前回に述べた スタンダール「恋愛論」(大岡昇平訳)新潮文庫には、スタンダールの「恋愛論」の本論に付属して、「付録」と「浦遺」という名のものがさらについている。いずれもスタンダールの手になるものとのことである。
「付録」(340~350ページ)の中に「12世紀の恋の法典」というものが引用されており私の目をひいた。
実に興味深いのでここにも引用させて頂くことにしたい。
12世紀のフランスに「恋の法廷」というものがあり、そこで「恋の法典」にもとずき議論がたたかわされたというのである。(原文は片仮名を使っているが、ひらがなになおさせて頂いた。)
「12世紀の恋の法典(全31条)」
第1条 結婚の申立ては恋に対抗する合法的弁明たり得ず。
第2条 隠し得ざる者は恋し得ず。
第3条 何人も同時に二つの恋をなすを得ず。
第4条 恋は絶えず成長するかまたは減少す。
第5条 暴力をもって恋仇より奪える恋は味わいなし。
第6条 男子は通常成年に達せざれば恋せず。
第7条 恋人の一方死せるときは、他方は二年寡居す。
第8条 何人も十分以上の理由なくして恋する権利を奪わるることなし。
第9条 何人も愛の自信(愛さるる希望)なくして愛するを得ず。
第10条 恋は通常貪欲にして家を追わる。
(第10条以下は次回掲載予定。全31条)
なるほど、この法典からすれば、私が学生時代に遠くから美しい女子学生に憧れたのは、憧れるだけならともかく、恋となるには、第6条、第8条で何とか私の権利は保護されているが、第9条でひっかかりやめざるを得なかったということのようである。 (次号につづく)
画像:筆者撮影