日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

晩秋の大地を行く 2020 - とん久

2020-10-21 22:07:42 | 居酒屋
宿を出るのが小一時間早まったことにより、時間的にはその分余裕が出てきます。一時間強の滞在を経て「万年青」を出た後、昨日よりも少し長めの間合いを置くと、11時の門限まであと一時間を切りました。もう一軒寄ってから帰るにはお誂え向きです。ところが、極限まで人出が減った状況は、二軒目の選択肢にも少なからぬ影響を及ぼしました。「鳥善」では目の前で暖簾がしまわれるところに遭遇し、「しらかば」はとうの昔に早仕舞いした後でした。幣舞橋の照明も消えており、俄に焦臭くなった半年前の都内を彷彿させるようです。そのような中、煌々と明かりを灯していた店に飛び込みました。「とん久」が久々の登場です。
かつて定宿としていたホテルラッソの向かいの長屋にあった一軒です。初めて訪ねたのは八年前の暮れ、氷点下20度近くまで下がった酷寒の夜でした。
ところが翌年再訪すると、嗄れた声の店主とは違う人物が立っていました。店主は直後に他界して、跡取りが店を引き継いでいたのです。その店があるときから見当たらなくなり、釧路川のほとりに近い一角に移転したことをその直後に知りました。あれ以来長らく無沙汰はしたものの、この機会に見舞いがてら訪ねてみようと思い立った次第です。
跡取りが一人で仕切っているのは同じです。カウンターを中心にした店内も、先代の店を彷彿とさせます。しかし、居抜きで入った店なのか、居酒屋には不釣り合いなほど立派な薪ストーブが鎮座して、店内の設えにはわずかながらも違和感を覚えます。それに加えて個人的にいただけないのは、音楽がはっきり聞こえる音量で流れてくることです。古い長屋の一角にあったかつての店の雰囲気は、残念ながら失われたと感じます。その一方で、先代からの伝統が窺われる点もありました。L字カウンターの角には煉瓦造りの囲炉裏が鎮座し、炭火が時折爆ぜています。酒は賀茂鶴の上等酒、湯煎に使う寸胴は前の店から受け継がれたものでしょう。この炭火で何かを焼いてもらい、徳利を一本空けるということで腹は決まりました。
席に着くなり勧められたのは秋刀魚と焼牡蠣です。秋刀魚は先ほどいただいたため、続けざまというのはいかにも芸がなく、さりとて牡蠣には元々興味がありません。どちらも決め手を欠く状況の中、先ほど「万年青」で小耳に挟んだ話が甦ってきました。最近になって少しずつ秋刀魚が入り始めたという話です。「しらかば」の女将が盛んに力説していた、今季一との評はたしかに正しかったということでしょう。秋刀魚には縁遠かった今年の秋、一瞬だけ訪れた旬に重なったということであれば、借りを返しておくのも一興です。再び秋刀魚をいただいて席を立ちました。

とん久
釧路市栄町2-1-1
0154-25-3839
1700PM-100AM
不定休

賀茂鶴二合
お通し二品
秋刀魚
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