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知の大冒険-東洋文庫 名品の煌めき- 展

2022-06-14 21:10:21 | 展示会鑑賞

 東北歴史博物館の特別展「知の大冒険-東洋文庫 名品の煌めき-」を見てきた。BS日テレ『ぶらぶら美術・博物館』で放送されていた特別展がついに宮城県でも開催されることになった。以下は東北歴史博物館HPでの紹介。

東洋文庫は,三菱第三代社長岩崎久彌が,1924年に設立した東洋学分野における日本最古・最大の研究図書館です。その蔵書は国宝5点,重要文化財7点を含む,約100万冊に及びます。そこには誰しもがかつて教科書で見たような有名な書籍や,美しい図版,珍しい動植物の図鑑,スケッチや絵画,古地図の類があり,鑑賞者の目を楽しませるものばかりです。
 本展示では,これらの書籍を通じて「東洋」と呼ばれた地域をめぐり,日本を含む東洋が,「西洋」,そして世界とどのような関わりをもってきたのか見ていきます。また,東洋文庫の資料は第二次世界大戦中,宮城県に疎開しており,宮城とのつながりについても紹介します。

 東洋文庫といえば平凡社の叢書を思い出すが、展示場の入り口近くにあった解説で初めて「東洋」とは、現代とは違い古代は海域を指す用語であることを知った。
 特別展はプロローグ、第1章 東洋の旅、第2章 西洋と東洋 交わる世界、第3章 世界の中の日本、エピローグの順に展示されていた。HPでの紹介にあるように教科書で見たような有名な書籍、美しい図版が展示されていて、学生時代に戻った思いになる。

 トップ画像はモリソン書庫。1917年に岩崎久彌がオーストラリア出身のジャーナリスト、G.E.モリソンの蔵書を購入したのが東洋文庫の出発点となった。モリソンは中国滞在20年の間に極東に関する欧文文献を収集、これらは「モリソン文庫」と呼ばれたが、文献を展示していたモリソン書庫は、文献の並べ方だけで実に美しい。『ぶらぶら美術・博物館』でも紹介されていたが、これほど見事な書庫は見たことがない。

 プロローグ部ではタイの「サームコック(三国志演義)」(作品№12)があり、三国志好きなのは日本人だけではなかったようだ。作品№14はペルシア語注釈付きのコーランだが、1595年頃の書写とは思えないほど保存状態がよく、紙面の色も経年劣化を感じさせない鮮やかさ。
 第2章に相応しく、マリー・アントワネット所蔵と伝わる『イエズス会士書簡集』(№75)に、往年のベルばらファンは喜んだだろう。1780-83年パリ刊というが、赤い革表紙と金の文様が素晴らしく、フランス王妃所蔵と伝わるものに相応しい。



 私的に最も面白かったのが、「マカートニーを謁見する乾隆帝」(№76)。残念ながらこれは実物ではなくパネルだったが、解説によればこの絵はマカートニー随行員により書かれたのではなく、英国在住の画家が想像で書いたという。乾隆帝や側近たちの極度に吊り上がった目の描き方も凄いが、東洋人はこう思われていたのか。



 世界史の教科書で有名なエドワード・ダンカンの『アヘン戦争図』(1843年ロンドン刊)も、パネルで展示されていた。英国海軍軍艦に砲撃され、粉砕されるジャンク船はインパクトがあるが、これも従軍体験をもとに描いたのではないらしい。
 モンタヌスの「大阪図」(№114)も、実際には来日せずに想像で描いたもの。そのため大阪湾にはジャンク船が浮かんでいる。

 エピローグでは宮城県との所縁が紹介されている。東洋文庫には宮城県所縁の人物たちが関わった書物も収蔵されていた。また東洋文庫の蔵書の一部は戦時中、現代の宮城県加美町に戦禍を逃れて疎開していたことを、今回初めて知った。加美町出身の研究者がいたため、ここに疎開させたそうだ。
 一部と言え40万冊にも上り、加美町に着いた時は6月27日で梅雨のシーズン。雨のために列車の中に蔵書を保管したこともあったという。それでも仙台空襲が7月10日なので、ギリギリ間に合ったというべきだろう。

 疎開していた蔵書が東洋文庫に戻ったのは、戦後4年目だったとか。その時の蔵書を運ぶ市民たちの写真パネルが展示されており、一宮城県民として誇らしい気持ちになった。蔵書は焼失だけでなく水害も受けることもあり、貴重な文献の保存の難しさが伺えた。
 今回の特別展は少し展示品が少な目に感じたが、期待通りの内容だった。それにしても、戦前の財閥の文化事業のスケールの大きさには驚く。現代の富豪にこのような人物はもう現れないだろう。

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2 コメント

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Unknown (鳳山)
2022-06-16 10:27:52
本好きの私としては極楽のようなイベントですね。最近体調が良くないので外出できませんが、私も機会があったら行ってみたいです。
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鳳山さんへ (mugi)
2022-06-16 21:26:39
 最近の鳳山さんは、体調が良くなく外出できなかったことは知りませんでした。何をするにも体が一番なので、ご自愛ください。
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