この懐かしき本たちよ!

まだ私の手元に残っている懐かしい本とそれにまつわるいろいろな思い出、その他、とりとめのない思いを書き綴りたい。

#38 アーネスト・ヘミングウェイ著「誰がために鐘は鳴る」Ⅳ(キスをする時に鼻はどうなるの?)

2005年03月12日 | 英米文学

「ついでだけど、映画「誰がために鐘は鳴る」でロバートとマリアが初めてキスをするときに、マリアが「自分はキスをしたことがないんだけど、キスをするときに鼻はどうなるのだろう?」と聞く場面があるね。」
「ああ、あるある。」
「小説での原文にもそういう場面はあるのかね。」
「それがちゃんとあるんだね。」
「どういう風に言ってるの?」

「マリアがロバートに言うんだね。
“Where do the noses go? I always wondered where the noses would go.”と」
「なるほど。」
「それに対してロバートが言うんだ。
 “Look turn thy head.” と。」
「なるほど。」
「そしてこう書いてあるね。
 And then their mouths were tight together and she lay close pressed against him and her mouth opened gradually and then, suddenly ,holding her against him, he was happier than he had ever been,lightly,lovingly,exultingly,innerly happy and unthinking and untired and unworried and only feeling a great delight
and he said,
“My little rabbit,My darling,My sweet,My long lovely.”

「外国人は愛の言葉が豊富で便利だね。」
「そうかね。」

「和訳ではどうなっているの?」
「大久保康雄の訳を写すとこうなってるよ。
『あたしたちの鼻、どういうぐあいになるの?あたしいつも不思議に思っていたのよ。鼻がどういう具合に向き合うのかしらと。』」
『ねえ、頭を横に寝かせてごらん。』
こうして、ふたりの口は、ぴったりとくっついた。彼女は横になったままからだを押し付けた。そしてすこしづつ口を開いていった。すると彼はだしぬけに、彼女を抱きしめたまま、かって一度もおぼえたことのない幸福を感じた。心が浮き立つほど、いとしくてたまらぬほど、胸がおどるほど、心の底から幸福で、なにも考えず、疲れも心配も忘れてしまった。ただ大きな歓喜にひたっていた。
『かわいい兎さん。ね。マリア。かわいいマリア、いつまでも僕のかわいい・・・・』」

「なるほど。でも日本語になおすと読んでいてもちょっと照れるね。」
「そうかもしれないね。ちょっと生意気なことを言うようだけど英語のままで読むのもいいもんだね。ヘミングウェイが書いたまま読んでいるという満足感もあるんだろうね。」
「そうだね。偉そうに聞こえてたしかに恥ずかしいけど、そういうこともあるね。」

                                             (つづく)

画像は芳賀書店 筈見有弘 福田千秋編集シネアルバム48「イングリッド・バーグマン」1982年より
和訳は河出書房新社世界文学全集39ヘミングウェイ「誰がために鐘は鳴る」大久保康雄訳
1962年初版発行、1964年22版発行 定価350円 より


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。