この懐かしき本たちよ!

まだ私の手元に残っている懐かしい本とそれにまつわるいろいろな思い出、その他、とりとめのない思いを書き綴りたい。

#230 デユマ・フィス著「椿姫」

2006年01月13日 | フランス文学
この本は私にとってとても懐かしい本である。この本を私が初めて読んだのは中学一年生のころであったろうか。姉が持っていたこの本をこっそりと隠れて読んだのだ。読んでいるととがめられるような気がして、納戸の暗いところで読んだ。読み終わって明るいところに出て来たとき、すべてがまぶしかった。その時の気持ちを今でも覚えている。特に記憶に残っているのは、アルマンがマルグリットの真意を理解しないで、人の前で他の女をそそのかしてマルグレットの面目をつぶすような意地悪をする、そしてマルグリットが卒倒してしまうところである。何と可哀想なと思った。そしてアルマンの名を呼びながら一人で死んで行くマルグリットも可哀想に思った。マルグリットの墓をあばいてマルグリットの骸を見るまでは、彼女の死を納得できないというアルマンの気持ちもわかるように思った。

中学生の私は、高級娼婦というマルグリットの立場や、彼女の死後、すべてのものが競売にかけられるというしくみなど何も理解できなかったが、だからどうということはなかった。読んでいて感激した。

私は中学の友人にも全くこの本を読んだことは言わなかった。この本を読んだのは何か悪いことをしたような気持ちでいたのかも知れない。それとも、話してもわかってもらえないと思っていたのかもしれない。

今持っている本はその時の本ではない。

今読み返して見ても至極平易なこの本、椿姫は全部私の頭の中に入っているような気がして、あらためて買ったことはなかった。

しかし、先日、能の謡本を買いに鎌倉に行ったときに古書店でみつけつい買ってしまった。

文庫本といえども本は整理して捨てる段階に来ているのに、新しく買ってしまった私は、我が家の環境大臣に見つからないようにこっそりと私の本棚に差し込んだものだった。

画像:デユマ・フィス著「椿姫」(吉村正一郎訳)岩波文庫

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