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「打落水狗」 水に落ちた犬は叩け-魯迅

2005-07-01 21:49:40 | 読書/小説
 中国近代文学の父といわれる魯迅は「打落水狗」、つまり水に落ちた 犬は打て、という言葉も残している。落ち目になった者に冷たいのはどの世界でも同じだが、儒教圏はそのやり口がまた冷酷だ。何しろ「死者に鞭打つ」くらい だから。偉大な文豪イコール人格者とは限らない。芸術的資質と人格はさして関係なく、ヒューマニストでもあるアジア初のノーベル文学賞受賞のインドの詩人タゴールはむしろ例外の最たる者。

  名高い中国の文豪なので学生時代に私も魯迅の本を読んだが、民族性や文化を越えた普遍的な文学というより、20世紀初めの中国社会を鋭く描いた作品だと思う。
  「阿Q正伝」は代表作であると共に魯迅の最高傑作とされている。主人公・阿Qの上の者には異様に媚びへつらい、下と見ると大言壮語して威張り散らすえげつなさと奴隷根性は、未だに中国人の性質に見られるのではないか。さしてこの作品が書かれた頃と変化ないようにも思われる。
  「阿Q正伝」の中で、阿Qが女に欲情して(女が誘惑し たのではない)失態をする箇所があり、魯迅は「中国の男性は世界を変える能力を有しているのだが、婦人の為に台無しになってしまう」と書いているが、これ は如何なものか。女の為にしくじるのなら、他の国の男も同じこと。中国の皇帝が失策をしても、その原因は佞臣(ねいしん)の為と公式歴史記録にあるが、そ もそも佞臣を侍らしたのも君主の浅はかさからきている。文化大革命を全て四人組に負わせ、毛沢東は責任なしとする中共の見解も伝統を踏襲しているのか。

  「狂人日記」も「阿Q~」と並んで有名だが、中国に食人の習慣があるとはこの作品を読んだ後知った。単に(人を食う)とは人間性を破壊する因習の比喩だと解釈していたが、実際に人を食う歴史を有していたとは!
  「藤野先生」は日本人には馴染み深いだろうが、麗しい師弟関係の話には程遠い。親切な藤野先生にさほど魯迅は感謝するようには感じられなかったし、祖国に帰ってしばらくした後は手紙を交すこともしなくなった。「日中友好」の象徴と持ち上げたがる文豪の実態はこの程度だ。

 数年くらい前、魯迅の孫が祖父が死亡したのは日本人医師の応急措置が悪かったからだ、と中国紙のインタビューで答えていたようだ。正にこの祖父にしてこの孫あり。


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5 コメント

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魯迅 (似非紳士)
2005-07-02 04:56:36
ボクはかつて文学を学んでいたんですが

魯迅については作家として優れていたかについても疑問を持っています。



翻訳本でしか読んだことがないこともあるでしょうが

面白いとは思わなかったですねぇ。
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Unknown (Mars)
2005-07-02 12:49:47
こんにちは、Mugiさん。

お変わりはないでしょうか?



>「打落水狗」、つまり水に落ちた 犬は打て、という言葉も残している。落ち目になった者に冷たいのはどの世界でも同じだが、儒教圏はそのやり口がまた冷酷だ。何しろ「死者に鞭打つ」くらい だから。

確かに、お隣のK国も同様ですね。使者に鞭打つような内政干渉、障害者に対する差別、犬食の文化(笑)。犬食は文化ですから、とやかく言うのは失礼だと思いますが、宗主国&千年属国(儀礼の国と東方の儀礼の国(とほほの儀礼の国?))の思想には、閉口を禁じえませんね。



>女の為にしくじるのなら、他の国の男も同じこと。

日本の議員さんもそうでしょうね。(東)アジア諸国(の内の数カ国)にお伺いを立てる人たちもそうでしょうね。六韜や三国志にも、女性で他国を貶める計略がありますが、歴史は繰り返すのですね(そんな計略に引っかかるなよ、売国議員さま)。
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コメント、ありがとうございます (mugi)
2005-07-02 22:16:56
こんばんは。



>似非紳士さん

私も全く同感です。

面白いとは思わなかったし、むしろ中国社会の特異性を感じさせられました。

未だにあの国は表現の自由などないし、毛沢東批判も出来ないので、それが文学活動によい訳がない。M.ガンディーは実は英国女性とプラトニックな恋愛関係があった、などという眉唾小説を発表できるインドとは対照的です。



>Marsさん

いつも、丁寧なコメントをありがとうございます。



犬食いならまだマシですよ(笑)。四大文明発祥の国で人食いをやっていたのは中国くらい。

全ては己のみが文明地で他は野蛮と見なす中華思想からきていると思います。中国周辺で朝鮮ほど宗主国に徹底して服従した国家もないですよね。ベトナムなど何度も中国に侵攻されても戦うし、ビルマも撃退しました。K国のネットでは孔子は実は朝鮮人、とする書き込みすらある程だから、漢族べったりで独立さえ出来なかった病的劣等感の解消方でしょう。



売春とスパイは最古の職業といいますからね。

古今東西どの国も色仕掛けで男を惑わす女スパイを放ってますから、日本のボンボン議員さんも気を付けてもらわないと・・・
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中国文学 (似非紳士)
2005-07-03 01:43:32
古典に類するモノは

あのしつこいまでの文章量と

わかりにくい価値観が逆に魅力で好きなんですけどね。



描写が単一で平べったい感じの魯迅の文章は

おもしろくない。



話は変わりますが、韓国の小説家の書いた

面白いコラムを見つけました

思考の箸休めにどうぞw

http://blog.goo.ne.jp/ese-sinsi/e/49c0723a69fbc8c1b2f0f5c343d01604
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Unknown (mugi)
2005-07-03 20:24:50
似非紳士さん



中国古典で「聊斎志異」は面白くて読みやすいので好きですね。

魯迅は近代中国社会を鋭く描いた点で評価されるのではないでしょうか。



韓国についての記事、楽しく拝見させていただきました。

あのような国と友好を真摯に考えている人は度し難いお人よしというのか・・・
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