この懐かしき本たちよ!

まだ私の手元に残っている懐かしい本とそれにまつわるいろいろな思い出、その他、とりとめのない思いを書き綴りたい。

#688 吉村昭著「零式戦闘機」

2010年08月04日 | 日本文学
この作品は素晴らしい。
太平洋戦争初期に、世界で最も優秀な戦闘機として盛名をはせた日本海軍の零式艦上戦闘機、略してゼロ戦の開発の物語と太平洋戦争での貢献の物語、そしてやがて米国による開発合戦により製品としての性能の寿命を終え行く過程、そして日本の敗戦を克明に描いている。
私はエンジニアではないが、製造会社に勤務の経験があり、一つの製品が開発される過程がどういうものかについても当事者としてではなくとも、ある程度の知識を持っている。多くの優秀な頭脳と絶え間ない努力が一つの製品を玉成していくその困難な中にあって素晴らしい過程を見聞きしている。この作品の著者は、ゼロ戦の開発にかかわった人たちの話を聞き、また幸いにして工場に大事に残されていた資料を参照して、この作品を書いている。

私は、この本が単行本として出版されてすぐに購入している。初版(昭和43年7月20日)から1カ月後に出版された4版(同年8月20日刊)を購入している。単行本は、何かの手段で読んでから気に入ったらあらためて購入するという私の購入パターンとは違い、この本はすぐ購入したかったのである。

この作品を読んでいても感ずるのであるが、大学を出てそんなに長く勤務の経験のない技術者が中心となって、この当時世界一の性能を持つ戦闘機を開発したということである。

明治維新も若い人たちによって推進され達成されたということと、どこか類似点を感ずるのは間違いであろうか。

ゼロ戦の開発、ゼロ戦の活躍、そしてその終焉、そして日本の敗戦、この小説はその過程を淡々と描いている。
素晴らしい作品である。
まさに「この懐かしき本たち」の一つである。 (おわり)


画像:吉村昭著 「零式戦闘機」新潮社発行 昭和43年7月20日発行 昭和43年8月20日3刷 定価400円



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