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欲望の昭和~戦後日本と若者たち~

2022-09-14 21:10:30 | 展示会鑑賞

 東北歴史博物館の特別展「欲望の昭和~戦後日本と若者たち~」を見てきた。私自身も昭和30年代後半生まれ、展示資料には懐かしいものが多かった。博物館のHPでは特別展をこう紹介している。

昭和20年8月15日,この日を境に日本は,より良い明日を求め,「豊かな人なみの暮らし実現」という欲望を募らせながら経済社会を発展させてきました。その過程で,欲望実現としての「消費」の意味は,生活必需品の「買い物」に加え,「自分らしさの表現」,さらにはレジャーとしての「ショッピング」など,様々に拡張変化していきました。

 この「消費」の意味の変化は,戦後の「若者」という「新しい消費の担い手」の出現が契機となり,彼らによって推し進められていったのです。

 本展では,「欲望の実現としての消費」をキーワードに,敗戦後の新しい日常としての「豊かな人なみの暮らし実現」の歩みと,豊かさの実現の中で消費活動の主体の1つとなっていった若者のすがたを,折々の彼らにまつわるトピックスとともに振り返っていきます。本展は,来館者の皆さまと共に戦後昭和の欲望実現の歴史をかえりみることを通じて,新時代をつくる活力ある生活様式を見出す一助となることを期待します。

 トップ画像は特別展のチラシ。右側に載ったコピーは考えさせられる。
「時の若者たちは、人並みの豊かさにあこがれ、人並みの豊かさを手に入れた。次の若者たちは、人並みの豊かさの中で育ち、より豊かな暮らしを求めた。」
 コピーでは“人並みの豊かさ”の言葉が3度使われているが、この場合“人並みの豊かさ”とは、日本の平均的生活水準なのは書くまでもなく、第三世界の基準ではない。確かに一般庶民は平均的生活水準を求めるものだが、横並び志向の強い日本的なコピーは苦笑した。

 特別展は「第1章 より豊かな明日への欲望」「第2章 豊かさの中の若者たちの欲望」の構成となっていて、入り口には8月15日の玉音放送が流されていたのが印象的だった。毎度聞いても玉音放送は内容が解り辛く、聞き取りにくい。特に今の若者ならチンプンカンプンだろうし、これの何処が“玉音”なのか、とツッコミたくなる。
 玉音放送は8月15日の正午に流されるため、この日の新聞朝刊は午後に配達されたことを本展で初めて知った。同日の河北新報朝刊も配達が午後だったという解説付きで展示されていた。これでは朝刊ではなく刊になってしまうが、終戦日でも地方紙は発刊されていたのだ。

 第1章3節「もはや「戦後」ではない」では、東芝制作の国産1号電気炊飯器(№27)が展示されていて、昭和30(1955)年頃に売り出された。値段は5千円代半ばだったそうだが、日銀のHPには消費者物価指数が載っており、1955年頃の5千円を現代に換算すると、16.6倍の83,000円となった。電気炊飯器はまだまだ超高級品だったということ。

 電気冷蔵庫・電気洗濯機・テレビ(白黒)は戦後の三種の神器とも呼ばれたが、最も早く国内で普及したのはテレビだったという。次いで電気洗濯機、電気冷蔵庫の順だったのは意外だった。現代ならこれら三種の家電製品の中で、日々の食事に直結する電気冷蔵庫が最優先されそうだが、1964年東京オリンピックの影響もあったのか、テレビが先に一般家庭に行き渡った。
 昨年行われた東京オリンピックと違い、昭和のオリンピックはマスコミが全面的に支持しており、官民挙げての一大イベントとなったこともテレビの普及に繋がったようだ。

 私的には1章第5節「ひらかれる東北」が興味深かった。仙台港よりも仙台空港開港の方が早かったのは本展で初めて知った。仙台空港発は1964年、東京オリンピックと同年なのだ。仙台港開港はその7年後。開港時のビデオも館内で上映されていて、仙台空港の映像は白黒に対し、仙台港はカラーだったのも時代の流れだろう。地元でありながら、このようなことも知らなかったのは情けない。

 第2章では人気ТV番組やアニメ、CМソングのレコードやコミック、雑誌、ベストセラー小説など、サブカルチャーがメインの展示となっていた。
 FM雑誌も展示されており、FM雑誌の付録のカセットレーベルまであったのは懐かしかった。私もこの付録のカセットレーベルを使っていたものだった。アニメでは宇宙戦艦ヤマトと機動戦士ガンダム関連の展示が特に多かったのは印象的。
 この章は70年代から80年代の展示中心だったし、この時代に若者だった方にはさぞ懐かしく感じただろう。当時10代から20代だった人にとって、展示資料は若者だった時に目にしたり、購入した商品だったから。

 第2章3節のテーマ「雑誌はヤングライフのカタログ」こそ、昭和の若者の欲望の大本を表している。雑誌で取り上げられたヤングライフこそが最先端の若者の生き方であり、それを身に付けたいがために雑誌を買っていたのだ。雑誌に載ったヤングライフは商業主義と一体であり、雑誌は若者の欲望を煽りたてていた。消費こそが欲望の実現だったし、これは何時の時代もさして変わりない。
 現代はネットがヤングライフのカタログとなりつつあり、雑誌の売れ行きが大きく減少しているのも時代の流れだろう。

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