水俣病の現在

2006年はチッソ付属病院から水俣保健所に「奇病」発見の公式通知から50年。水俣病公式確認から50年です。

民主党の最終決着案

2006年11月23日 | 水俣病
政府(環境省)が1977年認定基準にこだわり、2004年関西水俣病判決を無視する態度を強めたため、患者は裁判に救済を求めている。
与党が検討している救済措置は、1995年の村山政権政治決着で260万円を支給された者のうち、認定訴訟に加わらない患者の救済をめざすものである。患者の裁判を受ける権利を否定するのは、司法で水俣病と公式認定された場合、チッソつまり政府の肩代わりの負担額が一人2000万円を越えるからである。
これに対しての民主党対案は、認定訴訟は裁判を受ける権利として認め、水俣病の未認定患者に一律100万円を支給し、さらに医療費を無料とすることである。
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被害者に一律100万円 民主党が救済へ独自案検討

民主党が独自の水俣病被害者救済策として、公害健康被害補償法に基づく認定患者や1995年の政府解決策の対象者、未認定患者らに対し、一律100万円の「特別慰謝金(仮称)」支給を検討している。また、現行の医療費全額支給などの医療事業を恒久対策とするため、特別立法で定める。

支給条件は、現行の認定基準より緩やかな救済基準を示した、2004年の関西訴訟最高裁判決が軸となる見込みである。2004年判決後、認定申請者が急増している現状を踏まえ、被害者を幅広く救済するため、申請期限は設けない方針である。
既に認定された患者や政府解決策の対象者にも支給するのは、2004年の最高裁判決が認めた、すべての水俣病被害者への責任は国にあるとの認識からである。

特別立法の制定は、さまざまな症状を持つ被害者への医療保障が目的である。「特別慰謝金」と同様、最高裁判決の基準で対象者を決める。
主な内容は次の3点で、全額国の負担とする案である。
(1)医療費や療養手当の支給
(2)はり・きゅうや温泉療養費の支給
(3)健康相談など相談事業の実施の三点。費用は全額、国の負担とする。

現行の「総合対策医療事業」は、新たな特別立法にまとめて一本化する。政府が救済の条件として、認定申請取り下げを給付条件としている点については、民主党は「認定申請は患者の権利」として政府案を否定する。

このほか、被害実態の全容解明に向けた大規模な「健康被害実態調査」の実施や内閣総理大臣の謝罪声明、被害者や医学者ら当事者が議論する場の設置も求める。

民主党は環境部門会議でこの方針を了承、特別立法の国会提出に向け、次の内閣での審査など党内手続きを進める。実現にこぎ着けるため、自民党水俣問題小委員会との協議・調整も視野に入れている。

(熊本日日新聞2006年11月23日)

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政府が水俣病未認定患者の恒久対策は、認定訴訟を取り下げたら、医療費をタダにする、というものである。これまでの裁判では政府が連敗し、認定患者への経済負担が大きくなったからである。
民主党の案は100万円を慰謝料として未認定患者全員に一律支給する。裁判の取り下げを求めない。医療費をタダにする。という内容である。財源を考えずに患者救済を最優先する民主党案がいいに決まっている。実現可能性があるかどうか、の問題である。一人100万円で、1万人の未認定患者に支給すると、総額100億円である。国が負担するとたいした金額ではない、ということになるが、加害企業チッソに払わせたら、3年分の利益が吹っ飛ぶ大金であり、負担はできない、というだろう。

保健手帳か水俣病認定申請か

2006年11月01日 | 水俣病
水俣病患者救済には、
①水俣病と審査会や裁判で水俣病患者と認定されたら、加害企業が救済する。
②医療手帳制度。患者認定を受けなくても、医療手帳の交付を受け、月2万円の年金、医療費タダとなる。1995年の一時期にのみ受け付け、現在は新規受け付けをしていない。
③軽症の水俣病患者は、医療費がタダになる保健手帳制度がある。月2万円の年金はない。04年関西水俣病訴訟で国側が敗訴したため、保健手帳制度が復活した。新保健手帳といわれる。メリットは少ない。

①の認定審査会は、環境庁52年基準と最高裁04年判決の2重基準になってしまい、休止中。
②も休止中。
③の医療費タダの保健手帳に申請する水俣病患者が増えてはいるが、申請にあたって、①の認定審査、あるいは認定訴訟を取り下げなくてはならず、患者にとっては苦しい選択である。
認定審査の申請を取り下げたり、裁判をやめなくてはならない、というのは、チッソの見舞金契約のようなもので、公序良俗に反し、無効とすべきルールであろう。
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新保健手帳交付 熊本、鹿児島、新潟3県で5878人、申請の取り下げ5%

熊本、鹿児島、新潟三県が2006年10月31日のまとめでは、国と熊本県の行政責任を認めた水俣病関西訴訟最高裁判決を受け、2005年11月に交付再開された新保健手帳の交付数は三県で計5878人に達した。
公害健康被害補償法に基づく、水俣病審査会の認定申請を取り下げて交付を受けた人数は、全体の約5%の312人である。認定申請者は10月30日までに、三県で計4597人に達し、新保健手帳が被害者救済に役だっていない実態を浮き彫りにした。
新保健手帳は1995年の政治決着に基づく総合対策医療事業のうち、症状の軽い患者に交付された保健手帳である。医療費の自己負担分を全額支給する。2005年11月から交付が再開された。
保健手帳の交付には認定申請や訴訟取り下げが条件である。これまでの交付申請審査数は三県で6469人、このうち水俣病認定取り下げは337人である。
熊本県の村田信一環境生活部長は「認定申請から新手帳に切り替える人が少なく、さらなる救済策が必要」と指摘している。
年金支給を含む医療手帳交付再開など、1995年の政治決着並みの救済策を盛り込んだ「第二の政治決着」実現を、引き続き国などへ働きかける考えである。
新保健手帳交付者の県別内訳は次の通り。
◆熊本県 4698人(うち認定申請取り下げ者235人)
◆鹿児島県 1099人(認定取り下げ73人)
◆新潟県 81人(認定取り下げ4人)

(熊本日日新聞2006年11月1日)

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水俣病の認定申請を取り下げたり、早期の認定を求める訴訟をやめたりして、保健手帳を申請したのが312人。
審査会や裁判で水俣病患者が一人でも増えると、加害企業チッソ(新潟では昭和電工)の経済負担が重くなる、というより、肩代わりしている環境庁の経済的負担が重くなる。2004年の最高裁判決が52年基準を否定しても、環境庁は認定患者を減らし、経済的負担を軽減したいのである。

*環境庁は環境省に名称変更したが、それを機に環境行政が患者から離れ、企業・行政側本意の環境行政に転換した、と批判されたが、その批判は正しい。