●SCREEN ONLINE 5/24
インドネシアのバンダ・アチェを舞台にした 美しきファンタジー『海を駆ける』 深田晃司監督 × ディーン・フジオカ インタビュー
質問を要約、インタビューの一部を引用させていただきます。
ネタバレあります。
***
--ラウ役をオファーした理由
深田「僕は作家マークトゥエインの小説が好きなのですが、ラウのキャラクター像を作るにあたり、彼の晩年のペシミスティックな世界観が叩き込まれた『不思議な少年美しき44号』を思い出したんです。この小説には悪魔的な少年が色んなことをひっかきまわしていく様が描かれているのですが、ラウは悪魔的というよりはもう少しフラットな、死生そのもののような存在にしたいと思いました。そんなイメージの雰囲気や佇まいを持つ俳優さんを探していくなかで、“ディーンさんがいいんじゃないか”という声があがったので経歴などを見たら、香港や台湾、ジャカルタ、日本など世界で活躍されていて面白い方だなと。それで実際にお会いしてみたら、世俗から離れたラウという役をそのまま演じて頂けそうだなと感じたんです。それでお願いしたんですけど、蝶を追いかけているラウの表情が最高で、僕とほぼ同い年なのにこんなに無邪気な表情ができる人がいるのかと驚きました(笑)。その時にディーンさんにお願いして本当に良かったなと実感しました」
ディーン「ありがとうございます(笑)」
深田「しかもあの蝶は実際には飛んでないですからね(笑)」
ディーン「エア蝶でしたね(笑)。アザーン(イスラムの礼拝の呼びかけ)が鳴り響くなかエア蝶を追いかけていました(笑)」
--今作に参加して
ディーン「役者としてはもちろん、人生においてこの作品の一部になれたこと、そしてこうやって作品の話ができることが凄く特別なことだと感じています。日本で仕事を始める前からインドネシアでは仕事をしていて、音楽を制作したりCMなどの出演経験はあっても、インドネシアで映画の撮影に携わることはなかったのでいつかやってみたいと思っていたんです。バンダ・アチェでインドネシアのチームと日本のチームが一丸となって過ごした日々というのは夢のようなかけがえのない時間でした。僕が他国に移住したあと、祖国に対して“もっとこうなったらいいのに”とか、日本を含めた世界に対して“もっとこういう風になったら”という思いを抱えていたんですけど、それを映画という形で世の中に提示できたことは本当にありがたいことだなと。家族も喜んでくれると思います」
ーーアチェでの撮影で印象に残ったこと
深田「インドネシアのスタッフに関してはみんな楽しみながら仕事をしていましたし、もっと言うと人生を楽しんでいる印象を受けました。昼休憩で食事をしていたらインドネシア人のスタッフの一人が歌い始めたんです。日本人スタッフが対抗してみんなが歌えそうな『乾杯』とか歌い始めたんですけど、インドネシア人ほどは歌えないんです。結局インドネシア人スタッフが気を遣って日本語の歌を歌ってました(笑)」
ディーン「インドネシアで最も有名な五輪真弓さんの『心の友』ですか?」
深田「『心の友』も日本語で歌っていましたし、あちらはJKT48が有名なのでAKB48の曲をインドネシア語で歌ってくれました(笑)」
深田「ディーンさんはアチェにいたのかな? 残念ながらいなかったです」
ディーン「その場にはいなかったんですけど、何度かそういう場面には遭遇しました。インドネシア人のスタッフさんやキャストは良い作品を作るということと、良い思い出を作るということを両方意識されていて、どちらに対しても凄くモチベーションが高いんです。もちろん今まで違うカテゴリーの仕事でインドネシアの方とはご一緒していましたけど、今回のような長い期間一緒に作品を作っていくのは初めてで、改めてインドネシアの国民性というか、良い部分が見えました…というか元々そういう素敵な部分を知っていましたけど“やっぱりいいな!!”と(笑)。だからクランクアップしてしまった時はとても名残り惜しかったです」
--レインストッパーについて
深田「インドネシアのプロデューサーからは“本当にレインストッパーは必要ないですか?”という意見が出て(笑)。最終的にはレインストッパーの方にお願いして大正解でした。というのも、レインストッパーが来る前に現地でロケハンしようと思ったら土砂降りが続いて…」
ディーン「クランクインの2〜3日前に僕も現地入りしたんですけど雨がもの凄く降ってました」
深田「僕は直接は見てないんですけど、目撃した照明さんの話によると、パラパラと雨が降りそうになってくるとレインストッパーが“そろそろ自分の仕事だな”と外に出てきて、雨雲を払いのけるような仕草をしたら雨雲が流れていったとか(笑)」
ディーン「いつもはコーヒーを飲んでタバコを吸っているだけなんですけど、雨雲が近づいてきたら“どれどれ”といった感じで自分の仕事を始めるんです(笑)」
深田「ディーンさんも目撃されましたか?」
ディーン「何度も見ました! 凄かったです(笑)」
--ラウが水の玉を出すシーン
深田「ああいった不思議なことが起きるシーンは、できるだけ現実と地続きになるように見せたいと思っているんです。水の玉のシーンに関してはイルマのビデオカメラに写っているとか、テレビモニター越しに見るとか、不思議な現象をフィルターひとつ挟んでお客さんが目撃するような見せ方にしてみました」
--この作品に込めたメッセージ
ディーン「個人的なメッセージを込めていたとしても、それは僕の立場で言うことではないのかなと思っていて。僕の願いとしては、この作品を一人でも多くの人に観て頂いて、自分の視線の先に何があって、そこに対してどんな希望を持てるのかといったことを感じて頂けたらいいなと思います。色んなこととどう向き合うかで自分の人生が喜劇にも悲劇にもなりますから。単純にこの作品がきっかけでアチェに行ってみようと思うことが人生を変えるかもしれないですし。あと、どんどん異文化が混じり合っていくことは面白いと思っているので、同業者の方にもこの作品を観て頂いて、いまこの時代にこの映画を作ったという意味をそれぞれの立場で感じて頂けたらいいなと。それが何か違う形でそれぞれ消化されていって、アウトプットに繋がっていったらひとつのムーブメントになるのではないかなと思っています」
--二人のオススメの洋画
深田「『海を駆ける』を意識して1本選ぶとするならば、インドネシアのエドウィン監督の『空を飛びたい盲目のブタ』が非常に面白いので是非観て頂きたいです」
ディーン「僕はアクションが最高にカッコいい『ザ・レイド』もオススメなんですけど、『海を駆ける』を意識して選ぶとしたら『アクト・オブ・キリング』でしょうか。1965年の9.30事件以降に起きた、インドネシア共産党支持者への虐殺を描いた作品ですが、それまで自分が見ていたのはインドネシアの表面的な部分だったんだと感じました。それとは全く違うインドネシアの側面が見えましたし、インドネシアという国により興味が持てた映画です。『海を駆ける』をご覧になったあとに、是非『アクト・オブ・キリング』もご覧になってみてください」
インドネシアのバンダ・アチェを舞台にした 美しきファンタジー『海を駆ける』 深田晃司監督 × ディーン・フジオカ インタビュー
質問を要約、インタビューの一部を引用させていただきます。
ネタバレあります。
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--ラウ役をオファーした理由
深田「僕は作家マークトゥエインの小説が好きなのですが、ラウのキャラクター像を作るにあたり、彼の晩年のペシミスティックな世界観が叩き込まれた『不思議な少年美しき44号』を思い出したんです。この小説には悪魔的な少年が色んなことをひっかきまわしていく様が描かれているのですが、ラウは悪魔的というよりはもう少しフラットな、死生そのもののような存在にしたいと思いました。そんなイメージの雰囲気や佇まいを持つ俳優さんを探していくなかで、“ディーンさんがいいんじゃないか”という声があがったので経歴などを見たら、香港や台湾、ジャカルタ、日本など世界で活躍されていて面白い方だなと。それで実際にお会いしてみたら、世俗から離れたラウという役をそのまま演じて頂けそうだなと感じたんです。それでお願いしたんですけど、蝶を追いかけているラウの表情が最高で、僕とほぼ同い年なのにこんなに無邪気な表情ができる人がいるのかと驚きました(笑)。その時にディーンさんにお願いして本当に良かったなと実感しました」
ディーン「ありがとうございます(笑)」
深田「しかもあの蝶は実際には飛んでないですからね(笑)」
ディーン「エア蝶でしたね(笑)。アザーン(イスラムの礼拝の呼びかけ)が鳴り響くなかエア蝶を追いかけていました(笑)」
--今作に参加して
ディーン「役者としてはもちろん、人生においてこの作品の一部になれたこと、そしてこうやって作品の話ができることが凄く特別なことだと感じています。日本で仕事を始める前からインドネシアでは仕事をしていて、音楽を制作したりCMなどの出演経験はあっても、インドネシアで映画の撮影に携わることはなかったのでいつかやってみたいと思っていたんです。バンダ・アチェでインドネシアのチームと日本のチームが一丸となって過ごした日々というのは夢のようなかけがえのない時間でした。僕が他国に移住したあと、祖国に対して“もっとこうなったらいいのに”とか、日本を含めた世界に対して“もっとこういう風になったら”という思いを抱えていたんですけど、それを映画という形で世の中に提示できたことは本当にありがたいことだなと。家族も喜んでくれると思います」
ーーアチェでの撮影で印象に残ったこと
深田「インドネシアのスタッフに関してはみんな楽しみながら仕事をしていましたし、もっと言うと人生を楽しんでいる印象を受けました。昼休憩で食事をしていたらインドネシア人のスタッフの一人が歌い始めたんです。日本人スタッフが対抗してみんなが歌えそうな『乾杯』とか歌い始めたんですけど、インドネシア人ほどは歌えないんです。結局インドネシア人スタッフが気を遣って日本語の歌を歌ってました(笑)」
ディーン「インドネシアで最も有名な五輪真弓さんの『心の友』ですか?」
深田「『心の友』も日本語で歌っていましたし、あちらはJKT48が有名なのでAKB48の曲をインドネシア語で歌ってくれました(笑)」
深田「ディーンさんはアチェにいたのかな? 残念ながらいなかったです」
ディーン「その場にはいなかったんですけど、何度かそういう場面には遭遇しました。インドネシア人のスタッフさんやキャストは良い作品を作るということと、良い思い出を作るということを両方意識されていて、どちらに対しても凄くモチベーションが高いんです。もちろん今まで違うカテゴリーの仕事でインドネシアの方とはご一緒していましたけど、今回のような長い期間一緒に作品を作っていくのは初めてで、改めてインドネシアの国民性というか、良い部分が見えました…というか元々そういう素敵な部分を知っていましたけど“やっぱりいいな!!”と(笑)。だからクランクアップしてしまった時はとても名残り惜しかったです」
--レインストッパーについて
深田「インドネシアのプロデューサーからは“本当にレインストッパーは必要ないですか?”という意見が出て(笑)。最終的にはレインストッパーの方にお願いして大正解でした。というのも、レインストッパーが来る前に現地でロケハンしようと思ったら土砂降りが続いて…」
ディーン「クランクインの2〜3日前に僕も現地入りしたんですけど雨がもの凄く降ってました」
深田「僕は直接は見てないんですけど、目撃した照明さんの話によると、パラパラと雨が降りそうになってくるとレインストッパーが“そろそろ自分の仕事だな”と外に出てきて、雨雲を払いのけるような仕草をしたら雨雲が流れていったとか(笑)」
ディーン「いつもはコーヒーを飲んでタバコを吸っているだけなんですけど、雨雲が近づいてきたら“どれどれ”といった感じで自分の仕事を始めるんです(笑)」
深田「ディーンさんも目撃されましたか?」
ディーン「何度も見ました! 凄かったです(笑)」
--ラウが水の玉を出すシーン
深田「ああいった不思議なことが起きるシーンは、できるだけ現実と地続きになるように見せたいと思っているんです。水の玉のシーンに関してはイルマのビデオカメラに写っているとか、テレビモニター越しに見るとか、不思議な現象をフィルターひとつ挟んでお客さんが目撃するような見せ方にしてみました」
--この作品に込めたメッセージ
ディーン「個人的なメッセージを込めていたとしても、それは僕の立場で言うことではないのかなと思っていて。僕の願いとしては、この作品を一人でも多くの人に観て頂いて、自分の視線の先に何があって、そこに対してどんな希望を持てるのかといったことを感じて頂けたらいいなと思います。色んなこととどう向き合うかで自分の人生が喜劇にも悲劇にもなりますから。単純にこの作品がきっかけでアチェに行ってみようと思うことが人生を変えるかもしれないですし。あと、どんどん異文化が混じり合っていくことは面白いと思っているので、同業者の方にもこの作品を観て頂いて、いまこの時代にこの映画を作ったという意味をそれぞれの立場で感じて頂けたらいいなと。それが何か違う形でそれぞれ消化されていって、アウトプットに繋がっていったらひとつのムーブメントになるのではないかなと思っています」
--二人のオススメの洋画
深田「『海を駆ける』を意識して1本選ぶとするならば、インドネシアのエドウィン監督の『空を飛びたい盲目のブタ』が非常に面白いので是非観て頂きたいです」
ディーン「僕はアクションが最高にカッコいい『ザ・レイド』もオススメなんですけど、『海を駆ける』を意識して選ぶとしたら『アクト・オブ・キリング』でしょうか。1965年の9.30事件以降に起きた、インドネシア共産党支持者への虐殺を描いた作品ですが、それまで自分が見ていたのはインドネシアの表面的な部分だったんだと感じました。それとは全く違うインドネシアの側面が見えましたし、インドネシアという国により興味が持てた映画です。『海を駆ける』をご覧になったあとに、是非『アクト・オブ・キリング』もご覧になってみてください」