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NHK歴史探偵に見る桃太郎伝説

2022-09-18 22:00:26 | 音楽、TV、観劇

 9月14日放送のNHK歴史探偵は桃太郎を取り上げていた。桃太郎といえば、私も司会の佐藤二朗と同じく昔話そのままのイメージだったし、川から流れて来た大きな桃から生まれた男子が成長し、鬼ヶ島に遠征して鬼退治の後、故郷に鬼から奪った財宝を持ち帰る物語としか思っていなかった。
 これは現代でも知られている桃太郎 (童謡)も大きいだろう。しかし、桃太郎伝説は岡山だけではなく日本各地にあり、童謡とは違う伝説だったことを番組で初めて知った。以下はNHKオンデマンドHPでの紹介。

今回は桃太郎。桃太郎伝説で有名な岡山を訪ねると、鬼の城や桃太郎の盾と伝わる不思議な巨石を発見!桃太郎のモデルとされる人物の鬼退治伝説をひもとく。さらに伝説の裏にあった史実を探ると、ヤマト政権に抑圧された古代・岡山の歴史が、鬼退治伝説に反映されている可能性が見えてきた。
 番組後半は中学生の特別探偵が登場。レギュラー探偵も顔負けの驚きの調査結果を報告!歴史のなかに潜む知られざる桃太郎の姿を徹底調査する。

 先ず驚いたのが、岡山には見事な鬼の城があったこと。私的には桃太郎よりも鬼のモデルの方が関心があったし、鬼ヶ島に居住していたので、ひょっとして、後の村上水軍のような海賊集団でもあったのか?と想像していた。
 しかし岡山では陸に鬼の城があったという。このエピソードから強力な山賊集団だったと思いきや、ヤマト政権に抑圧された古代・岡山の歴史の背景もあるようだ。ヤマト政権は古代・岡山を含め各地の豪族の財力をそぐため築城を命じていたそうだが、やり口は江戸時代の参勤交代と同じだ。そして東北の阿弖流為(アテルイ)のように、負けた側が“鬼”にされるのは少なくない。

 記事にするに当たり今回初めてwiki版の桃太郎に目を通したら、番組以上に詳しい解説が載っていた。芥川龍之介が小説で桃太郎を取り上げていたことは知っていたし、番組でも紹介していた。しかし、「尾崎紅葉正岡子規北原白秋菊池寛などの著名な小説家たちも競って桃太郎を小説の題材にして」いたことは番組では触れなかった。
 芥川が小説・桃太郎を発表したのは大正13(1924)年。番組では芥川が当時の軍事侵攻を良しとする社会への批判を込めていると解説していたが、芥川板の桃太郎は一般に知られている桃太郎像とはかなり違っている。青空文庫にもこの作品が載っているが、鬼ヶ島征伐のいきさつはこうなのだ。

桃から生れた桃太郎は鬼が島の征伐を思い立った。思い立った訣はなぜかというと、彼はお爺さんやお婆さんのように、山だの川だの畑だのへ仕事に出るのがいやだったせいである。
 その話を聞いた老人夫婦は内心この腕白ものに愛想をつかしていた時だったから、一刻も早く追い出したさに旗とか太刀たちとか陣羽織とか、出陣の支度に入用のものは云うなり次第に持たせることにした。のみならず途中の兵糧には、これも桃太郎の註文通り、黍団子さえこしらえてやったのである。

 特番でも桃太郎が仕事を怠けたいがため、鬼ヶ島征伐を思い立ったことを紹介していたが、小説の結末は話していない。故郷に凱旋した後、「しかし桃太郎は必ずしも幸福に一生を送った訣ではない」。「鬼が島に生き残った鬼は時々海を渡って来ては、桃太郎の屋形へ火をつけたり、桃太郎の寝首をかこうと」する。鬼たちの復讐に苦しむ桃太郎など昔話では考えられないだろう。

 戦時中は桃太郎のプロパガンダ映画が制作され、「桃太郎 海の神兵」というアニメも作られていた。このアニメの名前だけは知っていたが、制作が昭和19(1944)年とは思えぬほど、キャラの動きがスムーズで高質だったのは印象的。
 ただ、戦時中ゆえに出征地の現地民に日本語を教えるシーンもある。特番では当然このシーンを取り上げていたが、さりげなく戦前の日本語強制政策を非難しているのは明らか。
 尤も当時の欧米列強では宗主国の言語を植民地に強制することは当たり前に行われていたし、オスマン帝国末期でもアラブ人にトルコ語を強制したこともあった。共和国になって以降のトルコでは、全土てトルコ語教育が徹底されていく。戦前どころか、新大陸では先住民同化政策は1980年頃まで続けられたと云われる。

 桃太郎が童謡のような話になったのは、実は明治時代以降だった。司会の佐藤二朗は53年間知らなかったと言っていたが、私はそれよりも長く知らなかった。童話が何度も改ざんされるのは他国でも少なくないそうだ。

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