秋の北海道遠征が恒例化し、今年で七年連続となりました。その際に往路の交通手段として利用したのは太平洋フェリーが二度、その他は全て新日本海フェリーでした。つまり、最も愛用してきたのが、新潟から小樽へ向かう日本海航路ということになります。しかし、前回乗船したときに、この航路に対する信頼を貶める出来事がありました。就役したばかりの新造船が、先代とは似て非なる代物に成り下がってしまったのです。個室が拡充された代償として、共用の空間が大幅に削減されてしまったというのが最大の変化でした。それによりなけなしの空間を大勢の乗客が共有する形になり、全く落ち着かない船内に一変してしまったのです。連休に重なった
往路が特にひどく、空いていた
復路についても細部の設計の拙さが目立ちました。
ただし、今回の渡道にあたり、再びこの航路で行くことについてはさほどの迷いがありませんでした。昼に出て翌朝に着くという時間帯には何物にも代え難い価値があるからです。まず、早朝に自宅を出れば、頃合いの時間で新潟まで行くことができます。日中の航海が長いのも楽しく、中でも日本海に沈む夕日は見所です。翌日は夜明けと同時に走れるため、11時に着く太平洋フェリーに比べ、道内の滞在時間その分延びます。日の入りがますます早まるこの時期、実質半日の差は貴重です。いただけないのは船だけであり、それ以外は何をとってもこの航路が一番と再認識したのでした。
そのような事情もあり、今回は自衛策をとりました。五千円ほどの差額を払って個室を奢ったのです。個室といっても前回の復路で使った一人用の寝台ではなく、洗面台とシャワーまで備えたツインルームです。共用の空間の縮小と引き換えに、個室の充実が図られた以上、この船のよさを最大限享受するには、個室を奢るのが一番と思い至ったのでした。
事前の情報からある程度の予想はしていました。しかし、実際に乗船すると思った以上の充実ぶりです。間取りと設えのいずれをとっても、自分が日頃泊まっている価格帯のビジネスホテルと変わりません。取り立てて広かったり高級だったりするわけではないものの、さりとて安普請ではないということです。もしこれと同格の宿に六千円で泊まれるとすれば、料金に見合った価値は十分あるといえるでしょう。ましてやフェリーの船室としては買い得といって差し支えありません。
ただし、よほど上級の船室ならともかく、ここまでの設備が一般の船室に必要なのかという素朴な疑問も湧いてきます。大浴場があればシャワーは必要なく、洗面台も各部屋に必要なものとまでは思われないからです。無用の長物と引き換えに、共用の空間が犠牲にされたという現実に鑑みると、少なくともシャワーと洗面台は余計という印象を受けます。この船の設計の拙さを、またしても見せつけられてしまいました。
そう思うのは、前回の状況からは予想もつかなかったほど快適だからでもあります。最大の要因はもちろん人出です。九月の連休初日に重なった前回に対し、北海道へ行くには半端な10月の平日という条件が幸いしました。いつまでも混み合っていた後方甲板は貸切同然です。それに加えて、営業時間外の食堂が一部とはいえ開放されるようになりました。共用部があまりに貧弱すぎることから、乗客から不満の声が上がったのでしょう。個室にばかり偏重した設計思想はいかんともしがたいものの、細部においては改善が図られ、前回よりも大分よくなったというのが実感です。
そのようなわけで、今のところ船室では正味一時間も過ごしていません。わざわざ奢った個室も宝の持ち腐れではありますが、個室の中に籠るより、甲板で日本海の風に吹かれた方がよいに決まっています。晩酌も甲板で夕日を鑑賞しつついただくことになりそうです。