トーキング・マイノリティ

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映画ボヘミアン・ラプソディ その②

2018-11-25 22:05:09 | 映画

その①の続き
 映画の初め、自宅に戻ったフレディに父親が夜遊びばかりしていると叱りつけ、「善き思い、善き言葉、善き行いは?」というシーンがある。ゾロアスター教の三徳「善思・善語・善行」に、思わず キタ━(゚∀゚)━! と感じたのは私だけか?
「それを守って何かいいことが?」と反抗期の少年のように言い返す息子に、父は「何時も反抗ばかり。だから遠くにやった」。ファンなら既知の人も多いが、少年時代のフレディは生まれ故郷ザンジバルから1人、インド西部、パンチガニのセント・ピーターズ・スクールに入学させられていた。

 フレディが何時も反抗ばかりしていたとは思えず、遠いインドの寄宿学校にやったのもザンジバルには良い学校がなく、高等教育を受けさせるためだった。この辺りは親と対立する孤独な若者、というストーリーにされたようだ。
 ただ、正業に就かず、夜遊びばかりする息子に怒らない親がいるだろうか?ブライアンも進路をめぐり父から、学歴をドブに捨てた、と何度も言われたという。他の2人のメンバーの父親が何も言わなかったのは、理解があったためではない。ロジャーは十代の頃に両親は離婚、以降父とは疎遠になっていたし、ジョンの父親に至っては彼が11歳の時に死去している。そして音楽活動を始めた頃にフレディは自宅を出ており、家で父から説教を喰らうことはなかった。

 映画には分り易い悪役が必要だ。フレディの付き人ポール・プレンターが正にそうなっている。映画にもフレディの贔屓をかさにバンドメンバーに横柄な態度をとったり、音楽にも口をはさむシーンがある。プレンターがクイーンファンからも嫌われているのは、フレディの性的な暴露記事をタブロイド紙(映画ではテレビ出演に変更)に3万2千ポンド(約472万円)で売ったからだ。但し、プレンターがフレディを裏切ったのはライヴエイド後の1986年のことだし、ライヴエイド出演を妨害まではしていない。
 プレンターが増長したのはフレディが甘かったこともあるが、前者はフレディのために“汚れ仕事”をしていたことが『フレディ・マーキュリー/孤独な道化』(レスリー・アン・ジョーンズ著)に載っている。若い男娼を集めるだけでなく、大量のアルコールとコカインを入手するのも彼の仕事になっていた(334頁)。

 ポール・プレンターで検索したら、実際の画像や動画が公開されているサイトがヒットした。一時は愛人関係にあったのは確かだが、映画ではベルファスト出身のカトリックとなっていて、ジム・ハットンと同じくアイリッシュだったのか?
 映画ではフレディに強引にキスをして、同性愛に目覚めさせる役どころになっていたが、フレディは既にセント・ピーターズ・スクールで体験済みだったし、異性よりも同性との初体験の方が早かったかもしれない。ひょっとすると映画には同性とのラブシーンがあるのか、と思っていたが、このキスシーンだけで幸いだった。ヒゲのオッサン同士が抱き合うシーンなど見たくもない。

 映画の山場はライヴエイド。クイーンメンバーに扮した役者たちの熱演は分るし、好演といってよい。だが、所詮は役者による演技に過ぎず、本物には敵わない。私的に一番ガッカリしたのがライヴエイドのシーン。そもそもパフォーマンス時にオーラがないのだ。これなら本物によるライブ映像を使った方が断然イイ。
 それに大舞台を前に、バンドメンバーにフレディがエイズ感染を告白するのも常識的に考えておかしい。映画を見た日の夜、ライブエイドのDVDを観直し、改めてクイーンの底力が判った。



 ラストのスーパー、フレディはゾロアスター教のしきたりに則り火葬にされた……に至っては、ちーがーうーだーろ――と突っ込みたくなる。拝火教と呼ばれるだけあって火を神聖視、火葬は外道であり、本来は鳥葬である。しかし、ロンドンで鳥葬は不可能、止む無く火葬にしたのだ。
 この作品は概ね好評のようだが、男性ファンのブロガーによる記事「冥土 in HEAVEN」でも、「観ていてビミョーな違和感が」あったという。時間が制限されているので人物の掘り下げは難しく、コメントにあった一文「これはドキュメンタリーではなくあくまでエンタメ映画ですから」に納得させられた。大音量でクイーンの曲が聞けるだけで満足するべきかも。



◆関連記事:「フレディ・マーキュリー ロックスターになったパールシー
DAYS OF OUR LIVES/輝ける日々
フレディ・マーキュリー/孤独な道化

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
内藤陽介先生のyou tube  (madi)
2018-12-14 07:08:50
切手収集家仲間で郵便学者の内藤陽介先生のザンジバルとフレディに関するものです。

https://www.youtube.com/watch?v=pN4GvOa2Jy8&feature=share&fbclid=IwAR1EoimBuxCYLhMMpMXFTt2LkjCn3LbPyhwspO2EkInWy3ybJlMeTcild-U
Re:内藤陽介先生のyou tube (mugi)
2018-12-14 22:41:59
>madi さん、

 内藤先生の出演動画、面白く拝見しました。郵便学者なので何となく年配者のイメージがありましたが、今年51歳と意外に若い方だった。
フレディやパールシーのことは既知でしたが、ザンジバル事情は今回初めて知りました。動画の紹介を有難うございます。
内藤動画のつづき (madi)
2018-12-21 03:10:45
12月20日に続きが配信されました。
https://www.youtube.com/watch?v=_T5i2eIRF5s&feature=share&fbclid=IwAR3TZUWm7wRyapUHv23pfj7WGEqmiQ_18iRtu90e0toEgwZeT_gPZeefMvY
Re:内藤動画のつづき (mugi)
2018-12-21 22:19:39
>madi さん、

 内藤動画の続き、とても面白かったです!かつてザンジバルが経済面で、インドとの結びつきが強かったことは初めて知りました。

 ザンジバル革命でアラブ系が大勢殺害されたことは知っていましたが、インド系もかなり虐殺されていたのですね。フレディの母はインタビューで、「街には死体が転がっていて、とても怖かった」と話していました。フレディがザンジバル時代を語らなかったのも当然でしょう。