トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

吉村作治の早大エジプト発掘40年展

2007-07-14 20:21:29 | 展示会鑑賞
 仙台市博物館で開催されている「吉村作治の早大エジプト発掘40年展」を見てきた。これまで見た古代エジプト関連の催しでは、展示物がやや少なめに感じられたが、それでも発掘された品々は見ているだけで面白い。古代エジプト展でよく目玉となるミイラの展示こそなかったが、見事なミイラマスクが最大の出し物だった。

  古代四大文明で、おそらく最も人気のあるのがエジプトだろう。遺跡から発掘される様々な埋葬品は、現代から見ても工芸ならび美的水準が高く、見る者の目を 楽しませる。壁画に描かれた絵は、形式化されているものの色彩は実に鮮やか。壁画に華やかな女性が多く描かれているのもよい。これがメソポタミアのような 中東の遺跡だと、ひげ面のいかめしい男ばかり登場する味気なさ。現代ではそんな歴史があったとは信じられないが、古代エジプトでの女の地位はかなり高かっ た。

 今回の特別展で私は初めて早大エジプト調査隊が、ルクソール西岸のマルカタ南遺跡の「魚の丘」 こと彩色階段を発見したのを知った。この彩色階段のレプリカが展示されており、階段面には3種の人間と弓が交互に描かれている。説明にはヌビア人、シリア 人、西アジア人となっていたが、西アジアといえ古代から多様な民族がいたのだ。「魚の丘」遺跡は紀元前1400年頃のものと推定されているので、まさかヒッタイトか?昔見た何かの古代エジプト展でも、敵である黒い肌のヌビア人と白い肌のシリア人が描かれたサンダルが展示されていた。紀元前以来の怨念がある訳でもないだろうが、現代でもエジプトはスーダンやシリアと険悪な関係だ。

  会場にステラ(石碑)やシャブティと言われる死者の代わりに来世で労働に従事させるために副葬された人形も展示されていた。石、テラコッタ、木と様々な素 材で作られたシャブティは、多神教だった古代エジプトの大らかな死生観が感じられる。かつて日本も身代わりに埴輪を埋葬したし、今でも願い事を書いた絵馬 もある。また、当時の人々も色々なかたちの護符を持っていたが、心臓の形をした小さな赤いそれがあった。ローマ支配時代のオストラコンも 展示されていたが、陶器よりテラコッタがほとんどでギリシア文字で書かれていた。ギリシア語が読めないので意味は不明だったが、解読したらどのような内容 なのだろう。オストラコンはメモ代わりにも使われていたらしく、借金返済の催促やラブレターのものもあるのではないか。

 今回の特別展の最大の見物が、2005年1月に早稲田隊がダハシュール北遺跡で発見した青いミイラマスクと彩色箱型木棺。中王国時代、今から3,800年前に活躍した行政官、セヌウの ミイラを納めたもの。深い竪穴の底に設けられた墓は奇跡的に盗掘を免れ、セヌウの名と、「アチュウ(司令官)」という身分は木棺表面の銘文に書かれていた そうだ。世界に先駆けて日本初公開とか。ツタンカーメンの黄金のマスクには及ばないが、このミイラマスクもなかなか美しい。木棺は思いの他幅が狭く窮屈だ が、不釣合いなほど高さはあった。ミイラになり縮んだのかも知れないが、セヌウの身長は157㎝なので棺が小さめだったのか。または木材が不足していたエ ジプトで木棺自体が高価だったのかも。

 吉村教授が初めてエジプトに行った時は数名の仲間がいただけだったが、その後早大エジプト調査隊は2千人もの人員が現地に行き、作業を行ったそうだ。発掘作業とは厖大な資金と根気がいるのを改めて知る。

よろしかったら、クリックお願いします


最新の画像もっと見る