この懐かしき本たちよ!

まだ私の手元に残っている懐かしい本とそれにまつわるいろいろな思い出、その他、とりとめのない思いを書き綴りたい。

#240 トルストイ著「三つの死」(対訳)(藤田斉子、西和子訳註)3

2006年02月03日 | ロシア文学
若い御者が墓標を作るための木を切る。「下の方できこえる斧の音はだんだんにぶくなり,露にぬれた草のうえにみずみずしい白い木っ端がとび,斧を打ちこむたびにかすかに裂ける音が聞こえるようになった。樹は全身をびくっとふるわし,たわんだが,根もとのところでおびえたようにふるえながら,さっと背筋をのばした。一瞬,森羅万象が静まりかえった。が,ふたたび樹は.たわみ,また幹の裂ける音が聞こえだし,大枝を折り小枝をたらし,こずえから音をたてて湿った大地にたおれた。斧の音と足音はぱったりやんだ。ロビンは一声鳴いて,いっそう高くまいあがった。鳥が翼をひっかけた枝はしばらくは揺れていたが,ほかの枝とおなじように,木の葉ともどもいっせいにじっと動かなくなった。樹々は新しくできた空間でいっそう楽しそうに,揺らぎもしない美しい枝をほこっていた。

最初の曙光が,透けるような雲をつらぬいて空にきらめき,地と天をかけめぐった。低地にたちこめたもやは波のようにうねりながら移っていった。露はきらきら光って青草にたわむれはじめ,透けて白くなった雲は,すばやく,青みをます天空に散っていった。

鳥は茂みにむらがって,われをわすれたように,なにやらしあわせそうにさえずり,みずみずしい木の葉はこずえでうれしそうにのどかにささやきあい,生きた樹々の枝は死んでしおれた樹を見おろして,泰然自若としてそよぎはじめた。」

これがこの短編小説のおわりである。

私は最初読んでいて三つ目の死が何か気がつかなかった。

三つ目の死は、この木の死のようである。

トルストイは、この三つの死を並べて何を言おうとしたのだろう。
三つのそれぞれの生き物の死、トルストイの言わんとしていることがわかるような気はする。がその通りなのかどうか。
また、Nさんに尋ねて見よう。

Nさんはから頂いたEメールでNさんはこう書いておられた。

「中村融氏にみせていただいたとかの、トルストイの墓と、農民の墓がそっくりなのに驚きました。」

私は大学の二年の時に、第3外国語としてロシア語をほんのちょっと勉強したことがある。中村融先生が教えて下さった。中村先生は前の年にロシアに行ってこられたとのことで、スライドを見せて下さった。トルストイの墓の写真も見せて下さった。私の記憶からは薄れていたのだが、最近ロシアに行ってこられたNさんは、トルストイの墓が農民の墓とそっくりなのに驚かれたということである。

私は、トルストイがますます好きになって来た。(おわり)

画像:トルストイの墓 Henri Troyat著「Tolstoy」より


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。