大河ドラマ「篤姫」、、13代将軍が亡くなってから、かなり地味になってしまったとはいえ、やっぱり面白いドラマだなぁ、、と思って見てます。
若い未亡人役のあおいちゃんの、凛とした雰囲気と上品さ、そこはかとなく漂う色っぽさ、、大河ドラマの間にも、すっごく女優として成長してるんだなぁ、、と感じますね。
しかも高視聴率をキープし続け、絶好調。
そんなあおいちゃんが、次に出演する作品ってどんなだろう、ってずっと思ってました。
やっぱり大作映画かな?(TV局が製作に加わるような。。)とか、結構規模の小さい、スタイリッシュで作家性の強いものかな、とか。(次はクドカンの映画が控えているんですよね。。)
実際は、、
ほとんど映画公開のテレビCMなど無く(少なくとも、私は1度も見てません。。)、本屋さんで原作本が並んでいて、帯にあおいちゃんが出てるのを見て、この映画の事を知ったぐらいで。。
本当に、ショッキングな内容の映画でした。。
「闇の子供たち」
監督・脚本:阪本順治 原作:梁石日(ヤン・ソギル)
出演:江口洋介、宮崎あおい、妻夫木聡、佐藤浩市
かなり残酷ですが、国際的かつ社会性の強い作品だと思ったので映画を見る前に原作本も読み始めました。。
映画を見終わってから改めて思うのですが、原作本の凄まじさ、恐ろしさは想像を超えていました。
逆に、映画の子役さん達の顔を見てるとほっとするくらいで。。(いや、子役さん達も頑張って大変なお芝居してるんですが)
と、いいながらも映画を見ている間にも、あまりに見るのが苦痛で、「もう、途中で出ようかな」と思ったシーンもありました。。
阪本監督も、タイの子役さん達に、どうしてこの役を演じてもらうのか、など一人一人にじっくり説明、コミュニケーションをとり、子役の保護者の方達にも理解を得て、撮影していったそうです。
「なぜ、あなたにこんなことをしてもらうのか。なぜ、この映画が必要なのか。この映画が上映された時に、何が期待できるのか。」と。
オーディションで100人くらいの子供たちに会ったそうですが、大半の子供たちが、映画で描かれているような、自分達と全く違う環境で生き、虐待されている「子供」がいる事実を知っていたそうです。
残酷な児童売買春について描かれていますが、阪本監督がタイの子供達に寄せる温かい気持ち、コミュニケーションをとったうえでの信頼感、使命感、、などが伝わってきました。
そして、アジアの子供たちの苛酷な環境に詳しい斉藤百合子さん(恵泉女学園大学)のアドバイス通り、「子供たちへの暴力シーンは極力描かない」「子供たちの非力や無力を強調するのでなく、醜い買春者達の表情や体を画像に出す」「子供たちが本来持つ伸びやかな生命力を表現する(児童売買春はそれらの力を奪う犯罪であることを観客が認識するため)」といった製作意図も、丁寧に表現されているように思いました。タイの満月や、ヤイルーンを抱きしめてくれるかのような南国特有の大木、、こういった演出は小説には無いものだったので、心に残るシーンでした。
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私は友人とこの映画を観にいったのですが、本当にお客さんがいっぱいで関心が高かったのに驚かされました。夕方の回に間に合うように行ったのですが、満席だった為、夜20時からのチケットを購入。まあまあ大きな映画館ですが、夜20時以降の上映で満席だったのは、この作品だけでした。
それでも、ロビーにいる間に「満席だから見れないね。信じられない。。」と言いながら帰っていく人達も見かけた程でした。
映画上映後も、「原作本では、こうだったよ。」とか、「今度、原作貸してあげる。途中で読み進めなくなるかもしれないけど。」などと話している人達が多かったのも驚きでした。
私も友人に「原作の描写より、だいぶん抑えた映像だったけど、見ていて辛かったね。。」と話していた所でした。
多くの人が関心を持ち、『どうして、こんな恐ろしいことが起こるのか』と真剣に考えているんだ、、という実感を持ちました。
こんなにも苛酷な環境で生きている命があるのだ、、と思うと、本当に辛く、何かこの人達の為に自分に出来ることはないだろうか、、と切羽詰った気持ちにさせられます。
「心臓移植を待つ日本の子供が、お金で、タイの健康な子供から心臓をもらう」という話はまさか、、と思いつつも「やはり闇の世界では、、」とも感じてしまい、本当にやるせない、苦しい気持ちになります。友人も、「やっぱり日本人はひどいね。。」と言ってました。
ただ、あとからパンフレットを読むと、阪大病院の医師がハッキリと「日本の子供たちの臓器移植はタイでは行われていない」「タイの子供の臓器をお金で買おうとするほど、日本の親達の心はすさんでいない」と書かれていました。。
そりゃ、そうですよね。。
もし現実だったとしたら、もっと大変な社会問題になって、ハッキリと誰かが委託殺人で裁かれるんじゃないんでしょうか。色々想像して本当に恐ろしくなりました。
友人にも、パンフにこう書いてるよ、と言ってあげると「あぁ!そうなんだ。やっぱり、そうだよね。いくらなんでもねぇ。公式見解としては、そうだよね。」と言って、ちょっとホッとしていました。
この映画は、ノンフィクション映画、と映画の紹介サイトでも書かれていますし、映画のポスターにも「これは事実か、真実か、現実か」と書かれてますので、本当に心臓を買う日本人がいるのか、と信じ込んでしまいそうになるんですよね。。
例えば、gooの映画サイトでは以下のように紹介されています。。
日本新聞社バンコク支局で、幼児人身売買を取材する記者、南部は、日本人の子供がタイで心臓の移植手術を受けるという情報を得る。知人に金を握らせ、臓器密売の元仲介者に接触した南部は、提供者の幼児は、生きたまま臓器をえぐり取られるという衝撃の事実を知る。取材を続ける南部は、ボランティアの少女、恵子と知り合う。純粋すぎてすぐ感情的になる恵子に苛立つ南部だが、善悪に対する感覚が麻痺している自分を恥じてもいた。
幼児の人身売買、売春というショッキングな真実を描いたノンフィクション映画。闇社会の現実を世に暴くことで、子供たちを救おうとするジャーナリストと、目の前にいる一人の子供を守ろうと命を張るボランティアの少女の、二つの視点からやりきれない事実を描いている。タイを舞台にしているが、一方では彼らを“買う”客たちもいるのであり、その多くがタイを旅行する外国人。日本人にとっても、決して他国の話ではないのだ。衝撃のラストシーンが、その事実を語っている。『亡国のイージス』、『魂萌え』などの阪本順治監督が、江口洋介、宮崎あおいら、豪華キャストを集結させ、極めて深刻な問題を世に提示している。真の意味での問題作。
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ただ、9月の後半からでしょうか。。映画紹介文の後半は以下のように変更されていました。
現実的な描写の中に、明白なフィクションを織り交ぜているのに、「真実」「ノンフィクション」と紹介してしまうのはメディア、表現者としては致命的な失策だと思います。
幼児の人身売買、売春というショッキングな内容を描いた、梁石日の同名小説を映画化した問題作。『亡国のイージス』、『魂萌え』などの阪本順治監督が、江口洋介、宮崎あおいら、豪華キャストを集結させ、極めて深刻な問題を世に提示している。
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この映画が持つ「社会問題」を提起する力、人々が思わず足を止め、その現実に目を覆いそうになり、それでも「何かしなければ」と思わせる力を持っていることは、十分評価したいと思いますが、こういった「心臓移植を待つ日本の子供達と親達」に対する間違った描き方には疑問を感じます。
また、原作とは違った南部(江口洋介)の描き方、ラストシーンにも嫌悪感を覚えました。
梁石日さんの「闇の子供たち」は、一人の作家が取材も行ったうえでの、あくまで小説であって、どこにもノンフィクションと書かれてないし、読む側もある程度「フィクション~グレイな闇の部分~ノンフィクション」の間を行ったり来たりしながら、考えていけるような作品になってると思うんです。
でも、それを何人もの製作者が関わって、合意の上で、まるで実際にあったことのように映像作品にし、映画のラストに「日本の子供たちへの臓器提供はタイでは行われていません」もしくは、「この作品はフィクションです」というテロップさえ流さないというのは、こんな大変デリケートで重要な問題について、間違った認識・印象を生んでしまうと思います。
一人の作家が作り出す小説という形式と、多くの製作者が関わって、なおかつほとんどドキュメンタリータッチで撮られている映画という形式とでは、与える影響の大きさが全く違うといえるでしょう。
例えば、村上龍の「半島を出よ」という小説がありますが、これをストレートに映画にしてしまっては国際問題になってしまうと思います。北と日本との交渉の進展に相当の悪影響を及ぼすでしょう。
相手国に、しょうもない攻撃箇所を与えてあげるだけ、、という感じなので、原作どおりの映画は作るべきではないと思います。
やはり、一人の作家が作り出す小説という形式には、映画に比べ、相当に自由な表現が許容されていると思うのです。
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阪本監督は、「タイの恥部を暴くことが目的ではない」「自分を正義ととらえた告発者としてではなく、映画で描く出来事が日本人自身と私にはね返ってくるような作品にしたい」とおっしゃっていて、映画の撮影はタイの警察の全面協力のもと、行われたそうです。
梁さんの原作では、タイ政府、警察、役人達、マフィアへの批判がかなり厳しく書かれているので、タイで撮影させてもらうには、そういったタイへの批判部分を出来る限り削り、「日本人」を醜悪に残酷に、究極の利己主義として描く手法を取ったのかもしれません。
NGOボランティアの音羽恵子(宮崎あおい)のような人物も描いてはいますが。。
でも、結局9月の後半になってバンコク映画祭での上映中止が決まったそうです。
人身売買描いた「闇の子供たち」、バンコク映画祭で上映中止 2008年9月20日 ヨミウリ・オンライン
「タイの暗部を強調し、国のイメージを損なう」との主催者側の判断。最近になって同作品を見た主催者のタイ国政府観光庁関係者が「観光地タイをアピールする映画祭にふさわしくない」との見解をしめした、とのこと。
「日本」が相当泥をかぶったような内容に変わっているにしても、、やはり、タイでは上映できないんでしょうね。。
また、次回の更新でもこの映画に関して書きたいと思います。
「原作」と「映画」の違い、、という視点で。