録画していたダークサイトミステリー、「アメリカ最恐事故物件“悪魔の棲(す)む家”の真相」(放送日8月18日)を見た。映画『悪魔の棲む家』は未見だが、公開当時日本でも話題となったことは憶えている。確か怪奇現象が立て続けに起きる家が舞台となった作品だったはず。NHKオンデマンドでは番組をこう紹介している。
―高級住宅街の豪華3階建てプール付きの夢のマイホームが、お値段超格安!でも大量殺人の事故物件!あなたなら買いますか?▽1970年代、そんな家を買った家族をさまざまな心霊現象が襲った!衝撃の実話ホラーは出版・テレビ・映画で大ヒット!豪邸はアメリカでもっとも有名な幽霊屋敷に!
▽ところが騒動のウラを探ると、日本でも誰にでも起きうる恐ろしい原因が!?理想のマイホームにまつわる、「えええっ!」なひんやり実話!
いかに高級住宅街の格安豪邸でも大量殺人の事故物件であれば、購入を躊躇う人も少なくないだろう。このいわくつきの家はオーシャン・アベニュー112番地と呼ばれ、大量殺人が家主の長男ロナルド・デフェオ・ジュニアによって行われたことを番組で初めて知った。
事件発生は1974年11月13日。ロナルドは当時23歳だったが、彼の両親と4人の兄弟姉妹全員を射殺したのだ。裁判で彼は、「ずっと頭の中で何者かの声が聞こえていた」と主張、弁護士は心神喪失を理由に減刑を求めるも、判決は終身刑だった。
事件から僅か1年後の12月、この家を購入したラッツ一家が引っ越してくる。事故物件ゆえに価格が下落、そのためラッツ夫妻はいわくつきでもこの家を購入したのだが、直後に様々な怪奇現象が起き、28日後にはこの家を出る羽目になったというのが『悪魔の棲む家』のストーリーだった。
『悪魔の棲む家』はシリーズ化されており、21世紀になっても30本以上の続編や関連作品が制作されていることから、米国での人気が伺えよう。せっかく購入した家が“悪魔の棲(す)む家”だったのでは堪らない。
しかし、ラッツ夫妻の語った怪奇現象やそれを元にした小説『アミティ・ビル・ホラー』にはかなり嘘があり、真贋論争も起きたという。ラッツ夫妻と家族を皆殺しにしたロナルド・デフェオの担当弁護士は通じており、ワインを飲みながら怪奇現象をでっち上げたこともあったと、後にこの弁護士が暴露する。
弁護士は怪奇小説や映画化を目論んでいて、夫妻が弁護士と関わりのない作家と契約したことで当て込んでいた収入が得られず、そのため裏切ったらしい。この弁護士はロナルドの裁判時にも、「ずっと頭の中で何者かの声が聞こえていた」と主張するように言っていたようで、こちらも小説化が目的だったとか。
それでも映画や小説のヒットでラッツ夫妻は大金を手にしている。実はラッツ夫妻は無理して収入以上の豪邸を購入したので、重い住宅ローンや固定資産税、中古住宅ゆえの修繕費などの問題を抱えることになり、経済的問題を抱えていたのだ。当時は石油ショックにより物価が軒並み高騰、住宅を購入しても到底返せない借金を抱えてしまった人が多かったいう。
ラッツ夫妻の後にもオーシャン・アベニュー112番地を購入した一家がいた。ラッツ夫妻の話題でさらに価格が下落したので購入したのはクロマティ夫妻。クロマティ夫妻は怪奇現象には悩まされなかったが、家に押し掛ける野次馬に悩まされる羽目になる。野次馬は国内だけでなく欧州からも来ていたとか。結局クロマティ夫妻もこの家を手放した。
番組で紹介していた米国の諺、「面白い話をつまらぬ真実で潰すな」は興味深い。米国に限らずどの国でも似たような傾向があるのは、人間の性質から明らかだろう。つまらぬ真実よりも面白いホラ話を好むのだから。
ただ、僅か28日で家を飛び出したラッツ夫妻に、何らかの怪奇現象はあったのかもしれない。
番組では追及していなかったが、ロナルドが両親と弟妹を射殺したことだけは間違いなく真実であり、何故彼が一家惨殺を実行したのか、結局は不明のままなのだ。「ずっと頭の中で何者かの声が聞こえていた」訳でなかったとすれば、こちらの方が遥かにホラー。そしてロナルドは、2021年3月12日に死去している。