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トーキング・マイノリティ

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インド・カレー紀行 その①

2018-10-06 20:40:12 | 読書/ノンフィクション

『インド・カレー紀行』(辛島昇 著、岩波ジュニア新書)を先日読了した。書名と“カラー版”という背表紙がつい目に止まり、図書館から借りてきた。ジュニア新書から出ているが内容はむしろ成人向けで、アマゾンレビューでも高く評価されている。
「カレー紀行」と銘打っているが、作者の体験談のみならず、南アジア地域研究者らしく、カレーにまつわる話や地方毎のカレーレシピも載っている。

 新書に載ったカレーレシピは総てインド人主婦の料理がもとになっているが、食材には代用品もある。それでも日本、特に地方では手に入り難い食材が少なくない。本格的なインド料理を作るのは結構でも、ハードルが高そうなのは否めない。
 レシピ頁よりもカレーに関する話の方が面白かった。カレーの国インドだが、意外なことに仏典にはカレーのような料理について記述はないそうだ。釈迦が乳粥を食べたのは知られているが、カレーは食べてなかった??7世紀前半に訪印した玄奘三蔵は、『大唐西域記』の中でマンゴー、バナナ、タマリンドなど、幾つかの果物と野菜について述べた後、こう書いていた。

乳酪(ヨーグルト)、膏酥(こうそ・ギーと呼ばれる溶かしバター)、砂糖、石蜜(氷砂糖)、芥子油、いろいろな餅麨(へいしょう・小麦粉の製品、たとえばチャパーティーなど)はふだん食膳に供するものである。……
 魚、ヒツジ、ノロ、シカはときに切り身としてすすめるが、ウシ、ロバ、ゾウ、ウマ、ブタ、イヌ、キツネ、オオカミ、シシ、サルなど、およそこの毛の生えた生きものはふつう口にしない。口にする者は賤しみ穢れた者として扱われ、町の外に住まい、人中に出ることは稀である」(28頁)

 当時のインドの食習慣や社会のことが、これだけでも伺えよう。7世紀でもヴェジタリアンが理想とされ、町の外に住まい、人中に出ることは稀である“賤しみ穢れた者”が存在していたということ。玄奘より少し遅れて訪印した義浄は、僧たちの食事について、こう記していた。
かわかした粳米(うるちまい)の飯に濃い豆の羹(あつもの・汁)が出され、それに熱い酥をかけ、さらにいろいろの助味を加えて、右手で混ぜて食べる」(29頁)

 この記述にはカレー料理の雰囲気も伝わってくるが、著者は「それよりもここで注目されるのは、ヨーグルト(乳酪)、ギー(膏酥あるいは酥油、すなわち溶かしバター)といった乳製品への言及である」(同)と述べている。義浄はそれらをどこにでもあると言い、玄奘は食事として出るものの最初に挙げていたそうだ。

 玄奘の時代からおよそ700年経た14世紀、イスラム世界の大探検家イブン・バットゥータは、中国への途次にインドを訪れ、ゴアのヒナウル(現ホンナーワルか?)のムスリム領主に食事に招かれ、その時の様子をこう記録している。
銅の皿によそおわれたごはんにギー(溶かしバター)がかけられ、コショウと青ショウガとレモンとマンゴーからなるピクルスが添えられた。ごはんをすこし口に入れてはピクルスを少量食べ……
 つぎはまたごはんとチキン料理が出され、そのあとにこんどは魚料理が出て、それでまたごはんを食べる。つぎにはギーと乳製品で調理された野菜料理が出て、最後にヨーグルトが出された」(36頁)

 著者に言わせると、ごはんにピクルス、肉、魚、野菜そして最後にヨーグルトということになると、これは現代(※第1版は2009年6月)南インドのノン・ヴェジタリアン料理のフルコースだそうだ。
 16、7世紀に入ると、訪印した西欧人たちが現地人の食事について記録している。16世紀末、ゴアに滞在したオランダ人リンスホーテンは、魚をスープに入れて煮て、ごはんの上にかけたものを、「それはカルリと呼ばれ、彼らの日常の料理なのである」と書いている。英語のカリーは、この16、7世紀にポルトガル人やオランダ人によって記録された、「カリル」に由来しているということになろう、と著者は云う。
その②に続く

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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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インド人も驚く (スポンジ頭)
2018-11-11 19:40:53
 こんばんは。

 月並みですが、インド人も驚くカレーを見つけました。よく考えるものです。
https://tottorizumu.com/totttori-pink/
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Re:インド人も驚く (mugi)
2018-11-12 22:29:37
>こんばんは、スポンジ頭さん。

 見た目がシチューと殆ど変わりないホワイトカレーならありましたが、ピンクカレーまであったとは驚きます。インド人がこれを見たら、本当にビックリするでしょう。

「貴婦人のピンク華麗」というネーミングもユニークですが、具は少ないのにサラダ・スープ付で1296円と高め。ピンク色は地元鳥取産のビーツで出したそうですが、ここまで濃い色になるとは。私的にはイカスミカレーの方がイイですね。
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