きょうの近鉄ライナーズ劇場もファンが期待した通りの感動的な内容だった。
ジャパンラグビートップリーグ2010-2011シーズン第7節、花園ラグビー場で行われた第2試合の近鉄ライナーズとトヨタ自動車ヴェルブリッツとの一戦。先制したのはトヨタ。前半4分にアイイ選手がPGを決め、さらに8分には難波選手がトライし8-0と幸先のいいスタート。しかし、その3分後に近鉄は田中優介選手がゴールに飛び込み、8-5。18分には高選手のPGで8-8の同点に追いついた。近鉄は25分にも高選手が再びPGを決めて11-8とこの試合初めてリード。前半の残りが10分となってトヨタがトライを狙って近鉄陣内でゲームを展開。近鉄は厳しいディフェンスを見せ、ペナルティーを犯しながらもトヨタの攻撃をしのいだ。しかし、前半終了直前の39分、スクラムハーフの金喆元選手が、倒れてしまったあとその場から離れず故意にプレーの邪魔をしたとして、ノットロールアウェイの反則。イエローカードが出され10分間の一時退場処分を受けた。このペナルティーでトヨタはショットを選択。アイイ選手が難なく決めて11-11の同点で折り返した。
後半、近鉄ははじめの9分間、1人少ない14人で戦わなければならなくなった。トヨタは数的優位を踏まえたうえで攻撃を仕掛け、さっそく後半2分、相手の反則を誘いPGで14-11と逆転。その後、近鉄はトヨタのアタックを懸命のディフェンスでしのいでいたが、あと1分でシンビンがとけ15人に戻れるという場面で、トヨタの攻撃に対しオブストラクションやオフサイドの反則を繰り返してしまう。いつトライを奪われても仕方がないという展開が続く中、近鉄はなんとか守りきった。そして、金喆元選手がゴムボールが跳ねるように元気にプレーに復帰。スタンドの近鉄ファンから「よー耐えたっ!」と安堵と賞賛が見事にブレンドされた声が飛んだ。さぁ、ここからと意気が揚がる近鉄フィフティーン。しかし、その3分後、まさかの事態が起こる。反則を繰り返したとしてフッカーの吉田選手にイエローカードが出されたのだ。14人での戦いを失点3に留めた近鉄にとってこのシンビンはあまりにも痛かった。集中力が切れそうになるこの場面で、近鉄のトンプソン主将は、「落ち着け!」と仲間に声をかけ、これ以上ペナルティーを与えてはいけないとチームを引き締めた。ここのペナルティーでトヨタはショットを選択。アイイ選手が冷静にPGを決めて17-11とトヨタのリードは6点に広がった。
また14人で戦うことになった近鉄。後半開始早々はディフェンス面で崩れることはなかったが、当然のことながら数的優位を頭に入れて攻撃するトヨタに対して、後半15分を過ぎたあたりでタックルミスが目立つようになってきた。トヨタとしては、人数の少ないところをスパーンと抜け出しトライを奪い、それをきっかけに大量得点につなげたい。トヨタは左右にボールを動かし、じわりじわりと前進をはかる。それでも近鉄は、このしんどい局面で、倒れては立ち上がりすぐにディフェンスラインを形成し、トヨタにトライを許さなかった。そして、後半22分に一時退場していた吉田選手が復帰。残り時間15分となったあたりで、近鉄ファンは逆転へのシナリオが完成に近づいたことを期待したに違いない。第4節の神戸製鋼戦での劇的な逆転トライ。前節のNTTコム戦での逆転トライ。年に1度あるかないかの試合をすでに2度もやってのけている。かつて、そういった試合内容で悔しい思いを何度もした近鉄が、今シーズンは最後の最後に大喜びする逆の側にまわっている。1試合でシンビンが2回。相手の攻撃によく耐えたと思ったら、また14人に。じっと我慢して、ようやく明るい兆しが見えた。近鉄ライナーズ劇場のシナリオとしては、ラストシーンをどう描くかだけだ。はたして、きょうは?
そのシーンは、多くの近鉄ファンが想像したであろう時間帯よりも早くにやってきた。後半26分、吉田選手が復帰して4分後だった。トヨタのパスミスによるこぼれ球を反応よく片手で拾い上げたリコ・ギア選手がトップスピードで突破。そしてディフェンスとぶつかりながらきっちりとコースを見極めたパス。ワンハンドでパスされたボールはバウンドしたが、まわりこんできた高選手がキャッチし相手をステップで交わしてトライ!花園が大きく揺れた。心が震え、熱くなり、しびれるプレーだった。これで17-16。トヨタのリードは1点。そして、左側からの難しい角度のコンバージョンをトライした高選手が美しく沈めて18-17と近鉄が逆転。その後、トヨタに得点を許さず、最後は近鉄の高選手がPGを決めてゲームをしめくくった。スコアは21-17。80分間の近鉄ライナーズ劇場は、きょうもハッピーエンドで幕を閉じた。
近鉄のトンプソン主将は、試合を振り返りながら劇的な逆転勝ちが続いたことについて、「まぐれなのか、窮地に立たされているから気持ちが入るのかわからなかったが、きょうのゲームで自分たちに力があるという思いが確信に変わった」と話した。ピーター・スローンヘッドコーチは、「選手たちを誇りに思っている。自信を持っていいんだよと声をかけたい」と語った。その自信につながる部分で、スローンヘッドコーチは、ここ1カ月でディフェンスの完成度が高まったことを話してくれた。前節のNTTコム戦では、127回のタックルのうち、ミスは9回でディフェンス率は92.9%。選手たちがディフェンスのシステムを理解し、信じるられるようになったことが数字として現れてきているそうだ。
一方、トヨタの中山主将は、予想通りタフな試合になり、フィジカル面で相手を上回ろうとしたが、ターニングポイントでの集中力が劣っていたことを敗因として挙げた。具体的には、ルーズボールへの働きかけについて話し、体を飛び込ませてボールを先に確保しようとする気持ちといった細かいところで、勝ちに対する執念が近鉄のほうが上回ったとゲームを振り返った。
それにしても、どっちが勝ってもおかしくない展開で観客を魅了する素晴らしいゲーム内容だった。両チームの選手たち、いい試合をしてくれて本当にありがとう!
追記:いつも表情豊かにしゃべってくれる近鉄のスローンヘッドコーチが試合後、冷静すぎるのが気になって、少しいじわるに思われるかもしれない質問をしてみた。「吉田選手がシンビンになったとき、思わずどんな言葉がもれましたか?」すると、スローンヘッドコーチは、言葉を慎重に選びながら、「コーチはどんな場面でも冷静でなければならない。スクラムをどうするか、すぐに選手交代のことを考えた。レフリーに文句を言うような姿を決しては見せていけない」と語った。試合についての感想はそこまで。そのあとに、日本のレフリングに対する見解を続けた。
「ラグビーをよりよくしようとルール変更が行われていて、ボールが動くようにしているはずなのに、不必要にゲームが止まっている。日本のレフリングがアタックを有利にする目的を達成しているとは思えない」と苦言を呈した。一方で、もっとゲームが流れるようなレフリングに期待しているとエールもおくった。そして、最後にようやく本音が出た。「今シーズンは10数ゲームやってきたがシンビンを受けたことがないので残念だ」
レフリングに対する見解を述べるうちに、スローンヘッドコーチが熱くなっていくのがわかり、この日いちばん感情のふり幅が大きかった。ラグビーのレフリーだった父を持つ僕としては、レフリングにとやかく言うつもりは全くない。新聞に「幻のトライ」と書かれたスローフォワードの判定について、正しかったかどうか何年も悩む姿をそばで見てきた。ただ、いろんな意見に耳を傾ける柔軟さを持ちながらレフリーのみなさんには素晴らしいゲームのサポートをしてもらいたい。
レフリーをつとめる森本圭(父)↓↓↓国際試合も担当できるレベルだったらしい
前回の加古川の神戸製鋼戦の記事から拝見しております。
今回も試合の詳細が良く分かり、臨場感溢れるレポートを拝見させていただきました。
私はよくYAHOO掲示板、トップリーグの「近鉄特急!」によく書き込みさせて頂いているのですが、
勝手ながら本日の試合のリンクを貼らせていただきました。
http://post.messages.yahoo.co.jp/bbs?.mm=GN&action=m&board=552020050&tid=6ae4fc5dea1aa&sid=552020050&mid=497&n=1
すみません、お許しください。
近鉄の戦い振り、本当に感動的です。
ぜひ、また読み応えのある記事を期待しております。
リンクの件、大丈夫ですよ。読み応えがあると言ってもらえるとうれしいです。細かく書きすぎたかな?と心配していました。ご期待に添える記事になるかどうかはわかりませんが、これからも取材した内容についてはできるだけ書いていきますので、どうぞご覧になってください。
ところで、お父上があの名レフリーの森本圭さんだったとはビックリしました。
坂田選手・石塚選手が居て近鉄が強かった頃、関西社会人Aリーグや全国社会人大会で、
よく主審をされていましたので、覚えています。
確か四条畷高校、東京教育大のご出身だったかと思います。
写真の通り、黒縁メガネがトレードマーク?でした。