その昔、近所のお店で働いていた中国娘によく世話になった。
明け方近くまで酔いどれて、自宅がやたらと遠方に思われる時など、
仮眠室を借りて、日が昇るまでしばし寝かせてもらったものだ。
(何故か身内と思われたようで、冷蔵庫や店の開け閉めも自由にさせてくれた)
最近、姿を見なくなったなあと思っていたらば、
先の深夜、太融寺の辺りでわらわらと中国人の集団に囲まれた。
広東語が頭上を飛び交う。
中にその娘が交じっていた。顔つきが少しシャープになっていた。
「何してんねん?」と声をかけると、薄暗いビル内へ引き込もうとする。
友達を待たせていたので、珈琲代だけ渡して、その場を離れた。
☆
……帰途に就くと、うちの近辺でまだ店を開けている女性オーナーを見かけた。
以前、中国娘が働いていた店の主だ。「彼女を見かけたよ」と親切心のつもりが、
烈火のごとく怒り狂い、その娘は「中国へ帰ったあるよ!」などと吠える。
(会えるはずがないと本気に主張されても、つい今し方、口を利いたばかりなのに)
帰国すると彼女が女店主を騙したのか、それとも、ぼくを嘘つきと考えたのか?
いや、もしかしたら、大阪キタの太融寺~兎我野町の辺りは、
大阪の中の“中国”なのかもしれないな。そういうことにしておこう。