トーキング・マイノリティ

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動物農園

2022-11-04 21:10:08 | 読書/小説

 やっと『動物農園』(ジョージ・オーウェル著、中央公論新社)を読了した。ジョージ・オーウェルといえば、全体主義国家による支配を描いたディストピア小説『1984年』が有名だが、この作品を私は未だに読んでいない。本作もオーウェルの代表作として知られるが、タイトルだけは知っていても未読だった。
 マスコミで結構『1984年』のストーリーは解説されていたが、1984年時点でこのような社会は実現しそうもないように思えたし、20世紀中に共産主義国家の牙城・ソ連邦も崩壊したので興味がなく、オーウェルの書は暫く忘れていた。

 先日行きつけの図書館の新刊コーナーで本書が展示されていて、表紙が印象的だったため借りる。最終頁が155頁と短く、一気に読めた。翻訳者の英文学者・吉田健一はあの吉田茂の長男だが、父と違い政界ではなく文学界で活躍した人物。ネットで紹介されている本書は、殆ど以下のストーリーとなっている。

最低限の食料しか与えず、幼い命を死に追いやり、自分たちだけ温かく安全な家に住む人間を追い出すため動物たちは謀反を起こした。動物たちは文字を覚え、「動物農園」を営んで、自らのために働く喜びを手に入れる。
しかし一部の豚が君臨し始めると、動物たちが掲げた普遍の戒律は改竄され、恐怖と残酷な死が支配する世界に変わっていく――。
非人間的な政治圧力を寓話的に批判したジョージ・オーウェルの世紀を超えた衝撃。発掘された名訳を描き下ろし装画とともに。

 原題は Animal Farm、本作はこれまで何度か邦訳されているが、「動物農場」という邦題の書の方が多い。wikiの解説でも「動物農場」だが、wikiの解説で本作のキャラクターにそれぞれモデルがいたことを知った。
 本作を読む前は何となく共産主義体制への寓話だろうと思っていたが、独裁者へと変貌する指導者の雄豚ナポレオンのモデルがスターリンだったことには全く気付かず、wikiの解説で初めて知った。

 当然ナポレオンと共に革命を指導した雄豚スノーボールはトロツキーがモデル。ただ暗殺されたトロツキーと違い、ナポレオンに追放されて以降スノーボールは登場せず、消息不明となっている。
 全ての動物の平等と自由を謳った「動物主義」を唱えた老雄豚のメージャー爺さんはレーニン、ナポレオンの側近の若い雄豚スクィーラーはヴャチェスラフ・モロトフがモデルという。尤もモロトフというソ連の外交官はwikiの解説で初めて知ったが、スターリンの粛清を免れ、1986年11月8日に96歳で死去している。

 想像も出来なかったが、雌鶏たちのモデルはホロドモールが行われたウクライナだったこと。彼女らは人間が農園経営者だった頃以上に産んだ卵を収奪される羽目になり、これに反抗するも、ナポレオンから見せしめとして食料を停止され、多数の餓死者を出す。雌鶏たちが得られるのは自分たちの数が維持できる程度となるが、ホロドモールのことは浮かばなかった。
 私自身の鈍さもあるが、ホロドモールのような大規模な飢餓は、日本では江戸時代の飢饉以降なかったこともあったのかも。

 意外だったのは、動物農園に隣接するフォックスウッド農場主のピルキントン氏。大地主で動物農場と敵対していたが、その後ナポレオンが独裁をするようになると和解、動物農場の運営に協力するピルキントン氏のモデルは大英帝国だそうだ。
 第二次世界大戦で英国とソ連は連合国同士だったこともあり、本作が発表された1945年8月当時の英国の世論はソ連に好意的で、スターリンは「ジョーおじさん」と親しみを込めた愛称で呼ばれていたそうだ。スターリンに好意的だったのは、戦後日本の左翼だけではなかったようだ。

「種族としては人間は支配階級(ブルジョワジー)や守旧派、豚は共産主義の指導層、犬は秘密警察、他の動物たちは労働者(プロレタリアート)に比喩される。」、というwikiの登場人物の解説が全てだろう。
 ナポレオンに都合の悪い主張がなされる時、決まって羊たちは「4本脚は尊い。2本足は悪い。」と連呼するが、彼らが自主的に行ったのではなく、スクィーラーの入れ知恵だった。このようなやり口は言論封じの典型で、現代でも使われており、羊たちのモデルはコムソモール(共産党青年部)。ちなみに日本共産党の民青こと日本民主青年同盟がコムソモールに当たる。“民主”の文字が使われているのに皮肉を感じた人もいるだろう。

 右でも左でも全体主義国家に粛清は付き物だが、スケールにおいて左は右を凌駕しているのは明らか。資本主義の行き詰まりから社会主義を見直す動きも出ているが、冷戦時代から自称社会主義者ほど、ごく一部を除き共産主義圏には移住しなかった事実は何を意味しているのだろうか?

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