この懐かしき本たちよ!

まだ私の手元に残っている懐かしい本とそれにまつわるいろいろな思い出、その他、とりとめのない思いを書き綴りたい。

# 335 阿川弘之著「雲の墓標」

2006年12月16日 | 日本文学
久し振りに読んだこの本の最後で私はいつものように涙を流してしまった。何と言う辛い青春だろう。二十数歳でこの世を去る運命にある有為な若者たち。国はこの若者達の将来を有無を言わさず奪ってしまったのである。この作品の最後は特攻隊で生き残った学徒出身の青年が終戦後に特攻で命を失った親友の墓に捧げた次のような詩である。

展墓
―亡き吉野次郎に捧ぐー

われこの日
真南風(まはえ)吹くこの岬山(さきやま)に上り来たれり
あはれはや
かえることなき
汝の墓に.額づくべく

海よ
海原よ
汝の墓よ
ああ湧き立ち破れる青雲の下
われに向いてうねり来る蒼茫たる潮流よ

かの日
.汝を呑みし修羅の時よ.
いま寂かなる平安の裡
.汝をいだく千重の浪々
きらめく雲のいしぶみよ

鳴呼そのいしぶみ
そのいしぶみによみがえる
かなしき日々はへなりたる哉
.その日々の盃あげて語りたつ
.よぎことまた崇きこと

真南風吹き
海より吹き
わがたつ下に草はみだれ
その草の上に心みだれ
すべもなく 汝が名は呼びつ 海に向いて

阿川弘之氏の作品は素晴らしい。私は学生時代から氏の作品を読みつづけている。また折にふれて読みかえしている。

戦争は洋の東西を問わず若者を不幸にする。国のために命を捧げるのが美しいなどというごまかしの中で何と多くの若者たちが苦しんだことであろうか。

そして短い青春を若者らしく全力で生き抜いて残酷な運命に従った多くの若者たちのことを考えて私は瞑目するのである。

画像:阿川弘之著「雲の墓標」新潮文庫 昭和33年7月発行、昭和60年8月第18刷
   

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