽、TV、観劇

 録画していた『サムライ宣教師クルーズ』を先日見た。NHK BSで再放送された番組で、宮城県特別ウエブサイトにもこう紹介されていた。
平成30年1月6日(土)に政宗公生誕450年を記念し、サンドウィッチマンの歴史コント「サムライ宣教師クルーズ」がNHK BSで再放送されます。
 伊達政宗公の命を受けて海を渡った支倉常長と案内役のスペイン人宣教師ソテロ。メキシコ、スペイン、ローマ、マニラと地球規模でたらい回しされるなか、次第に友情が芽生える2人。そんな2人を待ち受ける過酷な運命とは?400年前に実在した「国境を越えた友情」を描いた、笑いあり涙ありの歴史コント「サムライ宣教師クルーズ」をぜひご覧ください

 慶長遣欧使節をテーマにした歴史コントで、常長を伊達みきおさん、ソテロを富澤たけしさんが演じている。伊達さんの本名は読みが同じの伊達幹生、文字通り伊達氏庶流の出。冒頭で常長に使節を命じる政宗が登場するが、政宗は富澤さんが演じている。しかも富澤さんは学生みたいなジャージを着用、胸元には「政宗」のゼッケンがあり、キックスケーターで現れる。政宗独特の兜や右目の眼帯は付けていたものの、これはあくまで歴史コント、大河ドラマではないのだ。
 派手な着物姿ではいるものの、伊達さんはいつも通りの金髪メガネスタイル。それを相方の富澤さんは「メガネ豚」と揶揄、舞台では何度も「メガネ豚」が連発されている。

 それでも「歴史コント」なので、ほぼ史実どおりに劇は進行していく。メキシコの次に向かったスペインでは日本のキリシタン弾圧も既に知られており、交渉は難航する。第三幕のスペイン編では富澤さんがラップを披露していた。



 舞台にはピアノが置かれ、川上ミネさんが奏でるピアノが背景音としても素晴らしい。ちなみにこのピアノは一千万円もするそうだ。伊達さんもピアノを弾いており、その見事な腕前に驚いたが、「猫踏んじゃった」の一曲を除き全て録音だったことをばらしている。
 幕間には仙台市博物館が映され、ここを訪れたサンドウィッチマンが学芸員の解説を聞く。博物館に収蔵された数々の慶長遣欧使節関連資料が紹介された後、「やはり、記録を保存することは大切なんですね」と感心する伊達さん。「お前が何年も前に書いたコントのネタ、俺は持っているよ」、とツッコミを入れる富澤さんの傍らで笑っている学芸員さんのシーンはおかしかった。

 慶長遣欧使節は失敗に終わり、常長は実に7年ぶりに帰国する。帰国してもキリシタンということで蟄居を命じられ、その2年後に失意のうちに死去。常長の生年は1571年と分かっていても、月日は不明なのだ。没年が1622年なので享年は51歳だろう。
 一方のソテロも常長の死から2年後、火刑で殉教する。常長より3歳年下の彼は享年49歳だった。火刑前のソテロのセリフも笑えた。
あああ~火あぶりやだな~、熱いかなあ~?練習しとこうかな?!

 最終幕は2人の天国での再会。常長は額に白い三角巾、白装束という幽霊スタイルで登場する。キリスト教に入信したのだから、この格好はヘンだが、これはあくまで「歴史コント」なのだ。ソテロは頭にちゃんと輪っかがあるものの、フランシスコ会特有の茶色の僧服はボロボロ。火あぶりのためだと言うソテロだが、天国では死亡時そのままの衣装となるのか?
 ソテロに帰国後の不遇を語る常長の話はほぼ史実どおり。そして2人は共に過ごした7年間を振り返り、国境を越えた友情を温めあう。彼らが互いにどのような感情を抱いていたのかは不明だが、それでも7年という歳月は長い。希望と絶望が交差する中、友情がなかった方がおかしい。歴史に翻弄された生涯だったにせよ、遣欧使節に選ばれたからこそ名を遺したのだ。

 歴史コント自体は面白かったが、キリシタン迫害についての描き方は不満がある。これに限らず、日本のメディアでキリシタン迫害に至った背景を解説したものを私は未だに見たことがない。
 先ず始めに日本の神社仏閣を破壊するテロ行為や仏教徒への迫害、さらに夥しい日本人を奴隷として海外に売りとばしたのがキリシタンである。宣教師も止めさせるどころか、煽っていた始末。これでは迫害、排斥されるのは当り前なのだ。
 日本への密航で捕えられたソテロが処刑されたのも2年後である。政宗の助命嘆願はあったにせよ、2年間も生かしていたのは何故なのか?「転び」(棄教)を迫っていた可能性もあるが、当時の西欧諸国ならば早々に処刑していたはず。同時代の欧州の異端審問に比べれば、日本のキリシタン弾圧など手緩い。

 慶長遣欧使節をテーマにした歴史コントの企画は結構でも、ノンクリスチャン日本人に贖罪意識を植え付けることに繋がる……と見るのは邪推だろうか?かつて日本はキリシタンに酷いことをした、という宣伝や洗脳には実に効果的であり、日本人クリスチャンはキリシタン迫害を未だに憎んでいる。

◆関連記事:「教会は最大の犯罪組織?
 「カトリックによる日本侵略
 「キリシタンはなぜ迫害されたか?

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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
火あぶりの刑 (スポンジ頭)
2018-01-20 09:49:38
 おはようございます。

 どこかの大学の紀要を読んだことがありますが、フランシスコ・ザビエルはインドのゴアでユダヤ人を火刑に処しています。「神の神聖なる火」と言うのが火刑の名称だった筈。昔から住み着いていたユダヤ人を新来のキリスト教徒が正義の名の元に殺すのですからやりきれない。
 下手に布教を許すと、日本人が外国の宗教を信じないという理由で火あぶりになっていた可能性があったのですね。長崎は教会領になっていたから特にその危険性は大です。イタリアでもローマ教皇領をほぼなくしてしまいましたから、近代国家に強力な宗教は不要です。

 キリスト教(カトリック)をロマンチックなイメージで語ることが出来るのも何とか抑え込んだからです。恐らく布教が成功していたら、失礼ながら今の中南米やフィリピンのような国家となっていた事でしょう。
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Re:火あぶりの刑 (mugi)
2018-01-20 22:45:22
>こんばんは、スポンジ頭さん。

 ユダヤ人と同じくゴアに昔から住み着いていたトマス派のキリスト教徒も異端として弾圧され、典礼が焚書にされたりしたというコメントを頂いたことがあります。主導したのはザビエルではなく、ポルトガル人のゴア大司教Aleixo de Menezes という人物とか。
http://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/361667bc27876b06f6babef0080adeae#comment-list
 
 現代は閉鎖されていますが、元プロテスタントのブログ『キリスト教の問題点について考える』には、福音派のKGK/キリスト者学生会メンバーの医学生の発言が載っていて、拙ブログでも引用したことがあります。
「日本もコンキスタドールに攻めてもらえば良かった」「日本も欧米列強の植民地になれば良かった」
http://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/44aca025ba3b5e788801d7d768f2a746

 日本人クリスチャン全てがこのような考えではないと思いますが、日本にこの類がいるのはぞっとさせられました。仰る通り布教が成功していれば、中南米やフィリピンのようになったと私も思います。ゴアでは現地のヒンドゥー教も邪教として弾圧されました。
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ソテロネタ大好き (JRT)
2018-02-02 04:39:13
ソテロの祖父はセビリャの貿易商人の大物で、当時の主力商品の奴隷も扱いましたし新大陸の真珠漁ではエスパニョーラ島のインディアン(タイノ人)を酷使しまくりほぼ絶滅させてもいます。慶長遣欧使節の途上に島に立ち寄りはしませんでしたが近隣のメキシコの町々には実家の子飼いの者が現役で家業に携わっており、道々で当然ソテロはその人達と交渉があったはずです(ソテロの実兄が跡を継いでいた)。そういう視点からのアプローチがコントにもあれば面白かったでしょうね。
さらにそのソテロの祖父は元ユダヤ人の改宗キリスト教徒でもあり、「血の純潔」が猖獗を極めていた当時のスペイン社会にあってソテロは自分の出自に悩んでいたに違いないのです。下手をすれば本人の異端審問もありえたわけですから(過激なカトリック原理主義者も標的にされた)。
日本のキリシタン受難史としてだけ常長&ソテロのエピソードを捉えると、歴史上のいろんな問題を見落としてしまうというのは、日本国内に限った話ではないのでした。
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Re:ソテロネタ大好き (mugi)
2018-02-02 21:37:44
>JRTさん、コメントを有難うございます。

 ソテロはサラマンカ大学で学んでいるため、裕福な家の出ではないかと想像していましたが、やはり大物貿易商の家柄でしたか。当時は長男が家を継ぎ、次男や三男は僧侶や軍人になる時代でしたから、ソテロも宣教師になったのだろうと思いました。
 そしてソテロの祖父は改宗ユダヤ人でしたか!要するにマラーノ(豚)と蔑まれていたため、異端審問の標的になる可能性も大でしょう。面白いことにスペイン異端審問所で職務に就く者には、コンベルソと呼ばれたユダヤ人改宗者がいたようです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%99%E3%83%AB%E3%82%BD

 日本で常長&ソテロのエピソードが歴史コントのネタになるのは、先にスポンジ頭さんがコメントされたように、キリスト教を何とか抑え込んだからです。ソテロの家系の話を持ち出せば、コント自体も難しくなったでしょう。とても参考になる情報を有難うございました!
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お返事ありがとうございます (JRT)
2018-02-05 21:37:52
一応ソースの紹介です。
ソテロの出自や祖父(Mariscal Diego Caballero)については、慶長遣欧使節に関する大泉光一氏の一連の著作に言及があります。
また Enrique Otte の論文 Diego Caballero, funcionario de la Casa de la Contratación で一族についてさらに詳しく知ることができます。真珠漁とタイノ人絶滅については Perlas Caribe Nueva Cadiz Cubagua もどうぞ。
少し古いですが Ruth Pike の論文 ARISTOCRATS AND TRADERS, Sevillian Society in the Sixteenth Century では、ソテロの祖父の時代のセビリャ市政における「元ユダヤ人改宗キリスト教徒系貿易商人支配層」の縁戚ネットワークについて詳述されています。
ttp://libro.uca.edu/aristocrats/aristocrats.htm
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Re:お返事ありがとうございます (mugi)
2018-02-07 00:58:20
>JRTさん、

 ソースの紹介を有難うございました!ソテロの出自を書いていた大泉光一氏の名は初耳ですが、wikiにも解説が載っていました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%B3%89%E5%85%89%E4%B8%80

 ソテロがユダヤ人改宗キリスト教徒の家系だったとは、想像もしていませんでした。スペインの改宗ユダヤ人に対する蔑称マラーノの用語だけは知っていましたが、wikiを見たらさらに「コンベルソ」と呼ばれた人々がいたことを知りました。主なコンベルソ系の人物の中には、コロンブスやセルバンテス、ベラスケス、ラス・カサスまでいたことが載っています。
 ラス・カサスは西アフリカから運ばれた黒人奴隷の利用もやむなしと考えていた時期もあったし、インディオに代わり黒人奴隷が酷使されるようになりました。改宗ユダヤ人の多彩な活躍には驚くばかりです。
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セルバンテス (スポンジ頭)
2018-02-07 21:51:31
 こんばんは。

 セルバンテスは小説の「ドン・キホーテ」で従者のサンチョ・パンサに黒人奴隷の売買について話をさせているのですが、サンチョは奴隷売買について何の良心の咎めもなく、単純に金貨銀貨を手に入れるための手段としか思ってませんでした。当人はスペインの庶民でこずるいところもあるけれど、全般的には善良な人物とされているのですが、その人物にしてこの発想。

 そして、サンチョ・パンサが言う台詞の中に「ユダヤ人とは敵同士として生きる」というのがあるのですが、これを読んだ際はキリスト教徒とユダヤ人の溝の深さのみ感じていました。しかし、セルバンテス自体が改宗ユダヤ人の子孫となると、別の色彩が加わりますね。それだけ反発しなければならなかったのかどうか。
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Re:セルバンテス (mugi)
2018-02-08 21:41:30
>こんばんは、スポンジ頭さん。

「ドン・キホーテ」は未読ですが、サンチョ・パンサのお話は興味深いですね。尤も当時のスペイン人はじめ欧州人は善良な人物でも、同じ発想だったと思います。何しろ出版が17世紀初めの文学ですし、奴隷制は普通の時代で疑問視もされなかったのでしょう。

 セルバンテスが改宗ユダヤ人の子孫だったことには諸説あるそうですが、本当にコンベルソだったとすれば「ユダヤ人とは敵同士として生きる」という台詞は重すぎます。改宗者ゆえの近親憎悪に近いような。
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これでは・・・ (スポンジ頭)
2018-05-13 23:00:28
 先日、英語サイトを見ていたら、アメリカ人のカトリックの信者が中南米で子供を生贄にしていたことを取り上げ、「コンキスタドールのお蔭でこのような習慣がなくなったので、コンキスタドールに感謝する」と記載していました。

 キューバは原住民が絶滅しているのですが。

 現ローマ教皇はこのような人物を列聖したとかで、この教皇に対するイメージが一気に悪い方へ変わりました。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%8B%E3%83%9A%E3%83%AD%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%83%A9

 そして、ルイ十六世は同時代の人間ですが、例えツヴァイクに罵倒され様々な欠点があったにせよ、時代背景を考慮すると、やはりルイ十六世は非常にまともな人物だったのだと思いました。
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Re:これでは・・・ (mugi)
2018-05-14 22:15:53
>スポンジ頭さん、

 アメリカ人に限らず、日本人クリスチャンもカトリック、プロテスタント問わず大半は「コンキスタドールに感謝する」のです。原住民の絶滅など些事に過ぎず、大事なのは新大陸にもキリストの福音を伝えたこと。熱心なカトリックとして知られる映画俳優メル・ギブソンは、自ら監督した『アポカリプト』で、マヤ文明を生贄を盛んに行っていた悪の帝国として描いていました。
https://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/5148e5372c4eaa25f1280b150bcedc1d

「最後のコンキスタドール」と呼ばれたフニペロ・セラについて、拙ブログでも取り上げたことがありました。
https://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/361667bc27876b06f6babef0080adeae

 キリスト教棄教者のブログを見て、初めてフニペロ・セラのことを知りましたが、セラは前法王ヨハネ・パウロ2世によって列福を受けました。実は1980年代にバチカンはセラを「聖人」に加える予定でしたが、セラによる虐殺を生き延びたカリフォルニアのインディアンたちの猛反発を受け、暫くは「聖人」への列聖は見送っていたようです。

 しかし、ついに2015年9月23日、セラを列聖に加えたとは…バチカンはインディアンの反対運動が収まるのを待っていたと思います。現法王は初の南米出身者だから、コンキスタドールは文句なしに聖人視するはず。そして気になるのは中国共産党との接近。18世紀のコンキスタドールへの列聖と違い、日本には大変な不利になるでしょう。
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